腰痛を改善するために 腹横筋を整える

 たとえばギックリ腰など急性腰痛になってしまった場合、腰痛ベルトを装着することで痛みを軽減することができます。腰痛ベルトで骨盤を締め付けて安定させることで、腰部の力を上手く使うことができる状態になるからです。
 ですから、腰痛を軽減するために必要なことの一つは”骨盤の安定”ということになります。

 さて、引っ越し作業を行うプロの方々は腰部が悪いわけでもないのに、腰痛予防のために作業時ベルトを装着することがあります。重たい物を持ち上げながら運ぶためには下腹部に力を入れる必要がありますが、作業の姿勢によっては異常に強い力を下腹部に入れなければならない瞬間があります。そして、その力(=腹圧)に下腹部の筋肉(腹筋や腰部筋肉)が耐えられなくなりますと筋肉を損傷してしまいギックリ腰になってしまう可能性が生じますので、腰痛ベルトで保護することで強い腹圧にも耐えられる状態にするためです。
 お相撲さんがしている廻し(相撲褌)も強い腹圧から筋肉や骨盤を保護するためのものだと考えられますし、夏祭りで神輿(みこし)を担ぐ人たちが褌姿になるのも、そういった意味が含まれているからだと思われます。

相撲取りの廻し

腹横筋(ふくおうきん)

 私たちのからだにも、生まれながらに備わっている腰痛ベルトや廻しに相当する筋肉があります。下腹部の腹圧に耐えたり、あるいは腹圧を築いて保ったりする働きをしていますが、その筋肉を腹横筋と呼んでいます。

 一般の人は「腹筋」と言いますと、まずお腹の中央を縦に走っていて、四角い固まり(腱画)が並んでいる腹直筋をイメージされると思いますが、腹筋には四つの種類があります。
 表層から腹部中央を縦に走行する腹直筋、次に腹部を斜めに交叉して走行している外腹斜筋と内腹斜筋、そして最深部にあって腹部を横に走行している腹横筋です。
 腹横筋の筋線維は腹部を横に走っていますので、腰痛ベルトや廻しと同じ役割をしていると大雑把に言うことができます。
 中年になりますと多くの人がお腹が大きくなってしまうのが常ですが、それは贅肉や脂肪がついてしまったという理由の他に腹横筋の働きが鈍くなって腹部や骨盤を引き締める力が弱まってしまったという理由もあります。

腹筋の帯

 さて学問的(書物)には、腹横筋の主な働きは「腹圧を高めたり、腰椎の安定性を保つのに関与している」とあります。その他の腹筋は上半身の動作に大きく関与しますが、腹横筋は動作よりも「腹圧と安定を保つ」がキーワードになります。
 たとえば排便時、少し便秘気味でイキまないと便が出てこないときなど下腹部に力をいれますが、それは腹横筋を収縮させて腹圧を高めている状況です。ですから、腹横筋の状態が悪く上手く収縮できない場合、「なかなか便が出てこない」、あるいは「スッキリ最後まで出てくれない」といった状況になりやすい可能性があります。
 施術者としては、便通に対しては腹横筋の状態を確認することは大切なチェックポイントになります。

腹横筋と腰痛

 また、腹横筋がしっかりしていないと、腰椎が不安定になりますので腰痛を患う可能性がでてきます。
 私たちのからだの筋肉システムには「補完し合う」という仕組みがあります。皆さんがしばしば語る言葉に「(右足を)かばって歩いていたから、反対(左)の足がおかしくなってしまった」というようなのがありますが、私たちのからだは自然とそのようになってしまう仕組みになっています。(ですから、悪い右足を改善する施術においては、必ず左足も整えなければならない理屈になります。)

 腹筋でこの仕組みを当てはめますと、腹横筋の働きが悪いときには、本来は「腰椎の安定性」にはほとんど関与していない外腹斜筋や内腹斜筋が腹横筋を補うように自分の仕事以外の仕事も引き受けることになります。つまり、現実には、それらの筋肉が硬くこわばってしまうようになりますので、お腹の筋肉がカチカチの状態になってしまうかもしれません。
 あるいは背中側で考えますと、腹横筋がしっかりしていて腰椎が安定しているからこそ自分の仕事に専念していることができた脊柱起立筋や腰方形筋が、腹横筋に替わって腰椎を安定させる仕事もしなければならなくなるため、腰部がカチカチになって腰痛になってしまうことも十分に考えることができます。

