2014年07月18日

O脚の矯正について

 “O脚矯正”という文言に心惹かれる女性は多いかもしれません。
 O脚を改善するためのストレッチや整体法なども数多くあるようですが、それらのほとんどは一時的な効果しかもたらさないのではないでしょうか。なぜならそれらは“骨格の形”にばかり着目しているように思うからです。
 確かに形的にO脚をストレートに近い状態に変えることが目的なのですが、形にばかりとらわれていますと、“矯正が長持ちしない”という結果に終わってしまいます。これはO脚に限らず骨盤や他の骨格矯正でも同じです。
 矯正で大切なことは“使い方が変わる”ことです。使い方が変われば、骨格はその使い方に合わせて変化します。
 O脚の人は立ったとき、重心が足の小指側に掛かっています。親指を中心に足裏全体で地面を踏みしめているという実感はありません。この状態が変わらないのに、いくら内転筋を鍛えようと、どこかの筋肉をストレッチして伸ばそうと、まったく無駄な労力であると私は考えます。
 立っていても、椅子に座っていても自然と重心が膝の内側に集まってくる状態にすることがO脚矯正には何よりも重要だと考えています。

(1)「ハ」の字で立つとO脚になる‥‥お尻に“エクボ”を

 一般に、立ち方や歩き方で男女の差として見られる特徴は、足が「ハ」の字型(内股、女性に多い)になるか反対につま先の方が開いた形(男性に多い)になるかではないでしょうか。
 つま先の方が狭く踵の方が広がった「ハ」の字型で立ってしまうと、やがて必然的にO脚になってしまいます。それだけでなく、骨盤も下がってお尻が垂れることになります。
 私たちのお尻にはいくつかの筋肉がありますが、その中に外旋筋群と呼ばれる脚を外側に回旋させる働きをする筋肉があります。「ハ」の字型ということは、脚を内側に回旋(内旋)させている状態が普通になってしまっているということですので、外旋筋や大殿筋は伸ばされてゆるんだ状態になっています。そのことによって骨盤の中心である仙骨は下がってしまい、同時に殿部の筋肉がゆるんで垂れた状態になってしまいます。股関節も拡がりますので、大腿骨が外側に出っ張った状態にもなります。
 また、「ハ」の字型で立つことはどうしても膝の裏側にテンションがかかりますので、膝裏の筋肉(膝窩筋)や筋膜が伸びてしまうため、膝が自然な状態以上に伸びて(反張膝)しまい、益々脚の形を悪くしてしまいます。
 ですから、立つときにはお尻にエクボをつくるように殿部の筋肉を締める習慣を身につけましょう。O脚の人にとって“お尻にエクボ”をつくることは、最初は困難に感じるかもしれません。しかし、このことはO脚を矯正することに限らず、骨盤を立たせ、殿部をゆるませないために欠かすことのできないことです。
 両足を揃えた立位では踵をくっつけ、つま先を少し開いて、お尻にエクボをつくるように殿部の筋肉を締めることです。これだけで、猫背気味だった背中も伸びて、自然と顎を引いた立位に近づけると思います。

(2)重心が体の中心線に集まるようにする‥‥前鋸筋のこわばりに注意

 O脚の人は立位の時も坐位の時でも、足の親指(母趾)側が浮き気味で、小指(小趾)の方に力が偏っている場合が多くあります。重心が小趾側に逃げているということは、全身的に重心が中心部にあるのではなく、外側に逃げてしまっているということです。これではスタイルが悪くなるだけでなく、あらゆる動作の効率が悪くなり、疲れやすく、また故障もしやすいといえます。
 物を持ち上げるときは(わき)が開いてしまい、腕や手にばかり力が入ってしまいます。全身の筋力を動員することができないため、力を使っている割には大して重たい物を持ち上げることができません。包丁を使うのも一苦労かもしれません。
 あらゆる動作がどことなくぎこちない感じで、しなやかさに欠けているように感じるかもしれません。現在は、こんな人をたくさん見ます。

 さて、重心が外側に逃げてしまう原因ですが、それは多くの場合、前鋸筋(ぜんきょきん)のこわばりによるものです。
 前鋸筋は背中側から脇腹にかけて肩甲骨の内側にある筋肉ですが、肩(肩甲骨)や腕を前方に出す働きをします。自分の肩がどうも前に出ているようで気になっている人は、多くの場合、前鋸筋のこわばりによるものです。
 すっかりIT社会になった今日、仕事でパソコンばかりを相手にしているのであれば、常に肩や腕を前方に出し続けていることになります。つまり常に前鋸筋を働かせているわけです。キーボードを使う時、肘をデスクに付けてアームレストに手根を乗せた状態で操作していればさほど前鋸筋を使うことはないかもしれませんが、そうではなく肘を浮かせた状態でダイレクトにキーボードを操作したり、あるいはキーボードと自分の間に書類などを置いて、腕を伸ばした状態で操作したりしていますと、前鋸筋は間違いなくこわばります。

