背中の張りは首・肩のこりとはひと味違って、とてもうっとうしいものです。家具の角などに背中をグイグイ押しつけて張りを取ろうとしたことのある人も多いと思います。
背中の張りは、この肩甲骨の内側部分、その少し下、腰のすぐ上、という場所に現れますが、その場所によって考えられる原因が異なります。肩甲骨の内側より少し下の場合は胃の不調も考えられます。腰のすぐ上のところであれば腎臓の位置でもありますので、それらのことも視野に入れて考える必要があります。また猫背が強い人は構造的にいつも背中が張った状態になります。
今回は特別猫背というわけでもないのに肩甲骨の内側が張って不快感や痛みを感じる場合について説明します。
”こり”と”張り”の区別は一般の人にはわかりづらい点でもあります。施術者としての立場で簡単に説明しますと、”こり”は揉みほぐすことによって改善できるものです。筋肉の中に老廃物や水分が溜まってしまい筋肉がコチコチに硬くなっているものと考えてよいと思います。”張り”は筋肉がこわばっている、つまり縮もうとしている状態です。筋肉自体がこわばっている場合と、骨と骨の距離が本来より離れてしまったために筋肉が緊張してこわばってしまう場合があります。
肩甲骨の内側には菱形筋があります。菱形筋は背骨と肩甲骨の内縁をつないでいて肩甲骨を動かす働をします。背中の張りを訴える人で最も多いのはこの菱形筋のこわばりです。そしてその中でも一番多い原因は肩甲骨が外側にずれてしまったことによるものです。肩甲骨が外側にずれると、菱形筋はその肩甲骨を元の位置に引き戻そうと働きます。つまり縮もうとしますが、それによるこわばりが”張り”です。
数々の人を見てきた中で、肩甲骨が外側にずれてしまう原因のほとんどは前鋸筋のこわばりによるものです。
前鋸筋は肩甲骨と肋骨をつないでいる強力な筋肉です。肩や腕を前方に突き出す働きをします。ボクサーがパンチを繰り出す。何か重たいものを手で押して動かす。そんな時に主体となって働く筋肉です。ところが、そんな運動はまったくしていないのに前鋸筋がこわばっている人がたくさんいます。「どうしてかなぁ?」と、いろいろ考えてみました。するとパソコン作業でキーボードを打つ、スーパーの商品揃えをするのに腕を伸ばす、重たいものを抱えて運ぶなど、腕を前に出して何かの動作を繰り返すことによってこわばることがわかりました。さらに、うずくまって寝る姿勢でも前鋸筋が働き肩甲骨の間が広がってしまうことがわかりました。横向きで寝ている人は要注意です。
肩が前に出ていて鎖骨付近が狭くなっていると感じている人のほとんどは前鋸筋がこわばっています。胸が狭くなっているので呼吸が浅くなります。また、前鋸筋のこわばりは肋骨の動きを制限するので更に呼吸は悪くなります。そして背中がいつも張っているので不快感を感じています。
背中の張りを解決するとともにこれらの問題を解決するためには前鋸筋のこわばりを解消することが必要です。よいストレッチ方法があれば良いのですが、ぱっとしたのが見つかりません。ストレッチの本などをいくつか見ましたが、納得できるものはありませんでした。それだ私なりに考えてみました。それが次の写真です。
但し実際のところ、強くこわばってしまった前鋸筋をゆるめる効果はすぐにはでませんので継続していただくことが必要です。それくらい前鋸筋は強力な筋肉です。またやり方を間違えると首や肩にばかり力が入ってしまい、前鋸筋を伸ばすのではなく肩甲骨を後に引き上げる動きになってしまいます。肩と腕はリラックスして脇腹だけを伸ばすようにやっていただきたいと思います。
施術では直接前鋸筋を指圧してゆるめます。けっこう痛みをかんじますが、即効性はあります。来店された方には自分で指圧して前鋸筋をゆるめる方法を教えています。
その他に背中(肩甲骨の内側)が張ってしまう、つまり菱形筋がこわばってしまうものに、肩甲骨が上下にずれるというのがあります。肩甲骨を上に引き上げる働きをするのは肩甲挙筋で、目の疲労に関係します。(最初の図を参照してください)僧帽筋の下部線維がこわばりますと肩甲骨を引き下げます。そしてそれは多くの場合、骨盤のずれに由来します。これらは実際のところ、専門的な施術が必要です。