耳鳴りと難聴など

 とらえどころが難しいと言いますか、原因を特定することと、症状の具合を把握することが難しい症状に耳鳴りがあります。
 本当に耳のところで耳鳴りが生じているのか、それとも頭の中で音が鳴っていて、それを聴覚がとらえているのか‥‥、なかなか判断が難しいところです。

 耳のところを手のひらでピシャッと叩く(平手打ち)とキーンと高い音の耳鳴りが数秒~数十秒間生じますが、それは明らかに耳鳴りです。ですから、その場所で発している音は単純な耳鳴りであると言えます。
 ところが慢性的な耳鳴りで悩んでいる人の場合、別の場所で音が鳴っていると感じている人が多いと思います。

 耳の器官で音を感じるのに働いている組織は大きく分けて3つあります。
 一つは外耳と中耳の境にある鼓膜です。外界の音は空気の振動として鼓膜を揺らします。その振動が音の元となります。
 二つ目は中耳です。中耳には耳小骨と呼ばれる小さな骨が3つありますが、鼓膜で感じた空気の振動を骨の振動に変えて聴覚に関係する内耳に伝える役目をしています。
 三つ目は内耳です。内耳は二つの大切な働きがあります。一つは聴覚に関係して中耳から伝わった骨振動を神経伝達のための電気信号に変える働きです。もう一つは体の平衡感覚を司るためのセンサーとしての働きです。めまいの殆どは、内耳にあります三半規管の状態に問題が起こったために生じます。

 以上の外耳~鼓膜、中耳、内耳のすべてが快調に働いていないと私たちは音を正確に感じることができませんし、耳鳴りや難聴などの問題を生じるようになってしまいます。

整体的な観点で見る耳の問題

 耳鳴りや難聴、耳の閉塞感などの症状が現れたとき、ほとんどの人は耳鼻科を受診されると思いますが、それは正しいことです。医学的検査を受けて器官に異常が見られないことを確認することは大切で、脳腫瘍が耳に関係する神経を圧迫して症状が現れていることもありますので、症状が長引くようでしたら脳神経外科で検査することも検討する必要があります。

 ところが、耳鼻科でも脳神経外科でも「特に異常が見られない」と診断されて「原因不明」という感じになったとき、その先どうすればよいかわからなくなってしまいます。耳鼻科では薬が処方されると思いますが、これまでに聞いたところでは、その効果は殆ど期待できない感じです。

 そして実際、私のところに耳に関係する問題で相談に来られる人たちは、このような人たちがほとんどです。ですから私は耳鼻科とは異なる観点で観察して対応することにしていますが、それは以下のような感じです。

  1. 骨格の歪みや筋肉の変調‥‥外耳や鼓膜に影響
  2. 耳管の開閉‥‥中耳に影響
  3. リンパの滞り‥‥内耳(めまいやふらつき、平衡感覚も関係)の働きに影響

1.骨格の歪みや筋肉の変調

 耳は外耳と中耳と内耳に分けられますが、それらは側頭骨にあります。側頭骨は顎関節の骨ですから、そしゃく、歯ぎしり、噛みしめ(食いしばり)などの生活習慣や噛み合わせ不全の影響を大いに受けます。

 歯ぎしりや食いしばりの癖を持つ人、噛みしめ状態の人は咬筋や側頭筋が強くこわばって縮んだ状態になっています。(口をスムーズに大きく開くことができない状態)
 すると側頭骨が下顎骨の方へ本来より近づいた状態に歪みます。あるいは噛み合わせが悪かったり顔が捻れたり歪んでいますと、顎関節が本来の状態とは異なってしまいますので、咬筋や側頭筋などそしゃく筋は変調した状態になります。
 どちらにせよ、側頭筋や咬筋は強くこわばったり、あるいは反対にゆるんで頼りない状態なりますが、その状況は周辺の筋肉や筋膜、あるいは耳下腺に影響をもたらします。
 すると外耳道や鼓膜が影響を受けることがすぐに考えられます。耳垢掃除のために綿棒を挿入しようしようとしてもスーッと奥まで入らない状態になります。この状態はそれだけで、耳の機能に影響を及ぼします。

