お腹の冷えがもたらす身体への影響

 これから本格的な秋が訪れやがて冬へ向かっていくわけですが、9月に入った頃から“寝ちがい”や“ギックリ腰”になってしまった人の来店が増えました。夏の暑さはすっかり影を潜め、朝晩は肌寒く感じる季節になってきました。“寝冷え”に注意しなければならない時期です。
 “女の子は決してお腹を冷やしてはいけない!”、一昔前にはよく聞かれた言葉です。お腹は東洋医学の世界では任中とか任脈と呼ばれ、いくつかの急所もあり、生命に直結するとても大切なところとされています。女の子に限らず、すべての人にとってお腹はとても大切なところです。
 その大切なお腹の状態を、軽く考えているか、ほとんど考えていない人が今はとても多いように思います。

 お腹の冷えがもたらす体への主な影響(整体的な観点から)
    @首の調子がおかしくなる
    A腰や膝が痛くなる
    B血液循環が低下‥‥ギックリ腰、こむら返り、手足の冷えなど
    C歩き方が心もとない(不安定)
 
@お腹が冷えると首の調子が悪くなる
 “寝ちがい”までいかなくても「首筋が痛い」「頭が重たく感じる」「首の動きがおかしい」といった症状とお腹の冷えとはとても深い関係があります。
 首の不具合に深く関係する斜角筋という筋肉があります。前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋と3つの斜角筋がありますが、これら斜角筋は首の骨である頸椎と肋骨を結んでいて呼吸運動を助けたり首の運動や首の安定に働いています。首の調子が悪くなるといった場合、この斜角筋がおかしくなることが多いのです。
 さて、お腹が冷えによって斜角筋がおかしくなる仕組みを説明します。
 “冷え”ということは“熱エネルギーが足りない状態”と同じことです。“お腹”とは筋肉に置き換えると腹筋になりますが、ここでは腹直筋を取り上げて考えます。腹直筋はスポーツ選手などがお腹に力を入れたときに横に2つ、縦に4つくらいにボンボンと分かれて見えるあの筋肉です。この筋肉は肋骨の上から数えて5〜7番目の骨と恥骨を結んでいて、そこにおへその穴が開いています。冷えて熱エネルギーが足りなくなるとおへそ辺りの腹直筋の活動が衰え筋肉がゆるみます。すると二つの状態が現れます。一つは腹直筋が伸びてしまい、骨盤と胸郭(肋骨)の距離が離れ胸郭が上に上がってしまう状態。もう一つは、お臍のところにできた筋肉のゆるみを補おうとして、ちょうどみぞおちの辺りが縮んでしまう場合で、この筋肉の縮みが胸郭を引き寄せるため肋骨が下がってしまう状態。臨床的には、この二つの状態がよく見受けられます。

・腹直筋がゆるんで肋骨が上がっているしまうと
 肋骨が上に上がると、頸椎と肋骨との間が狭まります。するとそこを結んでいた斜角筋はたるみ加減になりますので、斜角筋は筋力を発揮することが困難になります。頭を支える力が弱まります。頭が重たく感じられるようになり、下を向く姿勢が辛くなってきます。仰向けの状態では首を上げることが困難になってしまい、起き上がるとき手で首を支えなければ起き上がれなかったりするようになってしまいます。

・みぞおちがこわばり肋骨が下がってしまうと
 肋骨が下がると、斜角筋の付着部である頸椎と肋骨の間が本来の位置より離れますので、斜角筋は引っ張られこわばります。縮もうとする力が余計に働きます。すると筋肉全体として伸びが悪くなりますので、首を動かす動作がスムーズにできなくなります。また、筋肉のこわばりは痛みに直結しますので、何もしなくても“首筋から肩にかけて痛い”ということになります。
 さらに、みぞおちのこわばりは胃を圧迫しますので、胃が不調になるかもしれません。


