2011.08.22
噛み合わせの大切さについて

 「整体」と「噛み合わせ」とは違うジャンルのものとして考える人がほとんどかもしれません。「噛み合わせは」歯科や口腔科の領域であると一般には考えられていると思いますし、噛み合わせの矯正にはマウスピースや歯列矯正というイメージを持たれるのかもしれません。
 しかしながら、今回噛み合わせの問題を取り上げましたのは、私たちの体にとって、噛み合わせが正しいか正しくないかはとても重要な問題であると考えているからです。そして噛み合わせを根本的に矯正するには、体全体を整える必要があることをお知らせしたかったからです。

 これまでもよく噛むことでそしゃく筋をしっかりさせることの大切さについては何度か取り上げてきました。そしゃく筋をしっかりさせること、それが整体的には本当に大切なことだと考えています。ところが、噛み合わせに問題があると、しっかりそしゃく筋を働かせて噛むことができません。ですから、今回は正しい噛み合わせについて考えてみます。
 噛み合わせの大切さ
    @大切な「噛み合わせ」はどこの歯のことか
    A腹側と背側、陰と陽の接点として大切な正しい噛み合わせ
    B噛むことが心地良く感じられるのが正しい噛み合わせ
    C体を矯正する第一歩は正しい噛み合わせから

@「噛み合わせ」ってどこの歯? 前歯? 奥歯?
 
前歯の噛み合わせ(咬合)がずれていると見た目もよくありませんし、空気も漏れやすいので言葉を話すことが苦手になってしまいます。
 ところが今回取り上げたいのは奥歯の噛み合わせについてです。本来のあり方として私たちは奥歯の臼歯(きゅうし)でそしゃくするようにできています。ですから奥歯の噛み合わせが合わなければ、そしゃくを正しく行うことはできません。
 噛み合わせが合わないというのは、たとえば右の奥歯はしかっり噛み合わせることができるが左側は浮いてしまうとか、あるいは右の奥歯が先に着地してしまい左右で時間差があるなどです。抜歯をしたまま放っておきますと歯は動いてしまいますが、そういうことで奥歯が噛み合わなくなるという場合もあります。これはちょっとやっかいですね。
 奥歯の噛み合わせが合わないと、奥歯を使ったそしゃくがやりづらくなります。すると前の方の歯を使って噛むようになります。そしゃく筋の大切さについては他の項目で説明していますが、奥歯ではなく前方の歯を使って食物を噛んでいますと、しっかりしてほしいそしゃく筋ではなく、頬の筋肉が使われるようになります。頬の筋肉がこわばりますと、それはそれで弊害を引き起こします。
 おしゃべりをしながら食べていますと、知らず知らずのうちに奥歯ではなく前方の歯をつかって噛んでしまいます。そういう癖のある人にとっては、奥歯の噛み合わせが合っているかどうかはあまり気にならないことです。ところが正しいそしゃくをしようと試みますと、奥歯の噛み合わせの合っていない人は奥歯でしっかり噛むことができません。奥歯の噛み合わせがとても大切だと考えています。


A腹側と背側、陰と陽の接点として大切な正しい噛み合わせ

 上の図は以前にも用いましたが、上顎から上の頭部は背中側に属し、下顎はお腹側に属しているということを表しています。東洋医学的に言いますと、お腹側は「(いん)」であり、背中側は「(よう)」となります。ですから噛み合わせの接点となる上顎と下顎は「単なる噛み合わせの場所」と捉えるのではなく「腹側と背側つまり陰と陽の接するところ」であると考えていただきたいのです。
 そう考えますと、噛み合わせが正しいかどうかは、全身の陰陽のバランスに影響を与える可能性があると言うことができます。実際に皮膚の下の筋膜レベルでは、噛み合わせが合っているか合っていないかで状態が大きく異なることが確認できます。
 噛み合わせが正しく陰陽のバランスが整っていますと、筋肉は筋力を十分に発揮することができます。ということは内臓も筋肉ですから、内臓の働きも良くなると言うことができます。



B噛み合わせを整えると、噛むことが心地良くなる
 口の中に何もものを入れない状態で、上下の歯をコツコツと音を立てるように噛む動作をしてみてください。噛み合わせが合っていると音が一つとなって心地良く響くと思います。そして奥歯が適度に刺激され心地良い感じがすると思います。どちらかの奥歯が浮いていたりずれていたりするとしっかり噛むことができないので、そういう心地よさは感じられません。音もなんとなく一つではなく二つに聞こえたりします。この状態で長い時間(30秒程度)カチカチしていると疲れてきて不快感を感じます。

