内股を考える

 教科書通りの見解を述べますと、仰向けで寝たときに股関節~足に掛けては少し外側に回旋した状態になっているのが普通の状態です。股関節で太股(大腿骨)が若干外側に開き、さらに膝関節でふくらはぎ(脛骨と腓骨)もわずかに外側に回旋しますので、爪先は外側に開いた状態になります。(下図の左側)

 しかし実際には、このような理想的な状態にある人はあまりいません。それが生きて活動している生身の私たちの実態です。
 ここで女性に焦点を絞って申し上げますと、上図中央のX脚のようにはなっていなくとも、太股が内側に捻れて爪先が内側に倒れている人がたくさんいます。

 そして、このような状態の人や立った時に爪先が内側を向いて足が「ハの字」になっている人を内股と一般的に呼んでいますが、内股が慢性化しますとなかなか修正するのが大変です。また、ご自分は「O脚ではなく内股なので‥‥」と何故か合理的な理由もなく安心(油断)している人もいますが、内股はO脚への入口になりかねない状態です。ですから内股が強固な状態にならないうちに、修正すべきであると私は考えています。

内股は遺伝する?

 親と子はどことなく似ている面があります。ですから体型は遺伝性のものであると考えることができます。そして実際、親が内股の人はやはり子も内股の状態になっていることが多いようです。
 この遺伝性、つまり先天性の内股の場合、それを修正することはなかなか難しいと感じています。また、病気によって内股になってしまっている場合も整体的手法でそれを修正することは難しいと思います。
 このような場合に私が貢献できることとしましたら、内股の状態が本来よりもひどくなって筋肉のバランスが崩れたり、股関節や膝関節、足関節などに過度の負担が掛かることのないように整えたり、日々のケアをアドバイスすることです。
 先ほど「内股はO脚への入口になりかねない」と記しましたが、加齢にともなってO脚状態に移行し、やがてその状態が進行しますと「膝関節の変形」という問題が生じる可能性があります。そうなりますと膝の痛みと共存した人生になってしまうかもしれませんので、そうならないように十分にケアしていただきたいと考えています。X脚の内股の場合も同様です。

内股は早めに修正したい

 内股状態で長年過ごしている人は太股の筋肉が強く張った状態になっている傾向がありますが、その張り方には特徴があります。単に硬くこわばっているのではなく、筋肉の奥に筋状に非常に硬くなっている筋線維があります。そのこわばりは頑固な状態になっていますので、こわばりを解消して柔らかい状態にするのは手強いです。
 また、その影響もあってか、多くの人が慢性的な胃の不調を訴えます。おそらく内臓下垂の状態になっているのではないかと思います。

 私にとって内股の状況を最も連想しやすいのは、女性が着物や浴衣を着て、草履を履いて、小股でツンツンと歩いている姿です。
 足元まで半ば衣類で拘束されているような状態ですから、洋装でさっそうと歩くような歩き方はできません。
 自ずと足の小指側を着地させて重心を前足に掛けて進むような歩き方になりますが、それによって足の小趾側~ふくらはぎの外側の筋肉がたくさん使われるようになります。そしてそのためには、膝小僧を内側に入れるように太股を内側に回旋させなければなりませんが、この動作によって太股の内側の筋肉がこわばります。

 ふくらはぎの外側の筋肉は太股の外側の筋肉と連携しますので、太股では内側の筋肉も外側の筋肉もこわばって硬くなってしまうという状況になります。
 これはからだの使い方の原理(仕組み)による結果ですから、硬くこわばっている部分をいくら揉みほぐしたところで効果は期待できません。からだの使い方が変わるしか、状態を改善する根本的な方法はありません。

 太股内側のこわばりは鼡径部を下方に引っ張りますので、下腹部がぽっこりの状態になりやと言えます。また、胸も下がって内臓下垂になりやすいですし、舌や下顎や鼻も下がった状態になってしまいます。喉元も硬くなりますし、呼吸も悪くなります。

