季節的要因 副鼻腔と肩甲骨と腰部の働き

 私たちは自然界に誕生しましたので、からだは自然界そのものであり、当然自然界からの様々な影響を受けて変化しています。
 「台風や低気圧が近づくと体調が悪くなる」
 「気温の高低差が激しいと、からだがついて行かない」
 当院に来店される人達がよく口にされることですが、ある程度年齢を重ねますと、私たちは自然界からの影響に俊敏に適応できなくなり、このような感想を持つようになるのかもしれません。

 今、季節は春ですが、この時期は花粉症で苦しむ人も多いように私たちのからだが自然界との関係でいろいろな変化を経験する時期でもあります。自然界も冬から新しい季節に向けて変化をし始めている時期であり、「春一番」「春の嵐」「三寒四温」など、私たちの体調にとって厄介な時期でもあります。
 さて、今回の話題は「春先は呼吸系の働きが低下し、その影響で腰もスッキリしなくなる」というものです。呼吸系と腰とは関係が薄いように思われると思いますが、実はかなり関係が深いというお話しです。

 呼吸系と申しますと、それは鼻であり、気管支や肺になりますので、花粉症のこの時期「春先に呼吸系が不調になる」というのはイメージしやすいことだと思います。

 ここで呼吸運動に関係する諸器官について説明させていただきます。
 呼吸で息を吸うとき、通常(口呼吸の人は別)は鼻の穴を通して空気を取り入れますが、正常であればその空気は頬と額にあります副鼻腔を通過した後、気管を通って肺に入っていきます。外気は春先であればまだ冷たいですし、乾燥もしていますので、鼻の穴を通しただけで肺に送られますと気管や肺を冷やすことになってしまいます。それはからだに負担を掛けることになりますので、そうならないように私たちのからだには副鼻腔があります。副鼻腔は鼻から取り入れた外気の温度と湿度を調整し、さらに汚れを除去する働きをしています。副鼻腔を通過した外気は瞬時に理想的な状態に調整されるということですが、そうすることで肺はガス交換を効率よく行うことができるようになるとのことです。ですから、鼻が詰まって鼻呼吸ができなかったり、あるいは鼻呼吸はしていても副鼻腔に空気が入らないような状態では、ガス交換の効率も悪くなりますし、肺や気管支に余計な負担を掛けてしまうことになってしまいます。
 また、肺は呼吸運動とガス交換の要となる大切な器官ですが、肺自体は筋肉ではありませんので、自らの能力で膨らんだり縮んだりすることはできません。肺は袋のようなもので、それが収まっている胸郭が膨らんだり縮んだりすることを利用して空気を出し入れする仕組みになっています。ですから、胸郭が十分に膨らんだり縮んだりすることができなければ、呼吸運動は不完全なものになってしまいます。

 胸郭は12本の肋骨でできている籠のよなものですが、その底にあります横隔膜(筋肉)が伸縮することで胸腔が拡がったり狭まったりします。この原理を利用して肺が膨らんだり(吸気)縮んだり(呼気)しますが、この呼吸を腹式呼吸と呼びます。
 また胸郭を形成しています肋骨と肋骨の間には外肋間筋と内肋間筋の二種類の肋間筋があります。外肋間筋は吸気の時に収縮しますが、それによって下の肋骨を引き上げます。見た目には、肋骨が持ち上がって胸の厚みが増す状態になります。内肋間筋はこれとは反対に、息を吐き出す(呼気)時に収縮しますが、それによって上の肋骨を引き下げます。見た目には、肋骨が下がって胸の厚みが減る状態になります。つまり二つの肋間筋が働くことによって胸郭が持ち上がり息を吸い込むことができ、胸が下がって息を吐き出すことができるわけですが、この呼吸を胸式呼吸と呼びます。
 つまり呼吸運動には横隔膜主体による腹式呼吸と肋間筋主体による胸式呼吸があるわけですが、両方の呼吸方法が機能していて、且つ、それらがリズミカルに関連しあっている状態が理想的な呼吸状態であると言うことができます。
 風潮として、腹式呼吸ばかりが強調される傾向があるようですが、お腹ばかりが出っ張ったり凹んだりして胸郭がほとんど動かないような状態は決して良いことではありません。
 例えば、言葉を続けるのが苦手だったり、カラオケのテンポの速い歌でブレス(息継ぎ)が上手くできなかったりするのは、瞬間的な胸式呼吸ができないからですが、その理由は肋間筋の働きが悪くて胸郭が動かないからだと考えることができます。

 さて、今の時期、多くの人の胸郭は下がっています。その理由の多くは内肋間筋がこわばっているからですが、それは副鼻腔の状態と関係が深いように私は感じています。
 副鼻腔はいくつかありますが、その中で頬骨の下にあります上顎洞と額にあります前頭洞が状態を把握しやすいものです。