 ところで腰痛には幾つかのパターンがあります。
 ギックリ腰など急性腰痛の場合は、ケガやそれに近いアクシデントのために、骨盤中心部や腰部の筋肉が上手く収縮できなくなってしまうために「力が入らない腰痛」となります。布団から起き上がる時、椅子から立ち上がる時など腰部や下半身に力が入らなくなりますので、腕の力を使って動作をするのが特徴的です。
 整形外科が得手としている椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などは、神経に由来する痛みやシビレが特徴的です。坐骨神経が圧迫されて強い神経痛を感じますので、神経ブロック注射などで痛みを緩和する方向の治療となります。
 最も多い腰痛は、筋肉が硬くこわばってしまい伸びなくなってしまう状況です。上半身を前傾したり、靴下を履こうとしてからだを丸めようとしても、腰部やお尻の筋肉が伸びてくれないので動作ができず、無理してやろうとすると「イタタタタッ」となってしまいます。
 そして、腹横筋の働きが悪い状況では、この三番目のパターンになります。前述しましたが、体幹を支えるコルセットのような働きをする腹横筋の働きが鈍くなってしまうので、その他の筋肉を収縮させ硬くして体幹を支えるようになります。ですから、腰部の脊柱起立筋や腰方形筋、外腹斜筋や内腹斜筋などの腹筋がこわばって伸びなくなりますので、腰痛や場合によっては腹痛を感じるようになります。(外腹斜筋や内腹斜筋は背中側までありますので腰痛にもなります)

 施術者としての観点では、腰痛の場合、最初に骨盤の状況を確認しますが、次には腹横筋の状態を確認します。腹横筋の働きが悪くて腰痛や背中のハリ感や不快感を感じている人は意外に多いものです。

腹横筋の働きが悪くなる理由

 私の施術は「筋肉の連動」という仕組みを利用して、観察をしながら施術を行っていますので「連動関係にある筋肉がどれなのか?」が重要なポイントになります。
 腹横筋の筋連動に関しては、現在まだ調べている最中ですが、目を動かす筋肉と連動関係にあることは分かっています。そして踵の底の筋膜、舌骨~肩甲骨に繋がっている肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)と連動関係にあることも分かりました。

眼球を動かす筋肉(外眼筋)との連動
 たとえば、食事をしながらテレビを見る習慣がある場合、テレビが正面にあるなら問題はありませんが、食卓の座席の関係でいつも右を向きながらテレビを見ている場合など、目を動かす筋肉は眼球が右側を向くように偏った状態になっています。すると腹横筋もそのように連動しますので、右側の腹横筋がこわばり左側の腹横筋が伸びた状態になっています。当然上半身(胸郭など)もそのように捻れ歪んでいます。

足底の踵の筋膜との関係
 立った時に踵重心の人はたくさんいますが、そのような人は歩行の時など自然と踵を強く地面に着くようになってしまいます。すると足底の踵の部分が硬くなりますが、それによって腹横筋がゆるんでしまいます。踵のこの部分は学問的に筋肉の名前がついていませんので、筋膜と表現するしかありませんが、骨に接するほど深い部分は相当にこわばっています。
 おそらく皆さんがご自分のちからでこの部分を指圧したり、あるいはツボ押し棒などで押したとしてもたいして痛みを感じないと思います。それくらいこの部分は頑丈です。ところが、そこをしつこくしつこく骨に当たる程度までゆるめていきますと、コリッとした固まりを見つけることができます。そして、それをほぐし始めますとかなりの痛みを感じるようになりますが、そのコリッとした部分が腹横筋と関係しています。