 前鋸筋は筋肉の連動関係として、腕の方では手の親指から腕の外側にかけてのライン上の筋肉と連動します。下半身の方では、骨盤の外側から太ももやふくらはぎの外側、そして足の小趾にかけてのラインと連動します。つまり前鋸筋がこわばると、これら連動する筋肉もこわばりますので、必然的に重心が体の外側に行ってしまうのです。

 O脚の人は小趾側で立ってしまいます。例えば片足立ちをしたとき、本来は母趾の近くに重心があって安定していなければなりませんが、足の指をグニュグニュさせるように不安定で重心が小趾と母趾の間を往ったり来たりしていたり、あるいは明らかに小趾側に重心があるようなら、それはO脚になっても仕方がないということになります。
 O脚を改善するためには、この前鋸筋のこわばりを解消することは欠かせません。
 O脚矯正サンダルやスリッパなどの小道具を使ったり、あるいは整体院などで物理的な矯正をしたところで、体の重心が中心ではなく外側にあるようでは、結果的になんの解決にもならないと言えるでしょう。



リンク:前鋸筋と連動する筋肉の説明

(3)重心を体の中心に集めるために‥‥内転筋を整える

 前鋸筋のこわばりを解消して重心が外側に逃げないようにすることがO脚矯正のための第一段階ですが、第二段階は膝の内側に重心が集まるように筋肉の働きを調整することです。
 施術の経験上申し上げますと、ポイントとなる筋肉は内転筋の一つである“長内転筋”と大腿四頭筋の一つである“内側広筋”です。
 施術上の詳細は省いて結論的に申し上げますと、長内転筋も内側広筋も足であれば母趾と関係します。手であれば握る動作と母指や人差し指と関係します。その他に噛みしめや食いしばりとも関係します。
 さて、O脚の人は足の小趾側に重心が逃げてしまっていると申し上げましたが、そうしますと母趾が半ば浮いた状態で立ってしまう事になります。母趾のつけ根で地面をしっかり捉えて踏みしめることができません。歩く動作では、浮き気味の母趾で最終的に地面を蹴らなければなりませんので、母趾先を必要以上(=不自然)に曲げることになります。この状況が外反母趾の原因にもつながるのですが、母趾先の筋肉をたくさん収縮させますので、長母趾屈筋や母趾外転筋のこわばりを招きます。ご自分の母趾を観察してみてください。変に捻れていたり、スマートさに欠けていませんでしょうか。(下図参照)

 母趾外転筋は筋肉の連動関係から長内転筋に影響を与えます。少し脚を開いて椅子に座った状態で股関節の内側、恥骨のすぐ下のところに筋肉の膨らみがあると思いますが、そこをギュッと深く指圧してみてください。痛みを感じるようであれば、それは長内転筋がこわばっているということです。
 長内転筋がこわばると太ももの外側にあります大腿筋膜張筋〜腸脛靱帯(上図参照)もこわばるという関係にありますので、長内転筋のこわばりは解消しなければなりません。

 長母趾屈筋は大腿四頭筋の中の大腿直筋と連動します。そして大腿直筋と内側広筋はある時(階段を昇るなど)は協同して働いたり、あるいは拮抗(一方が収縮すると他方が弛緩する)して働いたりと密接な関係があります。ですから母趾先(長母趾屈筋)のこわばり方は内側広筋の働きに影響すると言えます。そういう意味で長母趾屈筋はちゃんと整える必要があります。

長母趾屈筋と母趾外転筋
 解剖学の本によりますと長母趾屈筋も母趾外転筋も母趾の先端までは及んでいません。しかし実際のところ、母趾の先端や内側の部分がコチコチに硬くこわばっている人が多くいて、そのこわばりを解消すると、これらの筋肉のこわばりが改善します。
 母趾先が捻れていたり、上を向いていたり、「く」の字に曲がっていたりする場合は、やはりおかしな状態ですので、それを改善し、母趾が伸びやかになるようにする必要があります。


 右の写真では分かりづらいかもしれませんが、全身を調整し、内側広筋に力が伝わる状態にしました。こういう状態になると、膝の内側を特別意識しなくても、普通に座っただけで自然と膝の内側に力が集中するようになります。両膝を揃えて座ることも苦心することなくできるようになります。
 筋肉や骨格の状態が“O脚”なのに、膝をくっつけ、脚の内側ばかりを意識していますと、ますます長内転筋はこわばります。すると自分の意図とは反対にO脚を助長するようになってしまいます。
 O脚の人は、とかく形ばかり(膝がくっつくか、など)を気にしています。それは仕方がないことかもしれませんが、施術する側から見ますと形を直すことよりも重心が内側に集中するようになるかどうかが大切なことです。そのような状態になっていけば脚の使い方を変えることができますので、骨格は次第に形を変えていき、そう遠くない時期にO脚の悩みも解消されると考えています。