A腰や膝が痛くなる‥‥朝起きたときなど
 背中の下部、腰骨(腰椎)の周辺に指圧のような要領で深く指を入れていくと、骨のように感じるくらい硬くガチッとした感じのしこりがあり、強く押すと痛みを感じる場合は、慢性的にお腹が冷えている可能性があります。
 私たちは2足歩行をするため、四足動物とは違って背骨を重力に逆らって直立するのですが、そのためには背筋と腹筋がしっかりしている必要があります。
 お腹が冷えていると腹筋が力を十分に発揮することができなくなります。すると背筋に背骨を支えるための負担が余計にかかることになり、腰まわりの筋肉が硬くなると考えられます。

 夜寝ているとき、私たちの体内温度は下がりますし、血液循環も低下します。すると腹筋の働きはさらに低下します。朝目が覚めた時に腰が痛く、なかなか起き上がることができない人。起きがけは腰や膝が痛いけど、しばらく体を動かしていると痛みが消えるという人は、冷えによる血液循環不良が原因だと考えられます。
 こういう方々には腹筋を調整して血液循環を向上させる施術を行いますが、すると15分程度で、ガチガチだった腰まわりの筋肉が雪解けのように少しずつ柔らかくなっていき押圧しても痛みを感じなくなるようになります。

 腰痛ベルトは骨盤を安定させて痛みを軽減するほか、腹圧を保つという意味もあります。腹圧は私たちの腰にとってとても大切です。そして腹圧を保つためには何よりも腹筋がしっかり働いている必要があります。
 また、腹筋と背筋の“拮抗する関係”という性質からしても、腹筋がゆるめば背筋がこわばり、背筋がゆるめば腹筋がこわばるということになりますので、お腹を冷やして腹筋をゆるめてしまうことのないようにすることは、腰痛対策としても大切なことです。


B血液循環が低下‥‥ギックリ腰、こむら返り、手足の冷えなど
 お腹の冷えと全身の血液循環はとても深い関係にあると言えます。お腹には私たちの体にとって重要な“内臓”がありますので、お腹の温度は非常に大切です。冷え症の方の話を聞きますと「手先・足先が冷える」という答えが多いのですが、それは生命体にとって手や足よりも内臓の方が大事なので、手・足から熱を奪ってでも内臓にまわそうとする身体のシステムが存在するからだと考えられます。多くの人が手足から冷えるので、そこを冷やさないように気を遣っていますが、慢性的な冷えにはお腹を温める方が効果的だと言えましょう。ゆめとわではお腹を温め、へそを中心に腹直筋の血液循環を促進する施術を行っていますが、それだけで手足が温まり身体全体がリラックスする人がほとんどです。
 さて、ある時突然襲ってくるギックリ腰や明け方になるとふくらはぎがつってしまうなどの症状には、やはり“冷え”が関わっていると考えられます。もちろんギックリ腰には下地として骨盤の歪みや背骨のズレなどがあるのですが、それでも身体の筋肉システム全体としては、それらのズレをどこかで吸収して日常生活に支障のないように調整しています。ところが、そうやってどこかが負担を強いられながら頑張っているところに“冷え”という筋肉にとっての敵がさらにやってくるともはや頑張りがきかなくなってしまい、緊張の糸がプッツンと切れるように、何でもない些細なことでギクッとなってしまうのでないかと思えます。
 ふくらはぎがつってしまうこむら返しなども、確かに筋肉疲労や腓骨のズレなどが下地としてあるのですが、夜中〜明け方に身体が冷えると、ふくらはぎの熱がお腹にまわされるため血液循環が悪くなり、酸欠状態となって、症状として現れるのかもしれません。

 冷房を使い出す梅雨どき、熱帯夜で一晩中欠けっぱなしのエアコン、夏の暑さから秋口になって夜の気温が不安定になる頃の寝冷え、晩秋から冬への変わり目で身体がまだ寒さに慣れない時期、3月から4月にかけての季節の変わり目、このような時期は“冷え”に要注意です。