 太股外側のこわばりは手の使い方に悪影響をもたらします。腕の動作では脇が開いてしまい、手作業では親指と人差し指が中心になりますので、文字を書いても筆圧が高く、滑らかに筆(ペン)を滑らすような動作は不可能です。親指のつけ根が辛くなりやすいかもしれません。
 また、下半身では膝が伸びきらず膝裏が浮いてしまいますし、噛みしめや歯ぎしりの癖を持つようになってしまうかもしれません。

 ですから、内股の人は人生のなるべく早い段階で、内股の状態を改善していただきたいと思っています。
 スタイルのことだけしたら、O脚より内股の方が「良いのでは?」と思われる人も多いかと思いますが、全身的な不調という観点では、おそらく内股の人の方が辛いのではないかと思います。(O脚の人は高齢になって膝関節が変形しやすいというリスクはあります。)

子供の内股

 現在、定期的に通われているご婦人のお孫さんが「内股なので一度見て欲しい」ということで来店されました。小学校2年生のS君(男子)で、サッカーが好きな少年です。
 S君は乳児の頃から内股の傾向があったということです。小学生になり、サッカーをするようになってから顕著な内股になってしまったということです。ちなみに、ご両親や兄弟は内股ではないということですので、遺伝性(生来的)のものではないと判断できます。
 サッカーは両足の内側にボールを保ちながら走る競技ですから、O脚になりやすいスポーツであると言えます。それはプロのサッカー選手を見ると分かることだと思います。
 ですから、内股の傾向があったS君がサッカーをするようになって、単なる内股だけでなく”O脚+内股”の状況に進んでいくことは理屈に合っていますし、実際、そのようになっていました。

 S君の状況尾を観察したところ、左下肢も右下肢も同じような感じでO脚および内股の状況になっていました。そして出っ尻のように仙骨が突出して骨盤が前に傾いていることが気になりました。
 仙骨の状態がそのようになっているのは、仙骨表層の筋膜が縮んだ状態になっていて腰椎の方に引っ張り上げていたからですが、それによって左右の股関節が歪んだ状態になっていました。具体的には、股関節で両太股のつけ根部分(大腿骨頭)が外側に開いた状態になっていました。内股なのに、股関節では太股が外側に開いているのは理屈に合わないと思われるかもしれませんが、そのことは後ほど説明します。
 そして、縮んでいる仙骨表層の筋膜をグイーッと引っ張って弛めるますと、骨盤の前傾が改善するとともに股関節の状態も良くなるのがわかりました。ですから、S君は”何らかの理由”があって仙骨表層の筋膜が縮んだ状態になり、その影響で股関節が歪んでしまったと考えることができます。
 次の作業は、その”何らかの理由”を探すことです。

 これは施術経験からくる感性によるものですが、左側も右側も、両側の下肢が同じように歪んでいる状況は、からだの中心ラインのどこかにおかしなところがあるからだと予想することができます。そして実際、骨盤の中心ラインである仙骨表層が縮んでいるわけですから、背骨から頭にかけてのどこかに根本的な原因がある可能性が高いと考えられます。
 私は自分の手をS君の腰部から背骨に沿って少しずつ上に進めながら当てていき、仙骨表層の筋膜に関係する部分を探していきました。すると、頭頂部より少し後方、つむじより少し上の部分が凹んだ感じになっているのがわかりました。そして、そこにしばらく手当てをしていますと、仙骨の状態や骨盤の状態が変化し始めました。
 S君は乳児の頃から内股気味だったことを考えますと、おそらく生まれて間もない頃、この頭頂近くの部分を打撲したか損傷したのかもしれません。この部分が弱くなってしまったこと、反動的に仙骨部を硬くしてバランスをとっていたと考えることができます。
 10分近く手を当てていました。S君は「気持ちが良い」と言って、じっと施術を受け入れていました。
 その後、仰向けになってもらい(それまではうつ伏せの状態でした)股関節の状態を確認しますと、開いていた太股のつけ根は普通の人と同じような感じに近づいていました。
 あとは、これまで内股状態でいたことによる筋肉の偏りを調整するために、ふくらはぎや足底の筋肉を施術しました。そしてその後、歩いてもらいました。

