顎関節症

顎関節の調子が悪い状態にはいろいろあります。

  • 口を大きく開けることができない。
  • シャリシャリ音がする。
  • 口を開閉するとき下顎がゆれる。あるいは顎がカクンカクンする。
  • ものを噛むと顎が痛む。

といったところが多いでしょうか。

顎関節の構造

顎関節は耳のある側頭骨と下顎骨をつなぐものですが、頭蓋骨全体を考えますと下顎骨だけが他の頭蓋骨にぶら下がった構造になっています。そして顎関節の動きは、上部の頭蓋骨と下顎骨を結ぶそしゃく筋(咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋)の働きに多くを依存しています。ですから、顎関節の調子が悪いときに、まず確認するのはこれらそしゃく筋になります。
ところが、顎関節を整える上で見逃せないのは下顎骨の下にある筋肉(舌骨上筋群・舌骨下筋群)や筋膜の状態です。
そしゃく筋を収縮させることで下顎が上に引きつけられ口が閉じます。しかしこの時同時に舌骨上筋群が伸びて(ゆるんで)口が閉じることに協力する必要があります。
反対に口を開ける(下顎が下に動く)ときは、そしゃく筋がゆるんで舌骨上筋群や舌骨下筋群が収縮します。このように顎関節の動きはそしゃく筋と舌骨上筋群・舌骨下筋群の働きや状態に影響されますので、顎関節の不具合を修正する場合はそしゃく筋と舌骨上筋群・舌骨下筋群の両側の状態を確認して施術しなければなりません。

そしゃく筋のこわばりが強い影響を与える

顎関節に不具合を持った人に共通するのは、そしゃく筋に強いこわばり(収縮したまま伸びない部分)があることです。耳穴のすぐ前方に顎関節が有り、その前方の骨(頬骨弓)の下方から下顎のエラにかけて咬筋がありますが、顎関節症に人はこの筋肉がとても硬くなっていて骨と勘違いしてしまうほどになっていると思います。この部分を強めに指圧しますと強い痛みを感じると思います。
口を開けるとき、その筋肉が伸びなければならないのですが、あまりにも強くこわばっていて伸びることができないと口が開かない状態になってしまいます。また左右でこわばり方に差がありますと筋肉の伸び方に差が出ますので、口の開け方が歪むようになります。そしてこのような方がたくさんいます。
このような状態を招く理由のほとんどは、片噛み、噛みしめ、歯ぎしり、食いしばりの癖によるものです。施術を行えばとても楽に口を開けることができるようになりますが、癖を直すことができなければ、また同じように顎関節が開かない状態になってしまいます。
問題はどうしてそういう癖になってしまったということですが、その理由はいろいろとあります。精神的な面でストレスや緊張など心理的なことは関係すると思います。また肉体的な面では、体の歪みは深く関係します。
私たちのからだには、何かの力に引っ張られるとその力に負けまいとして自ずと筋肉を収縮させて対抗するという仕組みが備わっています。からだが歪んだり手や腕の筋肉が硬くこわばったりしますと、下顎骨を下方に引っ張る状況が生じることがあります。そうしなりますとそしゃく筋を脱力した状態では口が開いてしまいますので、そうならないように自然とそしゃく筋を軽く収縮させた状態をつくって対抗します。このような状況が一時的であったり短時間であれば特に問題は生じませんが、何日も、何週間も、あるいは慢性的に同じ状況が続きますと、軽い力であるとはいえ、常にそしゃく筋を収縮させることになりますので筋肉が変調してこわばった状態になってしまいます。そして顎関節症を招いてしまいます。
ですから施術としましては、リラックスした時にはそしゃく筋からすっかり力が抜ける状態になるよう歪みなどを整えることをまず行います。そして次に硬くなっているそしゃく筋をゆるめる施術を行って顎関節の不具合を解消することになります。
また、ここでは詳細は述べませんが、舌の位置を整えることも重要な項目になります。リラックスした状態での舌の位置が下(下の歯の近く)にありますと、口を閉じた状態を保つためにはそしゃく筋を収縮させ続けなければなりませんし、顎先(オトガイ)の筋肉(口輪筋など)を収縮させて唇を閉じた状態をつくらなければなりません(顎先が梅干しのようになる)。リラックスした状態で舌の位置が上(上の歯のつけ根から口蓋)になっていますと、「顎に力を入れなくても」自然と口は閉じます。そしゃく筋もオトガイの筋肉も使う必要がありません。口元から顎先にかけてスマートな状態で口を閉じ続けることができるようになります(口呼吸にもなりにくい)。