2.耳管の開閉

 口の中と耳とは耳管という管で繋がっています。プールに入った後、耳に溜まった水が口や鼻の中から出てくる経験は多くの人にあると思いますが、それは耳(中耳)と口や鼻(咽頭)が繋がっていることの証しです。
 また、飛行機に乗って急上昇するときなど耳が詰まったような感覚になり、唾を飲んだり欠伸をするとそれが解消することがあります。それは急上昇によって口の中と外との気圧が合わなくなったために生じる一種の耳詰まりですが、嚥下(えんげ:飲み込む動作)や口を大きく開ける(欠伸)動作によって普段は閉じている耳管が一時的に開いて口の中と外との気圧差が解消されたという現象です。

 耳詰まりや難聴などで「耳管狭窄症」と診断される状況があります。いつも水の中に入っているような感じで、音も遠くの方でしているように感じるようです。
 耳鼻科では「耳管の炎症」を中心に考えているようで、炎症を取り除くことから治療を始めるようですが、慢性的に耳管狭窄症にはあまり効果がないようです。実際、私のところに来られる耳管狭窄症の人は数ヶ月その状態が続いている慢性症の人ばかりですから、炎症はとうに治まっているはずです。

 また、耳管狭窄症とは反対に耳管が長時間、あるいはずっと開きっぱなしになってしまった「耳管開放症」があります。普通の人は口から発する自分の声はそれほど大きく聞こえないのですが、耳管が開いているために自分の声が直接中耳に伝わるため、耳の中で大きく響くようで不快感を感じます。

 どちらも耳管の開閉に関わる問題ですが、私はヒントは嚥下と欠伸にあると考えています。これらの問題がない人は、唾を飲み込む動作の終盤に耳の内側(口側)が動いて一瞬パカッと耳管が開く感じがすると思います。ところが耳管が開かない状態になっている場合、その動作が感じられません。耳に問題を抱えている人の多くは片側だと思いますので、唾を飲んだり、ご飯を飲み込むときなど観察していただくとその違いがわかるかと思います。

 ここからは施術経験による話になりますが、正常でスムーズな嚥下動作が出来ている人は意外に少ないものです。喉が捻れていたり、左右で高さが違ったり、上下の動きが大きくできない場合があります。
 また嚥下動作というのは非常に複雑です。そしゃく筋も含めて外側・内側のたくさんの筋肉がうまく連動しあってスムーズに「飲み込む」ことができています。
 ご自分では、普通は何気なく食物を飲み込んでいますが、ようく観察すると喉の片側ばかりで飲み込んでいることが気づくかもしれません。あるいは、発声も同じで、喉の声帯の片側ばかりを使っている人などもいます。
 ですから、耳管の開閉と嚥下が関係するという観点で考えますと、スムーズな正しい嚥下ができるように整える必要があるということになります。
 ところが、これがなかなか大変な作業です。そしゃくと嚥下に直接関係する筋肉は多い上に、口の内部の筋肉には直接アプローチできませんので、いろいろなこと予想しながら調整しなければならないという施術者としては大仕事となります。

 今、来店されている人は半年ほど前に左耳の耳鳴りと閉塞感と難聴を感じるようになり、まったく聞こえなくなって4ヶ月ほど経ちます。耳鳴りも激しいようで、辛さもあってか左側の食いしばりも強く、耳だけでなく喉や首や肩もカチカチでした。最初は首肩の揉みほぐしを行っても左側は感覚すら薄くて、いくら強く揉んでも痛みをまったく感じない状態でした。毎週通っていただいて5回になりますが、ようやく首肩周りの筋肉も右側と同じよう状態になり、皮膚感覚も戻ってきました。
 最初はともかく筋肉の硬さを改善することを優先させていましたが、3回目から喉と嚥下の問題、つまり耳管の開閉について施術を行うようになりましたが、5回目になってようやく唾を飲み込んだとき左側の耳管も微かに開きそうな気配がするというようになりました。そして4回目の施術が終わって、耳鳴りが気にならなくなる時間もでき、水の中にいるような感覚も薄れ、音も微かに聞こえるようになったということでした。
 5回目の施術が終わった段階では、低音難聴の状態ではあるものの、900Hz以上の音は聞こえるようになっていましたので、このままのペースであと何回か施術すれば良くなるのではないかと思っています。

