O脚で膝の内側に痛みを感じたら要注意

 私の母は既に後期高齢者ですが、70歳になる手前の頃、リウマチを患い左側の膝関節が変形してしまいました。リウマチの方は投薬治療によって寛解したのですが、変形してしまった膝は元には戻りません。右脚の方は変形することもなく普通の状態ですので、写真(数年前)にありますように左右で脚の形が違っているため(左脚が短いので)歩き方が変わってしまいました。その影響で少しずつ左脚のO脚が悪化し、今では左脚を引きずるような歩き方になってしまいました。今は同居していますので毎朝出勤前にマッサージをしているのですが、この長引く悪天候はマッサージの効果も少なく、とても辛いようです。

O脚で膝の内側に痛みを感じたらしっかり対処を

 私たち日本人にはO脚の人がたくさんいます。特に高齢の女性には大変多いです。それは、O脚は加齢とともに進行するという現実を現しているのだと思います。スタイルが悪くなるということだけであれば、私があえて問題視することでもないのですが、進行したO脚は変形性膝関節症になる危険性が高くなりますので、そうならないように対策をしっかりしてO脚を進行させないように、あるいはO脚自体を改善するようにしていただきたいと思います。

 O脚は脚の外側面に力がかかりますので、ふくらはぎ(下腿)は膝関節で外側にずれるようになります。そのような状態が長年続きますとやがて膝関節の内側半月板(クッション)が損傷して大腿骨とスネ(脛骨)が直に接触するようになったりして炎症が生じます。ここまで状態が悪化しますと変形性膝関節症と診断されますが、こうなってしまいますと改善はなかなか難しくなります。 膝が変形する前の段階でも膝の内側に痛みを感じることはよくあります。一番多いのは膝関節が一時的に、あるいは慢性的に歪んでいるため、膝内側の筋肉が緊張状態になってしまい、曲げたり動かしたりすると痛みを感じるケースです。O脚ではない人でも、手や足を酷使した後で膝が痛むことはしばしば見受けられます。(この仕組みについては過去のブログやホームページを参照してください。)ほとんどの場合、一時的なものですので手足の疲労やコリが回復すれば膝は元の状態に戻ります。
 他方、O脚の人は常に脚の外側に力が掛かっており脛骨が外側に歪んでいますので、膝内側の筋肉は引っ張られていて緊張状態にあります。また筋肉だけでなく、膝関節を包んで中に関節の動きを円滑にするための潤滑液を含んいる“関節包”にも偏った力が掛かったり、圧迫が加わったりしてしまいますので炎症が起こりやすくなっています。ですから少し長く歩いたり、重たい物を持ったり、正座をしたりしますと膝の内側に痛みを感じたり水が溜まったりしてしまうという状況になります。状態が悪くなりますと膝を曲げることが辛くなったり、椅子に座っているだけでもジンジンしたり、何もしていなくても苦痛を感じるようになってしまうこともあります。このような状態でも湿布を貼ったり、温めたり、痛み止めの薬を飲んだりしますと苦痛は軽減します。ですからそのようにして対処している人が多いのですが、この段階は要注意です。この段階ではヒアルロン酸の注射は効果があると思います。痛みも和らぎ、関節包の状態も良くなりますので関節の動きもスムーズになります。しかし、膝内側の筋肉が緊張状態であることには変わりがありません。「良くなったはずなのに‥‥。また痛くなってしまった。」となってしまうことでしょう。

