2014年10月09日

歩行について(1)‥‥伸びやかに歩くために

 右の写真は二人の男性が向こうに歩いて行く様子を写したものですが、彼らの後ろ姿には全く違った印象が感じられます。
 左側の男性からは、上から頭を押さえつけられたような印象が感じられます。一方、右側の男性からは空に向かって体が伸び上がっているような印象が感じられます。
 これは地球の重力に負けてしまうか、それとも重力に対抗して打ち克っているか、の違いという見方もできると思います。
 ところで、今私たちの周りで歩いている人を見渡したとき、多くの人が左側の男性のような歩き方をしているのではないでしょうか? 私はそう感じています。
 単に歩く姿勢が良いとか悪いとかという観点ではなく、重力に勝っているか負けているか、という観点で今回は“伸びやかな歩行”について考えてみたいと思います。
 そうしますとそこには、しっかりと地面を踏みしめているかどうかという問題が浮かび上がってきます。右側の男性のように重力に対抗して伸びやかに歩くためには、足でしっかりと地面を踏みしめることができなければなりません。足元がしっかりしていれば、全身の筋肉は重力に対抗するように共働して働きます。反対に足元がおぼつかなければ、筋肉の持っている能力を十分に発揮することができないため、左側の男性のような歩き方になってしまうと考えるられます。

 今回は、重力に負けずに、伸びやかに歩くためにポイントとなる筋肉について考えてみます。

“片足立ち”が楽に安定してできることが大切

 膝や腰、足などに不具合がない限り歩くことができないということはないでしょう。しかし軽やかにスマートに歩くためには幾つか条件があります。
 軽やかに歩くということは背筋を伸ばし、ちゃんと地面を踏みしめ重力に負けることなく地面を蹴って歩くことです。そのためにはポイントとなる幾つかの筋肉が正常に働いていることが必要になります。
 さて、歩く動作は軸足となる後足と前に進むために出す前足が交互に入れ替わることの連続です。それは足踏みをすることで理解できると思います。足踏みは片足立ちを交互に繰り返すということですので、まず片足立ちの姿勢が安定して軽やかにできるかどうかがとても大切なことです。
 片足立ちをしたときに確認するポイントは二つです。
 まず体重が軸足の親指のつけ根を中心に安定して乗っているかどうか。重心が小指側にいったり親指側にいったりしてグラグラしているようでは安定しているとは言えません。また足の指が曲がったりモジモジするようであってもいけません。
 次に、軸足側の上半身と下半身の間に少し傾きがあるかどうかです。ここに角度がないと歩行の際、後足を前に出す動作をスムーズに行うことができません。足を引きずるような、地を這うような、あるいは後足を外回りで前にもってくるような、あるいはがに股ふうの歩き方になってしまいます。

安定した片足立ちができるためにポイントとなる筋肉
 私たちの二足歩行はロボットは違って滑らかに行うことができます。それは全身にたくさんある筋肉を総動員して、それらが絶妙なバランスで働いているからです。しかし、ひとたび動作の要となる骨や筋肉のひとつが不調になりますととたんに滑らかさは失われ、動作が不自然になってしまいます。
 歩行動作の一番の要となるのは親指をしっかり使うことができるかどうかになります。親指のつけ根から踵にかけての部分でしっかり着地でき全体重を支えることが楽にできれば動作は軽やかにスマートに行うことができます。以下、そのためのポイントになることを考えてみます。

@母趾中足骨の安定と筋肉
 表に出ている親指の奥に母趾中足骨があります。この骨がしっかり安定していないと親指で踏ん張ることができません。
 そしてこの骨の安定には足裏側(足底)では、長母趾屈筋、母趾外転筋、短母趾屈筋という3つの筋肉の状態が大きく影響します。
 長母趾屈筋は親指の先端を曲げて最後に地面を蹴る働きをしますが、単に立っているだけの状態とか、座った状態や寝た状態などリラックスした状態であればスーッと伸びているのが正常です。しかし、リラックスした状態でも曲がっている(筋肉が収縮している)人がけっこういます。“靴が合わない”からと考えている人もいますが、そうではないと思います。
 母趾中足骨が少し浮き気味になっているので中足骨で地面を捉えられないため、指先を曲げて立たないと立っていられない状態なのかもしれません。この長母趾屈筋がこわばった(常に収縮している)状態ですと、親指のすべての骨を踵の方へ引きつけてしまいますので、中足骨は不安定になります。
 母趾外転筋は外反母趾に深く関わる筋肉でもあります。外反母趾の人の多くはこの筋肉がこわばっていて親指が捻れています。指が捻れているため、歩くとき親指を回転させながら地面を蹴るようになります。靴にあたる部分に回転する摩擦が加わりますので、そこがこわばって痛むのかもしれません。長母趾屈筋同様、この筋肉がこわばっていますと母趾中足骨を踵の方に引きつけますので中足骨は詰まった状態で不安定になります。
 短母指屈筋は着地して体重を支えるためにとても大切な役割をはたす筋肉です。そして反対側の足を前に出して前方に進むとき軸足の踵を浮かせ足裏全体で地面を蹴る動作に移りますが、その時の要となる筋肉です。

