2012.10.18
噛みしめ、歯ぎしり癖の影響について

 最近になってようやく、テレビの健康番組などでやっと“噛みしめ・食いしばり・歯ぎしり”などの弊害について取り上げられるようになってきました。
 動物種というジャンルの中で私たち人間は哺乳動物ですが、その大きな特徴は唇があることであり、また食べ物を口の中でモグモグとこね合わせてから飲み込み胃や腸へ送るということです。(爬虫類などは丸飲みです。)
 人間の赤ちゃんも犬の赤ちゃんも乳を母親の乳首に吸いつくようにして飲みますが、これには唇がなくてはなりませんし、唇と舌と頬の筋肉(そしゃく筋)の一体的な連動した働きがあってはじめて可能になります。(顔面神経麻痺などで唇が閉じなくなると、うまくそしゃくできなくなります。)
 詳細は省きますが、私たち人間を含めた哺乳動物にとって唇・舌・頬というそしゃく器官は健康維持において極めて大切な影響力を持っています。そしてその要の一つがそしゃく筋の働きです。
 栄養補給ということで飲む栄養食品や飲料が流行ですが、それだけではまったく片手落ちであり、食物を噛んで、こねて飲み込むという動作がなければ様々な健康的弊害が生じることになります。
 
 ところで、噛むことと噛みしめること・食いしばることは違います。噛みしめること・食いしばること・歯ぎしりをすることは体に不調をもたらします。今回はこのことについて考えてみたいと思います。
 
    @そしゃく筋の働きが悪いと体をしっかりさせることが難しくなる
    A噛みしめ癖・歯ぎしりの癖がもたらす体への直接的な悪影響
    B歯ぎしりを防ぐための一つの方法
    C舌骨の位置が変わり、呼吸や舌の働きにも影響がでる

@そしゃく筋の働きが悪いと体をしっかりさせることが難しくなる
 私たちと同じ哺乳動物である牛が草を食べている姿を連想してみてください。草を口の中に入れ、口を閉じ、まさにモグモグと草をこねるようにしている姿が浮かびませんでしょうか。私たちも食物を口の中に入れてからは、口を閉じモグモグと噛まなければなりません。(口を開けながらクチャクチャ噛むのは好ましくありません。)
 このモグモグする時、下顎を上下・左右・前後と複雑に動かしながら、奥歯の臼歯を中心に舌や頬の壁をうまり利用して食物を飲み込める状態まで砕いてこねているわけです。この下顎を上下・左右・前後に動かすために働く筋肉がそしゃく筋です。そしゃく筋には外側からさわることのできる咬筋と側頭筋、さわることのできない内側翼突筋と外側翼突筋があります。

 整体的な観点でみた場合、そしゃく筋がしっかりしていないと股関節と膝関節がぐらつき力が発揮できなくなるというのがあります。そしゃく筋の一つ咬筋は股関節の筋肉の一つである恥骨筋と連動し、膝関節の働きに大きな影響を及ぼす大腿四頭筋の中の中間広筋と連動します。長時間歩くと股関節や膝関節が痛くなる、またしゃがんだ状態から立ち上がるとき膝が痛くなるという原因の一つに、咬筋に連動する恥骨筋や中間広筋がうまく働けないからだというのがあります。
 さらに、そしゃく筋は私たち哺乳動物にとって極めて大切な筋肉であると申したとおり、そしゃく筋がしっかりしていないと体の芯の力が乏しくなり、体がシャキッとせず活力も出てこなくなるということも考えられます。

 そしゃく筋は私たちの持つ骨格筋のなかで司令塔のような役割を果たす筋肉です。私たちは“火事場の馬鹿力”のような大きな力を発揮しようとする時、歯をグッと食いしばってから全身に力を伝えようとします。疲れが溜まってきて動けなくなりそうになっても頑張らなければならない時、グッと食いしばって頑張ります。つまり底力を出そうとする時には、最初にそしゃく筋を収縮し働かせてから体の力を精一杯働かそうと自然にするのです。

 私が子供の頃は小学校の先生が給食の時、「一口30回噛みなさい」と口酸っぱく指導されていたのを今でも忘れません。柔らかい食品ばかりがもてはやされている今日、多くの人は一口30回もモグモグしていないのではないでしょうか。
 日々の活力や根気ややる気のためにも、食物をしっかり噛んでそしゃく筋をしっかりさせることがとても大切だと思います。


