成長期の側弯症

 昨年の4月の検査で側弯症と診断された、当時中学1年生(現在は2年生)の女子が昨年8月から月2回のペースで来店されています。
 その時の検査で角度(コブ角)が30°だったということで、学校側の指定する医療機関で装具を装着するように強く勧められているとのことでした。

 本人と母親の希望もあって、「装具を装着することなく側弯症が良くならないものだろうか?」と相談を受けました。からだを観察しますと、明らかに側弯症と認識できる状態でしたが、症状がかなり進行しているというレベルでもありませんでしたので、「装具は必要ないと思いますし、安心できる状態になるまでは時間は掛かりますが、十分に対応できますよ。」と申し上げて、施術で対応することに決めました。
 施術を始めて8ヶ月が経ちましたが、今年の4月に再び学校側の検査がありました。レントゲンによる診断では、昨年30°だった角度が18°になっていて、医師から「装具を装着する必要はない」と言われたとのことです。
 私自身は「まだ18°もあるのか‥‥」と少し残念な気持ちでしたが、母親はご自分の選択(当院での施術を選んだこと)で改善が見られたことで一安心といった様子でした。同じように側弯症と診断されて装具装着を選ばれたクラスメイトの女子は、昨年に比べて更に側弯が進行していたということでした。

側弯症への具体的対応

 成長期の側弯症進行を阻止する目的で、装具を装着させる治療法があります。装具によって側弯のさらなる進行が抑えられると考えての方法かもしれませんが、私にはその理屈が理解できません。

 歯列矯正のために装具を用いることはなんとなく理解できます。歯は軽い力で横方向には動きますので、装具を装着して軽い力をかけ続けていれば、歯列がそのようになるのだろうと思います。
 あるいは、ムチウチをしてしまった頚椎を保護するために装具をつけたり、捻挫や骨折から骨格や組織を保護するために装具を装着するのも理解できます。
 ところが背骨の歪みを進行させないように、大がかりな装具を、それも一日中窮屈な思いをしながら装着したとして、どれだけの効果が期待できるのか、私はとても懐疑的です。
 背骨はからだのセンターラインです。ですから、からだが望むようなバランスを反映するようにして背骨は歪みます。例えば、いつも右側にばかりからだを捻っている人は、その状態でバランスが取れるように背骨が捻れます。からだが右に捻れているのに背骨だけ捻れない状態でいることはできません。装具を使って強制的に背骨だけ捻れない状態にしたとしますと、からだ全体と背骨の在り方が乖離していしまいますので、からだにとってはとても辛い状況になってしまいます。ですから、背骨の捻れや歪みを改善したいと考えるのであれば、からだの捻れや歪みが改善するようにすることが王道であると私は考えます。
 「どうしてからだが歪んでしまったのだろう?」、このことを追求することなく形だけ強制的に整えようとしても、からだはそれに応えてくれません。細かく、繊細で、多くの忍耐を要求される作業になりますが、歪みが生じた原因を探し出す作業を欠かすことはできません。そして、それこそが解決に至るための最も重要なポイントであると私は考えています。