3.リンパの滞り

 「音」は空気の振動として伝わります。空気の振動は外耳道を通って鼓膜を振動させます。外耳の働きはそこで終了して中耳に繋ぎますが、中耳には耳小骨という小さな骨が3つあります。鼓膜の振動は耳小骨に伝わりますが、3つの耳小骨を伝わっている間に次の内耳に伝わる振動に変換されます。

 内耳に伝わった骨振動は、内耳で電気的な信号に変換されて神経を伝わって脳に入り、私たちが音として認識できるわけですが、そこには太古から変わることなく存在している仕組みがあります。

 生物学的に、私たちの直接的祖先である脊椎動物は海の中で誕生しました。魚が生物学的な遠い祖先となります。ですから私たちの肉体は陸上動物でありながら、水中生物の仕組みを受け継いでいます。
 私たちの感覚器官は水の中でなければ正常に機能することができない仕組みになっています。鼻は匂いを嗅ぐ器官ですが、乾いているのは鼻孔の先だけであり、鼻孔の奥から鼻腔、副鼻腔は粘膜で覆われていて水の中にいるのと同じ状態になっています。口の中も同様です。眼球も水(涙)で覆われた状態になっていないとドライアイになってしまい眼のトラブルを招いてしまいます。
 内耳の聴力に関係する器官(前庭、蝸牛)はリンパ液で満たされています。そしてその中に細い毛があります。中耳の骨を伝わってきた振動は内耳の水(リンパ液)を振動させて、その中にある細い毛を揺らす仕組みになっています。そしてその揺れによって電気が発生する仕組みになっています。

 つまり外界の音は、空気の振動として鼓膜を振動させ、それが中耳で骨振動となって内耳に伝り、内耳の水の中で電気信号を発生させて、脳神経を伝わって私たちが音として認識できる仕組みになっています。

 ですから、内耳の水の状態、つまりリンパ液の状態は聴覚に関係が深いということになります。
 リンパ液の中で揺れる毛が電気を発生させる仕組みですから、たとえばリンパ液がパンパンに満ちて、つまり内耳がむくんだ状態になっているのであれば、適切な電気信号が発生できない状態になっている可能性も考えられます。
 ちなみに、平衡感覚のセンサーである内耳の三半規管は細かい石のような物質が体勢の変化に応じてリンパ液の中で動くことで自分の状態を把握する仕組みになっていますので、やはりリンパ液の状態が芳しくないとめまいやふらつきなどの問題を生じる可能性があります。

 東洋医学的な観点では、耳と腎臓は同じ系列と言いますか、関係性がとても強いとされています。耳にトラブルがある場合は、腎臓の状態を確認する必要があると考えられています。
 腎臓は体内の水の代謝に大いに関係する器官ですから、理屈として考えるなら当然のことに思われますが、西洋医学ではこのような観点はないようです。

 リンパ液の状態を整えるためには、全身の水の代謝(流れ)を考える必要がありますが、私は鎖骨下静脈と鼡径部での血流を改善することと、手のひらと足裏の腎の反射区への施術を行うようにしています。

耳の問題にはその他多くの要因も考えられる

 私は耳鳴りにせよ、難聴にせよ、めまいやふらつきの問題であるにせよ、上記で説明したように外耳、中耳、内耳の状態を整えることで対処しています。
 これまでの経験では、脳腫瘍や脳神経的など病的状態でないかぎり、症状が酷い状態であったとしても、幾度かの施術で改善の兆しを得ることができていました。ですから耳鼻科を受診しても改善の兆しが期待できないと考えられている方は一度来店されることをお勧めします。

 しかしながら耳の諸問題、特に耳鳴りに関しましては、上記以外に原因がある場合も多々あります。
 加齢によって聴力は弱まりますが、それは自然現象と言えます。若い人たちに聞こえる高音(高い周波数)が聞こえなくなるのは普通のことですが、そのような変化に伴い耳鳴りというより高音の頭鳴りの症状が現れることもあります。
 また、ストレスによって耳の問題が生じることもあるでしょう。食生活や生活習慣による影響もあるとの話もあります。さらに太陽光線や宇宙線など自然環境からの影響も考えられます。
 ですから、整体で症状が確実に改善できるとは言いきれませんが、からだを整え、頭蓋骨の歪みを解消して筋肉の状態を整え、リンパの流れを整えることで、通常は多くの場合で耳の問題は改善することが可能です。