「出っ尻・出っ腹」と脊椎と大腰筋

 「出っ尻・出っ腹の体型」と言いますと、一般的には、肥満傾向でお腹が前に大きく出ていて、お尻も大きくて、腰が少し反っているようなイメージかもしれません。ところが、痩せていても、からだの骨格として出っ尻・出っ腹の人がいます。そして実際、そのような人はたくさんいます。

 たとえば「腰(骨盤)にからだを乗せて立つ」という表現を皆さんはどのように受け止められるでしょうか?
 アスリートや骨格に歪みの少ない人はすぐに理解できるかもしれません。しかしこのイメージ的な表現、骨盤にからだを乗せる(委ねる)ということが実感として理解できない人は多いかもしれません。しかしながら、このことは私が皆さんに理解していただき、是非実現していただきたいと思っていることの一つです。
 座っているときも、立っているときも、骨盤にすっかり委ねることができるようになりますと、足や膝や太股にかかる負担は小さくなりますし、自然と顔や首や肩から力が抜けた状態になりますので、噛みしめの癖や肩こりなどもかなり軽減するようになります。

 ところが実際のところ、私のところに来店される人達の多くはこの状態とは違っています。現代はスマホやパソコンなどの影響もあってか、首が前に出いている人が本当にたくさんいます。そして、そのような人達のほとんどは、骨格的に、出っ尻・出っ腹の状態になっています。今回は、首が前にでていることと、出っ尻・出っ腹の関係について取り上げてみます。

第6頚椎と第4腰椎と骨盤の関係

 首の骨である頚椎は7個あります。ガクンと頭を前に倒したときに首の後側つけ根のところに大きく飛び出している突起は頚椎の7番目、第7頚椎の棘突起(きょくとっき)です。そして、その飛び出した第7頚椎のすぐ上にある棘突起が第6頚椎ですが、それが前方に落ちている人がたくさんいます。頚椎がどのような状況にあるのかを把握することは触り慣れないと難しいのですが、首を真っ直ぐに戻したときになんとなく第6頚椎が戻りきらず、前方に取り残された感じがすることで認識できるかもしれません。

 私のこれまでの経験で申し上げれば、第6頚椎が前に落ちている(=第6頚椎が下を向いている)人は第4腰椎も下を向いた状態(=第4腰椎棘突起は上に動く)になっています。そして同時に大腰筋(だいようきん)が働きの悪い状態になっています。大腰筋は腰部を安定させるために非常に重要な働きをしています。

 私たちの骨格は、側面から見ますと頚椎がやや前弯していますが、その反動的に胸椎がやや後弯しています。そして腰椎は再び前弯しますが、第3~第5腰椎の間でカーブが大きくなって仙骨、つまり骨盤に続いています。
 ですから本来であれば、腰を反ったり、骨盤を前後に動かす動作(腰振りダンスなど)では第4腰椎を支点にして脊椎(背骨)が動くことになります。

 ところが第6頚椎が前方に落ち込んでいたり、首が前に出ていたり、猫背の人は第4腰椎が良い状態ではありません。腰椎の前弯が乏しくてストレートに近かったり、酷い場合は前弯ではなく反対に後弯していることもあります。

 先ほど申し上げた「腰(骨盤)にからだを乗せて立つ」と表現できる状態は、上図の左側のような脊椎の状態になっていて、頭部を含めた上半身の重さが骨盤に真っ直ぐ乗っかる状態になっています。
 右側の図のように首が前に出て腰椎の前弯も乏しくなった場合は、頭部も含めた上半身の重心ラインが骨盤より前になりますので、前のめりのような感じになってしまいます。つまり「出っ腹」の状態です。痩せていても下腹だけ出ているような人がいますが、それはこのような原理によるものだと思います。
 上半身が前に出いていることは、全身的に見ますと相対的に下半身(骨盤)が後方にあるということですから、つまり「出っ尻」の状態です。
 上半身が前のめりのような状態ですから、からだはバランスをとるために自然と下半身の重心を後方に移動します。ですから、自ずとからだは「かかと重心」になってしまいます。

 ですから「出っ尻・出っ腹」状態や下腹部が前に出ている状態を改善しようとするのであれば、理屈としましては第4腰椎を整えることを中心に腰椎の前弯を正すことがポイントになります。
 ダイエットするなどしてお腹が出ないように努力してみても、なかなか効果が現れないと感じている人は、是非第4腰椎を中心に腰椎を整えることを行ってみてください。素速く効果が現れるのではないかと思います。
 そして、第4腰椎を整える上で、要になるのは第6頚椎の在り方であると私は考えています。

後斜角筋のこわばりによる影響

 第6頚椎が歪んでしまう理由はいくつかありますが、最も多く見受けられる理由は後斜角筋(こうしゃかくきん)のこわばりによるものです。
 後斜角筋は第4~6頚椎と第2肋骨を繋いでいる筋肉ですから、こわばって常時収縮している状態になりますと、常に第4~6頚椎を下方に引っ張り続ける状況になります。これによって第6頚椎が前方に落ちてしまう状態がもたらされます。

 後斜角筋は、咬筋の深層筋線維と連動しますので、噛みしめの癖を持っている人は常にこわばっています。(耳穴のすぐ側がコチコチに硬い人)

 また、付着しているのは第2肋骨ですが、内肋間筋がこわばっている人は常に第2肋骨も含めて肋骨が下にある状態ですから(息を吐き出して胸が下に下がった状態)後斜角筋は下方に引っ張られた状態になっていてこわばっています。息を大きく吸っても鎖骨やそのすぐ下の肋骨がスムーズに上がってこない人はこのような状態の人です。
副鼻腔と肩甲骨と腰部の働き 参照) 

