まだ20代ですが、子宮や内臓が下がっていることが気になっている女性が定期的に来店されています。
また、その他には逆流性食道炎やゲップを多発する症状を持っています。年齢的な若さもあって一見スタイルが良さそうに見えるのですが、筋肉の状態としては全身的にあまり良くない状態です。
この女性は特異な症状を抱えています。それは「膣がオナラをしている」みたいに、膣から空気がブフッと音を立てて出てしまう症状です。さらに本物のオナラはお尻から出ることがほとんどなく、口からゲップとして空気が出てしまう症状も持っています。
普段の日常生活においては、このような症状が常に現れているというわけではないのですが、施術が始まりからだの歪みが少しずつ解消されて筋肉の働きが戻ってきますと症状が激しく現れるようになります。
足裏やふくらはぎを施術していますと、直接施術しているわけでもない腹筋が自動的に収縮と弛緩を繰り返すようになります。そしてだんだんとその動きが激しくなっていきますが、それに合わせるようにブフッ、ブフッと膣から空気が出たり、あるいは口からゲップが激しく出る症状が現れます。
この特異な現象を論理的に説明することは難しいことだろうと思いますが、内臓とともに子宮や膣が下がった状態になっているので、膣口や子宮口の締まりが悪くなっている可能性があるのではないかと私は考えました。そして、空気がそこから入って子宮に溜まってしまい、それがオナラのように膣から排出されるのではないかと考えました。
ですから、内臓や子宮を本来の状態に上げることができれば、この症状は解消するのではないかと思いました。
尚、本人に「子宮が下がっていると感じてますか?」と尋ねますと、常にその自覚があるとのことでした。
またゲップがたくさん出る症状に関しては、逆流性食道炎や胃の不調との関連性があると考えました。彼女は喉や舌が下がっていて嚥下運動(えんげうんどう=飲み込む運動)がスムーズにできない状況になっているのですが、そのことがゲップを多発してしまう原因の一つになっている可能性が考えられます。
蠕動運動(ぜんどううんどう)のことをご存じでしょうか? ミミズが這って移動する時の動きに似ているのですが、私たちの食道や消化管や腸は蠕動運動によって食物を運ぶ仕組みになっています。
通常、蠕動運動は喉元→食道→胃→十二指腸→小腸→大腸へと向かう一方通行になっています。ですから食事の直後に寝たとしても食物は食道や胃の中に停滞することなくゆっくりと次の器官に運ばれて処理されるようになっています。
ところが逆流性食道炎などと診断される状況は、本来一方通行であるはずの蠕動運動が何らかの理由で逆転してしまい、胃の内容物や胃酸などが喉元の方へ戻りやすい状態になっているということです。
この逆流性の症状に対して医学はどのように考えて対処しているかは知りませんが、私は蠕動運動が本来の在り方に戻るためにはどうすべきかという観点で対処しています。
さて蠕動運動は、私たちが食べ物を口の中で噛み砕くなどして食塊(しょくかい)にして飲み込んだときから始まります。
食塊を飲み込むときの喉周辺の一連の動きを嚥下(えんげ)と言いますが、この嚥下運動がスムーズにできないときがあります。
私たち人間の口や関連の器官は、食物を噛んで飲み込むことと言葉などの発声をすることの二つの仕事をしています。食物は食道へ行きますし、発声は気道の空気を使いますので、喉は空気と食物とが交叉する場所になっています。
嚥下は、食塊を飲み込もうとした時に喉仏(喉頭)が上にグッと上がり同時に喉頭蓋が下がって気道を塞ぐことから動作が始まります。
嚥下障害とは |山部歯科医院 - 嚥下障害支援サイト スワロー - (swallow-web.com)
もし喉仏を上に動かすことができなかったり、動作が不十分な状態になっていますと食べたものが気道の方に侵入してしまう可能性が生じます。食物を噛みながら喋ったりしていますと、食物の一部や唾液が気管に入ってしまい、むせたり咳き込んだりしてしまうことは多くの人が経験していると思いますが、それは気道を塞ぐ蓋(喉頭蓋)がしっかり閉まりきっていないうちに食物や唾液が喉を通過してしまうので起こります。
あるいは高齢者が餅を喉に詰まらせて命に危険が及ぶ状況になってしまうこともありますが、それは嚥下動作の最初の段階が不十分、つまり喉仏を上げて気道をしっかり塞ぐことができないために起こると考えられます。
嚥下動作の次の段階は、食塊を喉元から食道の方に流し込む動作になりますが、この時上がっていた喉仏がグイッと下がるようになります。もし、この喉仏を下げる動作が上手くできなかったり、不十分な状態になっていますとスムーズに食塊を食道に送り込むことができなくなります。
たとえば口の中に唾液をためてそれを飲み込もうとしたときに、タイミングを合わせないと飲み込むことができなかったり、喉仏が動きづらくてなかなか飲み込めなかったりするようでしたら、それは嚥下運動に問題があるということです。そして、このような人は割とたくさんいます。
さて、以上のように喉仏をグッと上げて、次にグイッと下に下げる嚥下動作が上手くできない状態は、逆流性食道炎が発症する原因の一つになると私は考えています。
仮に、食道の蠕動運動を呼び起こす合図が正常な嚥下動作であるとするならば、嚥下動作が正常に行えないために蠕動運動が起こらなかったり、あるいは逆転してしまう現象が起きる可能性があると思っています。