 半月板や軟骨の損傷が進んでいない状態であれば、それがひどい膝関節痛や不具合だったとしても回復の可能性は十分にあります。膝関節を取り巻く筋肉のバランス状態を改善することで膝は良好な状態に戻ることができます。しかし、進行したO脚状態では筋肉バランスを整えることは難しくなりますので、少しずつでもO脚を改善することに取り組んでいただきたいと思います。
 若くて筋肉に力があるうちは膝内側が緊張状態であっても筋肉は耐えることができます。半月板が減ってしまうこともないかもしれませんので膝は変形しないでいられます。ところが加齢とともに筋肉や組織の力が衰えますと筋肉は緊張状態に耐えきれなくなり、少しずつゆるみ始めて膝関節の歪みが進行していきます。O脚状態で膝の歪みが進行しますと、内側の半月板はダメージを受け機能が低下してしまいます。すると大腿骨と脛骨の軟骨部分が接触するようになったりして膝にいろいろな問題が生じるようになります。
 ここまで状態が進行してしまいますと、“膝が良好な状態”に戻すことは難しくなります。正座ができない、早歩きができない、湿布や貼り薬が手放せない、しばしば整形外科のリハビリ器具を利用したくなる、などの状況になりますが、生涯膝の不具合と付き合って行かなければならない可能性がたかくなります。

 ですから、ご自分やご家族の誰かがO脚で、膝の内側に痛みを感じるようであれば、早い段階で適切に対処することを是非実行してください。その症状が一月も続くようであれば、関節を整えることを考えてください。
 現代医学の領域では、ヒアルロン酸によって関節の動きがスムーズになること、痛み止めの注射や薬で炎症が治まり痛みを感じなくなること、関節の変形が酷くて機能を果たすことができなければ人工関節に取り替えること、もしかしたらそういうことを“適切な対処法”と考えているのかもしれませんが、それでは医学が進歩しているとは私には思えません。
 O脚の人は“将来の変形性膝関節症の予備軍”みたいなものですから、如何にO脚を改善するか、あるいは如何にO脚を悪化させないようにするか、そういったことに取り組むのが、本当の意味での進歩ではないかと思うのですが‥‥。

O脚の改善は股関節から

 スタイル重視を掲げている“O脚矯正”では両膝の間が狭くなり脚がなるようにすることを主体に矯正を行っているのかもしれません。それは“形”に重点を置いたやり方です。しかしそれでは今回の、将来変形性膝関節症にならないためにO脚を改善するという目的を叶えることにはつながらないかもしれません。

 私たちの標準的な骨骼では、大腿骨は骨盤の外側から膝に向かって内に入るように降りています。そして膝から足にかけての脛骨はほぼ垂直に降りています。骨格の在り方は力の方向性を示しますので、下肢は“骨盤から膝にかけて力が内側に集まっている状態が正しい”ということになります。つまり立った時、膝のやや内側に力が集中している感じが得られる状態が良い、ということです。立った時、膝の外側に力が逃げてしまったり、どこに力が集まっているのかハッキリしないのであれば、それは改善する必要があるということです。

 O脚を改善するための第一段階は、力が膝の内側に集まるようにすることだと私は考えています。そしてそのためには、股関節では大腿骨を外側に開く働きをする筋肉を整えなければなりません。その要は小殿筋です。
 更に、股関節で大腿骨を外側に回旋させる働きをする筋肉を整える必要があります。その要は短内転筋です。
 その他に筋膜の影響があります。そしてその影響力はかなり強いです。大腿部の筋膜が少し内側に捻れる感じで膝に向かっているのが良いのですが、触診に馴れていない人にとって筋膜の流れを感じることは難しいかもしれません。仮に、筋膜が理想とは反対に外側に流れているような状態では、力はその方向に向かってしまいますので、膝の内側に力が集まる状態にはなりません。そして膝蓋骨(膝のお皿)は筋膜の影響を受けますので、他者に比べて膝蓋骨が外側に位置しているように感じるかもしれません。それは筋膜が外側に捻れていることを現しています。
 尚、立った時に足が「ハの字型」になっているO脚や内股の人は膝蓋骨が内側に入り筋膜も内側に捻れている状態になっていますが、それが良いわけではありません。股関節で脚が内側に捻れているということですから、膝裏が外側を向いてしまうので反張膝になってしまいO脚を助長してしまいます。

