腰痛 真っ直ぐ立てない、歩くと前屈みになる

腰が伸びなくて真っ直ぐ立てなかったり、歩く動作で前屈みになってしまう理由はいくつかありますが、その多くは次の3つに絞られます。
①背骨(腰椎)が上にずれてしまっている。
②背筋がうまく収縮してくれない。
③腹筋がこわばっていて伸びてくれない。
その他には骨盤が大きく前傾していたり、高齢になって背中が丸まってしまったためというのもありますが、施術に来られる方々のほとんどは上記三つの理由によるものに集約されます。

①背骨(腰椎)が上にずれている場合
表現が難しいので“背骨が上にずれている”としましたが、実際に施術する立場で表現しますと脊椎が“下を向いている”、あるいは“上に動揺している”と言った方がしっくりします。
背骨は一本の骨ではなく24個の椎骨が連なってできています。頚椎が7個、胸椎が12個、腰椎が5個です。まっすぐ立っている時を基準にしますと、前に屈む動作では脊椎の棘突起が動作に合わせて上に動いていきます。反対に反る動作では脊椎の棘突起が下を向いていきます。この脊椎の一つ一つの動きがなければ体を滑らかに屈めたり反ったりすることはできません。ロボットのようになってしまいます。(強い腰痛になるとロボットのような動作になってしまうのは、このためですが。)


腰椎全体や、あるいはその中の一つの椎骨棘突起が何らかの理由で上に動いてしまっていて下を向くことができない状態になりますと、体を反らそうとしても棘突起が下を向いてくれないので動作がそこでブロックされてしまいます。腰椎がそのような状態であれば、真っ直ぐに立つことができなくなります。もっと上の方、肩甲骨の辺りの椎骨がこのような状態であれば、真っ直ぐ立つことはできますが肩甲骨から首にかけての部分は真っ直ぐできなくて、いつも猫背で下を向いているような姿勢になってしまうでしょう。

さて、脊椎がこのような状態になってしまう理由として最も多いのは、仙骨が下や後にずれていることです。骨盤が後に傾いている状態であると考えてもよいと思います。下半身の筋肉が疲労して変調しますとこのような状態になりやすいと言えます。また、ギックリ腰や尾骨付近の打撲や殿部の損傷によってこうなることもよくあります。ギックリ腰をしたときにからだを真っ直ぐにできなくなるのは、まさにこの状況です。

②背筋がうまく収縮してくれない
からだを真っ直ぐに保つことを筋肉の働きで考えますと、腹筋と背筋のバランスが上手くとれている状態であると言うことができます。仮に背筋の働きが悪くなってバランスが崩れますと重心が腹筋側に傾きます。平たく表現すれば、背筋が使い物にならないので腹筋が背筋の分まで頑張ってからだを支えるようになります。自然に上半身は前屈みの状態になってしまいます。背筋に力を入れて無理に上半身を起こそうとしましても背筋が上手く収縮できませんので、上半身はなかなか真っ直ぐになってくれません。それでも無理して背筋を伸ばそうとしますと、後頭部や首の筋肉に余計な負担をかけることになりますので頭痛を招いたり、肩こりの状態になったりします。
電車に乗りますと、だらしない恰好で脚を投げ出し、背中で座っているような人を稀に見ることがあります。性格や人柄は別にして、その人は背筋が働けなくて座位の姿勢を保つことができないのかもしれません。常にどこかに寄っかかっていないと落ち着かない人は、背筋の働きが悪いのかもしれません。

背筋の働きが悪ければ、①の背骨が上にずれてしまう状態にもなります。後頭部も上にずれますので、顔面は下がります。「加齢とともに顔が下がってきた」と感じる人は、ご自分の姿勢をチェックしてみてください。いつも何かに寄りかかっていたいようであれば、それは背筋の働きが悪いのかもしれません。