 施術前の歩行では、爪先がすっかり内側をむいたハの字で歩いていたものが、施術後はO脚状態は少し残ったものの爪先が真っ直ぐ前を向いた状態になっていました。あと何回か頭部への施術を行って、凹んだ部分が回復すれば、あとは自然と治っていくのではないかと思える感じでした。S君に限らず、子供のからだというのは純粋なのか、施術の効果が端的に現れるものです。

 このS君のケースだけでなく、小さい頃のからだの傷は長い人生に渡って影響力が強いと常々感じています。
 小さい子供たちは、からだの柔軟性も豊かで、転んだりケガをしたりしてもすぐに何事もなかったかのように振る舞うようになりますが、そこには将来にわたって影響を及ぼす損傷がある可能性もあります。ですから、親御さんはそれを見逃さないような、そんな眼力を養って欲しいと、そう思っていますが、具体的にどうすればよいかは難しいところですね。

 さて、S君が股関節では太股が外に開いていたのに、内股になってしまった理由について説明いたします。
 股関節で太股(大腿骨)が外側に開いている、つまり外側に回旋している状態のままでは、普通に歩くことはできません。その状況はガニ股とも違っていまして「股を押っ広げた」ような感じです。ですから、歩くためには外側に回旋している大腿骨を筋肉の力を使って内側に捻り、膝が前に向くようにする必要があります。これは肉体の自然な反応です。
 つまり、「無理して大腿骨を内側に捻りながら歩いている」という感じです。そして、それによって筋肉の使い方に偏りが生じ、内股になってしまったと考えることができます。
 ですから、この肉体の自然な仕組みを考えますと、股関節で大腿骨が外に回旋している状況を修正できれば、自ずと大腿骨を内側に捻る動作はなくなるとイメージすることができます。そして、実際そのようになりました。この状態を維持することができれば、筋肉の使い方が変わりますので、これまで内股によって蓄積されてきた筋肉の偏りが少しずつ改善されていくことが予想できます。

生来の内股でも筋肉の偏りは生じる?

 母親と娘のどちらもが内股の人が来店されていました。生来(遺伝的)の内股体型だと考えられますが、お二人とも太股の内側も外側もこわばっていて、噛みしめや歯ぎしりの癖をお持ちでした。ですから生来の内股であったとしても、筋肉の使い方に偏りは生じやすいのだと私は思っています。
 その他にも生来の内股体型だと思われる人が来店されていますが、40歳を超えるまで内股でいますと、筋肉の偏りはかなり頑固なものになるようです。
 最初の来店から一年以上経って、筋肉の頑固な変調は和らぎ、普通の人の筋肉と同じような状態に近づきましたが、しかし「何かあるとすぐに硬くなってしまう」と、そんなふうに感じています。

 太股の内側には、内側広筋という筋肉があります。内側広筋は足の親指の内側~スネの内側~腹直筋の中心ライン~胸骨の筋膜~喉~オトガイ~鼻~眉間という全身腹側の中心ラインに関係の深い筋肉ですから、この筋肉が硬くこわばりますと、それはからだの中心ラインが縮んで硬くなってしまうという状態を招きます。

 腹側の中心ラインは東洋医学的に「任脈(にんみゃく)」と呼ばれ、「急所」が存在している場所と考えられています。つまり内臓の働きや生理活動にとても関係が深いと考えられます。そんなこともありまして、この中心ラインはなるべく良い状態に保ち続けていただきたいと考えています。ですから、内股で内側広筋が硬くなってしまう状況はなんとか改善していただきたいのです。

 昔は畳の生活=正座が主流でしたので、日本人は欧米人や他のアジア(東南アジアなど)系の人たちに比べて脚も短く、ガニ股や内股やO脚の人が多かったとも思っていました。しかし、現在のすっかり西洋化した生活様式でも内股やO脚の人は少なからずいます。
 ですからそれは民族的な特色の一つであるとも考えられますが、今回記してきましたように、生来の内股であったとしても筋肉のバランスは悪くなってしまいます。ですから、ご自分が内股であると感じている人は、その状況が悪化しないようにケアすることを心がけていただきたいと思っています。