大切な骨盤底‥‥女性はとくに

 骨盤が開くと太る、むくむ。骨盤が不安定だと腰痛になりやすい。産後は骨盤矯正が必要だ。骨盤が歪むと全身が歪む。
 以上のような情報はよく知られていることのようです。それは正しいことなのですが、骨盤の形にばかりに注目しても、それは片手落ちになってしまいます。骨盤を正しく維持するための重要な要として骨盤底(骨盤底筋、会陰)がありますが、骨盤の形以上に骨盤底の在り方の方が重要かもしれません。

 私たちのからだの骨格の中心は骨盤ですが、そのさらに中心は仙骨の下部(仙骨尖)になります。仙骨と尾骨は接続した状態になっていますが、ちょうどその境目辺りが骨格的な中心であると私は見ています。

 骨盤底はそのところと恥骨を繋いでいる筋肉及び結合組織でできている部分ですが、そこに肛門と生殖器があります。そして肛門と生殖器の間にある部分を会陰と呼びます。(広い意味で、骨盤底全体を会陰と呼ぶこともあります)

 私たちのからだをお腹側(腹側)と背中側(背側)に分けたとき、会陰がその境目となります。(上方では上顎と下顎が境目)
 ですから、下方では会陰、上方では噛み合わせが安定していないと腹側と背側(陰と陽)のバランスが不安定になってしまう考えることができます。

 また、私たちは二足歩行の動物ですから、四つ足の動物と違って内臓を骨盤と骨盤底で支えなければなりません。
 仮に骨盤底が弱ってしまいますと内臓を支える力が乏しくなりますので、下腹部に内臓が落ちてしまう内臓下垂の状態を招いてしまいます。脱腸、膀胱炎、失禁、子宮や前立腺の問題、生殖器の問題、排便や排尿の問題、これらの問題があった場合、病院での診察や診断に加え、骨盤底の状態を確認することも必要だと思います。
 さらに消化不良や胃の問題に対しても骨盤底は関係があると思われますし、実際、関係があるようです。

骨盤底の構造と特徴

 骨盤は背骨の下部に繋がっている一組の骨格です。具体的には背骨に直接繋がっている仙骨と尾骨、そして仙骨の左右に繋がっている2つの寛骨(腸骨と恥骨)でできています。
 骨盤の上部は受け皿のような大きな凹みとなっていますが、そこで腹部の臓器(小腸や大腸)を受け止めています。そして骨盤の下部も開口した状態になっていますが、そこに肛門や生殖器があります。また、骨盤の内部には子宮や前立腺、卵巣、膀胱など骨盤内臓とよばれる器官があります。
 二足歩行である私たちは、胸腹部の臓器と骨盤内臓の重み(重力)が骨盤にドシッと掛かりますので、骨盤がその荷重に耐えられる状態になっていなければなりません。しかし骨盤の下口は開いた状態になっていますので、そこを骨の強さに匹敵するくらい丈夫な組織で塞ぐ必要があります。

 骨盤の下口を下から見ますと、骨格としては腹側に恥骨(恥骨結合)、左右に一対の坐骨(坐骨結節)、後方(背側)に尾骨(及び仙骨)があります。そしてこれら骨格を塞ぐように非常に丈夫な組織がありますが、それを骨盤底(あるいは会陰)と呼びます。

 骨盤底は尾骨筋・腸骨尾骨筋・恥骨尾骨筋などの筋肉群と丈夫な海綿体組織でできていますが、その中に肛門や生殖器があります。排尿や排便のときに働く尿道括約筋や肛門括約筋は骨盤底と密接な関係にありますので、骨盤底の状態がよろしくないと、排尿や排便に不具合や支障が生じる可能性があります。

 骨盤底の尾骨筋と肛門挙筋(腸骨尾骨筋・恥骨尾骨筋)は骨盤底の運動や弾力性を保つ働きをしていますが、骨盤底の安定を保つ意味でとても重要です。さらに臨床的には肛門尾骨靱帯も重要です。

