腰椎椎間板ヘルニアに対して

 腰椎椎間板ヘルニアは腰痛や坐骨神経痛をもたらす病態ですが、整体的手法でどこまで役に立てるのか、私はまだはっきりと答えられずにいるものの一つです。
 一般的な認識では、加齢や衝撃その他の理由で腰椎間にある椎間板が潰れるなど変形してしまい、それが神経を圧迫するために生じる症状であると考えられているようです。

 そして症状を訴える人の多くは第4腰椎と第5腰椎の間、あるいは第5腰椎と仙骨の間の椎間板が問題であり、それは坐骨神経を圧迫することになりますので、殿部~下肢に掛けてのシビレや痛みといった坐骨神経痛の症状が現れるのがほとんどです。

 整形外科では、腰椎椎間板ヘルニアのリハビリとして腰部の牽引を行うことが多いようです。腰部を引き伸ばすことで狭くなってしまった椎間を拡げ、扁平して潰れた状態になっている椎間板を一時的に良い状態にすることで、坐骨神経への圧迫を消失させて楽な状態にするといった理屈だと思います。
 しかし、これは結局なんの解決にも至りません。牽引をしている間は楽かもしれませんが、牽引を解除しますとまた元の状態に戻りますので時間の経過と共に坐骨神経痛の状態に戻ってしまいます。

 ところで、とても辛い坐骨神経痛を伴う腰椎椎間板ヘルニアであったとしても、ある時を境に症状が快方に向かい、やがて完全に消えてしまうこともあります。
 加齢の進んだ人はそうならないかもしれませんが、若い人、からだが元気な人は症状が消えてしまう可能性がかなり高いと言えるかもしれません。
 それは「どうしてなのか?」ということに関して、私の私見を申し上げます。
 ほとんどの人は高齢者になりますと、身長が縮みます。その理由として考えられることは、背骨の一つ一つの骨(脊椎)の間にクッションのようにある椎間板の弾力性と力が加齢によって衰え、24個ある脊椎(頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個)の間が狭くなってしまうので、身長が縮んでしまいます。それ以外にも背骨が曲がったり、あるいは骨の大きさが変わったりするということがあるのかもしれませんが、椎間板の弾力性が乏しくなって扁平してしまうためというのが最も多いのではないかと思います。
 ですから高齢者の場合は、器質的な要因もあって、慢性的な椎間板ヘルニアは改善が難しいのかもしれません。

 一方、若い人やからだに力がある人は、何か別の理由で椎間板が変形していることが原因であると考えられます。
 その一つは背骨の歪みです。例えば左側腰部の筋肉が縮んだ状態になっている場合は腰椎が左側に弯曲します。すると、その弯曲の程度にもよりますが、椎間板の左側が押しつぶされた状況になりますので、椎間板がはみ出して左側の神経を圧迫してしまう可能性が考えられます。あるいは脊椎は捻れることがありますが、その影響で神経が圧迫されている状況も考えられます。

 また、二つ目の理由として考えらるのは、腰部の筋肉や筋膜が縮んだ状態になっているため椎間が狭くなってしまっている状況です。現象としては、腰椎が仙骨の方に引っ張られている状況が起こっています。椎間板は押し潰されたようになりますので扁平してしまい、やはりはみ出し、神経を圧迫してしまう可能性が考えられます。
 ですから、これらの状況を改善することができれば、椎間板が本来の在り方に戻りますので神経を圧迫することにはならず、坐骨神経痛の症状は治まるであろうと考えることができます。

 ところで、椎間板ヘルニアを経験した人はご存じだと思いますが、ある時期は非常に苦しんでいたけれど、その後しばらくは状態が良くなって、忘れた頃にまた症状がでるようになることがあります。現在は無症状だけれど、持病として椎間板ヘルニアを抱えているといった感じですが、体調が崩れたり、天候に左右されて症状が現れたりするのもこの類いです。
 それは、椎間板自体が変形しているのではなく、背骨(腰椎)の状態や周辺筋肉、筋膜の状態変化によって椎間板が影響を受け、症状が出たり消失したりする仕組みになっているのではなかと考えられます。