(4)外旋筋のゆるみを解消する‥‥お尻の形にも影響

 O脚の人の多くは、いわゆる「内股」です。つまり、つま先が「ハ」の字になっています。
 これを筋肉の働きという観点で見ますと、脚を外側に回旋させる“外旋筋”がゆるんでいて働きが悪いということです。
 仰向けで寝たとき、右の写真のような足の形になってしまうのは、外旋筋がゆるんでいるからです。
 外旋筋は殿部の筋肉ですから、外旋筋がゆるんでいるということはお尻の筋肉がゆるんでいて締まりがないということです。骨盤も後を向いてしまうため、お尻が下がったスタイルになり、どうしても猫背になってしまいます。また、外旋筋は肩にもありますが、殿部(股関節)の外旋筋と肩の外旋筋は連動関係にありますので、このような人は肩も前に出て腕が内側に捻れるようなスタイルになっていると考えられます。背中が丸くなって首が前に出、お尻が下がってO脚気味のスタイル、現在はそういう人が多くなっているように思います。
 ところで、O脚を矯正したい人に限らず、猫背気味の人、背中(肩甲骨の間)の凝りが気になっている人には「お尻にエクボをつくるようにして立ってください」と言っています。
 お尻にエクボをつくる筋肉はまさしく外旋筋です。外旋筋を収縮させますと自ずと骨盤が立ってきます。すると背筋も伸び、前に出ていた顎も引っ込みます。そして下半身が安定しますので、上半身が自然に下半身に乗っているという状態になります。O脚を矯正したいと思われている人には是非とも習慣化してほしい動作です。最初はなかなかうまくいかないかもしれません。しかし、外旋筋がすこしずつ締まってくれば、やがてそれが自然になると思います。仰向けて寝たとき、つま先の方が少し開くようになってくれば、O脚の矯正もはかどると考えます。

(5)専門的な細かい調整

 上記の内容がO脚矯正のための道筋であると私は考えています。そして日常生活の中での注意事項や指導を行っていますが、それ以外に細かい調整も必要ですので、それについて触れます。
 O脚の人の多くは、長い年月にわたって筋肉をO脚になるような使い方をしてきています。ですから、膝周りや足首周辺の細かい筋肉の状態も普通の人とは違っている場合が多く見受けられます。

 普通の人よりも膝が伸びてしまう、つまり立った時、脚が垂直以上になってしまう膝を「反張膝」と呼びますが、内股の人は常に膝裏にテンションがかかっているため、そのような状態になりやすい傾向があります。
 これは施術によって改善することをおすすめします。膝裏にあります膝窩筋や関節包、あるいは靱帯といったものを調整する必要があるからです。
 また、O脚によって膝下の骨(脛骨)が外側にずれているため、膝の内側にあります細かい筋肉や筋膜もゆるんでいる場合が多く、それらを調整する必要があります。
 同様に、脛骨を外側に引っ張ることに関係する腓骨筋や腸脛靱帯を調整する必要もあります。また、外反母趾や内反小趾の傾向もありますので、それらも修正しなければなりません。


 

 これらのことは細かい知識と経験が必要ですので、誰もが容易に施術できるというものではないでしょう。そして、この調整が最終的に“脚の形”を整えるために必要な工程です。この調整にはある程度の時間は必要になります。

こちらのブログも参照してください


 O脚矯正サンダルやゴムバンドなどの器具を使ったO脚矯正は私の目には一時的なものに見えてしまいます。本質的にO脚を矯正するという考え方に立てば、ここで申し上げてきたような、つまり全身的な調整が必要だと言えます。

 O脚は、“脚の形が良くない”という外見上のことだけでなく、膝関節には負担になりますので、将来的に変形性膝関節症などの病気につながる危険性が高まります。ですから是非改善していただきたいと考えます。

 “O脚”というのは、“形”のことではありますが、私は筋肉の働き方の結果が形となって現れていることであり、改善しようと考えるなら、筋肉の働き方を改善することが何より大切だと思っています。筋肉の働き方が変われば、骨格の動き方も変わり、最終的に形が変わってO脚を改善することにつながる、というのが王道だと考えています。
 それは瞬間芸のように、一瞬にして脚の形が変わるというものではなく、ある程度時間と施術が必要になります。しかし、O脚を矯正する過程で全身のバランスを整えることは不可避のことですので、結果的に全身を整えることにつながります。

 ある程度、施術の回数と時間は必要になりますが、当店でのO脚矯正を試みていただきたいと考えています。