 私たちのからだを腹側と背側に分けて観察しますと、下顎~胸(頬骨)~(腹筋)~恥骨が腹側で、上顎~後頭~背骨~仙骨・尾骨が背側となります。そして、会陰は腹側と背側の接点になりますので、からだのバランスを考える上では非常に重要です。
 たとえば何らかの理由で恥骨尾骨筋が損傷状態になり筋肉の働きが悪くなりますと恥骨(恥骨結合)と尾骨の間が間延びした状態になります。すると恥骨に繋がっている腹筋(腹直筋)がゆるんでしまいますが、それによって呼吸や内臓の働きに影響が及ぶことがあります。あるいは仙骨・尾骨の前傾が強くなり、それが背骨の在り方に影響を与えて正しい姿勢がとれなくなってしまったりします。他にもいろいろな不具合が生じますので、「常にからだがおかしい」といった状況を招きます。
 ちなみに出産時における会陰切開は恥骨尾骨筋にメスを入れて損傷状態を招きますので、出産後のいろいろな不調や不具合の原因になる可能性があります。

 座る姿勢にも寄りますが、いつも骨盤の後側に重心を乗せて、つまり骨盤を倒した状態で座っている人は背中が丸くなりますが、尾骨筋に掛かる負担が増大します。そして、それによって尾骨筋が伸びた状態になっているかもしれませんし、反対にこわばって硬くなっているかもしれません。

 以上をまとめますと、骨盤底は内臓下垂を起こさないように非常に丈夫にできていますし、からだの腹側と背側のバランスを保つために骨盤底筋は重要な役割をになっています。
 さらに、骨盤底の中心は(狭義の意味での)会陰と呼ばれますが、そこが陰・陽(腹側と背側)の接点ですから、全身のバランスを正しく保つためにはとても重要です。
 そして、骨盤底筋の状態は「座り方」と深く関係している、ということになります。

骨盤底に問題があるときの症状

座位が安定しない
 私たちの生活では椅子に座ることが多いのですが、座位が安定しないために姿勢が悪くなり、腰痛や背中の問題だけでなく猫背、肩こり、顔に力が入る、噛みしめる等々、いろいろな問題を引き寄せることがあります。
 椅子に座る場合、通常は坐骨を中心に恥骨との間で重心を微妙に前後させることで筋肉疲労を防ぐような仕組みが私たちにはあります。
 骨盤底筋は左右の坐骨と尾骨や腸骨を繋いでいますので、仮に骨盤底筋の働きが悪い状態になりますと、本来の位置よりも左右の坐骨間が広がってしまい、骨盤が潰れたような感じになってしまいます。
 あるいはこれとは反対に、骨盤を寝かせた状態(後傾)で座り続けるなどして尾骨筋がこわばって
しまいますと左右の坐骨間が本来より狭くなってしまいます。すると座面が安定しなくなりますし、骨盤の上方が開いていしまいますので、骨盤で上半身を支えきることができなくなって腰部の筋肉に負担がかかります。それは腰痛の原因になりますので、「長く座っていると腰が痛くなる」といった症状を招く可能性が高くなります。

 骨盤底筋はゆるんで働きの悪い状態になっても、こわばって硬くなっても、どちらにせよ安定した座位を保つことができなくなりますので、長く座り続けることが苦しくなります。
 時折電車の椅子にとんでもない格好で座っている人を見かけることがありますし、学校の授業などで落ち着いて椅子に座っていることができなくてそわそわしている生徒や学生を見かけることがありますが、それは単に「姿勢が悪い」ということではなく、骨盤底に問題があって「座り続けることができない」状態なのかもしれません。
 このような状態の人に、「姿勢良く座りなさい」と言ったところで、それは無理な話ですから、それよりも骨盤底を整えて骨盤がしっかり安定するようにした方が得策だと思います。

鼡径部や股関節周りに問題が生じる

・会陰切開の影響

 出産のときに「会陰切開」を行うのが普通のことであるように聞きました。つまりそれは骨盤底にメスを入れるということですが、その後の回復状態が芳しくありませんと、骨盤底の働きが戻らず何十年も問題を引きずってしまうことが多々あります。
 その問題の一つは「正しい姿勢で座ることができない」というものですが、それ以外に股関節に不具合が生じたり、鼡径部の状態が悪くなったり、鼡径部から下腹部にかけの突っ張りがとれない、違和感が生じるなどの問題をよく聞きます。

