足首を整えることの大切さ

 からだがリラックスできる状態になるためには、喉元の筋肉(舌骨筋群や頭長筋など)の筋肉の状態も大切であることを説明してきました。
 そして、そのためには足首の柔らかさも大切であると説明させていただきましたが、今回はその理由と、ポイントになる骨格と筋肉と靱帯について説明させていただきます。

足首が硬くなると喉元が緊張する理由

 詳細を説明しますと長くなってしまいますし、専門的になりすぎてしまいますので、だいぶ省略した説明になってしまいます。

 私は骨格や筋肉や筋膜の状態を判断するときにベクトル(中学の数学で勉強した「方向性」)をかなり重要視しています。
 それは、その骨が「どこを向いているのか」「どちらに行きたがっているのか」、その筋肉が「縮みたがっているのか、否か」、その筋膜が「どのように捻れたがっているのか」といったものです。
 このようなことを申しますと「変人」扱いされてしまうかもしれませんが、私たちのからだの骨や筋肉や筋膜には、あるいは細胞には、それぞれに意識や意見(訴え)があるよう感じています。それは私たちの意識が集中して繊細になることができれば、誰もが感じられるものだと思っています。そして、それを「ベクトル」と私は表現しています。

 足首が硬い人の特徴として、足のくるぶし(内果と外果)が下がっていて、足首が太くなるという現象があります。そしてくるぶしが靴の縁に当たって擦れてしまう可能性が高くなるかもしれません。
 これは単純に考えますと、ふくらはぎの骨(脛骨と腓骨)と足の骨が近づいてしまっているということなのですが、足首周辺の靱帯が縮んだ状態になっていて脛骨と腓骨を下に引っ張っている状態です。ですから、脛骨と腓骨を触りますと、ベクトルが下に向かっていると私は感じます。

 ここで視点を膝関節に向けますと、脛骨が下に引っ張られている分、大腿骨との間が少し拡がった状態になります。すると、脛骨と大腿骨を繋ぐ筋肉が緊張してこわばります。

 膝裏では膝窩筋がこわばって硬くなりますので「膝の裏が腫れぼっくて硬い」と感じると思います。また、ハムストリングや腓腹筋もこわばりますので、裏側(背側)の膝周辺も硬くなって張ります。さらに太股に対してふくらはぎが後側に歪んだ状態になりますが、それを前から見ますと膝小僧(膝蓋骨)が目立つ状態となります。

 この状況はかかと重心になってしまう状態ですが、骨盤も後傾しますので、猫背にもなりやすくなり、頭長筋がこわばって首・肩・顔に力が入りやすい状態を招きます。(「気になる頭長筋の状態」参照)

 膝関節の前面では大腿四頭筋がこわばります。ですから、太股の前面が太く硬くなってしまいますが、喉元では胸骨甲状筋(きょうこつこうじょうきん)がこわばりますので、食物の飲み込み(嚥下)や発声に悪影響がおよびます。(「食欲不振‥‥飲み込めなくて=嚥下の不調」 参照)

 足首の靱帯が縮んで足首が硬くなった状態は、その他に「鼡径部が下がるので下腹が出たり、舌が下がる」といった現象ももたらしますので、噛みしめや歯ぎしり、頭痛といった症状を招く可能性もあります。

