噛みしめ・歯ぎしりの影響

 最近になってようやく、テレビの健康番組などでやっと“噛みしめ・食いしばり・歯ぎしり”などの弊害について取り上げられるようになってきました。
 動物種というジャンルの中で私たち人間は哺乳動物です。その大きな特徴は唇があることであり、また食べ物を口の中でモグモグとこね合わせてから飲み込み胃や腸へ送るということです。(爬虫類などは丸飲みです。)
 人間の赤ちゃんも犬の赤ちゃんも乳を母親の乳首に吸いつくようにして飲みますが、これには唇がなくてはなりません。唇と舌と頬の筋肉(そしゃく筋)の一体的な連動した働きがあってはじめて可能になります。(顔面神経麻痺などで唇が閉じなくなると、うまくそしゃくできなくなります。)
 詳細は省きますが、私たち人間を含めた哺乳動物にとって唇・舌・頬というそしゃく器官は健康維持において極めて大切な影響力を持っています。そしてその要の一つがそしゃく筋の働きです。
 栄養補給ということで飲む栄養食品や飲料が流行ですが、それだけではまったく片手落ちです。食物を噛んで、こねて飲み込むという動作がなければ様々な健康的弊害が生じることになります。
 
 ところで、噛むことと噛みしめること・食いしばることは違います。噛みしめること・食いしばること・歯ぎしりをすることは体に不調をもたらします。今回はこのことについて考えてみたいと思います。
@そしゃく筋の働きが悪いと体がしっかりしなくなる

 私たちと同じ哺乳動物である牛が草を食べている姿を連想してみてください。草を口の中に入れ、口を閉じ、まさにモグモグと草をこねるようにしている姿が浮かびませんでしょうか。私たちも食物を口の中に入れてからは、口を閉じモグモグと噛まなければなりません。(口を開けながらクチャクチャ噛むのは好ましくありません。)
 このモグモグする時、下顎を上下・左右・前後と複雑に動かしながら、奥歯を中心に舌や頬の壁をうまり利用して食物を飲み込める状態まで砕いてこねているわけです。この下顎を上下・左右・前後に動かすために働く筋肉がそしゃく筋です。そしゃく筋には外側からさわることのできる筋肉(咬筋と側頭筋)と、さわることのできない筋肉(内側翼突筋と外側翼突筋)があります。
側頭筋と咬筋の絵
 整体的な観点でみた場合、そしゃく筋がしっかりしていないと股関節と膝関節がぐらぐらし、筋力が発揮できなくなるというのがあります。長時間歩くと股関節や膝が痛くなる、また、しゃがんだ状態から立ち上がるとき膝が痛くなるという原因の一つに、そしゃく筋に関連して股関節や膝関節の筋肉うまく働けないからだというのがあります。
 さらに、そしゃく筋は私たち哺乳動物にとって極めて大切な筋肉であると申したとおり、そしゃく筋がしっかりしていないと体の芯の力が乏しくなり、体がシャキッとせず活力も出てこなくなるということも考えられます。

(そしゃく筋の一つ咬筋は股関節の筋肉の一つである恥骨筋と連動し、膝関節の働きに大きな影響を及ぼす大腿四頭筋の中の中間広筋と連動します。)
恥骨筋と中間広筋の写真
 そしゃく筋は私たちの持つ骨格筋のなかで司令塔のような役割を果たす筋肉です。私たちは“火事場の馬鹿力”のような大きな力を発揮しようとする時、歯をグッと食いしばってから全身に力を伝えようとします。疲れが溜まってきて動けなくなりそうになっても頑張らなければならない時、グッと食いしばって頑張ります。つまり底力を出そうとする時には、最初にそしゃく筋を働かせてから体の力を精一杯働かそうと自然に行っています。

 私が子供の頃は小学校の先生が給食の時、「一口30回噛みなさい」と口酸っぱく指導されていたのを今でも忘れません。柔らかい食品ばかりがもてはやされている今日、多くの人は一口30回もモグモグしていないのではないでしょうか。
 日々の活力や根気ややる気のためにも、食物をしっかり噛んでそしゃく筋をしっかりさせることがとても大切です。

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