頭は叩かないでください

 現在の社会ではまったく考えられないことですが、今から45年くらい前、私が中学性だった頃、学校の廊下を走っているところ生活指導の先生に見つかりますと、呼び止められ、「歯を食いしばりなさい」と言われて、頬にピシャッとビンタ(平手打ち)が飛んできました。そして、それはごく当たり前の光景のように「あの先生に見つかったら仕方がない」とみんな普通に思っていた時代でした。
 学校の先生が拳骨(げんこつ)でコツンと軽く頭を叩いて、生徒の行動を戒めることも普通に見られる光景でした。
 しかし、その後の社会の変化とともに、このような指導は体育会系運動部など、一部を除いてすっかりなくなったと思っていました。私の子供は30歳を超えましたが、幼い頃にお尻を一回ピシャッと叩いたことはありましたが、それ以外、手を挙げたことはありません。

 さて、定期的に来店されている40歳を超えたAさん(女性)がいます。Aさんの両親はかなり厳しかったようで、子供の頃はしばしば頭を叩かれ、時には竹刀でバシッと叩かれたそうです。親心がどうであれ、このような体罰は、精神的な面では根深い恐怖心につながり、恨みの感情をもたらすことになります。現在は親子断絶状態になっていますが、父親の話題がでるだけで、恐怖心に襲われ精神的に不安定な状態になってしまいます。そして、頭部への体罰の影響は精神面だけでなく、肉体的な面でも厄介な状態をもたらします。

 Aさんは慢性的に腰が悪く、しばしば左腰部の肋骨下部辺りをビリッと伸ばしてギックリ腰状態になっていました。通常は、このような場所を損傷してギックリ腰にはならないのですが、「どうして、いつもこの場所なんだろう?」と私は不思議に思っていました。
 彼女は腰の状態が安定したこともあって、一家で昨年4月に小田原から離れて別な場所に引っ越されました。その後も毎週来店されていますが、左腰は気になるものの、ビリッと損傷してしまうこともなく安定した日々を送っていました。ところが連休明けぐらいに、久々にビリッといつもの場所を伸ばしてしまいました。そして、先日来店された時には左耳と左目が塞がっているような状態になっていて、左こめかみや左顎がガチガチにこわばった状態なっていました。文学的に表現しますと「左前から来るものを絶対受け付けないように顔の左側を閉じてシャットアウトしている」といった状態です。
「左前からのものを絶対受け入れたくない、とからだが表現していますが、左前方に嫌なものでもあるのですか?」と尋ねてみました。
 すると、「4月に娘の学校で席替えがあって、隣になった男子がどうも娘と合わないみたいで、帰宅すると毎日のように不満を言うようになったんだけど‥‥、その男子の家がちょうど左、目の前の家で、なんとなくそれから、その家が気になってしまって‥‥」と仰いました。
 このくらいの嫌なことは誰もが日常的に経験することですから、それで一々からだがおかしくなってしまっては「たまったものではない」と思われると思います。ところが、精神的に恐怖心や不安を持っている人は、このくらいのことでも大きな影響を受けるようです。

 ところで、このような話になりますと、風水とか、方位避けとか、おまじないや祈祷の類に思いが向かう人も少なからずいらっしゃると思います。それはそれで、解決するために取るべき手段の一つであるかもしれないと私も思います。ですが、私はその前にやるべきことがあると考えています。

 先ほども申しましたが、Aさんはずっと左側に問題を抱えています。左半身の機能が今一つ不十分な状態ですから、左腰部を損傷しやすいですし、左側から受ける刺激に対して感覚器官の反応も悪いと考えることができます。ここでいう感覚器官の反応というのは、感覚器官の処理能力と同じことですが、左耳を通して入ってくる音(音波)の処理速度が若干遅く、左目から入ってくる光(色と形)の処理速度も若干遅いので、それらの情報をスムーズに処理しきれない状態になりやすいのです。ですから、左側からのやってくる様々な刺激をあまり受け入れないように、自然とからだが情報受け入れを制限していると考えることができます。そして、このような状態に加えて、精神面での根深い恐怖心や不安が増幅されて、左側をシャットアウトしてしまうという反応になったのかもしれません。