 さらに手指~腕~肩関節にかけての状態によって第2肋骨が歪んでいることがありますが、それによって後斜角筋がこわばっていることもあります。
 私は仕事柄、毎日母指をたくさん使っていますが、その影響で短母指屈筋や短母指外転筋とその関連が常にこわばっています。そして、それによって後斜角筋がこわばった状態になっています。

 私は毎朝30分ほどウォーキングをしていますが、首が前に落ちていて骨盤に上半身がちゃんと乗っていないと感じることがしばしばあります。そんなときは上の写真の赤く塗ったところあたりをキューッと指圧しながら歩くようにしていますが、それだけでからだが真っ直ぐになって気持ち良く歩くことができるようになります。大腰筋の働きも向上して仙骨も前傾するようになりますので、意図しなくてもどんどん脚が前にでるようになり、お尻をプリプリさせながら歩くことができるようになります。運動を盛んにしていた20代の頃に戻ったような感じになります。

第4腰椎と大腰筋と大内転筋

 先ほども申し上げましたが、腰椎の前弯で重要なのは第3~5腰椎の大きなカーブと柔軟性です。子供たちのこの部分はフニャフニャですが、大人たちのこの部分は加齢にしたがって残念ながらどんどん硬くなっていき、柔軟性が失われてしまいます。
 腹ばいになった状態で腕を伸ばして上半身だけ反ろうとしたとき、小学生くらいまでの子供たちはなんの苦もなく腕を真っ直ぐに伸ばしきることができますが、大人たちは腰椎に柔軟性がありませんので骨盤を浮かせないと腕を伸ばすことができなかったりします。腰椎が後弯している人は、この動作すら危なっかしく見えてしまいます。

 ハワイのフラダンスやブラジルのサンバの踊りなどでは腰を非常に柔軟に、そして素速く動かしながら踊るわけですが、そのためには第3~5腰椎の柔軟性が何よりも重要です。この部分が硬い人は腰(骨盤)を振るような動作は非常に負担ですから、踊り続けることはできないと思います。

 加齢に伴って、あるいは悪い姿勢や強い衝撃などによって腰椎椎間板ヘルニアを患ってしまうことがありますが、その最も多い場所は第4腰椎と第5腰椎の間だということです。また、腰部の病気であります 「分離すべり症」「変性すべり症」も第4、第5腰椎に多いということです。
 つまり、腰椎下部の第4、第5腰椎は骨盤(仙骨)との連結部位でもあり、背骨(脊椎)の中で最も負担が掛かかる部位ですから故障を起こしやすいところだと考えることができます。ですから常に良い状態にしておきたいものです。

腰椎の前弯に最も関係が深い大腰筋

 大腰筋は腰椎の椎体を前方に引っ張っています。それによって腰椎の前弯が保持されるわけですが、特に腰椎前弯のカーブが最も大きくなっている第3~第5腰椎においては大腰筋の働きがとても重要です。仮に大腰筋の働きが悪くなりますと腰椎の前弯が乏しくなりますので「出っ尻・出っ腹」の状態になってしまいます。また、腰椎の椎間もしまりがなくなって不安定になりますので、周辺の筋肉がガチッとこわばってしまい、筋肉緊張による腰痛を招いてしまいます。
 また今回説明しておりますように、第6頚椎が落ち込むことと連動して第4腰椎も下方にずれ落ちた状況になりますと、それだけで大腰筋の働きは悪くなってしまいます。するとやはり腰部全体が不安定になります。そして大腰筋と連動する大内転筋の働きも悪くなりますが、すると立った時にお尻に力が入らない状況になってしまいます。

 冒頭に取り上げました、「腰(骨盤)にからだを乗せて立つ」状態というのは、実は「大内転と中殿筋がしっかりと働いて、お尻の穴をキュッと締めるようにして立つことができる」状態と同じことです。しっかり立とうとしますと仙骨が前傾して、太股内側から膝内側にかけて力が集中しますが、その反面、太股の前面やふくらはぎや足には余計な力が入らなくなります。足の指先を曲げることなくしかっりとした立位を保つことができます。
 足の指が曲がっている人が大変多いのですが、そのような人は足の指を曲げることでバランスを取りながら立っている、つまり指先で踏ん張って立っているということですが、それは好ましい状態ではありません。

 体操選手が演技の前にキュッとお尻を絞って立ちますが、それは正しく骨盤にからだを乗せている状態です。このような立位を実現するためには大腰筋の働きが良くなって、連動して大内転筋、中殿筋の働きが良くなる必要があります。
 中殿筋や大内転筋の能力を十分に引き出すためにも、大腰筋がしっかりと働ける状態を保つことは重要です。
(中殿筋や大内転筋をたくさん鍛えても、要である大腰筋がしっかり働けない状況であれば、それら筋肉の能力を十分に引き出すことができません。)


 以上、説明させていただきましたことを要約しますと、出っ尻・出っ腹の骨格を克服してスマートな体型と骨格を実現するためには以下の二つのポイントが重要だと考えられます。
①第6頚椎を整えること‥‥後斜角筋のこわばりを解消する
②第4腰椎を中心に腰椎の前弯を実現する‥‥大腰筋の働きが重要

 そしてキーワードとして、「噛みしめ癖」、「内肋間筋=胸式呼吸」、「手の母指ライン」、「仙骨の前傾」、「中殿筋と大内転筋」などが挙げられます。