C歩き方が心もとない(不安定)
 私たちの多くが毎日当然のごとく、何も考えることなく行っている2足歩行は、実はとても微妙なバランス感覚と非常に複雑な筋肉システムが可能にしています。
 腰から下の骨や関節や筋肉などのどれかに損傷や不具合が生じると、歩く動作のどこかに違和感や支障が現れる、と連想することは容易なことでしょう。しかし、お腹が冷えているから、あるいは腹筋がうまく働かなくて歩くことが不安定になる、と連想できる人はそれほど多くないかもしれません。
 ところが、お腹の状態と歩くことはとても深い関係にあります。お腹に力があると、つまり腹筋がしっかり働いていると、軽快に歩くことができますが、腹筋の働きが弱くなると脚が重く感じられ、歩く動作がどことなくスムーズでなくなります。
 私は一整体師として、このことはとても大きなことだと思っています。すでに突入している高齢社会では、80歳、90歳、100歳になっても、“いつまでも自分の足でしっかり歩いていたい”というのが心からの願いとなるからです。
 高齢になって車椅子の生活や寝たきりの生活を始めてしまうと、なかなかそこから抜け出せなくなるのが現実です。ですから、車椅子や寝たきりはいつまでも遠くに遠ざけておきたいものです。

 試しにやってみていただきたいのですが、普通に歩くことと、片手をおへそのところに当てて歩くことを比べてみてください。元気な人はその違いがわからないかもしれませんが、おへそのところに手を当てた方が脚の運びが軽快になると思います。歩くことに特に違和感を感じていない人は、わずかな差だと思うかもしれませんが、歩けるか歩けないかの境にあるような人にとっては、この差は大きな差となります。

 以前、「急に歩くことができなくなってしまった」という85歳の方が奥さんに連れられてやったこられました。何とか立っていることはできるのですが、自分の力で足を前に運ぶことがきついようです。その時「ちょっと片手をお腹に当ててみて、そしてもう一度歩いてみてください。」と申し上げてやっていただくと、心もとないですが、何とか歩くことができました。それで、これはお腹から整えるべきだと考え、お腹への施術をまず行い、それから全身の筋肉を整えました。すると帰りは自分の足でちゃんと歩いて帰って行くことができました。その後三日おきぐらいに5回ほどこられましたが、すっかり良くなられました。今も時々外を歩いている姿をお見受けしますが、ご夫婦で仲良く歩いておられます。

ゆめとわでの対応
 お腹を整える施術は、ご自分でできるように必要な方にはお教えしますし、お腹を冷やすようなこと――湯船に温まらずシャワーだけで済ませてしまうこと、ビールなど冷たいお酒を多く飲むこと、冷えたジュースが好きだったりアイスクリームをよく食べることなど――これらのことは避けるように指導もさせていただいています。
 また、筋力的に「腹筋が弱い」というのも体力が落ちたときなどには、すぐにその影響が体全体に現れると考えられますので、ある程度は“腹筋を鍛える”ことも大切です。(腹筋を鍛える運動を参照してください。)
 
 “お腹”は“背中”と違って微妙です。大切な内蔵が骨に守られているわけでもないので、揉んだり叩いたりするような施術の場所ではありません。マッサージ的な施術を施したにしても、それは軽いものでなければなりません。
 しかし“体調を整える”ためにはねじれの確認や変調の確認、そして積極的に施術を行う必要のある場所だと考えています。施術は動的なものではなく、静かに手をあてがい、指先を施術ポイントに沈めていき、血液の流れが回復するのをじっと待つというようなものです。チャクラに対する施術も行います。すると腹筋の調子が整ってきて、胸郭や骨盤もしっかりしてきます。浅かった呼吸が深く、ゆったりしだし、体からリキミ感がとれて楽になります。内臓がゴロゴロと鳴り出し胃の調子も良くなる人もけっこういます。

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