 そのように考えますと、からだの歪み方の変化によって症状が現れたり消えたりすると考えることができます。体調やバイオリズムの変化によって症状に変化が現れると言ってもいいかもしれません。
 ただし、素地として椎間板が神経を圧迫しやすい状態になっているということですので、「本格的に改善したい」「高齢になって慢性的な椎間板ヘルニアにはなりたくない」と考えるのであれば、しっかりと腰部の状態を改善しておく必要があると言えます。

(1)背骨が歪んでいたり脊椎が捻れている場合

 腰椎の歪みや捻れに直接関係する骨格筋として腰方形筋(ようほうけいきん)、大腰筋(だいようきん)、脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)、広背筋(こうはいきん)などがあります。また、間接的に関係する筋肉としていくつかがあります。

 たとえば左側の腰方形筋がこわばって縮んだ状態になりますと、腰椎の左側が縮むだけでなく一番下の肋骨(第12肋骨)を引き下げて骨盤(腸骨)に近づける状態になりますので、腰椎は右側に弯曲することになります。この状態が悪化しますと、腰椎間にあります椎間板の左側は圧迫を受けてしまいます。この状況が慢性化しますと腰椎椎間板ヘルニアになってしまう可能性が生じます。ですから腰椎の歪みは放置せずに、左右のウエストの状態が同じように鳴るよう整えることをおすすめします。
 ちなみに、腰方形筋はお尻の中殿筋などと連動関係にありますし、踵の外側(小趾外転筋)が硬くなっていますと、ギュッと硬結して腰部に棒のような強いこわばりをもたらすことがありますが、椎間板腰痛ヘルニアの原因になる可能性は十分に考えられます。

 腰椎に捻れを生じさせる筋肉の変調はいくつかありますが、大腰筋の変調はその一つです。そして大腰筋は股関節の大内転筋と連動関係にありますので、例えば殿部太もものつけ根などを肉離れしますと大内転筋が損傷して、その影響が大腰筋に及び腰椎が捻れてしまうということが起こる可能性があります。
 駅のトイレなど床が滑りやすい状況で足をズリッととられ、転ばないように踏ん張ったときに太ももつけ根の裏側をピリッとしたりすることがありますが、そんな時に損傷するのが大内転筋です。
 また、第5腰椎と仙骨の間での捻れなどに関しては骨盤底筋なども関係してきます。ギックリ腰の痕が治りきっていなかったり、強い尻餅などで骨盤底を損傷した場合は、それが原因になっている可能性も考えられます。

(2)仙骨表層の筋膜がこわばって腰椎を引き下げている場合

 仙骨表層から腰部の表層にかけて、強力な胸腰筋膜と腰背腱膜があります。

 結論として、これら筋膜がこわばりますと腰の棘突起を仙骨の方に引きつけることになります。それによって腰椎の向きが変わったり、椎骨間が狭くなる可能性が生じます。そしてそれが原因で椎間板ヘルニアの症状が発症することがあります。
 仙骨の筋膜がこわばる理由としては、腰部を打撲して損傷状態になっている場合や、頚部や首のつけ根あたりの問題が原因になっている場合もあります。スキーなどで転んで腰や背中を強打した経験があったり、ムチウチ後に坐骨神経痛の症状が現れたりしたのであれば、この状況が考えられます。