距骨の不安定さと立方骨と短母趾屈筋

 足首の靱帯が硬く縮んでしまう理由について考えますと、二つのことが浮かんできます。

 一つは足首の使いすぎです。「足首の使いすぎ」といってもピンとこないと思いますが、この状態を招く理由としては、歩いたり立ったりするときに足やふくらはぎに力を入れすぎていて、「足で踏ん張っている」「足元で頑張っている」状態になっていることがあげられます。
 たとえば歩行においては、骨盤を中心にその周辺の筋肉を主体的に使って動作をおこなうのが良い在り方です。そうであれば、足元に力を入れなくてもサッサと軽やかに歩くことが出来ます。そしてこのような状態の人の歩き方を見ますと、お尻がプリプリ収縮を繰り返して歩いているように見えます。
 反対に骨盤中心ではなく、足元に力を入れて歩いている人の場合は、お尻はあまり動かず股関節から下ばかりが動いているように見えます。歩き方にバネが感じられません。
 このような人は歩行時における全体重の負荷を膝や足首で受け止めることになりますので、足首がその負荷に負けないようにとガチッと硬くなりますが、それが足首周辺の靱帯や筋肉を縮めてしまう要因になるのではないかと思います。長く歩いているとスネの外側が張って辛く感じる人は、まず間違いなくこのタイプの人と言えます。

 二つ目は、距骨が不安定な状態になっているので、それを補うように靱帯や筋肉が縮んでいる状況です。
 「距骨(きょこつ)‥‥足関節の安定と歩行と重心移動」で詳細は説明していますが、立位の状態で、全身の負荷を足で受け止める直接的な骨は距骨です。ですから、距骨の状態は立位の状態を決める「要」であると言うことができます。

 また、足首周辺の靱帯と距骨との関係では違う側面もあります。
 たとえば足を内側にグキッと捻ってしまった捻挫は、足首外側の靱帯に損傷を招きます。

 前距腓靱帯(ぜんきょひじんたい)や後距腓靱帯(こうきょひじんたい)が伸びて損傷しますと、距骨が小趾側に捻れた状態になる可能性があります。あるいは立方骨(りっぽうこつ)を安定させる靱帯が損傷しますと立方骨がグラグラしますが、あわせて距骨もグラグラして不安定になる可能性があります。
 すると、からだは足首の不安定さを嫌いますので、他の靱帯を固めるように縮めて足首の不安定さが小さくなるようにするのではないかと想像します。

 また、この状況に関連して母趾と立方骨を繋いでいる短母趾屈筋(たんぼしくっきん)がこわばりますと、立方骨が前方に引き付けられ前に歪んでしまいます。すると隣り合う関係の距骨も歪んで足首が不安定になりますが、このような状態の人はたくさんいます。

距骨を整えるための主な考え方と施術

 上記までの内容を要約しますと、足首が硬く縮んでしまう理由は以下の3つになります。

  1. 足首の酷使などの理由で足関節の靱帯がこわばってしまった。
  2. 捻挫などの影響で損傷した靱帯の働きを補うために他の靱帯や筋肉が硬く縮んでしまった。
  3. 立方骨の歪みが距骨の歪みに繋がり、足首が不安定な状態になってしまった。
    (短母趾屈筋のこわばりや捻挫等による靱帯の損傷が原因)

 ですから、それぞれの状況によって施術内容は異なります。

  1. の理由による靱帯のこわばりに対しては、靱帯をゆるめる手法を行います。それはストレッチや指圧などの手技になりますが、それ以外に足首をよく回すことも有効です。
  2. に対しては、損傷や疲弊してしまった靱帯を復活させる施術を行います。
     そして(悲しいことですが)、捻挫などのケガが何十年前のものであったとしても、靱帯の状態が元通りに回復していない現実があります。

     私たちの一般的な感覚では、捻挫をしたとしても腫れが治まって痛みが消失してしまえば、それで捻挫は治癒したと認識しているかもしれません。しかし、それだけでは捻挫の損傷は完全に回復しているわけではありません。靱帯の働きがしっかりと戻って関節のグラグラ感が消え、骨格が安定して周囲の筋肉がしっかり働ける状態になったときが損傷が回復した状態です。そうなりませんと足首(足関節)の要である距骨は頼りない状態のままですので、全体重を距骨に乗せることができません。このような状態ではかかと重心になっている可能性があります。

