顔の歪みへの施術① 損傷や外力によって歪んだ場合

 顔の歪みは①生まれつきのもの、②からだの歪みが原因となって顔を歪ませているもの、③片噛み癖や噛みしめの癖になどによって歪んでしまったもの、④打撲による損傷や物理的な外力によって凹んだりずれたりして歪んでしまったもの、の四つに大別することができます。
 今回は④の打撲や外力の影響によって歪んでしまったものについて取り上げます。転んで打撲した、殴られて凹んだ、小顔矯正などで強引に頭蓋骨を動かされた、などがこのカテゴリーに入ります。
 小顔や顔の矯正を行う整体院などに行き、強い施術を受けたことで鼻骨が曲がったり、上顎骨が凹んだりして顔が崩れ、元の状態に戻したいというお客さんからの問い合わせが時々あります。
 過去の苦い体験から皆さんとても心配され、私のところではどういった施術をするのかとよく聞かれますので、ここで概略を説明したいと思います。
 まず、私は顔にかぎらず骨や骨格自体を外力(物理的力)を使って強制的に動かすことはいたしません。顔や頭蓋骨であれば、骨格を押したり引っ張ったりすることはしませんし、その他の部位でも骨をバキバキするような矯正は一切行いません。筋肉や筋膜などを丁寧に調整していき、自ずと骨格が元の状態に戻るような調整方法を行っています。

 頭蓋骨を強い力で押され、あるいは強引に矯正され、どこかの骨が曲がったり凹んだりしてしまったのは、頭蓋骨の関節が弛んでしまったことが主な原因であると考えられます。頭蓋骨は骨と骨が“縫合”と呼ばれる密度の高い繊維性の結合組織でつながっていますが、強い外力が加わり縫合が伸ばされた状態になりますと軽く押すだけでも骨が動いてしまったり、何もしなくても骨が垂れ下がったような状態になってしまいます。そして下顎骨を除く頭蓋は一つ一つの骨が立体パズルのように組み合わさって全体が成り立っていますので、どこか一個所の縫合がゆるんでしまい関連する骨が一つか二つ動いてしまいますと、それは全体に影響を与え頭蓋全体が歪んでしまうことになります。
 また、頭蓋骨全体が歪みますと噛み合わせが合わなくなり、噛み方がおかしくなったり噛みしめる癖をもつようになったりします。すると頭蓋骨だけでなく、関係する筋肉(そしゃく筋や表情筋)も変調します。すると、これら筋肉の変調によってますます頭蓋は歪むことになりますし、感覚器官やからだの機能に不調が現れたり、「首や肩が張る」といったことも起こります。
 このように外力によって頭蓋骨が歪んだり凹んだりした場合は、①縫合がゆるむ、そして②顔の筋肉に変調が起こる、という経過をたどることになりますが、それによって顔の歪みが悪化すると思われます。
 打撲などの損傷によって頭皮や皮下筋膜にダメージを受けた場合も、同じような感じです。
補足:小顔矯正などでは、鼻の際(上顎骨と頬骨と鼻骨の境界あたり)を強く押すようですが、それによって上顎骨が凹みます、すると関節している前頭骨、鼻骨、頬骨も影響を受けますので、額にへんなシワができたり、鼻が曲がったり、頬が下がったりしてほうれい線が深くなったりする可能性が高くなります。

施術について

 さて、外力や打撲などによって歪んでしまった頭蓋を修正する方法ですが、それは
 ①ゆるんだ縫合を本来の状態にもどすこと、
 ②顔と周辺の筋肉を整えること
の二つを行うことになります。

 頭蓋骨が歪んでいる上に、関節(縫合)の機能が低下しているために頭部は非常に不安定な状態になっています。症状が酷い場合は、歩いたり、ふり向いたりする程度の軽い頭の揺れでさえ、とても大きな揺れに感じられたり、残存現象が残るような感じがして心理的に不安感に襲われるようです。
 このような状態では、自ずと顔面の筋肉やそしゃく筋を硬くこわばらせて不安定な頭蓋をなんとか保とうとすることになりますので、自然と噛みしめ癖になってしまうでしょうし、顔面の筋肉も硬くなってしまいます。

 打撲によるケガや外力による頭蓋骨の歪みである場合は、ダメージ、損傷が主な原因ですから、先ずそれらの修復を試みて、その次に顔や頭蓋の筋肉を整えてバランスを取り戻すような段取りの施術となります。

