2012.07.13
痛みについて(整体的な観点から)

 指先に針を刺したり、転んだりして打撲をすると痛みを感じるわけですが、そういう意味では“痛み”は体が危険な状態になりつつあることを意識(脳)に知らせるための信号であるということができます。さらに頭痛・腰痛・膝痛などの痛みは、体の部位に異常があるので、それ以上無理をしないように知らせるための体が持つ防御機能でもあると考えることもできます。

 整形外科などでは痛みがあれば痛み止めの注射や薬で対処するというのが治療方法とされているようですが、整体的な考え方からすれば、それはあくまで一時的な対処方法であり痛みの原因を改善していることとは違うように思います。
 腰痛・頭痛・関節痛など筋肉・骨格系の痛みはどうしてもたらされるのか、そしてどうすれば痛みの原因が改善されるのか、そのことについて今回は考えてみたいと思います。

 筋肉・骨格系のよくある痛みの主な原因
    @こわばり‥‥縮もうとしている筋肉を引き伸ばそうとすると痛む
    A骨格や関節に歪みがあると、筋肉・筋膜に無理がかかり痛みを発する
    B筋肉が力を発揮できない状態の時、重力や負荷がかかると痛む
    C炎症すると痛みを伴う

@こわばり‥‥縮もうとしている筋肉を引き伸ばそうとすると痛む
 腰痛や膝痛、肩関節痛など筋肉骨格系の痛みで一番多いのは、筋肉や筋膜がこわばっていて動かしづらい(伸ばせない)ことからくるものです。
 私たちの体の筋肉には、胃や腸や心臓など私たちの意志には関係なく自動的に(自律神経の支配によって)働いている内臓平滑筋と意志によって動かすことのできる骨格筋があります。骨格筋が健全な状態であれば、歩いたり座ったり、手先を使ったり、口を動かしたりすることが私たちの思いのままに無理なく行うことができます。それは筋肉の働きという観点で見れば、筋肉を伸ばしたり(弛緩伸張)縮めたり(収縮)することが何の抵抗もなく行えるということに他なりません。ところが“膝を曲げると痛む”などのときは、筋肉が伸ばせない状態にあるのに伸ばそうとするから痛みを感じてしまう、ということであると言えます。
 朝起きた時に“手がこわばって動かしにくい”ということは誰もが経験することかもしれませんが、この“こわばった状態”は筋肉が「伸びたくない、縮んでいたい」と言っている状態であると考えてもよいでしょう。顔を洗ったり食事の支度をしたりしながら少し時間が経って血液の巡りが良くなると、手のこわばりは自然と解消していきますが、これは血液循環が良くなったことで筋肉のこわばりがほぐれ普通の状態に戻ったということです。

 筋肉は引っ張られると縮みたがる性質を持っています。例えばストレッチ運動をする時、その時の筋肉の能力の範囲内であれば“心地良く”筋肉を伸ばすことができます。しかし、本来の自分はもっと伸ばせるはずだとか、あるいは限界を超えて伸ばそうとしますと痛みを感じるようになります。これは筋肉が能力以上に引っ張られたので縮みたがっているという合図であり、それ以上無理して欲しくないという信号でもあります。
 筋肉は能力以上に伸ばされると縮む方向に力が働くという性質があります。そして収縮することばかりを繰り返されると、つまり使いすぎると硬くなり伸びにくくなってしまうという性質もあります。その他にも伸びなくなってしまう状況がありますが、これらの状態を“こわばった”状態と呼んでいます。
 筋肉がこわばった状態は、縮む方向に力が働いている状態ですので、このときに伸ばす方向に力を加えると痛みを感じることになります。
 押すと痛い、触ると痛い、体を伸ばすと痛い、関節を曲げると痛い、手を握ると痛い‥‥。これらはみな多くの場合、筋肉がこわばった状態であり、うまく伸びることができないことから来るものと言えます。

