心臓の働きと胸郭

 今回は医学的・学術的根拠に基づいた見解ではなく、あくまでも私の感触と経験に即しての話になります。それを最初におことわりします。

 心臓の働きに関して、ごく一般的に観察できるのは血圧と脈に限られるかもしれません。しかし、その変化だけでも心臓が楽に働いているのか、窮屈そうに、苦しそうに働いているのかをうかがい知ることがある程度はできると考えています。以下に、心臓の問題や血圧に関してこれまでに私が経験した中から二つの例をあげてみます。

激しい不整脈で医師からはペースメーカー以外に方法はないと言われた人

 その人は心臓の病気で半年ほど入院していました。退院してからも週に一度は通院しなければならない状況で、月に一度、脈の状態を24時監視する計器を付けていました。歳は60歳で、医師からは強くペースメーカーの装着を薦められていましたが、本人はどうしても付けたくないという思いを持っていました。
 私のところには心臓の問題ではなく、強い肩こりを解消したいということで来店されました。心臓に問題があると肩が強く凝ってしまうことがありますので、私はそんなことも頭に描きながら施術を行いました。不整脈が激しいと、それだけで息苦しくなりますが、その人もハァハァととても息苦しそうな息をしていました。
 心臓の働きが悪いから息苦しいのか? それとも他に要因があって息苦しいのか?
 つまり、心臓自体が悪いのか、それとも何か別の要因で心臓が働きにくい状況になっているのか、というのが私が最初に思ったことです。心臓自体の問題であれば、私の力では何もできないかもしれません。しかし骨格系の何かの影響で心臓の動きに余計な負荷が掛かっているために調子が悪いのであれば、それは整体施術で何とかなるかもしれません。そう思いました。

 その人の胸は右側に捻れていました。そして左側の大胸筋がこわばっていました。この二つのことは心臓のあるスペースを狭めることと、左胸が大胸筋によって締めつけられている状態ですから、心臓が窮屈な状態で働かなければならないことを連想させます。それで、私のできることとして、胸郭を本来の状態に戻し、大胸筋やその他胸郭の動きを制限するような筋肉の状態を改善することを行いました。
 はじめのうちは週に1度くらいのペースで、一月を過ぎた頃から2週に1度くらいのペースで来店していただきました。2度目の施術が終わった頃から肩の凝り方も改善し、息も楽にできるようになったということです。一月が経過した頃からは不整脈はあるものの、その状態も改善し始めたということでした。そして半年が過ぎる頃からは医師がペースメーカーの装着を薦めることもなくなりました。この頃には月に1度くらいの来店頻度でした。
 一年が経過すると仕事(塗装業)を再開し、今は二年が経過しましたが、来店も3ヶ月に一度くらいです。完全に心臓の状態が良くなったとは言い切れない状態かもしれませんが、心臓の調子をそれほど気にすることもない日々を送っているとのことです。
 施術に際して私がいつも心がけていたことは、左胸に余裕を持たせるようにすることでした。そうすることで心臓が動きやすい状態になって欲しいと願っていました。

低血圧の若い女性

 高血圧に対する薬はたくさんあります。しかし、低血圧を改善することはなかなか難しいと聞きます。
 20代の女性が来店されました。来店の主目的は受け口の改善とO脚の改善です。その他にこの人の自分に対するストレスとして、頭の回転が鈍く、普通の人のようには素速く受け答えができず、物忘れも激しいというのがありました。低血圧でもあるということでしたので、施術前に血圧を測定してみました。すると上が100位でした。(手首に巻く測定器を使用)
 脳の働きが鈍いことの原因として低血圧は十分考えられることです。心臓の力が弱いため血圧も上がらず、脳に血液が行き渡るのに時間がかかってしまうと考えることができるからです。その他には受け口であることも含めて頭蓋骨が歪んでいることも脳の血流が悪い理由にもなります。
 この人の場合、呼吸も悪い状態でした。呼吸、心臓の力、と考えますと、やはり“胸郭の状態”というキーワードが私には浮かんできます。
 施術では、左胸の中で心臓が動きやすい状態になるように胸郭を整え、併せて頭蓋骨を調整しました。その他に重心が体の中央に集まるようにしてO脚を改善しようとしました。施術を終えるとき再度血圧を測定しましたが、上が117に上がっていました。
 2週間後に再び来店していただき、施術前に血圧を測定しましたが、値は118でした。頭の回転や物忘れの状態などを質問しましたが、受け答えも速くなり、それらの状態も良くなっているとのことでした。
 2度目の施術では、脳の使い方についていろいろ話をしながらからだを整えていきました。脳の使い方についてはまたお話ししたいと思いますが、本当に皆さんそれぞれに癖があって、観察する立場としては興味深いことが多いです。
 施術が終わって血圧を測定しますと121でした。この数値は理想に近いものですが、脈の数が1分間に60未満であり、まだ少し心臓の働きが弱いのかなぁ、という感じを持ちました。

 心臓は肋骨でつくられた籠(胸郭)の中央部やや左側にあります。その左右には肺があり、下には横隔膜がありますので、呼吸運動と心臓の働きは密接に関わりあっていると考えることができます。と申しますか、整体的観点では、呼吸運動と切り離して心臓の運動を考えることはできません。血圧、動悸、不整脈、これらの問題を考えるときは、呼吸運動の主体である肺と横隔膜、つまり胸郭の状態をいつも念頭におく必要があると考えます。心臓がその中で働きやすい状態になるよう、胸郭自体(肋骨)や胸郭に関係する筋肉(大胸筋、小胸筋、肋間筋、腹筋など)を整えることが要になるのではないかと思っています。

 冒頭に申しましたとおり、今回の話は医学的根拠に基づくものではありません。また、心臓や血圧の問題を整体で改善できると断言しているわけでもありません。あくまでも参考としてお読みいただけたら幸いです。