A噛みしめ癖・歯ぎしりの癖がもたらす体への直接的な悪影響
 食物をよく噛んでそしゃく筋を鍛え常にしっかりさせておくことは大切ですが、噛みしめ癖や歯ぎしりの癖でそしゃく筋(咬筋や側頭筋)が硬くこわばってしまうと反対に体に悪い影響を及ぼします。
 そしゃく筋に限らず体の筋肉(骨格筋)は収縮したり弛めたりする動作を繰り返すことは得意ですが、収縮した状態つまり力の入ったままの状態を長く続けたり、使いすぎたりしますと硬くこわばってしまいます。すると筋肉本来の働きができなくなってしまいます。(能力が低下する)
 「噛みしめていますね」と申し上げますと、ご自分ではそんな覚えはないと思われる人が多くいますが、本来力を抜いたてリラックスした状態であれば口は閉じていても上の歯と下の歯は浮いた状態にあるものです。歯と歯が少しでも接触していれば、それは咬筋や側頭筋が作動している状態です。その状態が長く続けばこれらの筋肉はこわばって硬くなってしまいます。また歯ぎしりも同様で、そしゃく筋が作動し続けていることになりますので、やはり硬くこわばってしまいます。

頭痛・片頭痛
 片頭痛で一番多い場所はこめかみ辺りになりますが、ここは側頭筋のあるところです。側頭筋がこわばるとそれが直接頭蓋骨を締めつけるようになりますので即頭痛・片頭痛という症状を招きます。
 側頭部の頭痛や片頭痛は多くの場合、噛みしめ癖や歯ぎしりの癖が原因となっています。病院などで“緊張性の頭痛・片頭痛”と診断された場合、噛みしめや歯ぎしりの癖がないか確認してみましょう。対処方法としては、頬が硬くなっていますので、じっくり硬くなっている部分を指圧しストレッチするような感じて柔らかくなるようほぐしていきましょう。

顎関節の異常や顔の変形
 噛みしめや歯ぎしりの癖がある人の咬筋・側頭筋はこわばっています。筋肉がこわばるというのは“縮んで硬くなる”と考えてもいいでしょう。この咬筋・側頭筋がこわばって縮みますと下顎を頬の方へ引き付けるようになりますので、耳周辺(顎関節)や顎の姿が変わります。つまり顔が本来の姿から変形することになります。普通、噛みしめや歯ぎしりの場合、左右同じように力を入れることは少なく、どちらか一方がより強くこわばるようになりますので顎の左右のバランスが崩れます。噛み合わせもくるいますし、顎の開閉がうまくできなくなる顎関節症を招きやすくなります。

首筋が張り、首を動かすと痛くなる
 首の筋肉で、そしゃく筋と連動して働くものに斜角筋、胸鎖乳突筋があります。斜角筋には前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋と3つの筋肉がありますが、咬筋がこわばりますと前斜角筋が弛んで中斜角筋・後斜角筋がこわばります。中斜角筋と後斜角筋は首を回す時に働く筋肉ですから、これらがこわばりますと首筋の伸びが悪くなり、後を振り向くなどの時に痛みを感じたり、十分に首を回すことができなくなったりします。
 また直接的な関係ではありませんが、噛みしめや歯ぎしりによって舌骨の位置も変わりますので、舌骨から肩甲骨につながっている肩甲舌骨筋が張ってしまいます。すると首を動かすと肩が痛くなったり、あるいは何もしないのに肩にハリ感や痛みを感じることがあります。これは肩こりとは違いますので、いくら揉んでも解消しません。


B歯ぎしりを防ぐための一つの方法
 歯ぎしり、あるいは寝ている間の噛みしめというのは無意識下に行われますので気をつけようがないので対処が難しいものです。マウスピースをして眠るのが対処法として考えられている人もいますが、それによって歯は確かに守られますが咬筋や側頭筋のこわばりを防ぐことはできません。

 どうして眠っている時に歯ぎしりや噛みしめなど、そしゃく筋に力を入れてしまうのでしょうか? 
 この疑問が解ければ、歯ぎしりなどの解決策を考えることもできます。心理的ストレスや夢見などの影響は多々あると思われますが、ここではそれを除いて体の生理機能という面でのみ考えてみたいと思います。
 私たちは昼間活動をしている時に大きなエネルギーを使っています。自律神経で考えると交感神経が優位に働いて活動的な働きを行っています。夜眠っている時は、寝ているだけなのでエネルギーもたいして使っていないと考えがちですが、体は副交感神経が優位になって食べたものを消化吸収し栄養に変える働きをしたり、一日の疲れを癒し、疲労したり傷ついたりした組織や細胞を修復しています。寝ている間も体の生理機能は休むことなく働き続けているのです。つまり眠っている間でも体内ではエネルギーが絶え間なく循環している必要があります。
 何かの理由でこのエネルギー循環がスムーズに行われない時、噛みしめたり歯ぎしりをしたりして力を伝え強制的にエネルギーを循環させようとしているのではないかと考えることもできます。
 