 O脚の場合、膝関節で脛骨が外側にズレているわけですが、そのことばかりに注目して膝関節ばかり整えたとしても、股関節から膝関節にかけての力の掛かり方が改善されなければ、膝関節の矯正は極めて一時的なものになってしまいます。5分も歩けば元の状態に戻ってしまうかもしれません。
 ですから先ず第一に整えるべきところは股関節での大腿骨の角度であり、大腿部の筋膜の流れだと私は考えています。その上で、膝関節における大腿骨と脛骨の関係、足関節(足首)などを修正するのが順番になります。

 たとえ脚の形がすぐに真っ直ぐにならなかったとしても、立ったり、歩いたりするときの重心が太股と膝のやや内側に集まるような状態になっていれば、自ずと足の母趾側に力が入るようになります。このような状態でからだを使い続けていれば次第に骨格も筋肉のバランスもそのように変わっていきます。それまで負担の掛かっていた内側半月板も次第に偏った圧力から解放されるようになりますので、変形性膝関節症になる可能性は遠のいていきます。

O脚と骨密度

 高齢者、とくに女性の高齢者にとって骨密度は気になるところです。骨折しやすい状態かどうかは骨密度だけの問題ではないかもしれませんが、一つの目安として骨密度を気に掛けていることは良い方法かもしれません。
 また私の母を例に出しますが、リウマチを患って少し経った頃骨密度を測定したことがあります。普通の状態である右脚の骨密度は年齢より若い値でした。一方、O脚である左脚は骨密度が芳しくなく投薬によって対処しなければならないレベルでした。
 これを一般の人はどう考えるのでしょうか? 骨密度が悪く、つまり骨が弱いのでO脚になってしまったと考えるのでしょうか?
 専門用語は忘れましたが、骨は重力の掛かり具合によって成長したり退化したりする傾向があります。重力のない宇宙では、じっとしていると筋肉だけでなく骨も細ってしまいますので、宇宙飛行士達は宇宙船の中でたくさんトレーニングをしています。それは骨や筋肉に重力をかけているということに他なりません。
 そう考えますと、普通の状態である母の右脚の骨にはしっかりと重力が掛かっていますが、O脚の左脚には重力があまり掛かっていないということになります。O脚が進行して左脚を引きずりながら歩いている現在であれば、「左脚をかばうために右脚ばかりに力をいれている」ということで骨密度の左右差の原因をイメージしやすいと思います。しかし、測定した頃は左脚で地面をしっかり踏めていた頃ですから、左右で大きな差があることは想像しにくいことでした。

 ここでもう一度母の写真を見ていただきたいのですが、O脚である左脚は股関節から膝のやや外側に重力が掛かっていて、膝から下は力の方向がすっかり外側に向かっています。この状態を見方を変えて観察しますと「右脚はからだの重み(重力)をしっかりと大腿骨と脛骨で受け止めているが、左脚は力が外側に流れて逃げてしまっている」となります。つまり骨に対する荷重が左側は弱くなっていますので骨が退化してしまう、となります。
 O脚(X脚も同様)の人は膝関節に対する負担が増えるので痛みや炎症を起こすのですが、骨そのものに対する負担は減るので骨密度が悪化するという結果になります。

 ホルモンの関係とも言われていますが、体質的に女性は骨密度が悪化しやすいと言います。高齢になって外出の機会、歩く距離も減りますと骨が弱くなってしまうのは仕方がないことではありますが、そこに膝関節の不具合、O脚が加わりますと尚さら骨の弱体化が加速します。ですから道理だけで考えますと、加齢に従いO脚は改善するようにしなければならないということになります。
「スタイルのことを考えていた若い頃はO脚を気にしていたけど、もうそんな歳でもないし、今更O脚を直そうとも思わない」というのは心情的には理解できますが、からだの健康を考え「いつまでも自分の脚で歩き続けていたい」と思われるのであれば、O脚を改善することを考えていただきたいと思います。
 O脚を改善することは重心をからだの中央に持っていき、動作を無理なく効率的に行うことにもつながりますので、単に脚だけの問題ではないことをつけ加えます。