胃の不調③‥‥器質的変化、病変

 もうずいぶん前の話ですが、大事な契約書を取り交わす直前になって胃がキューっと縮むように痛くなった経験があります。「これが、神経性の胃の痛みということか?」とその時に思いました。”神経性胃炎”というのは確かに存在するのだと実感しました。
 私の場合は、その時以来、それほど胃が痛んだことはありませんが、毎日のように精神的ストレスを感じている人は、これに近い経験を毎日のようにしているということですから、胃潰瘍や、さらにそれが重症化して”胃に穴が開いてしまう”状態になってしまうのも理解することができます。

胃が傷つく‥‥器質的変化、病変

 胃そのものがおかしくなって「胃の調子が悪い」「胃が痛い」となりますと、それは胃が傷ついて病変したということですから、医師に罹ってしっかり治療しなければなりません。

 嘔吐や胸焼けなどで胃液が口の方に上がってきた経験をお持ちの方は知っていると思いますが、胃液の中には胃酸と呼ばれる強い酸性の消化液(酸っぱい)が含まれています。胃酸は強い酸性の液体ですが、胃の中に入った食物を殺菌して消化する働きをしています。ところで、その強い酸は胃自体を傷つける可能性がありますので、そうならないように胃液に含まれる粘液が胃壁を守る働きをしています。
 健康な胃は胃酸と粘液をバランス良く分泌しますので問題になりませんが、粘液の能力を超えて胃酸が出過ぎますと、やがて胃壁が傷つき、炎症が起こったりして胃の器質的変化が始まり病気の状態に進んでしまいます。

 胃を傷つける要因として以下の項目が考えられているようです。
①薬の副作用
 鎮痛薬のロキソニンは胃薬と一緒に飲むことを勧められますが、それはロキソニンに含まれている成分が胃を傷つける可能性があるとされているからです。
 消炎鎮痛薬は胃壁を傷つける可能性がありますので、長期間服用するときは胃粘膜保護剤を一緒に服用した方が良いとのことです。

②過度のストレス
 過度のストレスがかかりますと自律神経の働きが乱れて胃液の分泌が過剰になり、胃の粘膜を傷つけるとされています。精神的ストレスだけでなく、暴飲暴食など胃に負担をかけることも胃液の過剰分泌を招くので気を付けなければならないということです。

③アルコール、コーヒーなどの飲料
 リラックス効果が期待できる反面、胃を刺激して胃酸を増加させる可能性がありますので摂りすぎないよう注意が必要だということです。

④ピロリ菌
 ピロリ菌は胃潰瘍や慢性胃炎、胃がんの原因になる可能性があるとされています。

自律神経と内分泌(ホルモン)

 胃をはじめ、私たちの内臓諸器官は自律神経によってコントロールされています。ですから内臓の働きや状態を整えようと考えるなら、まず自律神経を整えることを考えなければなりません。しかしながら実際の医療現場では、この単純で基本的な理屈を何処かに忘れ去っているようです。
 “規則正しい生活習慣”、“お腹を冷やさないために、シャワーだけで済まさずに湯船に浸かる”、“ご飯はよく噛んで食べる”、“気持ちよく歩く”、これらは自律神経を整える上で大切な事柄ですが、そのように指導されるお医者さんは少なくなってしまったようです。

 自律神経の働きとともに忘れてはいけないものがあります。それは内分泌系の働き、つまり“ホルモン”です。ホルモンについてはまだまだ解っていないことが多いようですが、細胞に働きを促す命令書のような存在だということです。
 病院での治療でよく使われるステロイド剤は、本来副腎という臓器(の皮質)で作られるホルモンで、血液の中に分泌されて全身の細胞に届いて働きます。ステロイドホルモンを受け取った細胞は、ストレスや炎症を緩和する働きをするようになり、結果として私たちのからだがストレスに打ち克ち、炎症を除去することができるようになります。
 ところで副腎はいつステロイドホルモンを産生するのでしょうか? また、どういった合図の元に産生するのでしょうか?
 それは脳下垂体から副腎に対して「ステロイドを産生せよ」という命令が届くことによって行われるということです。この脳からの命令もホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)の形をとって血液の中に分泌され副腎に届くようになっています。
 つまり、からだの何処かに炎症が起きたり、ストレスを被った時などに、脳がそれらを処理するために副腎に対して命令を送り、ステロイドが生産されて処理が行われる仕組みになっています。(投薬などでステロイドが外部から与えられますと、脳と副腎の一連の連携と働きが省略されてしまいます。その状態が長期化しますと脳と副腎の働きが弱まります。その影響で副作用が起こる可能性が高いと考えられています。)

 胃に食べた物がやってきますと、それを消化するために胃自体が蠕動運動を起こし、食物分解のために胃酸が分泌されます。胃の蠕動運動には自律神経が、胃酸の分泌にはホルモンが関わっています。
 ですから、「胃の健康」を考えるときには、“自律神経の働きとホルモンの分泌”という両面で考える必要があることになります。

胃のツボや反射区は有効か?

 薬を使わずに胃の状態を整えようとする時、いくつかの手段があります。鍼灸治療はその一つです。私はその理論については詳しく知りませんが、おそらく経絡(ケイラク)や経穴(ツボ)を利用して治療されるのだと思います。

 足三里というツボは有名でよく用いられますが、それは胃の経絡上にあります。そしてお腹の臍の上部には中脘(チュウカン)という胃のツボがあります。

 「足つぼマッサージ」という名称で呼ばれている足の反射療法(リフレクソロジー)には、“胃の反射区”を刺激することによって胃の状態を改善することができるという理屈があります。そして反射区は手にもありますので、胃の不調を訴える方に対して、私は両手両足の反射区を揉みほぐしますが、実際、即効的な効果を期待できることもあります。(全ての胃の不調が改善されるということではありませんが、有効性は高いです。)

 反射区の効果については、私は二通りの考え方をしています。日々のボディケアとして反射区を利用するなら、いわゆる「足つぼマッサージ」店が普通に行なっているような、一つの反射区に対して数回の刺激を足裏や手のひら全体に行えばよいと思います。しかし、即効性を求めたいと考えるなら、それでは不十分です。「今、胃が痛いのでなんとかしたい」のであるなら、胃の反射区をしつこいくらいにほぐさなければなりません。持続的な指圧が適していると思います。力不足などの理由で、思うように指圧ができないのであればツボ押し棒などを用いて、3分とか5分とか痛みをこらえながら押し続ける必要があります。グイグイ押すと皮膚を痛めたり水膨れができたりしますので、グイグイ押すのではなく、ジーと押し続けることをお勧めします。
 するとある瞬間に、フッと緩む感じとともに痛みが和らいでいくのが感じられると思います。是非、そこまでやり続けてください。
 一回では改善しなくても、2日、3日とやっているうちに胃の状態が良くなることもあります。


 今回の記事も含めて三度にわたり胃の問題に対する私の考え方を説明させていただきました。
 背骨と胃のハリの関係、お腹側の問題と胃の不調、そして今回の胃の器質的変化、これら三つの角度でアプローチすることで胃の問題の多くは対応可能だと思っています。
 器質的変化が慢性化した状態、つまり胃の病状が進行した状態は医師の治療が最優先です。
 ところで「場を整える」という考え方は大切だと思います。胃が自ら治ろうとしたとき、胃が置かれている空間(腹腔)に余裕があって、血液がしっかり届いて酸素と栄養が十分に供給される環境が大切です。体温も重要ですから、お腹を冷やさないようにしなければなりません。