 骨盤底の中心部、つまり会陰の中心部は重要な要としてとても頑丈な構造になっています。出産時の会陰切開では、その丈夫な中心部にメスを入れますので、一時的に「会陰は要を失った」状況になってしまいます。

 切開の大きさや縫合の善し悪し、術後の経過など個人差はあると思いますが、私が知っているところでは、会陰切開を行った多くの人が大なり小なり、そのマイナス影響を後々まで引きずっています。そして時々、切開の影響を強く受けている人に出会いますが、それらの人は出産後数十年経っても問題を解決することができていません。そしてそのような場合、私が何度施術しても会陰の力がなかなか元に戻らず、その場では一時的に関連する症状が消えたとしても、時間の経過とともに症状が再発してしまう状況となっています。ですから会陰は本当に大切なところですし、その部分の損傷は「えらいことだなぁ!」と実感しています。
 
 現代の医療では筋肉や組織にメスを入れることをほとんど気にしていないようですが、筋肉の総合力や連携力といった面では、メスは必ずマイナス面をもたらします。
 メスを入れる部位が四肢など、全身に対して大きな影響力を持つところでなければ、日々セルフケアを行うことでマイナス面を打ち消すことができますが、会陰というからだの最も中心部にメスを入れますと、その影響は全身に及びます。先ほども申しましたが、会陰は全身のバランスにとても重要なところだからです。
 ですから、私は会陰切開には賛成できません。医療はもっと別の方法を考えて「よっぽどでなければ会陰切開はするべきでない」という方向に進むべきだと私は思っています。
 女性は尿道が近いので膀胱炎になりやすいというリスクを持っていますが、高齢になって筋力が衰えますと骨盤底もゆるみやすくなります。さらに会陰にマイナス要因を抱えることになりますと、尿道括約筋や肛門括約筋の働きも悪くなりやすいので失禁などの問題を抱えるリスクが高いと思います。医療はそのあたりのことまで考えて、要の部分にメスを入れることにはもっと慎重にあるべきだと思いますが、皆さんはいかが思われますか。

 また、会陰切開でなくても、恥骨や骨盤底を強く打撲するなどして会陰の一部が損傷状態になることがあります。私が子供の頃は鉄棒遊びが流行っていましたが、女子など鉄棒でお股をガツンとぶつけるなどした経験のある人は、その影響が残っているかもしれません。
 繰り返しになりますが、骨盤底はとても丈夫ですし、さらに会陰中心部は頑丈です。ですからなかなか疲弊しにくいのが骨盤底であり会陰です。ところがこういう頑丈な組織や筋肉は損傷しにくい反面、一度損傷状態になりますと回復までに時間が掛かったり、自然治癒力では完全に回復できなかったりする傾向があります。

・内転筋の働きが悪くなって股関節に不具合が生じる

 股関節に不具合が生じる原因はいくつかありますが、その中の一つに短内転筋の働きが悪い状態があります。短内転筋は股関節の奥深くにある短い筋肉ですが、股関節で骨盤に大腿骨をしっかり繋いで安定させる働きをしている筋肉であると私は見ています。
 ですから、短内転筋が疲弊したり損傷状態になりますと、大腿骨が微妙に骨盤から遠ざかった状態になりますが、それによって違和感を感じますし、下肢を運動させることが苦手になります。病院でのレントゲン撮影で股関節形成不全(臼蓋形成不全)と診断される可能性もあるようです。

 股関節のストレッチ運動を一生懸命やっている人は短内転筋を損傷する危険性があります。ストレッチは「気持ちよく伸ばす」(=伸びるところまで伸ばす)というのが大原則ですが、痛みを感じながらも「もう少し伸ばそう」などとやっていますと、筋線維の幾つかが切れた状態になって損傷することがあります。あるいは筋肉が伸びきったゴムのような状態になってしまい収縮力を失う状態になってしまいます。すると、外見的には股関節に柔軟性が増して開脚が大きくなり満足感を得られるかもしれませんが、それは単に筋肉が伸びきった状態になっているということですから、股関節に力がなくなり、他の動作に支障をきたすようになります。そして、実際、そのような人は多いのです。
 このような場合は、伸びたり損傷してしまった短内転筋を丁寧に回復させるようにしなければなりませんが、これまでの経験では、時間はかかるものの回復は可能ですから、仮に股関節形成不全(臼蓋形成不全)と診断され股関節の手術を考えなければならない状態であったとしても、普通の状態に戻すことはできます。