 これは噛み合わせのことだけでなく全身の筋肉がそうなのですが、バランスが整っていると筋肉を使うことは心地良いことと感じ、バランスが崩れていると筋肉を使うことは不快であり、疲れることと感じます。
 不快感や痛みを感じながらも仕事などのため働き続け筋肉を使い続けていますと、体はその状態の中でバランスを合わせようと変化します。
 例えば、背骨が左側に曲がっていてそのままでは脳が平衡を保つことができないとき、自然と首を右に曲げて頭蓋骨が傾かないようにするわけですが、そのような感じです。そしてこのような状態が長く続きますと体の歪みが固定化してしまいます。
 食事の際、首を傾けながら噛んでいる人は少なからずいます。首が斜めになっていると上下の顎を垂直に噛み合わせることはできません。傾いている方の奥歯に力がはいり、反対側で強く噛むことはできなくなります。このような噛み合わせは心地良い状態ではありません。



C体を矯正する第一歩は正しい噛み合わせから
 噛み合わせを調整し、左右の奥歯がほぼ均等に力が入り、顎を垂直に使うことができるようになりますと、体に伝わる力が真っ直ぐになります。力が加わる方向性によって形が変化するという力学的な観点からも噛み合わせは体を修正するためにとても大切な要素であると考えることができます。
 体は腹側である陰と背側である陽がそれぞれの境界でつながっているわけですが、それらを意図的にコントロールすることは困難です。陰と陽がしっかりつながっていてほしいのですが、例えば上の指の写真で、境界線のところの皮膚や筋膜がしっかりしていてほしいのですが、噛み合わせが合っていないと、しっかりさせることができません。
 噛み合わせがしっかりすれば陰と陽のバランスを整えることが容易になります。体の陰陽のバランスが整いますと、体内のエネルギー(血液やリンパも含む)の流れがスムーズになり体は力強くなります。重力に対して容易に打ち克つことができるため背筋が伸びてきます。こういうことは科学的データとして把握されているかどうかは知りませんが、臨床的には明らかな現実として見てとることができます。
 「噛み合わせ」は体の陰陽のバランスを整える最も簡単な方法であると考えていただきたいと思います。体の中のエネルギーの流れが停滞したなと思ったら、正しい噛み合わせで何回かコツンコツンと奥歯を合わせてみてください。停滞していたものが流れだし脳の回転が速まったり、モヤモヤしていたものが改善したりいろいろ変化が生じると思います。
  

ゆめとわでの対応
 心地良い噛み合わせを実現するのは、体の歪みの大きい人にとっては難しいのが実際のところです。正しい噛み合わせのためには、正しい下顎の位置、正しい上顎の位置、そして変調のないそしゃく筋が要求されます。
 下顎は腹側ですから、お腹から首の前面の状態によってその位置が決まります。例えば肋骨が捻れていれば、当然下顎も捻れることになります。
 上顎は頬や額や後頭部などと一体化している頭蓋骨の一部であり背側ですから、背骨や骨盤や下半身からの影響を受けます。特に後頭部(後頭骨)とは密接ですので、後頭骨が正しい位置にないと上顎骨もずれてしまいます。
 そして最終的に上顎と下顎を結び付ける筋肉は咬筋、側頭筋といったそしゃく筋になりますので、そしゃく筋の在り方が偏っていますと正しい噛み合わせは実現しません。歯ぎしりや噛みしめの癖を持っていますと、そしゃく筋は硬くこわばってしまいますので下顎をそちら側に引き付けてしまいます。

 みなさんに「噛み合わせは合っていますか?」とお尋ねしますと、多くの人が「たぶん合っていると思います」と応えられます。その後、上顎骨・下顎骨・そしゃく筋を調整して正しく噛める状態にしますと、ほとんどの人が「噛んで気持ちいい」とか「両方の奥歯にしっかりと力が入るようになった」と感想を言われます。
 正しい噛み合わせでは、噛むことが心地良く感じます。そしていつも心地良い食事をしていただき、そしゃく筋をたくさん使っていただきたいと思います。

 何度か申し上げていますが、そしゃく筋は全身の筋肉の要です。そしゃく筋がしっかりしているかどうかでエネルギー感が違ってきますし、実際「力が入る」ようになります。伸びやかな体を実現し、それによって心も伸びやかになっていただきたいと思います。そのためには、噛むこと、そしゃく筋をしっかり使うことが大切です。そしてそしゃく筋を使うためには、正しい噛み合わせが必要です。

 顔と体を整え、正しい噛み合わせを実感していただきたいと思います。

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