顔と頭を整える‥‥その意味と施術

私たちのからだの中で、顔は自分の内面や個性を外の世界に表現する役割をしています。自らの内にある“美”を表現するために女性は美容に気を使い、常により魅力的であろうと工夫を凝らしています。
また、“からだを整える(=整体)”という観点からも、顔や頭を整えることはとても重要です。美容の面だけではなく、からだを快適な状態に保つために、顔を整えることは必要不可欠です。

顔は内臓の状態を知らせてくれる

検査機器が今日ほど発達していなかった数十年前、内科のお医者さんはお腹や胸に聴診器をあて、脈をとり、顔色を観察し、舌や口の中を観察して健康状態を判断していました。
医者ではない私たちも、毎朝のように鏡を見て自分の健康状態をチェックしたり、家族や友人の顔色を見て健康状態を気にかけたりしています。どうして、顔を見て判断しようとするのでしょう?

少し話は難しくなりますが、解剖学的には、顔は内臓が表に露出したものだとされています。この世界は多種多様の生命体で溢れていますが、私たち人間の系統的祖先である脊椎動物は、原初とても簡単な構造をしていたということです。それは一本の細長い管であり、入口(口)から取り入れた食物(海中のプランクトンなど)が管を通過している間に養分を吸収し、残りかすを後の口(肛門)から排出するだけの構造だったとのことです。そして、その細長い管が、今日「腸管」と呼んでいる物の原型だったということです。
脊椎動物の進化にともなって、やがて食物を一時的に蓄えるための胃袋ができ、消化吸収するための十二指腸や小腸ができ、栄養を体内に同化させるための肝臓ができました。私たちの体内にある臓器のほとんどは一本の腸管が分化してできたものだということです。そして顔は、腸管の入口部分が表に飛び出したものであり、その表層を体表と同じ皮膚が覆っているものであるということです。
笑ったり、悲しんだり、口を結んだり、口角を上げたり下げたりして顔に表情をつくる筋肉を表情筋と呼びます。表情筋は体表にありますので、手や足を動かし、背中やお腹の表層にある筋肉(骨格筋、体壁筋)と同類のように思われるかもしれませんが、実は食道や胃や腸と同じ内臓由来の筋肉であると解剖学的に分析されています。
ですから私たちの健康状態(=腸管の状態)が表情筋の状態として現れます。顔色を観察するのは腸管の色を観察していることと同じです。老化の状態は表情筋のタルミや貧弱さとして現れますし、若さや健康の証はハリと艶のある顔立ちとして現れます。健康な赤ちゃんや幼児の顔や目がピカピカに輝いているのは、内臓もピカピカで汚れのない状態であること現しているからだと思います。

顔や頭を整えることの意味

私たちのからだは意識的か無意識的(条件反射など)に関わらず、五つの感覚器官で感じて、それに自然と反応するようにできています。目は光を感じて反応する感覚器官ですが、瞼を開いていれば絶えず何かを見ています。耳は絶えず音を聞いています。目覚めているかぎり、視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚の五つの感覚器官は絶えず働き続けています。そしてこれら五つの感覚器官はすべて顔にあります。さらに頭には私たちの精神と肉体活動の司令部である大切な脳がおさまっています。
私たちが毎日を快適に暮らすためには、これら五つの感覚器官と脳が常に順調に働いていなければなりません。その上で運動器官である手や足や腰やお腹が脳からの指示に従って正確に動けるかどうかという順番になってきます。“考える葦”と呼ばれたりする私たちにとって思考は何にも増して大切なものです。そのためには五感を通じて外界の情報を的確にキャッチし、脳が膨大な情報を的確に迅速に処理できる状態であることが必要不可欠です。
顔や頭は私たちにとってそういう位置づけです。ですから大切に、大切にする必要がありますし、常に整えておくことが大切であると考えます。

顔の整体の実際‥‥ゆめとわでの施術

“顔は決して傷つけてはいけない”これが第一のモットーです。
解剖学の言葉で、顔は内臓頭蓋と呼ばれます。顔は内臓が外に露出したものであるという意味を含んでいます。ですから顔や頭を施術する際は内臓を取り扱うように慎重に、慎重に行わなければならないと考えています。
世間には力を使って物理的刺激や圧力で骨格(頭蓋骨)を動かすような施術を行っているところも多数あります。決してそのようなところには行って欲しくありません。トラブルの可能性が高いです。女性にとって顔のトラブルは非常に辛いものです。顔や頭のトラブルで来店される方がたくさんいますので、私にはわかります。

私が施術として顔や頭を触るのは、骨格のズレや歪み、筋肉や筋膜の状態を細かく把握するためです。そして顔や頭の骨格的歪みを調整するために直に骨を動かすことはありません。
顔の骨格が歪んでしまう原因には、手や足や胸など、首から下の問題が頭部にまで影響を及ぼしている場合、あるいは目の使い方の偏り、食事の噛み方の偏り、噛みしめや歯ぎしりの癖、口呼吸など顔面の感覚器官や表情筋が問題になっている場合があります。