きっかけがあって歪み始める

 病気や先天性の要因による場合は別にして、からだや背骨が歪んでしまうのには必ず原因ときっかけがあると私は考えて観察と施術を行っています。
 「いつもの姿勢が悪かったから、歪んでしまったのだろうか?」という問いかけをされる人がいます。確かに姿勢の悪さは歪みの原因ですが、「どうして姿勢が悪くなってしまったのだろう?」というところに着目しなければならないと思っています。
 3歳とか、5歳とか、小学校低学年の子供たちの中には、落ち着きがなくてじっとしていることが苦手な子がいます。食卓に座ってご飯を食べることができなかったり、いつも肩肘をついてダラダラと食事していたりと、「ちゃんと座ってご飯をたべなさい!」と母親をイライラさせる子供がいます。そんな子供たちは将来、側弯症になる可能性を秘めていますが、ちゃんと座ることができないのは性格などの問題ではなく、骨盤に問題があったり、腹筋に力が入らなかったりと、肉体的な問題が原因になっていることが多いと思います。
 乳幼児と呼ばれる頃の子供たちは関節がとても柔らかいので、肩や股関節が瞬間的に脱臼したとしてもすぐに戻ったりします。そして親にぶら下がってブン回されたりする遊びが好きです。もしかしたら、それによって肩関節や股関節がゆるんだ状態になってしまい、骨盤が不安定になって座位で体重を支えることができないために、ちゃんと座ることができないのかもしれません。あるいは出産時の臍の緒の処理に問題があって、腹直筋の働きが悪く、舌の動きも悪くなって、なんとなくしゃべり方もおかしく、しっかり座位を保つことができない状態になっているのかもしれません。
 「そんなことが影響しているんですか!?」と、皆さんにとっては思いも寄らないことが原因やきっかけになって、からだが歪んでいることは実際とても多いのです。

 今回の女子は、やはり小学校高学年の頃から食卓の椅子に真っ直ぐ座って食事することができず、いつも脚を曲げているような変な格好をしていたとのことでした。
 そこで本人に「小学生の時、何か大きなケガなどしたの?」と尋ねました。同伴した母親にも尋ねてみましたが、特に大きなケガをした記憶はないとのことでした。しかしながらからだを観察していきますと、腹部左側の肋骨とみぞおちの境辺りに他の場所とは感触の違う場所がありました。
 「ここ少しおかしいのだけれど、何かあったのかな?」と本人に尋ねました。すると「小学校4年生の時、体育の跳び箱の授業で踏切のタイミング合わなくて、そのまま真っ直ぐ跳び箱に突っ込んでしまいお腹を強打してしまった」とのことでした。
 「しばらくの間、息ができなくて苦しかったけど、少し休んでいたら大丈夫になったので‥‥」
 これは場所的に見て、充分に歪みのきっかけになる出来事だと思いました。
 また、その後の母親との会話からいろいろな情報を得ました。幼い頃から、歩いていてしょっちゅう何かにぶつかってしまう、つまり本人はぶつかるつもりはなくても廊下の壁にぶつかったり、テーブルにぶつかったりしてしまう癖があったとのことでした。これも貴重な情報です。1歳の時に髄膜炎を患ったとのことですが、それが関係しているのかもしれません。

歪みの始まりを特定して、そこを施術する

 「背骨の歪み」が側弯症ですから、それを修正するためには背骨がどこから歪み始めたのかを特定することが非常に重要です。歪みが一番大きくなる部位は大概肩甲骨の下部辺りになりますが、そこから背骨が歪み始めるということはほとんどないと思います。下半身の問題で背骨が歪んでしまったのであれば、その歪みは骨盤近くから始まります。頭部や手や腕、上半身の問題であれば、頚椎、あるいは胸椎の上の方から歪みが始まります。
 そして、その始まりである脊椎の歪みや捻れに従って上半身が捻れるようになりますが、やがてその捻れが定着するようになってしまいます。そうなりますと「ちゃんと座っていられない」など姿勢の悪い状態になりますが、その悪い姿勢を長く続けていますと、次第に最初の歪みが増幅されて脊椎全体を歪めるようになってしまいます。そして成長期という要因も合わさって背骨が肩甲骨下部辺りで大きく歪んだ状態になってしまうのではないかと思います。

 ですから歪みを修整しようとする場合は、最初の歪み、つまり歪みの始まりの場所を特定して、その歪みが始まった原因を修正する必要があります。
 例えば側弯症の場合、肩甲骨辺りに一番大きな歪みがありますが、そこばかりに着目して、その部位にたくさん施術を行って歪みを正そうとしても、それでは上手くいきません。そこは結果的に歪んでしまった部位、歪みのシワ寄せが最も大きくなって現れた部位ですから、たとえその部位の歪みが一時的に改善されたとしても、原因であり、歪みの始まりの部位が修正されていなければ、すぐに再び歪んだ状態に戻ってしまいます。そしてこれが、私が装具は意味をなさないと考える理由でもあります。
 クラスメイトの女子が、「装具を装着していたのに、一年前より歪みが大きくなってしまった」というのは、このことの具体的な現象です。

