2014年01月19日

“首・肩のこり”に対する考え方

 一般に、ほとんどの人は首や肩の張りやこりを大きく捉えて“首肩のこり”という一つの言葉で表現されます。ところが、それらの張りやこりを実際に解消しようとしますと、幾つかの観点で考え、それぞれに対処するプロセスが必要になります。
 “こる(凝る)”ということと“張る”ということが、まず違います。
 大雑把に表現すれば、“こる”というのは、血液の流れが悪くなり筋肉の中身が水分などでいっぱいになり、コチコチになった状態です。“張る”というのは、筋肉にテンションが掛かったり、こわばったりして、筋肉が縮みたがっている状態です。“違和感を感じる”というのは“張る”状態の方です。
 また首・肩には、症状をもたらす筋肉がいくつかあります。今回は具体的に筋肉とその性質を取り上げ、症状の根本的な原因や対処法についてお話しさせていただきます。

(1)“こり”と“張り”の違い

 一般に首・肩のこりで“こり”と考えられているものは、私の見方では大きく二つに分けられます。
 一つは、筋肉や筋膜の中に老廃物や水分が停滞してしまっていて、中身がパンパンになってしまっている状態です。その状態がひどくなりますと、コリコリと石のように硬くなってしまいます。揉みほぐそうとしても、指が受け付けられないくらいに硬くなってしまっている状態は、“こり”がかなり強くなっている状態です。
 筋肉の中には血管や水分(リンパ)や老廃物がありますが、それらが身動きできない状態ですので、これを解消するためには、運動をして筋肉を伸ばしたり縮めたりしながら詰まった状態の中身を流すことも有効です(肩こり体操など)。しかし、カチカチに固まってしまった部分は、そう易々と解消することは難しいので、揉みほぐしやマッサージなどの手段が必要です。
 こういう状態では、揉みほぐし施術の最初のうちは痛みを感じるかもしれませんが、次第に気持ちよくなり、詰まったものが流れてしまえば“重さ"がとれて軽くなったように感じることでしょう。
 二つ目は、筋肉がこわばってしまっている状態です。これは筋肉の“張り”として現れます。こわばるというのを簡単に表現すれば、筋肉が縮んでいて伸びにくくなっている状態か、縮む方向に力が働いている状態です。筋肉が縮んでいて伸びにくくなるのは、その筋肉の使いすぎがまず考えられます。あるいは筋肉の連動関係で、他の筋肉のこわばりが連動してその筋肉もこわばってしまうというものです。例えば、首の斜角筋という筋肉は噛む筋肉と連動しますので、噛みしめや食いしばり、歯ぎしりの癖などによって噛む筋肉がこわばりますと斜角筋も連動してこわばり、首筋の張りとなって現れます。また、筋肉が縮む方向に力を働かせているとは、骨と骨の間が本来の位置よりも離れているため筋肉にテンションがかかり、筋肉が骨の位置を元に戻そうと縮みたがっている状態です。例えば肩甲骨が本来の位置よりも下に下がってしまっている場合、肩甲骨と後頭部や頚椎(首の骨)の距離が遠くなりますので、頭や首から肩にかけての筋肉(僧帽筋や肩甲挙筋)、あるいは肩甲骨の内側にある菱形筋がそのような状態になります。

 一般に“こり”や“張り”と呼ばれているものは、筋肉の性質上、以上のように大別することができます。さらに実際には多くの場合、こりと張りが混在して一体化しています。ですから首・肩のこりや張りを解消しようとするならば、こりを解消する施術と張りを解消する施術の両方を行う必要があります。
 また多くの場合、張り(=こわばり)は揉みほぐすだけでは改善することができません。張りがなくなるほどに揉みほぐし続けますと筋肉はダメージを受けてしまうでしょう。「肩こりは取れたけれど、頭や腕が重たく感じる」などのような状態になってしまうかもしれません。