     損傷から回復しきっていない靱帯を回復させる手段は、やはり「手当て」です。あるいは、ピップエレキバンが有効な場合もあります。ともかく血液をたくさん運んできて、細胞の働きが活発になるようにする施術が必要です。(この感覚は実際に体験しないと解らないと思います。)

  3. 立方骨が歪んでいる理由として、立方骨と踵骨、あるいは4趾・5趾の中足骨を繋ぐ靱帯が損傷している場合には上記②と同じ手法を用います。

     あるいは短母趾屈筋(たんぼしくっきん)がこわばっていることで立方骨が前方に歪んでいるケースでは、短母趾屈筋のこわばりを解消する施術を行わなければなりません。

     但しこの場合、単にこわばりを解消するだけでは根本的な解決になりません。「どうして短母趾屈筋がこわばったのか?」について最終的には解決する必要があります。

     短母趾屈筋がこわばる理由として、多くの人のケースでは、歩き方の問題などで短母趾屈筋を必要以上に収縮させなければならない状況になっていることがあげられます。

     ですから、歩き方が良くなるようにからだを整えることが必要になりますが、それは長年の「癖」を克服する道のりでもあります。ですから一朝一夕にいきません。「形状記憶」のような状態を解除するように、時間をかけて着実に進めていく心構えが必要になると言えます。

     とはいえ、とりあえずは立方骨の歪みを改善する必要がありますので、こわばっている短母趾屈筋をゆるめる施術を行います。

 距骨の歪みに対しては、多くの場合で、上記の3つの観点で観察し、適切に施術を行うことで対処できると思います。しかし少数派なのでここでは説明を省きますが、脛骨の捻れが原因で距骨が歪んでいる場合もあります。

短母趾屈筋のこわばり

 上の写真の右側のように、脛骨に対して距骨が前方に歪んでいる状況では、その人はほぼ間違いなくかかと重心の状態になっています。ですから、この状態は確実に改善したいと考えていますが、この状態をもたらしている直接的な原因として最も多いのは、短母趾屈筋のこわばりです。

 ご自分の足を観察して、親指(母趾)が中足骨のところから下を向いているようであれば、ほぼ間違いなく短母趾屈筋はこわばっていると思われます。そして距骨は前に出ていると思われます。ですから、このような人は短母趾屈筋のストレッチをたくさん行う必要があります。

 また、短母趾屈筋は足底筋の中で、からだ全体に影響力の強い筋肉であると私は考えています。
 短母趾屈筋は私たちの日常生活の動きによってこわばりやすい筋肉でありますが、同時に、ストレッチなどしてこわばりを解消しますと、全身の血行が改善したり、縮こまっていた筋肉が伸びやかになるなど「快適さのコツ」に該当する筋肉であると考えられます。

 私の母は82歳になろうとしていますが、この年齢になりますと筋肉の働きが弱くなりますので熱を産生する能力も衰えます。ですからパジャマなど着るものを厚めに着て布団に入りますが、朝は私が20分くらいマッサージをしています。
 彼女は毎日買い物などで5000歩位を歩いていますが、それだけでも短母趾屈筋がこわばります。ですから、マッサージの中で短母趾屈筋をゆるめたりストレッチしたりしていますが、それだけでもからだが非常に温まり、眼がパッチリ開くようになります。そして「(指圧は)痛いけど、温まって気持ちいい~!」と言います。
 短母趾屈筋は、からだの冷えを感じている人にとっては毎日ケアしていただきたい筋肉でもあります。

足首をよく回しましょう

 この話題は3回連続になりますが、足首を丁寧にしっかりと回すことは、誰もが手軽にできて効果の期待できるセルフケアです。
 (イボのない、ツルツルとした)青竹踏みと足首回しは、皆さんにお勧めしたいセルフケアです。非常に単純ですが、是非行ってください。


 今回の話題の中で取り上げました短母趾屈筋については、まだまだ語るべきことがたくさんあります。また、別の話題の中で取り上げていこうと考えています。