また「働きが悪い」と表現します、ほとんどの人は「筋肉を鍛えれば良いのか?」とお尋ねになります。筋力が弱ければ鍛えて強くする必要がありますが、働きが悪い場合は“働きが良くなるようにする”というのが正解です。疲労しすぎれば筋肉の働きは悪くなります。それは多くの人が経験していることでしょう。この場合は、筋肉を休ませ疲労を回復することです。そうすることで働きが良くなります。あるいは、寒い中にいると筋肉の働きは悪くなります。冬の朝は手先がかじかんで、思うように動かせなくなったりします。これも働きが悪くなった状況です。この場合は筋肉や全身を温めれば筋肉の機能は回復します。
ですから、ご自分は“もしかしたら背筋の働きが悪いのかもしれない”と感じたとしても、背筋運動をして筋肉を鍛えようなどと考えて欲しくはないです。背筋が働ける状態ではないのに、強制的に働かせようとしますと筋肉を傷める恐れもあります。
ではどうすればいいのか? と思われるのは当然ですが、答えは人それぞれです。何かの原因で働きが悪くなっているので、その原因を特定し、その原因を改善しなければなりません。歩き方が悪いのかもしれませんし、食べ物をあまり噛んでいないせいかもしれませんし、過去の捻挫や突き指のせいかもしれません。それはからだを観ないと何とも言えないというのが私の答えになってしまいます。

③腹筋がこわばっていて伸びてくれない

腰痛なのに、腹筋の方に原因がある場合もしばしばあります。そしてこのような人もけっこう多いです。
背もたれのない椅子に座ったとき、私たちのほとんどは多かれ少なかれ背中が丸くなります。背筋をピンと伸ばして姿勢良く座ることのできる人はあまり見かけません。ところが「姿勢良く座ってみてください」と言いますと、多くの人は腰を立てて背筋をスッと伸ばして座ることができます。正座したときのような座り方です。しかし、それができない人が時々います。「どう座って良いかわからない」と言うのです。
骨盤には坐骨と呼ばれる部分があります。正座して骨盤を立て、背筋を伸ばすと、ちょうど踵付近に当たる骨です。文字通り、座る時に使う骨です。ところがそこで座らず、骨盤を少し後に倒して仙骨尾骨部とその周辺を座面につけて座ってしまう人がいます。骨盤が後に傾いてしまう要因でもありますし背中が丸くなってしまう根本的な原因でもあります。

背中を丸めて座るということは、お腹を縮めて座るということです。つまり腹筋を縮ませ続けることになります。すると腹筋がこわばっていきます。腹筋のこわばりが定着してしまったことによって、背筋を伸ばして座る、坐骨で座ることができなくなっています。ところがこのような人でも、腹筋が伸びるように調整しますと途端に良い姿勢で座ることができるようになりますし、そうなりますと面白いことに背中を丸めて座る姿勢に違和感を感じるようになります。それまで背中を丸めることが普通だったものが、苦痛に感じられるようになるのです。

さて、街中で歩いている人を見ていますと、腹筋が伸びないために上半身が前に倒れ気味で歩いている人がたくさんいます。どことなく腰が引けて、首や顎を前に出して歩いている人です。
腹筋・背筋の状態の良い人は、歩く動作で腰が前に押し出されるように地面を蹴って歩いています。さっそうとしている感じです。
腹筋が強くこわばっている人は、極端に表現すればペンギンのような歩き方になってしまいます。上半身が前に前に出て、下半身(脚)が後からついてくるような歩き方になっています。
このような歩き方をしている人は腰や背筋に問題がある以外に腹筋にもこわばりがあります。
腰が痛くて真っ直ぐ立つことができないので腰部のマッサージや整体施術を受けたとしても、腹筋の問題を解決しないかぎり腰痛や姿勢の問題を解決することはできません。

そして腹筋がこわばっていることによって前屈みの歩き方になってしまう人は早く腹筋を調整して直すことを薦めます。前屈みの歩き方を続けていますと次第に腹筋のこわばりが強くなり慢性化していきます。
高齢になりますと筋肉の力は弱くなりますが、回復力も小さくなります。腰の曲がった老人になってから、腹筋の状態を整えて姿勢を改善しようとしても実際のところなかなかすんなりとはいきませんので、筋肉の働きが良いときに腹筋の状態は直しておきたいものです。