 今はパソコンや携帯電話、携帯ゲームなどで多くの人が指先をたくさん使っています。ですから手や指先の筋肉がこわばっている人がたくさんいます。筋肉は連動するという特徴を持っていますので手の筋肉にこわばりがあれば、それは腕や背中や腰、足まで全身に連動し、それぞれの部位にこわばりが発生します。「その腰痛の主な原因は手先の使いすぎです」ということはよくあることです。
ストレッチ運動はくれぐれも無理をしないように
 ストレッチ運動で大切なことの一つは呼吸に合わせて行うことです。筋肉は息を吸う時に縮む方向に力が作用し、息を吐く時に伸びやすくなるという性質を持っているからです。ですから、ゆっくりと息を吐きながら、そのリズムに合わせて筋肉を伸ばすようにすることが心地良いストレッチ運動の要になります。
 さらにもう一つとても大切なことがあります。それは痛みや不快感を感じたら絶対にそれ以上無理して伸ばそうとしないことです。これは多くの人が本当に誤解している注意点です。
 痛みを感じたり不快感を覚えたりするのは、それ以上伸ばされたくないという筋肉からの合図です。この合図を無視してさらに伸ばそうとすると筋肉自体は縮む方向にさらに力をかける反応をとります。つまり、一方で伸ばそうとして引っ張り、他方で縮もうとして頑張る力がぶつかることになりますので、筋繊維を傷めてしまうことにつながる可能性があります。ますます筋肉がこわばる結果を招いてしまいます。

A骨格や関節に歪みがあると、筋肉・筋膜に無理がかかり痛みを発する
 例えば「腰痛の原因は脚の長さが左右で違うからだ」というのはよく耳にする文言ですが、一般的に脚の長さが違うというのは、実際には、股関節で骨盤と太ももの骨の関係が右と左とでは違うということです。右脚の方が長いのであれば、右脚と骨盤の間が左より離れているということです。あるいは左脚と骨盤の間が狭くなっているということです。
 仮に右脚と骨盤との間が健全な場合より離れているとします。すると太ももの骨(大腿骨)を骨盤につないでいる筋肉は常に引っ張られている状態になります。筋肉は引っ張られますと縮もうとする方向に力が入りますので、つまり“こわばり”ますので痛みを発する原因となります。

 肩関節の痛み(五十肩)も膝の痛みもその他の痛みも、関節における痛みは、多くの場合がこの状態です。関節で骨と骨との関係が正常でないため、常に引っ張られた状態(こわばり)の筋肉が存在することになり、その筋肉が伸びないため痛みを感じてしまうということです。あるいは常に縮む方向に力がかかり続けているのでじっとしていても痛いということになります。「寝ているだけでも関節がジンジン痛む」というのはこういう状態です。

 誤解している人がたくさんいますが“痛みをこらえて運動を続けていれば良くなる”、“肩を回すとゴリゴリいうが、続けていればそのうちいわなくなって良くなる”というのは間違いです。私たちのからだはロボットや機械ではありませんので、油が切れて関節が動かしにくくなっているわけではありません。関節に捻れが生じていて、こわばっている筋肉があるので動かしづらく痛みを伴うのです。
 
B筋肉が力を発揮できない状態の時、重力や負荷がかかると痛む
 例えば膝痛の場合、「正座することも膝をよく伸ばすこともなんの痛みを感じることなくできるが、歩くと膝が痛くなる」という人がいます。あるいは、普段はなんともないが、走り出すと腰が痛くなるという人もいます。こういう場合、膝関節がおかしいとか腰が悪いと思われるかもしれませんが、症状をもたらす根本的な原因はそうではありません。
 立ったり歩いたりするときに主に使われる筋肉があります。その筋肉がしっかりしていれば、立つことも歩くことも苦になることはありません。ところが、その筋肉が筋力を十分に発揮できる状態にないとき、つまりその筋肉があまり役に立たないとき、他の筋肉が代わって立ったり歩いたりする動作を行うことになります。するとそれは体の機能を歪ませることにつながりますので、その負担が膝にきたり腰にきたりして痛みを発するようになります。

 筋肉が力を発揮するとは筋肉が収縮することです。筋力とは収縮する力の強さであると言えます。ですから筋肉が筋力を発揮できない状態とは、うまく収縮することができない状態ということであり、筋肉のなかに(ゆる)みっぱなしの部分が存在しているということです。筋力が発揮できないなら筋力トレーニングが必要ではないかと連想する人がほとんどですが、筋力をアップすることが必要なのではなく、筋力を発揮できる状態にすることが必要なのです。その方法の一つは休養で、自然治癒力にゆだねることですし、その他には文字通り“手当て”です。(その他にも方法はあるます。)
 例えばギックリ腰の場合、その多くは背骨や骨盤の関節付近の筋肉か筋膜が捻挫や肉離れや創傷など損傷を受けたものですが、炎症がおさまればじっとしているときの痛みは軽減します。ところがいざ起き上がろうとしたり、歩こうとすると、体に全然力が入らなくて動くことが痛くてできなくなってしまいます。これは損傷を受けたところが筋力を発揮できないので動作ができなくなってしまったということです。(腰部は体の中心なので、ギックリ腰では体全体に力が入らなくなってしまいます。)
 