 実際のところ、朝起きた時に顎が疲れている(つまり噛みしめている人)と訴えたり、歯ぎしりの癖をもつ人は体が捻れていたりしますが、股関節に問題がある場合が多くあります。上半身と下半身のエネルギーの交通が股関節のところでうまくできなくなっているのかもしれません。
 右側の股関節に問題がある人は、右側で噛みしめているという現実があります。そして股関節を整えますと噛みしめが軽減するという現実もあります。

 眠っている間の歯ぎしりや噛みしめの主たる原因は体の捻れや股関節の問題のことではないかもしれませんが、体を整えることによって改善する場合も多々ありますので癖をお持ちの人は是非一度体を整えることをおすすめします。


B舌骨の位置が変わり、呼吸や舌の働きにも影響がでる
 私たちは食べる時も言葉を発する時も盛んに舌を使いますが、舌は私たちの想像以上に大きな筋肉の塊であり、舌骨という半ば宙に浮いた状態の骨を基盤にして働いています。この舌骨が本来の位置からずれたり不安定になりますと舌の働きに影響がでます。「舌を噛みやすい」「しゃべりづらい」「のどのところで呼吸が引っかかる気がする」あるいは無呼吸症候群の症状がある場合など場合は、舌骨について確認してみる必要があるでしょう。

 体の中のほとんどの骨は隣り合う骨と直接接していますが、肩甲骨や舌骨は他の骨とは直接接しているわけではありません。舌骨は顎の下で宙に浮いています。胸からの筋肉、のどからの筋肉、そして顎や頭蓋骨や肩甲骨からの筋肉につながっていて、それらの筋肉の引っ張り合うバランスによって位置が決まってきます。
 噛みしめや歯ぎしりの影響という面では、側頭骨から舌骨につながっている茎突舌骨筋と顎二腹筋の状態を考える必要があります。
 噛みしめの癖や歯ぎしりの癖を持つ人の多くは、そしゃく筋に力がはいってこわばっているだけでなく、耳の周辺から下顎、のど仏のところあたりまで力が入っていて硬くなり緊張状態にあるようです。この部分は筋肉としては茎突舌骨筋と顎二腹筋のあるところです。
 この二つの筋肉がこわばりますと、舌骨を上の方(顎関節の方向)に引き上げることになります。すると舌の働きに影響がでます。また気管やのどの位置も本来からずれますので、少なからず呼吸や発声に影響がでます。いつものどが少し絞められているような感じになるのかもしれません。

ゆめとわでの対応
 噛みしめ・歯ぎしり・食いしばりの癖を持っている人は例外なく、咬筋・側頭筋そして頬から顎関節、耳周辺にかけてガチガチにこわばって硬くなっています。
 この場合必ず最初に行うことは、これらのこわばりを弛めて解消することです。何十年にもわたってこのような癖をもっている人は1時間かけて弛めてもこわばりが解消しきれないこともありますが、通常は30分程度でかなりよくなります。
 そしゃく筋、茎突舌骨筋、顎二腹筋などのこわばりが弛んできますと、顎関節に余裕ができてリラックスしてくるとともに、斜角筋、胸鎖乳突筋など首の筋肉が弛んできて首が楽になり動きやすくなります。
 肩を触ると盛り上がっていて、押すと痛く感じ、首を動かすと肩にハリや痛みを感じるのは肩甲舌骨筋がこわばっているためですが、この筋肉も茎突舌骨筋、顎二腹筋が弛みますと弛んできて楽になります。その他にも全身の血行が良くなり手足の冷えも改善するようになります。

 以上のように、最初に行うことはこわばりを改善することですが、次に行うことは噛みしめたり歯ぎしりをしたりする原因と考えられる要因を改善することです。
 鎖骨がずれていて下顎が捻れていて顎関節に余計に力を入れてしまうこともありますし、股関節がおかしくて歯ぎしりをしてしまうこともあるでしょう。ですから、体の捻れを改善し、股関節を整え、全身の循環が良くなるように調整することが次に行うことです。

 この二つ、@こわばりの改善とA体の調整を行いますが、すると首肩まわりだけでなく体全体がリラックスするようになります。

 首肩の凝りは、揉みほぐすことで良くなるものもありますが、いくら揉みほぐしてもその時だけというものもあります。運動をしてもマッサージを受けてもなかなか首肩の凝りが改善しないという方は、噛みしめによる以上の筋肉のこわばりを解消することも試してみてください。


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