 これら3つの筋肉は直接、あるいは筋肉の連動としてふくらはぎにつながっています。膝から下の外側の骨を腓骨といいますが、長母趾屈筋は腓骨から直接出発(起始)し母趾先につながっています。母趾外転筋は腓骨と脛骨(スネの骨)の間から出発して足底につながっている後脛骨筋と、短母指屈筋は腓骨を中心にふくらはぎ全体にあってアキレス腱となるヒラメ筋の内側と連動しています。
 ヒラメ筋も後脛骨筋もつま先立ちをするとき踵を力強く持ち上げるように働きます。ですから、これらの筋肉の働きが悪いと地面を蹴ることが強くできません。重力に負けてしまうような歩き方になってしまいます。


A上半身と下半身の間に角度をつける中殿筋の働き
 片足だちをバランス良く行うためには、上半身を少し外側に曲げなければなりません。(上の写真参照)
 上半身を曲げない状態で片足立ちをしようとすると、からだ全体を外側に少し倒さなければならないため足の小指側重心で立つようになります。これを反対の側面で考えますと、片足立ちの姿勢で重心が小指側にいってしまう人、あるいは重心が親指側と小指側の間で往ったり来たりしてふらつく人は、上半身を外側に傾けることができない状態であると言えます。
 右の写真のようなポーズを取ったとき、重心が親指側にあって安定しているようであれば大丈夫ですが、そうでなければ筋肉を整える必要があります。上半身と下半身の間の角度をつけるための要となる筋肉は中殿筋です。中殿筋はお尻の筋肉ですが、一番表層にある大殿筋の一層奥にあります。
 この筋肉はヒラメ筋の外側と連動していて、小指とも関係しています。外反母趾の人は内反小趾である可能性も高いのですが、小指が捻れていますと中殿筋の働きが悪くなります。

 中殿筋の働きが悪いと状態を傾斜させることができませんので、歩行時、後足を前に出す動作が不自然になります。上半身を動かすことなく下半身だけでシャカシャカ歩くようだったり、這うように歩くようだったり。あるいは、後足を前にもってくるとき下肢を回転させているような歩き方になったりしてしまいます。

股関節の筋肉でもも上げができることが大切‥‥大腰筋

 「歩くとき足が重くて上がらない」と半分嘆いていらっしゃる方もいます。高齢になるとその割合がぐっと上がります。このような人は足を引きずって歩いていると考えられます。程度が良ければ、足を振り子のようにブラブラさせるようにして歩いています。加齢によるものだと思う人もいるかもしれませんが、そうとも限りません。

 股関節には腹部からつながっている大腰筋があります。もも上げをするとき要となって働く筋肉です。この筋肉の働きが悪いと、ももが重たく感じられ、もも上げが軽やかにできません。すると歩くとき足を前に踏み出す動作が“自分の内側から”という感覚ではできなくなります。“後から足をもってくる”という感じになってしまうでしょう。さっそうと滑らかに歩くという感じとは程遠くなってしまいます。

 

 大腰筋の働き具合を見るテストとして、椅子に座った状態でもも上げをしてみてください。左と右手比べてみてください。大腰筋の働きに問題がなければ、股関節の筋肉だけでももをお腹の方へ軽々と引き付けることができるはずです。股関節にしっかりとした収縮感が感じられます。働きに問題がある場合は、ももを引き上げるとき股関節の筋肉というよりは上半身を後に動かした反動を利用してももを上げてしまいます。ももを上げた状態でも、股関節のところに力強さは感じられません。
 そんな違いは“ちょっとした差”と思われるかもしれませんが、歩き方が“格好いい”か“不格好”かの分かれ道と言ってもいいかもしれません。

 なお、大腰筋は腰痛にも深く関わる筋肉です。大腰筋の働きが悪いと背骨もグラグラしますし、股関節も不安定になってしまいます。


 ここで取り上げた長母趾屈筋、後脛骨筋、ヒラメ筋は歩行のことだけでなく、腰痛や下肢のむくみなどとも深く関係する筋肉です。からだを支える要となる筋肉ですので、下半身に関係する様々の不調に対しては必ず施術して整えています。
 
 ときどき「靴の減り方がおかしいので、歩き方が悪いのか?」、「歩くときにはどんなことに注意すればいいのか?」と質問を受けます。応えるのがとても難しい質問です。といいますのは、からだが歪んでいたり、ここで取り上げたような筋肉の働きが悪い状態では、正しく歩くことができないからです。例えば、母趾が浮いていて地面を蹴ることができないのに無理して母趾を使おうとすると筋肉の使い方が変になってしまい、それが別の不調を生み出す原因になりかねません。ですから、「こういう歩き方を意識してください。」とは安直に申し上げられません。私は一整体師として、「からだが整えば自然と良い歩き方ができるようになるので、からだを整えることを優先してください。」「そのためには毎日手を揉んでください。」とか「○○筋をストレッチしてください。」と申し上げています。

 からだの仕組みは実に絶妙にできていて、からだのバランスが悪ければ悪いなりに自動調整して故障が起きないようにしてくれています。ここで言えば、「ただ格好良くないだけで別に不都合なく歩くことはできる。」状態でいられます。
 しかしもっと伸びやかに、さっそうと歩くことができるようになれれば、毎日の生活が今より快適に感じられるようになるのではないかと思っています。“歩くことが心地良い”そんな毎日を送ってほしいと願っています。そしてそのために整体を利用していただきたいと考えています。
 もちろん歩くことに不調を感じている人は、是非筋肉の働きと骨格を整えて不調を解消していただきたいと思っています。