 現在、30歳代の筋肉たくましい男性が腰椎椎間板ヘルニアの改善のために来店されています。16歳の時に激しいギックリ腰をしてまったく動けなくなり、その後からひどい坐骨神経痛を発症するようになり、病院で腰椎椎間板ヘルニアと診断されたとのことです。今は建設関係の現場の仕事をしていますが、しばしば腰痛と神経痛を発症するとのことです。整形外科や治療院などにしばらく罹っていたようですが、ほとんど効果が見られないので通うのを止めてしまったようです。天気の良い日は症状も軽快するようですが、雨の日などはだいぶ辛い状態になるようです。天気に左右されるのは神経痛の一つの特徴です。
 私のところには神経痛が辛くなると来店されるという感じで、3回来店しました。3回目の施術を終えたときに、「時間はかかるけど、まだ若いのだからしっかりヘルニアを治した方が良いよ。」と進言しました。それから症状があってもなくても隔週で来店されることになりました。
 長年のヘルニア状態はすっかり慢性化した状態です。神経痛の症状は左殿部と左下肢に出ていましたので左側のヘルニアであると考えられますが、第4腰椎、第5腰椎あたりでは、背骨の右側際を指圧しても左下肢へのシビレが生じますので、単に左側のヘルニアだけではないと想像できます。
 そしてこの男性は、上記で説明しました左大内転筋の損傷による腰椎の捻れと、仙骨表層筋膜のこわばりによる第4腰椎の下がりの両方を併せ持っています。筋力の乏しい人でしたら、左大内転筋の損傷による影響が表面化して、歩き方のバランスが悪くなったり動作に支障が生じたりすると思いますが、彼の場合は全身の筋力が強いので自覚がなかったのかもしれません。
 そして、第4腰椎の上部、第2腰椎と第3腰椎の間くらいに過去の損傷が残っていて仙骨表層筋膜がこわばっていることの原因になっていました。その損傷して弱くなっている部分に手を当てて施術しますと、下がっていた第4腰椎がスッと上がります。そして張っていたふくらはぎがスッと柔らかくなります。また、腰椎に手を当てたままで腰椎の際を指圧しても左下肢にシビレは生じませんでした。
 ですから、大内転筋の損傷している部分と腰椎の損傷している部分を修復することで椎樺ヘルニアの状況が改善される可能性があると思いました。このような時には、私は定番としてダイオードを貼って対処することにしていますが、今回も大内転筋に1個、腰椎に2個貼りました。そして施術を終えましたが、まったく椎間板ヘルニアの症状を感じない状態になりました。

 再び来店していただいたときに、その間の経過を尋ねましたが、「ほとんどシビレや痛みは感じなかったけど、一昨日あたりから軽いシビレを時々感じた。」とのことでした。20年近くの慢性的な症状ですから、一度や二度の施術で解決することは「まぁ無理」だと思っていました。そして前回同様、腰部と左大内転筋を中心に施術を行いました。
 次回の来店はまた二週間後に予定しましたが、隔週のペースで施術を行っていけば、半年くらいの期間で解決するのかもしれないと考えています。

 冒頭に申し上げましたが、腰椎椎間板ヘルニアは難解な病態の一つです。ですから「この考え方とやり方で改善する」という法則みたいなものは定められないと感じています。
 ああやってみたり、こうやってみたりと、いろいろな方面からアプローチして対処法を探し出していかなければならないと感じています。
 ですから、徒労に終わってしまうような施術を二度三度繰り返してしまうかもしれませんが、原因と対処法さへ解明できてしまえば「難解」→「普通」となり、施術の成果が確実に現れると思い始めています。
 神経痛の、あの何とも耐えがたい痛みは経験した者でなければ解らないと思いますが、なんとかその痛みやシビレとサヨナラできる日が来ることを願いながら施術を行っているというのが現在です。

 ただし、手術による後遺症(元々の症状は消失したが別の症状が現れることはしばしばあるようです)のような、(神経管の圧迫ではなく)神経そのものに絡んだ症状が出てしまいますと、それは整体的手法では解決できなくなってしまいます。ですから、からだにエネルギーがあって椎間板に弾力ある人の場合、手術という選択肢はなるべく避けた方がよろしいのではないかと、私は個人的に思っています。