(2)首がバリバリに硬くなってしまうのは、噛む筋肉が硬くなっているから

 頭部のすぐ下から首、さらに鎖骨の方まで硬くなってしまうのは、主に胸鎖乳突筋と斜角筋のこわばりです。この二つの筋肉はそしゃく筋と連動しますので、噛みしめ、食いしばり、歯ぎしりの癖によって耳の直下から顎のエラにかけての部分が硬くなっていることが主な原因です。そしてこういう人は本当にたくさんいます。さらにこのような人は頭部の筋肉や筋膜もこわばりますので、頻繁に頭痛や偏頭痛の症状に悩まされます。多くの人が首や肩がバリバリに硬くなってしまったので、頭痛になり顎関節の調子も悪くなったと考えますが、実際は、そしゃく筋がこわばったため顎関節周辺がコチコチになり、その影響で頭痛が起こり首がバリバリになってしまうという順番です。
 また首を十分に回すことができなかったり、首を回すと首筋に張り感や痛みを感じるなどの場合も斜角筋のこわばりによる影響が考えられます。そしてこの場合は、そしゃく筋のこわばりが原因であること以外に、胸郭(肋骨)が本来の位置より下がっていることが可能性や、肋骨が捻れを起こしている可能性も考えられます。胃の調子も悪かったり、呼吸が浅く息苦しさを感じる症状を併せ持つような場合は、胸郭も正す必要があるでしょう。

(3)肩が張ってつらさや痛みを感じる、首を回すと肩が痛い

 肩の張りに関してもう一つ見逃すことのできない筋肉があります。肩甲舌骨筋というマイナーな筋肉ですが、肩の真上、肩甲骨との境の部分が盛り上がっていたり、押すと痛みを感じる場合は、この筋肉がこわばっています。「肩が張っている」「肩が痛い」(肩関節ではなく)と一般に言われるのは、この筋肉が関係しています。
 肩甲舌骨筋はのど仏の上にあって舌の付け根になっている舌骨と肩甲骨を結んでいます。首を動かす(つまり舌骨を動かす)とき、この筋肉がこわばっていますと伸びが悪いため痛みを感じます。状態がひどくなりますと、食物を飲み込むときや歌を歌うなど大きな声を出すだけでも(つまり舌骨が動くとき)肩に痛みを感じるようになるかもしれません。また定かというわけではありませんが、発声とも関係があるようで、声楽家のように声帯をたくさん使われる方々はこの筋肉が張りやすいようです。声帯の調子が今ひとつ良くないと感じられるときは、この筋肉を調整してみるのも一つの方法だと思います。
 肩甲舌骨筋の調整には肩甲骨と舌骨の状態をまず正す必要があります。肩甲骨の状態に関しては影響を与える要素がいくつもありますが、見逃せないのは胸鎖乳突筋です。胸鎖乳突筋がこわばりますと、鎖骨を後(背中側)に下げてしまいます。肩甲骨は鎖骨と対になって肩上部の骨格となっていますので、鎖骨が背中側に動けば肩甲骨も同様に動きます。すると舌骨との距離が離れてしまいますので、肩甲舌骨筋はこわばるという理屈になります。
 また、舌骨は宙に浮いているため動きやすくなっていますが、反面、不安定でもあります。そしてその位置は、頭部(側頭骨)からくる筋肉や胸(胸骨)からくる筋肉、下顎からくる筋肉によって決定されますので、その人の状態によって施術する場所が違ってきます。但し側頭骨の歪みが原因している場合が多いので、頭蓋骨の調整とそしゃく筋の調整を行って対処することが多いです。
 肩甲骨を後に下げてしまう胸鎖乳突筋も側頭骨から出ている筋肉ですし、筋肉の連動としてそしゃく筋と関係が深いですから、ここでもやはり噛みしめ、食いしばり、歯ぎしりなどの癖によってこのような症状が出ている場合が多いと言うことができます。