 ですから、左側からの刺激に対する処理能力が上がって、普通の人と同じレベルになることができれば、少々嫌な感情を抱いたとしても、このような状態にはならないのではないかと私は考えました。
 そこで私が思い出したのは、かつてAさんが子供の頃に、親から何度も頭を叩かれたことです。それによって頭皮やその下の筋膜は必ず損傷しているはずですから、それらをケアして状態が良くなれば左半身の機能が向上する可能性があると考えました。
 そこで座っていただき、頭部の損傷部位探しを行いました。20~30年前の損傷であっても頭部には今尚、たくさんの癒えていない損傷部位があります。そして、その中で左半身の機能に直接関係する部位を探し出さなければなりません。

 その方法は、実は単純です。まだ左腰部の、2週間程前にビリッと損傷してしまいギックリ腰状態になってしまった傷は治りきっていませんので、座ったまま左側に上半身を捻る動作は苦手な状態です。しかし、左半身の能力を悪化させている頭部の損傷部位にピンポイントで手を当てることができれば、左腰部の筋肉はあり程度収縮することができるようになるはずです。そして大きく左側に上半身を捻ることができるようになるはずです。それを目安にして、何カ所か「ここが関係しているかも」と思えるところに手を当てていきました。すると額と頭頂の境目、髪の生え際より少し頭頂寄りの高さで、中心ラインより少し左側のところに筋膜が凹んだままになっているところがありましたが、そこに手を当てると上半身を左にしっかり捻ることができるようになりました。ここが施術の対象ポイントです。
 そしてそこにジワーッと手指を当ててしばらくケアしていますと、次第にジーンと重苦しい感じがやってきます。そしてそれはやがて消えていきますが、それがケア(手当て)を終了する目安です。するとからだ全体もしっかりしますが、左目や左耳は、より開いた状態になり、左顎や左こめかみの状態も柔らかくなって首にあったこわばりも取れました。左半身の機能が向上した現れです。
 「この状態であれば、少々嫌なものを見たり、聞いたりしても、からだが自然と消化(情報処理)してくれるので、影響はほとんどないと思いますよ」と申し上げました。
 頭部にはこの他にも機能を回復させる必要のある損傷部位(筋膜)がまだまだたくさん残っています。「本当に、こんなにたくさん叩かれたんだなぁ」と内心思いつつも、時間は掛かりますが、これらを丁寧に回復させていけば、からだはもっともっと元気になるのだろうと思いました。

舌の働きに影響する頭部の損傷

 昨年の1月から整体の勉強会を始めていますが、その生徒さんの一人、Bさん(女性)は、子供の頃に転んで頭部を強く打撲した経験を持っています。
 「その打撲痕は傷として今も尚、からだに必ず悪い影響を及ぼしていると思うので、損傷部位を探して手当てしてみましょう」と勉強の一環も兼ねてやってみました。
 その損傷部位は、後頭部の、正中線より少し右側にありました。
 
 舌について、過去のブログで何回か取り上げたことがあります。噛みしめ癖や噛み合わせの不調、無呼吸症候群、喉の不調や違和感などを感じている人は大抵、舌の位置が下がった状態になっています。このことはまた詳しく説明しようと考えていますが、舌の位置が狂っていますと発声にも影響がでます。
 Bさんの舌の位置は下がった状態でした。喉元も硬い状態で、発声にも少し不満があったようです。

