横隔膜


腹腔の後壁をつくり、背部の筋とは胸腰筋膜によって境される。

部位: 横隔膜
起始: 右脚、左脚からなり、それぞれ内側脚と外側脚に分かれる。
     内側脚と外側脚の間を交感神経幹が通る。
     内側脚:右脚は第1〜4腰椎体から、左脚は第1〜3腰椎体から起こる。
     外側脚:内側弓状靱帯、外側弓状靱帯から起こる。
停止: 腱中心:三つの葉形をなし、いろいろな方向に交叉する腱束からできている。
神経: 横隔神経(C3〜5)、
作用: 吸息運動、すなわち横隔膜の収縮により胸腔を広げる。
    (吸気時に下部肋骨弓と下部肋骨を持ち上げて拡張し、腹腔と下部胸郭を拡張する。)
備考: 胸部の筋に分類されているが、本来は頚部の筋に由来するため、頚神経によって支配されている。
     死後は肺の萎縮と胸腔内の陰圧のため、横隔膜は平均して生体より1肋骨だけ高い位置にあり、弛緩する。





三木
そもそも横隔膜とはどこからきたかと申しますと、蛙ののどを見ると、そこはふくらんでいる。かれらはここに息をためて、この筋肉で肺の中に空気を送り入れる。つまり頭の前面の筋肉を使って、肺に空気を入れたり出したりしているのです。要するに蛙は頸で呼吸している。
 ではいったい、この蛙の頸の筋肉が人間ではどうなっているのでしょうか? もちろん、同じものがわれわれの頸の前面に短冊のように左右一本ずつ平行に走っております。ところが人間ではこの筋肉が胸のところでなくなり、再び腹直筋となって、お腹の正中を下がり、やがて骨盤の出口の筋肉に変わる。ずっとこのようにからだの前面正中線に沿って二本並んで走るのです。
 われわれ人間の外陰部の複雑な筋肉や肛門の筋肉は、要するにこの頸から腹にかけての筋肉の一番下の部分に当たる。そして話のついでですが、舌を動かす、これも複雑な筋肉ですが、この舌の筋肉は、反対に一番上の部分に当たる。つまり舌から頸・腹を通って陰部までこの筋肉群はえんえんと続いているのです。そしてその頸の筋肉の一部がずっと落ち込んでできたものが横隔膜であります。つまり横隔膜は、蛙がふくらましていた頸の筋肉と親戚のものに当たるということになります。神経をたどっていくと一緒になっているのでわかります。胎児で見ますと頸の筋肉がちぎれて心臓と肝臓のあいだに入り込んでいることがわかります。死体を解剖して頸を見ますと横隔膜を動かす神経と腕を動かす神経が一緒のところから出ています。手の運動と横隔膜の運動は同じところから出ています。また、手と足も中枢神経の仲介で連動しております。
 調和息の時に大切なこととして、姿勢とかあるいはほかの運動との連動が要求されるのは以上のようなわけだと思います。
 良寛の書を見ますと手の運動と呼吸の運動が連動していることがよくわかる。ある一つの作業を体得した時にコツがわかったことを呼吸がわかったといいます。優れた作品というのはこの連動作業が見事に行われているものと思います。

両生類が、やがて陸上に定着して爬虫類から哺乳類になると、四肢がさらに発達して胴体をもち上げ、四足の歩行がはじまる。そして、前進運動から解放された胴体の筋肉は、呼吸にたずさわり、くびの筋肉は一部が舌を動かし、一部がおなかに下がって呼吸を助けるようになる(横隔膜)。一方、えらの筋肉の一部は顔面にせり出して乳を吸い(口輪筋)、さらに目・耳・鼻の入り口の開閉をつかさどり、さまざまの表情をあらわすようになる(表情筋)。