 ただし、今回のテーマである骨盤底の問題でも短内転筋の働きが悪くなるケースがありまして、その場合は骨盤底の状態を改善することがメインになります。
 骨盤底の筋肉と短内転筋に連動性があるので、そのような状態になってしまうのか、あるいは骨盤底の問題で恥骨がずれ、それが影響して短内転筋の働きが悪くなるのか、そのあたりは場所が場所だけに細かく観察することができませんのでわかりません。しかし、現象として骨盤底に問題がある場合は、短内転筋の働きが悪くなって股関節に違和感や不具合を生じる場合もある、ということはできます。(骨盤底に問題がある場合は必ず股関節がおかしくなると言うことではありません)

骨盤底への施術

 男女の別なく、骨盤底への施術は場所的にやりにくいところです。しかし、抱えている問題を根本的に解決するために骨盤底への施術が必要だと思われる場合は、私は実際に手当てをするように行っています。
 事務作業を行っている人は長時間座り続けていますので、骨盤底が硬くなったりゆるんだりする傾向がありますが、それによって腹筋が変調し、顔が下がったり頭蓋骨が歪んだりすることもあります。また、舌の位置と骨盤底は密接に関係しますが、頭部や喉や舌を整える時に骨盤底を施術する
といったイメージは一般の人にはもてないと思います。そのような場合は、改めて説明し、理解を得られてから骨盤底を施術するようにしています。
 
 損傷や疲弊の程度にもよりますが、骨盤底を施術で回復させるのは時間がかかります。肩こりを揉みほぐすような具合にはいきません。しかし、今のところ直接手当てして回復を促すしか方法がありませんが、何度か施術してうちに必ずや回復の時がやってきて、何十年も抱えていた問題が解決するようになります。
 もし、私のところで骨盤底を改善しようとするのであれば、ある程度時間がかかることを承知の上で来店いただければと思います。


 骨盤底の問題について、関連で生じる不調や不具合について少し取り上げてきましたが、骨盤底は内臓下垂も含めて胃腸の働きにも関係があると思われますので、生理活動も含めたいろいろな不調にも関係してくると思われます。また、からだの陰陽のバランスという面でも会陰の在り方は重要ですから、私たちはもっと気を使って考えなければならないところであると思います。
 そして実際に、骨盤底の問題が根本原因でからだの不調が改善されない人はたくさんいると思われます。

 最後に、私の知人女性の件をお話ししたいと思います。
 彼女はまだ30歳代前半ですが、すでに4人のお子さんを出産されています。そして驚くことに、3人目と4人目は自宅で、誰にも頼まずご夫婦だけで出産を行いました。4人目のお子さんを連れて会いましたが、まだは生後3ヶ月で、とても元気で可愛い女の子でした。この現代で、病院にまったく頼らず、助産師にも頼らず、出産するなど考えられないことですが、若い彼女はそれを選択しました。
 その理由は、二人目の出産の時、医師が勝手に会陰切開を行ってしまったようですが、予後が悪く、股関節が不調になってしまいました。ヨガをやったりストレッチをしたり、いろいろやってみたものの股関節の状態は回復せず、それを会陰切開を行った医師に言っても「切開のキズはまったく
問題ない」と相手にしてくれなかったそうです。ですから、医師や病院に対する不信感が強くなり、自らの力だけで出産すること決心したようです。
 3人目の出産が無事に済んで、会陰切開する必要もなく出産できることがわかったので、彼女は4人目も当然のように自宅で自力で出産することを選択しました。「野球チームができるくらい子供が欲しい」と冗談で言っていましたので、まだ何人かは出産されるのかもしれませんが、一言「すごいなぁ」と思います。

 前述しましたが、会陰切開が既定路線のようになっている今日、この彼女のケースを見ますと会陰切開が必ずしも必要でないケースもあると思います。
 分娩の時間を短くしたい、という医師や看護師側の都合は理解できるところもありますが、会陰切開することによって長年不調を抱え続けている人を知ってしまうと、医療の在り方、医師や看護師の使命や倫理観の再認識をお願いしたいと思います。