ふくらはぎと膝裏のハリ‥‥かかと重心

 女性の人に多い訴えの一つとして、ふくらはぎの張り、スッキリしない膝裏、あるいは伸びきった膝裏があります。
 これらは”かかと重心”が主な原因ですが、O脚への入口の一つでもあります。そして、心地良く歩くことのできない原因にもなります。
 ですから、このような状態の人は「歩くことが必要なことは解っているけど‥‥」、陽気が暑いとか寒いとか、いろいろな言い訳を浮かべてはついつい歩かないことを選択する傾向にあるようです。

 しかし私は、魚が水の中を泳ぎ続けることが必要なように、私たちにとって歩くことは必要不可欠なことだと思っています。
 「ふくらはぎは第2の心臓で‥‥」「静脈瘤にならないように‥‥」といういろいろな理屈はありますが、そんな理屈の前に、そしゃくすることと歩くこと、これは脊椎動物として、哺乳動物として必要不可欠なことだと思います。
 犬を飼っている人は、愛犬の健康のためには散歩を欠かすことがないと思いますが、同様に私たちにとっても歩くことは重要です。
 ところが、かかと重心の人は歩くことが嫌いになっています。心地良いとは感じません。通勤で歩かなければならないので歩きますが、休みの日までウォーキングしようとは思わないかもしれませんし、ジョギングの方が好きかもしれません。

 大切なウォーキング、それが心地良いと感じて好きになるためには、先ず、かかと重心を改善する必要があります。
 そういう思いで今回の原稿を記しました。

かかと重心の人は立つとふくらはぎが張る

 すでに幾度となく説明させていただきましたが、立った時にかかとに重心がある人はふくらはぎ裏側の筋肉に負担がかかりますので、当然ふくらはぎの裏側はこわばって張ります。

 「どうしていつもふくらはぎがカチカチに硬いのだろう?」と感じていらっしゃる人は、かかと重心の状態であると考えることができます。
 「立ち仕事が多いので、ふくらはぎが硬くなってしまう」と思っている人が多くいます。確かに立ち続けることは下半身に大きな負担となりますので、ふくらはぎに限らず、太股や足底や足趾も硬くなってしまいますが、かかと重心の状態か、正常な状態かで、疲労度は大きく変わります。

かかと重心と膝裏の負担‥‥反張膝の危険性

 かかと重心の状態が常態化しますと、立位の時、膝の裏側が負担に耐えきれなくなって、膝関節が本来以上に反った状態になる可能性があります。
 この状態を「反張膝」と呼びますが、O脚の人の特徴でもあり、膝関節が不安定な状態になりますので、膝痛や膝のトラブルを招く可能性が生じます。

 かかと重心の人は骨盤が後傾しますので、お尻は垂れます。そして下腹が前に出る体型になってしまう確率が高くなります。

 膝裏がいつも腫れぼったく、スッキリしないと感じている人は要注意です。反張膝は膝関節の歪みにつながりますので、今は大丈夫でも将来加齢が進んだときに膝が弱くなり、腰痛を抱えるようになってしまうかもしれません。

ストレートネックはかかと重心になりやすい

 どうしてかかと重心になってしまうのでしょうか?
 それは、「悪い姿勢が原因である」と言うこともできますが、細かく観察しますと幾つかのポイントがあります。そして、その中の一つにストレートネックがあります。
 整形外科などで「ストレートネック」と診断されている人はたくさんいます。
 「ストレートネックだから首や肩が凝りやすい」と思い込んでいる人が多いので私はビックリするのですが、整形外科ではストレートネックの改善方法は教えてくれないようです。

 私たちの背骨(脊柱)は24個の脊椎(7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎)が繋がってできていますが、頚椎と腰椎は少し前弯しています。そして間にある胸椎は少し後弯していますが、それによって脊柱全体のバランスが保たれています。

 そして頚椎が前弯していることで、首を反って顔(頭)を上に向けることが容易にできますし、腰椎が前弯していることで腰部を反ることが容易になっています。また胸椎が後弯していることで、中腰や物を拾うなど、上半身を下に向けて屈む動作がしやすくなっています。

 一つの傾向として、頚椎の前弯が乏しくなりますと腰椎の前弯も乏しくなって、ストレートネックになると同時に腰部で腰椎が真っ直ぐな状態に近くなります。そして本来はゆるやかな後弯をしている胸椎は、上部が後弯、下部が前弯の状態となり、いわゆる猫背の状態になります。

 さて、ストレートネックは頚椎の前弯が失われてしまった状態のことですが、その要になるのは第2頚椎の状態だと考えられます。
 頚椎の場合、第1頚椎を環椎(かんつい)、第2頚椎を軸椎(じくつい)と呼びます。そして、この二つの頚椎を合わせて上部頚椎と呼ぶことがありますが、頭蓋骨との関係でとても重要な役割をしています。
 ストレートネック状態の場合、上部頚椎の棘突起が上を向いた(つまり椎骨の前面は下を向く)状態になるわけですが、そうしますと頭蓋骨の後頭部(後頭骨)が上に歪みます。そして、顔面は下がることになりますので、ストレートネックは顔が下がる原因の一つであるということになります。

 上部頚椎の棘突起が上を向いてストレートネックになってしまう理由はいくつかあります。
 頚部の筋肉(肩甲挙筋や斜角筋)の状態がおかしくなりますと頚椎は歪みますが、その影響が上部頚椎に及ぶことも考えられます。
 あるいは後頭部と頚部の境には後頭下筋群がありますが、後頭下筋群がこわばって上部頚椎の棘突起を引っ張り上げてしまうことがあります。そして、このケースが最も多いのかもしれません。
 後頭部と首との境のあたりに手を当てて観察したときに、その部分が分厚く硬いようでしたら、ストレートネック状態である可能性が高いと言えます。