・転んだり、殴られたりして、ダメージを受けている場所が明らかである場合は、まずそこから施術を始めます。頭皮やその下の皮下筋膜が損傷していることで頭蓋骨全体が歪んでしまうこともあります。また、先ほども申しましたが、そのダメージを補うために噛みしめたり、顔に力をいれていることによって顔や頭蓋が歪んでいることも考えられますが、そうであれば、ダメージ箇所を施術することで噛みしめ状態が改善されたり、顔から力が抜けるなどの変化が現れます。その変化を目安に、施術を進めることになります。

・小顔矯正などで頭蓋骨全体を動かされたり、あるいは頭蓋骨全体が不安定になってしまった場合などでは、打撲などと違ってダメージ箇所を最初から特定することは難しい面があります。ですから、先ずは頭蓋骨修正の基本的施術を行うことから始めます。
 頭蓋骨の基本は後頭骨(後頭部)です。骨格(体幹)の基本は仙骨であり、背骨でありますが、その同じセンターライン上にあります後頭骨が頭蓋骨の基本になります。
 後頭骨を整えることから施術を始めますが、小顔整体でおかしくなってしまった人のほとんどは後頭部の筋膜と縫合関節がゆるんだ状態になっています。
 そして後頭骨を施術した後は顔前面への施術を行うことになりますが、上顎骨が凹んでいる場合はかなり厄介です。顔を小さくするという目的で頬骨や鼻の横(上顎骨)あたりをグイグイ押し込むような施術を行うのでしょうか、上顎骨が陥没状態になっている場合があります。そのような状態になってしまった人は目頭部分が凹んで口の中がとても狭く感じ、噛み合わせもまったく合わなくなっていると思いますが、心理的にも「どうしよう?」という不安でいっぱいになっているかもしれません。

 凹んだ上顎骨が前に出てくれば、目の落ち込みも、噛み合わせも改善されると思いますが、そのための施術はなかなかたいへんです。後頭骨と側頭骨、後頭骨と頭頂骨、頭頂骨と前頭骨などは縫合関節の部分が大きいので、直接手を当てて施術することができますが、上顎骨は前頭骨と鼻骨に小さな関節しか持っていません。表面に現れている関節だけを施術してもあまり効果は期待できませんので、他の部分を施術することによって上顎骨が前にでてくるようにしなければなりません。

 ですから、力を使って骨を押し込み、強制的に頭蓋骨を小さくして小顔を実現しようとする整体は、絶対に避けていただきたいと思います。
 「頭蓋骨のバランスが整えば、むくみが減り、筋肉も引き締まって自然と小顔が実現する」
 このような方針で行っている小顔整体を探して訪れていただきたいと思います。むくみが減り、頬のタルミが減って、目が大きく開くようになり、顎の角度が変われば、それだけでかなり小顔に見えるはずです。

回復までの時間はまちまち

 顔の中には感覚器官がありますし、頭蓋には脳が収まっていますので、顔はとても敏感です。見た目では「もう大丈夫ではないだろうか」と感じても、本人の感覚がすっかり戻らないと、安心感は戻ってこないようです。
 ですから、回復までにどれくらいの時間と施術回数が必要なのかは、一概に申し上げることができません。私としましては、まずは不安感を除去して安心できる顔と頭の状態にすることが第1の目標と考えています。そして、それが実現した上で、それぞれのご要望に応じて細かいところを修正していくような、そんな段取りを考えています。


 外力によってダメージを受け、顔や頭が不安定になってしまった人は精神的にも非常に落ち込んでいます。若い女性などには、涙をポロポロ流しながら来店される人もいます。
 雑誌やネット情報を見ながら自分で自分の顔をグイグイ押したりしてしまい、「ちょっとまずいかも」と感じると小顔整体のお店を訪ねるようです。そしてそこでも上手くいかないと、同じようなお店を転々としては、さらに頭蓋骨をいじられ、症状や状態がどんどん悪化してしまったというパターンになるようです。そんな人が何人も来店されました。
 そして実際、このような人達は本人が満足するまで回復するのに半年から1年という時間がかかってしまいます。
 今も遠くから月に1度のペースで新幹線に乗って来店されている、まだ20歳前の女子がいます。最初の来店から半年くらいになると思いますが、そろそろ終了となりそうです。アルバイトをして新幹線代と施術料(4700円)を稼いで来店されているとのことですが、それでも希望が見えて、すっかり明るくなったので、私も一安心といった感じです。

 どうぞ、顔や頭は大切にしてください。安易な気持ちでいじらないように注意していただきたいと思います。