 私は素手で施術をするのが基本ですから、手指の力でこの手強い踵の底をほぐしていきます。それはかなりの重労働ですが、多くの場合、そうすることでゆるんで働きの悪かった腹横筋がその能力を発揮するようになります。ちょっと不思議ですが、ウエストが(間延びして)失われたような人にもウエストが出現するようになることもあります。
 そして腹横筋の働きが戻りますと、背中やお腹のこわばっていた筋肉もゆるみますので、腰部や腹部が全体的にリラックスした状態になります。

肩甲舌骨筋との関係性
 とてもマイナーな筋肉ですが、ノド元の舌骨と肩甲骨を繋いでいる肩甲舌骨筋があります。おそらく殆どのセラピストは無視している筋肉だと思われます。

 以前に声優の方が来店され、発声が思うようにできなくなってしまったということで、いろいろ調べたときに私はこの筋肉の役割を知りました。声楽家など喉の動きを大切にされる人にとっては重要な筋肉です。
 肩甲舌骨筋の状態を確認する一つの方法は、首を横に倒す動作を行ってもらうテストです。筋肉の状態が良ければ、しっかりと首を横に倒すことができます。意志が首の根元にしっかり伝わる感覚があります。筋肉の状態が悪い状態では、首が途中までしか倒れませんし、自分の意志で倒しているのか、ただ倒れているのかよくわからない感覚となります。そして、無理して倒そうとすると肩(肩甲骨)を上げて首に近づけるような状態になってしまいます。

 肩甲舌骨筋の働きが悪くなる理由としては、横ムチウチのように首が横方向に強く引っ張られて損傷していることが考えられます。あるいは噛み合わせが合わない、噛みしめる癖があるなどの理由で舌骨の位置が歪んでいる可能性もかんがえられます。さらに、肩甲骨が何らかの理由で首に近づいている場合も働きが悪くなります。
 そして、それが本当の連動性かどうかはまだ定かではありませんが、肩甲舌骨筋と腹横筋は結果的に密接に関係しています。
 ですから、目安の一つとして、首をしっかり横に倒すことが出来ない人は、腹横筋の状態も芳しくなく、胸郭がぐらぐらして腰痛を感じている可能性が高いということになります。

体幹がしっかりするとリラックスできる

 すでに申しましたが、体幹をしっかりすることはリラックスして楽に暮らす意味で重要です。
 私たちは二足歩行で、立って歩いたりいろいろな作業をすることが可能になっていますので、腹部には骨格がありません。骨格としては背骨だけで上半身と下半身を繋いでいる状態です。ですから他の四足動物などに比べますと、とても不安定な骨格であると言えます。
 この骨格的不安定さにおいて体幹をしっかりさせるためには、多くの人がしっているようにインナーマッスルが重要な働きをになっていますが、要になるのは腹横筋だと私は思っています。
 腹横筋がしっかり働ける状態になっていれば体幹がしっかりします。すると他の筋肉は力を抜くことが容易にできるようになります。つまり顔や肩などに力を入れなくてもからだを保っていることが出来るようになります。つまり、リラックスして暮らしていけるようになります。
 そのように腹横筋を考えていただければと思います。

 私はピラティスとか加圧トレーニングだとかの内容を知りません。おそらく腹横筋を鍛えるようなメニューもあるのだろうと思います。ところが、いつも言っていますが、筋肉を強くすること、筋力をアップすることも大切ですが、それ以上に筋肉がしっかり働ける状態になることの方がより重要です。筋力があっても、その筋肉が生活の中で上手く作動しない状況であるならば、「宝の持ち腐れ」状態です。
 まず、踵重心を改めるようにしていただきたいと思います。しかしながらご自分が踵重心かどうか判断することも難しいですし、踵重心だった場合、どう整えれば良いかも普通の人は解らないと思います。
 踵重心の人は、ふくらはぎが張りますし、膝裏も硬くなります。両脚で突っ立って立っている場合は、大概踵重心です。
 下記の投稿を参考にしてください。

  ふくらはぎと膝裏のハリ‥‥かかと重心

 そして、改善するためのセルフケアは人それぞれですから、一度ご来店いただければと思います。