 この女子の場合、頚椎から歪みが始まっていました。ただし、歪みの原因は一つだけではありませんでした。腹部の打撲により腹筋の一部の働きが悪くなっていて、それによる胸郭の歪みもありました。また、頭皮やその下の筋膜にも打撲によると思われる損傷が残った状態になっていました。右肘もゆるんだ状態になっていましたが、しばしばテーブルなどにぶつけていたということです。
 頚椎全体が左側に弯曲した状態になっていて、その反動のような感じで胸椎が右側に弯曲し、それが肩甲骨の下部あたりで最大の歪みになっていました。そして、その結果として首の左側筋肉が強くこわばって張っていました。胸郭は右側へ歪んでいましたが、それを強調するかのように右側の肩甲骨が右前方に大きく回った状態になっていました。上半身が逆「く」の字のようになっていましたが、腰部は左側の脊柱起立筋が「ボーン」と棒のように突っ張った状態になっていました。
 このような骨格の状態ですから、当然運動制限もありまして、首を下に向けることも反ることも途中までしかできませんし、腰を捻る動作も不十分な状態です。

 施術は、歪みの始まりであると特定した頚椎の修正からはじめました。左顎が噛みしめた状態になっていて、それが左首の筋肉(斜角筋)のこわばりをもたらし、頚椎を左側に引っ張っていました。さらに腹部の打撲による影響で第7頚椎やその下部の胸椎が、噛みしめによる頚椎の捻れとは反対方向の歪みをもたらしていました。そして右肘の損傷による影響で右肩甲骨が外側に大きくずれる状態になっていました。当初、何回かの施術はこれらの歪みを修整することを主目的に調整していきました。
 左顎の噛みしめ状態を解除すること(噛みしめない状態にすること)。腹部の打撲部位の損傷を改善すること。右肘の状態を改善すること。
 これら3点に集中して4~5回の施術を行いますと、背骨の状態は当初の側弯とは様相が変わっていきました。この女子はバレエ(踊り)を習っていますが、レオタードを着た容姿が大分変わったと10月くらいに母親が仰いました。普通の人がパッと見ただけでは側弯症だとは気がつかない程度にはなったのだろうと思います。

側弯症に対して気になること

 整形外科の先生たちの見解によりますと、成人時のコブ角が30°未満であれば生活にそれほど支障はでないだろうということです。成長期であっても20°(ありは25°)未満であれば装具は必要なく、要観察の状態だということですが、私はこの見解に不満を感じます。
 これまで幾人かの側弯症の人達を観てきたことで申し上げれば、明らかに側弯症であるとわかるようなコブ角が30°程度の人の場合、内臓の配置が通常の人とは異なります。上半身の右側か左側か、どちらかに寄っている状況になっていますので、通常の人とは消化吸収能力に差が出てもおかしくないと思えます。通常の人でも胃下垂などの状況になりますと胃もたれや不快感、消化不良を感じるわけですから、内臓の配置に偏りがある人は不調や不都合があるのが自然な状態になっているのではないかと思います。ただ、本人にとってはその状態が普通ですから、特に不調だとは思わないかもしれません。
 また、胸郭の歪みが大きいわけですから、呼吸運動には確実に影響が出ます。特に胸式呼吸の方への影響が強いと考えられますが、その場合「芯からリラックスする」という状態を達成することが難しくなります。
 このブログでは何回も呼吸の大切さについて記してきましたが、呼吸は単に肺でガス交換を行っているだけのことではありません。大切な脳も含めてからだの隅々の小さな細胞にまで酸素が充分に届けられ、そこでのガス交換がちゃんと行われることが最も重要なことです。肺呼吸がしっかりできていて、血中の酸素濃度にも問題がなかったとしても、脳が酸欠状態で、いつも頭がボーッとして半分寝ているような状態であれば、それは呼吸が良いとは言えません。