 「階段を昇ることは平気だが降りるとき膝や腰が痛む」「普段は動かしても痛くないが物をつかもうとすると腕や肩が痛む」「ペットボトルのキャップを開けようとすると痛む」などというのは、筋力が発揮できない状態で頑張ろうとするので他の筋肉に負担がかかって痛みを伴うということです。
 
 筋力が発揮できな状態を「ゆるみ過ぎ」の状態と呼んでいますが、一つの筋肉はたくさんの筋繊維が寄り集まってできていますので、同じ筋肉の中にこのゆるみ過ぎの部分あれば、@のこわばりの部分もあります。「こわばり」「ゆるみ過ぎ」のどちらにせよ、許容能力を超えて存在しますと筋肉全体としてバランスを失い骨格や運動に影響を及ぼすことになります。

C炎症すると痛みを伴う
 骨折や捻挫あるいは転んだりして打撲をしますとその部分が腫れて痛みを伴いますが、それは主に炎症が原因だと考えることができます。
 骨折・捻挫・打撲などは、骨・靱帯(じんたい)・筋肉・筋膜などがダメージで損傷した状態のことですが、すると体の治癒力が発動し損傷を受けた部分に血液やリンパが一気に集まってきます。それによって赤くなり熱を発するようになります。これを炎症反応と呼びますが、損傷を受けたところの組織はこわばり、熱と痛みを発するようになります。
 炎症は体が一生懸命になって傷を修復しようとするありがたい反応なのですが、傾向として必要以上に機能を活発にさせるという傾向があるようです。
 こんな時はまず冷やすことが大切です。そしてしばらく安静を保つことも大切です。損傷が強いと数日間炎症が続くこともあります。ですから冷湿布などで発熱を緩和し、炎症が進行しないようにすることをまず心がける必要があります。
 炎症は痛みを伴いますので、痛み止めや抗炎症剤などの薬剤は有効な方法であると言えます。

 ギックリ腰をした後などお風呂で温まると一時的にこわばりが和らぎますので楽になりますが、その後が大変になります。温めてしまったために炎症が進んでしまうのです。ですから炎症をともなう損傷を受けた後は、血流を活発にさせるような入浴・アルコール・運動などは控えなければなりません。

ゆめとわでの対応
 ここで「こわばり」「ゆるみ過ぎ」と呼んでいる筋肉・筋膜の変調状態は一般の人にはなかなか把握できないものです。しかし筋肉や骨格を整えるという整体手法においては非常に大切な指針となるものです。
 私たちは自分の意志を、脳から出発する神経の信号に変えて筋肉(骨格筋)に働きかけ、手先を動かしたり、歩いたり立ったりという全身の運動を行っています。運動を行うということは筋肉が伸びたり(弛緩伸張)縮んだり(収縮)して骨格を動かすことですが、このとき筋肉の中に「こわばり」の部分がありますと、伸ばそうと思っても伸ばせなないところができてしまいます。また「ゆるみ過ぎ」の部分がありますと、筋肉をうまく収縮させることがでくなってしまいます。

 例えば膝痛の場合、「曲げると痛い」あるいは「伸ばすことができない」というのは「こわばり」が原因と考えられますが、「歩き出すと痛くなる」「階段を降りる時が痛い」などと重力や負荷がかかった時に痛くなるのは「ゆるみ過ぎ」が原因と考えられます。足裏の筋肉がゆるんでいる可能性が高いです。
 このように痛みを誘発している根本原因の場所を特定すること、そして原因となる筋肉・筋膜の変調を正しく判断することが、早期解決のカギだと考えています。

 「こわばった」筋肉が原因の場合は比較的短時間に調整することが可能です。「ゆるみ過ぎ」の筋肉が原因の場合は、ダメージの程度により時間がかかる場合もあります。数十年前の捻挫といえども「ゆるみ過ぎ」の部分が残ったままであれば、必ず体の機能に影響をもたらしています。
 痛みという症状をもたらしている根本原因を的確に見つけ、その原因を適切に解消することが大切です。

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