舌骨上筋群や首の筋膜がこわばっている場合‥‥噛むことがかったるくなる

口を閉じるとき舌骨上筋群がゆるんで伸びる必要があるのですが、これが上手くできない状態ですと、口を閉じるときそしゃく筋に必要以上に力を入れなければならなくなります。下顎を上に引き上げるとき下顎の下の方で下に引っ張る力が働いているためです。こういう状態の人は食事で長く噛むと顎に疲れを感じますので、噛まずにすぐ飲み込んでしまったり、硬いものは嫌で柔らかいものばかりを好むようになってしまうようです。
下顎を下に引っ張る力は舌骨上筋・舌骨下筋群だけでなく、首前面の筋膜も大いに関係します。たとえば胸が下がっている人や腹筋がこわばっている人は首の筋膜が常にお腹の方に下顎を引っ張っていますので、口を閉じている状態を長く続けることすら疲れを感じるようになります。リラックスするとすぐに口が開いてしまう人は、舌骨上筋・舌骨下筋群や首の筋膜がこわばっている可能性が高いです。口が開いてしまうのは“だらしない”のではなく、下の方で引っ張る力が働いていると考えてみてください。こんな状態の時に“口を閉じていよう”と緊張していますと、それだけで口を閉じるそしゃく筋が作動し続けますので、“噛みしめている覚えはないのに”噛みしめた状態と同じになってしまいます。
また、下方への引っ張り方に左右差がありますと口を閉じる動作に時間差が生じますので“歪んだ口の閉じ方”になってしまうでしょう。この問題で顎関節症になっている人も多くいます。

硬いものを噛むと痛む‥‥噛む力が入りきらない場合と口の中の筋肉に問題がある場合

筋肉には上記のこわばりとは反対に“ゆるんで収縮できない状態”というのがあります。例えばグッと食いしばるとき、そしゃく筋を強く収縮させるわけですが、筋肉のどこかに上手く働けない(収縮できない)部分がありますと筋肉全体の能力が弱まるだけでなく、縮まないところを縮ませようとするので痛みを感じます。「柔らかいものをふんわり噛むことは平気だが、ちょっと硬いものを噛もうとして力をいれると痛みを感じる。」というのであれば、そしゃく筋にゆるんで働けない部分がある可能性があります。
そしゃく筋は口の内部にもあって(内側翼突筋と外側翼突筋)、下顎骨を横に動かしたり前に出したりする働きをしていますが、それらの筋肉がこわばっていますと顎を自在に動かすことができなくなります。食べ物をそしゃくする動作は砕く動作以外に“こねる”という複雑な動きもします。物が口の中にない状態で、力を入れて食いしばっても痛くないが、口の中に物をいれて噛み砕いてそしゃくすると痛みを感じるのであれば、これら口の中の筋肉に問題がある可能性も考えられます。

上記以外の顎関節の不具合、たとえば口を開けるとき左右に大きく揺れてしまうという場合は、肩甲骨との絡みもでてきます。あるいは物を食べていると音がする。口を開け閉めすると音がする。そんな場合は側頭骨をはじめ頭蓋骨全体の歪みを修正する必要もあります。
実際のところ顎関節症を調整する場合は、口から首周辺の調整ですむ場合もあれば、手先、足先まで含めて体全体を調整しないと上手くいかない場合があります。

ところで顎関節症を歯科医などに相談するとマウスピースを薦められるようですが、それでは解決しないと私は思います。確かに歯は守られますが、原理的に考えてマウスピースで改善させようとする考え方が理解できません。もしマウスピースによって顎関節症が改善したのだとすると、それはマウスピースがなくても自ずと改善するものだったと私は考えます。
ほとんどの場合、私はその場で解決します(但し、噛みしめや歯ぎしりなどの癖が直らないために再び顎関節症になってしまう人はいます)。顎関節症を改善するのに数ヶ月もかかってしまうというのはおかしいことだと考えています。