実際、通常の顔の歪みに対しては多くの時間をからだの調整に使います。お腹(腹筋)がこわばっている人は、腹筋が顔を下に引っ張っています。右手ばかりを酷使している人、あるいは右手の使い方の悪い人は、顎や頬が右側に歪んでいます。猫背の人は首が前に出てしまいますが、それだけで下顎が前に出て、舌の位置が悪くなり、噛み合わせや噛み方もおかしくなってしまいます。ですから、顔を調整するためにからだを修正することが多くなります。
そしてその上で、片噛みや噛みしめ、歯ぎしりの癖を持っている人は咬筋やコメカミ周辺(側頭筋)がとても硬くなって顔を歪ませますので、咬筋や側頭筋などそしゃく筋をゆるめる施術を行います。また、ほとんどの人が目元~鼻周りにかけてよく使うので、表情筋が硬くなって目や鼻を下げてしまっています。ですから、それら硬くなった表情筋をゆるませる施術も行います。そして、硬くなったそしゃく筋と表情筋をゆるめるためにジーッと指先をあてがう持続的指圧の方法を行いますが、それは人によっては痛みを感じます。
表情筋を揉みほぐしたり、フェイシャルマッサージのような手法(きっと皆さんはそのようにすると思いますが)を用いた方が安全のように思えるかもしれませんが、表情筋の場合、筋線維を横切るような方向に何度も刺激を加えるのはトラブルを招きやすいと思いますので、私は指先を動かさない持続的指圧の方法を採用しています。
テレビや情報誌やインターネットなどに顔のマッサージ法が紹介されたりしていますが、正しい情報が少ないと思います。くれぐれも注意してください。

ダメージを受けている頭蓋に対しての施術

頭蓋骨はいくつもの骨が“縫合”という関節で結ばれて全体の形を形成しています。縫合関節では骨と骨の間を線維性の結合組織が結んでいます。この結合組織がダメージを受けて機能が弱まってしまいますと関節がゆるんで骨格がグラグラしたり、骨が沈んでしまって頭蓋骨陥没に近い状態になってしまうことがあります。ただ頭を動かしたり、歩いたりするだけの振動でも、頭蓋骨がフワフワ、グラグラしてしまいますので心理的にとても強い不安を感じてしまいます。
時折、そのような状態の方が来店されますが、ダメージを受けてゆるんでしまった縫合関節は簡単には元の状態に戻りません。ダメージの度合いや、その人の回復力によって差はありますが、3ヶ月から半年くらい施術が必要になってしまうこともあります。
縫合関節を元の状態に戻すための施術は、コチコチに硬くなったそしゃく筋をほぐすやり方とは反対に、軽い力で、ゆるんでしまった部分にそっと手を当て続けるだけのものです。ダメージを受けた部分に手指を当てることで細胞の働きを活発にし、組織が元の状態に戻る手助けをするというイメージです。とても地味で「本当に効果があるの?」と誤解されやすい施術方法ですが、「これ以外にやりようがない」と今の私は思っています。

以上が、顔の整体で実際に顔面や頭蓋骨を触って行う施術内容です。硬くなった筋肉に対しては“じっと圧をかけて”ほぐし、ゆるんでしまった関節に対しては“じっと手を当てて”結合組織の回復を促す、という方法です。

顔と頭への施術の主な項目

そしゃく筋の調整

顎関節症も含めて顎関節に不具合や不調があるときは、必ずそしゃく筋の変調が関わっています。変調というのは、筋肉が硬くこわばったり、あるいは反対にヘニャッとゆるみっぱなしで上手く収縮できない状態のことです。そしゃく筋は食事で使う筋肉ですが、噛み方が足りなければゆるんでしまいます。また、噛みしめたり、食いしばったり、歯ぎしりの癖などがありますとこわばった状態になります。
そしゃく筋がこわばりますと、下顎と耳が近づきすぎる状態になります。ゆるんでいますと反対に下顎が垂れ下がったような状態になります。片噛みの癖を持っていますと、噛んでいる方のそしゃく筋がこわばり、反対側はゆるんでしまいますので、下顎が噛んでいる方に捻れるように寄ってしまう顔の歪みになります。また噛んでいる方の頬はシャープですが、噛んでいない方の頬はボテッとしてしまいますので、顔の左右差が目立つ感じになってしまいます。傾向として、右側で噛み、右眼で見ている人が多いので、多くの人が顔の右側が縮み左側が間延びした感じになっています。
顔の歪みは、実際にはこんなに単純ではなく、もっといろいろな要因が絡み合っていますが、その中でもそしゃく筋の変調は必ず修正しなければならない項目です。