 現に、からだが大きく歪んでいる人は噛みしめや歯ぎしりの癖、片噛みの癖などを持つことになりますが、それはからだを緊張状態にします。私は施術で噛みしめや食いしばりの癖に対処する場合、からだの歪みや呼吸状態の改善を試みますが、側弯の大きい人は、そこでつまずいてしまいます。
 ですから、「コブ角30°未満であれば生活に支障がでない」などという医学的ガイドラインがあるとするのであれば、それは無責任な見解であると言わざるを得ません。たとえ成人であったとしても、30°が20°に、20°が10°になるような方策を考えて提供するのが専門家としての在り方ではないかと思います。

側弯症の改善は時間を要するが成果はでる

 この度の女子を受け入れるにあたって、お母様に「時間は掛かりますよ」と最初に申し上げましたが、現に、これまで9ヶ月が過ぎました。当初、コブ角30°だったものが、4月の時点で18°になりました。私はなんとか10°まで持っていきたいと考えています。
 これまでたくさんの人の背骨を観察してきましたが、真っ直ぐな人は一人もいませんでした。多少の歪みは誰にもあります。ですから、おそらく10°以下は標準であり、充分許容範囲であるのではないかと思っています。

 この9ヶ月はこの女子にとっては確かに成長期でありまして、体重が10㎏以上、身長も10㎝以上は増えたのではないかと思います。幸いにして母親の協力がありまして、このように良い方向に進みました。あと半年くらいで施術を終える段階に到達したいというのが現在の目標ですが、半年が1年になったとしても、必ずその時はやって来ると思っています。
 これまでも何人かの側弯症と診断された成長期のお子さんが親御さんに連れられて来店されました。しかし、ほとんどの人達が3回程度来店されて、その後来店されなくなってしまいました。目に見えた結果が現れないので頼りなく感じたのかもしれません。

 確かに私たち整体の業界は、一般的な見解として「いいかげん」とか「口からでまかせ」とか「信用できない」などのレッテルが貼られているかもしれません。やはり「医師」の方が権威がありますし、検査機器などの機械が揃っていますので、信用しやすいのかもしれません。しかし現実には、「装具を装着して様子を観ましょう」、症状が進行したら「手術で対処しましょう」ということしかできないようです。それでは、揚々とした将来を持っている少年少女たちが可哀想です。そう私は思ってしまいます。

 側弯症を修正するためには、今回記しましたとおり、元々の原因を特定しなければなりませんし、一つや二つや三つくらいの原因でなったわけではありません。ですから、実際の作業では施術を進めながら別の問題点と直面し、それを修正するとまた別の問題点が表面化するといった工程を何度も繰り返すことになります。
 最初の原因で歪みバランスが悪くなってしまったからだは、どこかに要らぬ負担をかけてしまいますが、その状態を続けていることで別な場所が歪み始めます。すると、さらにその影響で別の場所が歪んでしまうというようなことが繰り返されますが、このような状態が常態化して側弯症という背骨の大きな歪みにつながってしまいます。
 ですから、一つの歪みが解消されるように施術を行いますと、潜んでいた新たな歪みに直面し、それに対処するとまた別な歪みが気になるといった状況になります。ですから、どうしても施術回数が必要になりますので時間が掛かってしまいます。しかし、細かく一つ一つの歪みを修整していきますので、着実に成果が期待できるのです。

 確かに私のところはお金が掛かります。月に2度のペースで来店していただきたいと思っていますので、年間26回で金額としては年122,200円になります。
 この金額をどう思われるかは、それぞれの考え方だと思いますが、私は整形外科が採用する「装具装着で様子を観る」というのは、あまりにも消極的な手段であり、「患者を治す」という医療従事者としての取り組み方ではないと思ってしまいます。