 私がBさんの後頭部の、損傷部位に手を当てますと喉元が変化を始めました。そして、しばらく手を当て続けていますと、Bさんの声が変わってきました。舌の位置が上がって顎や顔から力が抜け始め、目の働きも向上して、楽に目が大きく開くようになりました。
 この頭のケアをした当日は、「自分の声がこんなにもからだの中で響くことにビックリしました。そして、からだがしっかりして、帰りの道中、歩くことがとても心地良かったのです。こんなにもからだって変わるんですね。」と後日報告してくれました。
 「ただ、日が経つにつれ、あの素晴らしかった感覚がだんだん薄れ、一週間もすると元の感じに戻っててしまった」とも言いました。そうなんです。損傷部位は治癒することなく長い年月放置された状態でいますと、それが当たり前であるかのように、つまり形状記憶のようになってしまうようです。ですから、しばらくの間は毎日セルフケアすることが必要になります。ケアを繰り返すことで、やがて形状記憶状態から解放され、ケアしなくても大丈夫な状態になるようです。

 50歳を超えた男性Cさんは、声優が本職です。最初に来店されたのは5~6年前でしたが、満足に喋ることができなくなって仕事ができなくなってしまったとのことでした。東京にお住まいですが、現在は月に一度のペースで来店されています。膝に持病を抱えていますので、そのケアと喋りに関係するケアのためです。
 喋りに関してはしばらく良かったのですが、「この4月に舞台をこなした後から、舌の動きが悪くなってしまった」と、今回は少し沈んだ様子で来店されました。
 状態を確認しますと、舌の位置がかなり下がってしまったようで、それが原因で舌の動きが悪くなっていました。特に「ら・り・る・れ・ろ」とラ行を発声する時は、舌の位置が上にないと、一々舌を持ち上げてから舌先を動かさなければなりませんので、自分が思っているよりも「舌の動きが付いてこない」と感じてしまいます。そして、一つ一つの発声で舌を持ち上げる動作が必要になりますので、喋ることで疲れを感じやすくなってしまいます。「舌が重たい」と本人は感じるのかもしれません。

 舌が下がってしまう理由はいくつかありますが、大腰筋の働きが悪くなることもその中の一つです。
 少し前の投稿(出っ尻・出っ腹)で、第6頚椎のことを説明させていただきましたが、第7頚椎が上を向いた状態になりますと、舌が下がる状態になってしまうようです。
 第7頚椎が下を向きますと第6頚椎と第4腰椎は上向き加減になりますので、腰椎の前弯が良い状態になります。この状況を反対から考えますと、大腰筋の働きが良くなって腰椎の前弯がしっかりしますと第4腰椎も第6頚椎も良い状態になって第7頚椎が下を向き、舌が上がる、といった状態になります。
 「この一月間に、これまでとは違ったことを何かしていましたか?」と尋ねました。
 すると「スポーツタイプの自転車ですが、足腰を鍛えるためにそれを使って仕事場に行くようにしてみました。」と仰いました。「ああ、これは影響しているなぁ」と思いました。
 普通の人であれば、自転車を漕ぐことは大腰筋を鍛える運動になります。しかし、この人はガニ股の人ですから、股関節の外側の筋肉(大腿筋膜張筋)を使って自転車のペダルを漕いでしまいます。すると大腰筋の働きは相対的に悪くなってしまいます。
 そこで、舌の動きが悪くなったときの応急対処法としまして、大腰筋の運動をアドバイスさせていただきました。

 大腰筋は腰椎のお腹側を出発して骨盤前面(鼡径部)を経由して大腿骨内側のつけ根(小転子)に付着していて、歩行時などで太股を持ち上げる働きをしています。収縮すると股関節で大腿骨が少し外側に回旋しますので、鍛え方としましては、床に仰向けの状態になっていただき、まず①脚を少し外側に回旋させた状態にします。そして、その状態のまま②真っ直ぐ上方に脚を上げます。高く上げますと別の筋肉が作動しますので、高さは30°くらいまでです。今回の場合、大腰筋を鍛える目的は腰椎の前弯を確保して腰椎を安定させることですから瞬発力は必要ありません。ですから、ゆっくり、じっくり脚を持ち上げます。そして上げた脚を降ろす動作も重要です。脱力して引力のままにドスンと降ろしては全く意味がありません。ゆっくり、そっと降ろし、床に触れそうになったところで再び持ち上げる運動を行います。
 大腰筋の働きが悪いと脚が真っ直ぐではなく、少し揺れながら挙上と下降を行ってしまうと思います。しかし、この運動をしばらく行って大腰筋の働きが良くなりますと、真っ直ぐスムーズに行うことができるようになります。