硬くなってしまった鼻の周りの筋肉
私たちは日々言葉を話したり、笑ったり、いろいろな表情を作って、自分の思いを伝えたり感情を表現したりしています。この表情を作るための筋肉を表情筋と呼んでいます。
表情筋も筋肉ですから、加齢による影響を受けます。10歳の子供の頃の顔の筋肉と40歳の頃の筋肉では柔軟性やハリ感が違っています。それは、それで仕方のないことかもしれません。ですから顔を若く保ちたい人は、表情筋が硬くならないように、柔軟性とハリが保てるようにフェイシャルマッサージを行うのでしょう。

ところで顔に数多くある表情筋の中で、鼻や頬骨の周辺にある鼻筋・上唇鼻翼挙筋・上唇挙筋・小頬骨筋・大頬骨筋などの筋肉とそのあたりの筋膜は加齢とともにこわばりが強くなってとても硬くなっています。これら筋肉のこわばりによって頬骨は口の方(下方)と鼻の方(中央)に引っ張られている状態になります。つまり、加齢とともに頬が下がり、頬と頬の間が狭くなるという現実があります。

若い頃に比べて頬や目や鼻や口(口角)などパーツが中心部に集まって下がりますので、その周りが相対的に広くなります。加えて顎周辺の筋肉にたるみやむくみが出来やすくなりますので、 輪郭はシャープさに欠け、実際以上に顔が拡がって大きくなったように見えてしまうかもしれません。
鼻筋の通りも何となくハッキリせず、目の開き方もなんとなく中途半端で「昔はもっと目がパッチリしていたのに‥‥。昔はもっと楽に笑顔がつくれたのに、今はなんとなく頬の肉が邪魔で‥‥。」などと感じるかもしれません。
この鼻や頬骨の下にある硬くなってしまった筋・筋膜のこわばりを調整すると顔に開放感が現れ、呼吸も目を開けるのも楽になりますので、肩のこりも軽減するようになると思います。

ゆるみ過ぎている筋肉と筋膜の調整
“こわばり”の反対の状態が“ゆるみ過ぎ”の状態です。触るとヘニョッとしていてハリがなく、腑抜けのような感じがします。筋肉の機能的には、上手く働く(収縮する)ことのできない状態です。筋力が弱いとか足りないということではなく、筋力を発揮することができない状態です。顔のタルミとも関係が深い関係があります。
片噛み癖の人は、あまり噛んでいない方のそしゃく筋がゆるみ過ぎの状態になっていると考えられます。奥歯がないため、全然噛めないでいる人は間違いなくこの状態でしょう。すると下顎が下がって、ぶら下がったような状態になります。その他にも、顔面にはたくさんゆるみ過ぎ状態の箇所があります。眼の下のタルミ、顎ラインのタルミ、鼻の下が長くなったように感じる、目尻が下がった、笑うと疲れる、目を開けるのがしんどい等々、それらは筋・筋膜のゆるみ過ぎ状態が原因だと考えられます。骨格が歪んでいることで筋・筋膜がゆるみ過ぎの状態になっているのか、あるいは筋・筋膜のゆるみ過ぎが原因で骨格が歪んでいるのか、実際にはそのどちらも混在しているのが現実です。
ゆるみ過ぎの状態に対しては、マッサージ的手法も有効ですが、一番は“手当て”です。ゆるみ過ぎているポイントにそっと優しく手指を当て血液がやって来るのを待ちます。しばらくその状態を保ちますと腑抜け状態だったところにハリが戻り、筋・筋膜の機能が回復しはじめます。気持ちよく感じる施術です。

皮膚や筋膜の捻れを整える
頭蓋骨の表面は皮膚に覆われていますが、皮膚のすぐ下には筋膜(皮下筋膜や骨膜)があります。頭蓋骨に限らず、私たちの骨格が捻れるのは、この皮膚や筋膜が捻れていることも大きく影響しています。“外側が捻れるので、中身もそれに合わせて捻れて歪む”といった具合です。
顔や頭を皮膚や筋膜がねじれる原因は、様々です。手や手指の疲労などから鎖骨の位置が狂い、それによって筋膜に捻れをおこす場合も多々あります。あるいは骨盤の歪みによってそうなる場合もあります。片噛みの癖、噛みしめ・歯ぎしりの癖などによって皮膚や筋膜が捻れを起こす場合もあります。過去の何かのケガや打撲や捻挫や損傷が原因になっている場合もあります。
いずれにしても、皮膚や筋膜が捻れている原因を特定し、それを調整して捻れを解消しなければなければなりません。顔や頭の歪みを修整する作業の中で、最終確認するプロセスでもあります。

以上の四つの項目が、ここでの顔の整体手技で必ず行う原則です。その他にも顔や頭を整えるために調整するところはありますが、冒頭に記しましたように頭蓋骨を物理的な力を用いて矯正するといった方法は行いません。何よりも安全が第一と考えています。