 上顎洞は鼻の真横に位置していますが、そこは上顎骨と頬骨の関節部分に近いところです。そしてその部分の表層は眼輪筋の下端や上唇鼻翼筋、上唇挙筋といった表情筋に覆われていますので、本来は指圧すると「筋肉」とわかるところなのですが、この時期はカチカチに硬くなっていて、骨と間違って感じてしまう人も多くいます。そして、そんな人は副鼻腔(上顎洞)の状態も芳しくなく、鼻から息を吸っても副鼻腔の中に空気が入りにくい状態になっています。私はこのような状態の時は内肋間筋もこわばっていて上手く吸気ができないと認識していますので、持続的な表情筋への指圧によって硬さを除去し、副鼻腔に空気が通るように施術を行います。だいたい5分間くらい指圧し続ける感じですが、そうしますと次第に鼻呼吸が大きくなり、併せて胸郭も動き出すようになります。胸式呼吸が復活しますので、全体的に呼吸状態が改善してからだも楽になります。

副鼻腔と腰との関係

 今の時期に目立つことですが、後ろ姿で、右肩甲骨と左肩甲骨の間が大きく拡がっている人がいます。その理由は、背骨と肩甲骨を繋いでいます大菱形筋(だいりょうけいきん)がゆるんで伸びた状態になっているからです。そして、大菱形筋は筋肉の連動として腰部の大腰筋と連関しますので大腰筋の働きも悪い状態になっています。

 大腰筋は腰部の状態に大きな影響力を持つ筋肉です。腰椎の椎体から骨盤の前面を経由して大腿骨(小転子)に繋がっていますが、腰椎をグイッと前に引っ張り、腰椎の前弯を実現しています。大腰筋の働きが悪くなりますと、腰椎の前弯が乏しくなったり、あるいは腰椎が後方に出っ張るようになってしまうかもしれません。いつも骨盤を含めて背中を丸めて座っている人は、腰椎が後方に出っ張った状態になっていると思いますが、そのような人は大腰筋の働きが悪くなっています。

 「姿勢を正すように背中を軽く反ってみてください」と座った状態でやっていただいたときに、何処を支点にして背骨を反っているかが私にとっての注目ポイントです。大腰筋がしっかり働いている人は、腰椎下部を支点にして仙骨を前傾させるようにして背骨を反るようになります。このような人は骨盤の状態も良くて、座り姿勢も立ち姿勢もスッキリしています。ところが大腰筋の働きが悪い人は腰椎部分を反らすことができませんので、背骨の上の方を支点にして反るようになってしまいます。このような人は背中を反る、あるいは背筋を伸ばすことが苦手ですから、正しい姿勢を保つことが辛く感じます。立ち姿も「出っ尻出っ腹」に近い感じになってしまいます。

 ですから、大腰筋の働きを高めて骨盤や腰部の状態を改善しようとするのであれば、連動する大菱形筋の働きを高めて拡がってしまった肩甲骨間を本来の位置にもどるようにする必要があります。そしてこの時の重要なポイントとして下位頚椎の在り方があります。

 頚椎は7個ありますが、3つの斜角筋(しゃかくきん=前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋)が第1肋骨、第2肋骨と頚椎を繋いでいます。そして斜角筋がこわばった状態になりますと頚椎を肋骨の方に引っ張るようになります。
 ここからはかなり専門的な内容ですが、特に後斜角筋がこわばりますと第5頚椎、第6頚椎が下を向くようになりまが、それによって大菱形筋がゆるんだ状態になってしまいます。(同時に脇の下の大円筋と小菱形筋はこわばります)
 第5、第6頚椎が下を向いた状態は、立位で、背筋を伸ばして首も真っ直ぐにしようとしても、何となく首のつけ根のところで頚椎が前に落ちてしまい、首が真っ直ぐにならない状態として感じ取ることができると思います。
 このような状態の時に、第5、第6頚椎の後側にあります出っ張り(棘突起)を下方に引き下げる(頚椎自体は上を向く)ようにしますと、首も自然と真っ直ぐになり、大腰筋の働きも良くなりますので腰部も伸びる感じがすると思います。

 話を副鼻腔と内肋間筋と大菱形筋と大腰筋の関係に戻しますが、顔面の筋肉が硬くなったり季節的な理由で副鼻腔の働きが悪くなりますと、同時に内肋間筋がこわばってしまい胸郭(肋骨)が下がったままの状態になってしまいます。
 肋骨が下がった状態になりますと後斜角筋がこわばってしまい、第5、第6頚椎を下向きの状態にしてしまいます。すると大菱形筋の働きが悪くなって肩甲骨間が広がった状態になりますが、同時に連動する大腰筋の働きも悪くなりますので、腰椎の前弯が乏しくなって腰部の状態も悪くなってしまいます。
 立った状態でも、歩いている時でも、なんとなく上半身を腰に乗せることができなくて「出っ腹出っ尻」になっているように感じたり、あるいは座った状態で背筋を伸ばす動作をした時に、不自然さや疲れを感じたりするようであれば、それは大腰筋の働きが悪いからかもしれません。
 そして大腰筋の働きが悪くなる理由の一つとして大菱形の働きが悪くなっていることがありますが、季節的な要因として、花粉症のこの時期は副鼻腔の状態が悪くなっていることが原因になっている可能性が高いと考えられます。
 実際、この時期に来店されるほとんどの人に副鼻腔を機能的な状態に戻す施術を行っています。

 また、副鼻腔以外の原因で第5、第6頚椎が下を向いてしまうこともありますが、それは今回のテーマから外れてしまいますので、またの機会にしたいと思います。