 そして、Cさんにその場でこの運動を片脚10往復ずつ行っていただきましたが、それだけで舌の動きは良くなりました。
 床に寝て行うことは「いつもでもできる」というものではありませんが、仰向けになることができなければ、椅子に座った状態で、同じように股関節で太股を少し外旋させた状態で、真っ直ぐ腿上げをすることでも効果は期待できると思います。(膝を曲げた状態では負荷が減りますので、回数を増やすなどで対処してください。)

 さて、以前に、Cさんが舞台の裏方などもやっていた若い頃、仕事中に何度も頭をぶつけたことがあると聞いたいたことを思い出しまして、「きっと頭の打撲も関係しているだろうな」と思いました。そして、頭頂部の凸凹しているところに手を当てますと、「舌の動きが軽くなった!」と仰いました。
 この部分は来店された当初(数年前)にも施術したところでしたが、やはり古傷として影響が出てしまったようです。加齢や疲労によって古傷の影響が現れたと考えることもできます。あるいは、この一月は天候、気候がかなりおかしくて寒暖差が激しかったですから、そのようなことの影響で古傷の影響が出てしまったと考えることもできます。
 しかし、こんな諸々も含めて、頭部の損傷は後々まで影響が及んでしまいますので、誰もが真剣に考えなければならないことだと改めて思いました。「頭部や顔面に打撃になるような行為は絶対にしてはいけない」と、社会全体が認識するために、このような事実をより多くの人に知っていただきたいと思っています。

髪の毛がある意味‥‥頭部の保護

 最近来店された女性は30代前半ですが、やはり両親からの虐待のような体罰で頭部や腹部に損傷を持っていて、それがからだの不調の原因になっていました。
 「私の娘と同世代でも、そのような現実があるのか‥‥」と私はショックを受けました。

 私たちは哺乳動物に分類されますが、人類がネアンデルタール人からクロマニヨン人、そして現代人へと進化する過程で、額が大きくなり体毛は減りました。額が大きくなったのは、おそらく大脳が大きくなったからだと思いますが、それによって現代人は知性的になったのかもしれません。そして体毛はかなり減りましたが、陰部と頭部だけはしっかりと残されたままになっています。それは大切な場所を保護するという意味だと考えられます。ですから、頭部はしっかり保護されなければならないところだと誰もがしっかり認識する必要があります。
 たとえ、お子さんの言動に腹が立ったとしても、決して頭と顔は叩かないでください。どうしても叩きたくなったらお尻にしてください。それも良いことではありませんが、頭や顔の損傷に比べたら後々の影響が比べものにならないくらい小さいものだと考えられます。


 私は頭の傷がからだに及ぼす影響について、たくさんの事例を通してよく知っています。ところが、ほとんどの皆さんは、そのことをご存じではありません。ですから、せいぜい言葉だけで伝えるだけの力しかありませんが、どうぞ頭部や顔面はとても大切に扱ってください。決して傷つけないと心に決めて欲しいと思っています。
 話のついでになりますが、小顔整体、コルギ、美容整形、これらに対しては慎重に決断してください。道理として的確に、正しく行っている専門家もたくさんいらっしゃると思います。ところが、それより多くの不適切な施術者もいると思います。そのような間違った人達によって頭部や顔面部を傷つけられますとその影響は必ず不調として現れると申し上げます。