 ところで、上部頚椎の棘突起が上を向いてストレートネック状態になった場合、それは腰椎の前弯を乏しくさせる原因になります。
 腰椎の前弯が失われますと骨盤(仙骨)との関係で、骨盤が後傾することになります。つまりお尻が下がります。

 さらに骨盤の位置も少し後に下がることになりますが、それは全身のバランスの中で、股関節の位置が少し後方にずれるということです。骨盤の後傾と股関節の位置が後方にずれたことで、自ずと重心がかかとに掛かってしまう状況を招いてしまいます。
 ですから、腰椎の前弯を理想的な状態に保つことは重要ですし、そのためには上部頚椎を中心に、頚椎も良い状態に保つ必要があります。

 実際、かかと重心の人に立っていただき、私が後方から手で第2頚椎棘突起をちょこんと下げるだけで、重心がかかとから前方に移動するのを体感してもらうことができます。
 ストレートネックは首や肩のコリだけでなく、腰椎の在り方やかかと重心にも絡んできますので、是非改善してください。
 その最も簡単な方法は下の写真のように、第7頚椎を中心に首を前屈させたり反ったりする運動を日々行っていただくことです。

 全身の中で骨盤は下半身の始まりであるのと同時に上半身を乗せる基礎(土台)です。ですから仙骨と下部腰椎の関係は重要で、そこが柔軟で且つ粘り強い状態が大切です。同様に頚椎と胸椎との関係では、つまり首の土台という意味では、第7頚椎と第1胸椎の関係が柔軟でしっかりしている必要があります。
 ところが、現代社会で生きている私たちは、画面を見たり書物を読んだりして下を向いていることが大変多くなりました。ですから首が前に出ている人が大変多いのですが、そのような人達は頭を上下に動かすときに上部頚椎のところを使ってしまう癖になっています。
 頚椎の土台である第7頚椎を中心に、首や頭を動かすように私たちのからだはできているのに、そのように使っていない人が大変多いのです。
 第7頚椎を中心に首を使っていない人は、腰椎と仙骨の間も柔軟性が乏しい状態になっています。ですから、この状態を改善するためには、第7頚椎を中心に首を上下に動かす練習を一日に何度か行うことをお勧めします。それによって腰椎と仙骨の間も自然と連動して使われるようになりますし、ストレートネックの改善にも繋がります。さらに、第7頚椎を中心に首を動かすことは、肩こりの筋肉であります僧帽筋や肩甲挙筋を使うということですから、首肩のコリも軽減すると考えられます。
「頚椎①‥‥ストレートネックと上部頚椎」 参照) 

 
距骨(きょこつ)に乗ることができない

 足は、立った時に最終的に全身の体重が乗っかるところであり、地面との接点として全身を支える役割を担っていますので、足首の関節(足関節)の状態は全身のバランスにとって非常に重要です。
 膝下を垂直に降りる骨に脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)がありますが、この二つの骨が直接つながっている骨を距骨と言います。

 ですから脛骨と腓骨を伝わってくる体重の負荷は足関節で距骨が受け止めて足全体に分散させるのが本来の在り方です。
 足底には「土踏まず」と呼ばれる部分を含めアーチがあります。その大切な役割は、距骨で受け止めた体重の負荷を足底のアーチがバネのように働いて分散することです。この仕組みによって足や足首に対する負担は軽減します。
 いわゆる偏平足でアーチが失われた状態ですと、体重の負荷を分散することができませんので、足と足首に対する負担が大きくなりますので「立っているとすぐに疲れてしまう」という状態になってしまいます。

 ところで、かかと重心の人は距骨ではなく踵骨(しょうこつ)の方に重心が掛かっているわけですが、その理由の一つとして「距骨が不安定で体重を受け止められない」というのがあります。つまり、上記で説明してきましたように、からだのバランスとしてかかと重心になってしまう場合と、距骨が機能不全の状態で踵骨に重心を乗せざるを得ない状況があります。

 「足首を曲げるのではなく、距骨にからだを乗せるようにする」という表現は、おそらく皆さんにとっては非常に解りにくいと思います。しかし、私は距骨を調整するに際して、この表現が実体験として理解できる状態になるまで整えようと考えています。

 施術の詳細は省きますが、「乗せる」あるいは「乗っている」という感覚は、からだを楽に動かすためには大切です。
 頭部は首に乗っていることが大切です。
 首は第7頚椎と第1胸椎に乗っていることが大切です。
 背骨は骨盤(仙骨)に乗っていることが大切です。
 太股の骨(大腿骨)は膝関節で脛骨にしっかり乗っていることが大切です。
 そして足関節では、距骨にからだが乗っていることが大切です。
 
 そして、上記にあげた各関節は関連し合っています。つまり、距骨にしっかりからだが乗る状態になっていれば、自ずと膝関節、腰、首などの部位も良い状態になる可能性があります。
 このことについての詳細は、また別の話題として取り上げたいと考えています。


 一般論として、私たち日本人は欧米人や他の人達に比べて骨盤が後傾してお尻が下がり、実際より短足に見えてしまう傾向があります。それを民族性という言葉で片付けてしまうことができるかもしれませんが、かかと重心の人が多いというのも理由の一つではないかと思っています。
 最近の若い人達は、脚も長くなり、スタイルも良くなっているように私は感じますが、それであれば尚更かかと重心は残念に思えてしまいます。