これは一つの仮説になりますが、逆流性食道炎やゲップの多発症に対して整体的なアプローチをする場合には、一番最初に着目すべき視点だと私は考えています。
この女性の場合、子宮や内臓が下がった状態になっていますが、その延長線上で喉や舌も下がっています。
内臓が下がっている→胸(胸郭)が下がっている→首前面の筋肉が下方に引っ張られている→喉や舌骨が下がって上に動かしづらい、という関係性が生じています。そして、そのために嚥下動作の最初の段階が上手くできない状況になっています。
食物を飲み込むことがスムーズにできないので、食事で疲れを感じてしまうでしょう。食欲が生じないのはうなずけます。
さらに逆流性食道炎の状態で蠕動運動が逆転しやすい状況ですので、食物を食べているわけでもないのにゲップが出たり胃酸が上がってきたりしてしまいます。
そして「ゲップが酷くなると胃酸ではなく、もっと奥の消化液みたいなものが上がってくる」というような状況になることもあるとのことです。
下がった子宮や内臓を上げるために
この女性の二つの症状:①子宮に空気がたまり膣がオナラするようになってしまうこと、②ゲップの多発症と逆流性食道炎のような状態は「子宮及び内臓が下がっている」状況を改善することで、同時に改善できる可能性があります。
子宮や膣の位置を本来の在り方の戻すことで、膣口や子宮口の締まりが良くなり外気が入ってくることを防止することができますし、内臓が上がり胸が上がることで喉や舌の動きを制限していた状況が解放されますので、嚥下動作が回復して蠕動運動が正常になると予想することができます。
これまでの経験上、内臓下垂は鼡径部の状態に関係が深いことがわかっています。内臓の多くを占める小腸は後方では骨盤、前方では鼡径靱帯を含めた鼡径部の中に収まっていますので、鼡径部が下がってしまうと下腹が出てしまうように内臓下垂状態になってしまいます。(下腹の出が気になる人は、骨盤云々よりも鼡径部の状態を気にした方が効果が高いです)
また、子宮の位置は骨盤の中で仙骨・尾骨の状態に影響されますので、仙骨・尾骨・骨盤底(会陰)というのがキーワードになります。さらに子宮自体の問題に関しては踵の内側に子宮の反射区がありますので、そこが施術対象となります。
鼡径部は足の小趾側アーチと関係が深いです。その他に骨格筋としては長内転筋の影響力が強いので、長内転筋とその連動筋を整える必要があります。この辺りのことにつきましては以下の記事を参考にされてください。
内転筋の問題が大きく影響していた
この女性は子どもの頃、踊りのバレーを習っていましたが、現在でも180°開脚ができるほど柔らかいからだをしています。
そこで気になったのが内転筋です。
私の娘は高校時代まで新体操をしていました。ですから、彼女と同じように大きく開脚することができました。新体操をやめてしばらくすると時折腰痛に襲われることがありました。そしてあのような柔らかい運動をしていたにも関わらず腰椎の前弯が失われ、仙骨が下がった状態になっていました。そのことを私は不思議に思ったので、細かく筋肉を観察してみました。すると大内転筋の一部に損傷状態があるのを発見しました。筋線維の一部が伸びきってしまったゴムのようになっていて収縮できない状態になっていました。おそらく、筋肉の能力を超えて大きな開脚を強いていたので、一部の筋線維が伸びきった状態になってしまったのでしょう。筋線維が伸びきっているので股関節の開脚は苦も無くできるようになっていますが、反面、筋肉全体としての収縮力は低下しますので、俊敏な動きやジャンプ力や姿勢を支える能力が低下してしまうでしょう。
内転筋にはいくつかの筋肉がありますが、今回問題になっているのは大内転筋と短内転筋です。
短内転筋は大きな内転筋群の深部に隠れるように存在する短い小さな筋肉です。インナーマッスルであり、骨格を支える働きが主な働きですから丈夫にできています。ですから短内転筋が損傷状態になることは通常は考えにくいことです。
おそらくバレーの練習で、筋肉にかなりの負担を強いていたのでしょう。
私は損傷状態になっている大内転筋と短内転筋を施術し始めました。すると例によって腹筋が強く収縮と弛緩を繰り返すような状況になり、加えて顎を突き出すような動きも起こり始めました。そしてしばらくの間短内転筋に手当てをしていますと「子宮が上がってくる! 喉も舌も上がってくる!」という反応が起こりました。
この女性にとっては短内転筋損傷の影響力がとても強かったようです。
バレーをやめて何年も経っていますが、今も毎日のように股関節を大きく開脚するストレッチは行っていると聞きました。そのこともあってか、短内転筋と大内転筋の損傷状態が回復できないでいるのだと思います。本人はからだのために良かれと思い、ストレッチを欠かすことなく行っているようですが、それが裏目に出てしまっているようです。ですから、しばらくは股関節の開脚ストレッチは止めるよう進言しました。
私もこの度は新たな発見をしました。子宮、内臓、喉、舌、これらに対して短内転筋が大きな影響力を持っていることを知りました。
短内転筋は小さな筋肉ですし、隠れるようにして奥まったところにありますので、普段は施術対象にはすることの少ない筋肉です。しかし今回のようなことを知りますと、これからは気に掛けていかなければならない筋肉であると認識しました。私たちの肉体には、まだまだ隠されている秘密がたくさんあるのだと思います。