 実際のところ、前記の斜角筋のこわばりによる首の問題とこの肩甲舌骨筋のこわばりによる症状を同時に持っている場合がほとんどです。頭部の歪みに関してもそしゃく筋が原因である場合がとても多いので、噛みしめ・歯ぎしりなどの癖、片噛みの癖などを改善することが根本的な解決への道筋であるということができます。

(4)首・肩の後側から背中上部の“こり”や“張り”

 肩こりの時つい手が行ってしまうのが、首の後側〜肩甲骨の上部にかけての部分で、ここが硬くなっていて揉んだり押したりすると気持ち良く感じる場合は、こりと張りが同時に存在していると考えることができます。
 肩上部でつまむことのできる筋肉は僧帽筋ですが、この筋肉が張っていることもあります。その下、肩甲骨の内側にかけての内部には菱形筋があります。ここがこっている人はたくさんいると思います。叩くと気持ちよく感じますが、この部分のこりを解消するためには、ある程度強い力で持続的に圧するのが効果的です。また、肩甲骨の内側にいつも違和感や痛みを感じる場合は、肩甲骨がずれている可能性があります(上記(1)の図を参照)。この場合は肩甲骨の位置を修正しなければ症状が解消することはありません。整体的な施術が必要です。
 猫背や首が前に出ている人に多いのですが、菱形筋のさらに奥にある上後鋸筋がこわばっている場合があります。ここまでこわばりが及んでしまいますとなかなか簡単にはいきません。実際、揉みほぐしたぐらいではこの状態を解消することできません。
 上後鋸筋は肋骨を安定させる働きと、呼吸で息を吸うとき肋骨を引き上げる働きをします。ですから吸気の時に収縮する筋肉です。この筋肉がこわばっているということは、常に胸郭が息を吸ったときの状態であると考えることもできます。もしフーッと息を吐きながら胸郭を下げるようにしてみて、最後まで息を吐き出すことができないのであれば、その可能性が高いと言えるでしょう。他の吸気運動で働く筋肉(斜角筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋上部、小胸筋など)との連動関係でこわばっている可能性も考えられますので、それらの筋肉の確認と調整も必要だと考えルことができます。
 反対に考えますと、猫背で肩甲骨のあたりが盛り上がったように硬くなっている人は、本人の自覚の有無にかかわらず、呼吸がうまくできていないことになります。そういう意味でも猫背は解消したいものです。


 以上の通り、一般に「肩が凝って‥‥」「肩凝り性で‥‥」と考えられているものも、その原因を探っていきますと、筋肉の使い方や姿勢の状態にたどり着くことがほとんどです。


 「肩こりマッサージを受けても、効果があまり持たなくて‥‥」と仰る方が多くいます。それは施術する者がマッサージに集中するばかりで整体的な観点で骨格や筋肉の状態を捉えていないからかもしれません。
 ストレスやリラックスできない性分など精神的なものも含めて、首・肩がこったり張ったりするのには必ず原因が存在するはずです。ついつい体に力が入ってしまう人は、やはり肩凝り性の人でしょう。呼吸を止める癖があって溜め息のように息を吐き出す癖のある人、猫背で首が前に出ている人、そういう人はやはり肩がこるでしょう。噛みしめ、歯ぎしり、食いしばりは首や肩のこりだけではなく他にもいろいろな不調があることでしょう。
 整体師という観点で首・肩のこりや張りを改善しようとしますと、たくさんある筋肉の一つ一つを観察し、調整しながら、同時に揉みほぐすという手法が対処法になります。
 “首・肩のこり”に対する施術はほとんどが60分のコースになりますが、その中で15分程度は顔への施術になります。そして、その15分間の施術が効果を長持ちさせる決め手になると私は考えています。それでも単発的であれば、猫背などの姿勢を改善することまではできません。
 体の歪みを整え、呼吸が正しくできるようになれば、体は芯からリラックスできるようになります。そのためには数回の施術を受けていただきたいと思う次第です。