2010.12.16
手や手首のトラブルについて

 こちらに来られる方に多い、手や手首のトラブルは、腱鞘炎、バネ指、手や指に力が入らない、手先のしびれ、手首の痛み、関節が太くなる・関節の痛み(へバーデン結節)などです。
 整形外科での検査や治療が適している場合が多いと思いますが、治療効果が今ひとつさえないので、試みにこちらに来られる方が多いようです。
 今回は、整体的にみた手や手首の問題について考えてみたいと思います。

 代表的な手や手首のトラブル
  ・腱鞘炎(けんしょうえん)・バネ指・指に力が入らない
  ・腕や手や指先のしびれ
  ・指の関節が太く、硬くなり、変形し、痛む(へバーデン結節など)
  ・湿疹、あかぎれ、手荒れなど


腱鞘炎(けんしょうえん)やバネ指、指に力が入らない‥多くは手首で関節が捻れていることが原因
 腱鞘炎やバネ指は手首で関節がねじれていることが原因している場合が多いです。
 ここで指を動かす仕組みと構造はどうなっているかを簡単に説明してみます。
 指を曲げたりのばしたりする動作は、腕の内側にある屈筋と表側にある伸筋が、伸びたり縮んだりすることで行われますが、手首の手前から筋肉は(けん)と呼ばれる細い(すじ)になって指の関節に付着していきます。そしてこの腱には通り道がありまして、それは関節をまたぐところでは、(さや)と呼ばれるトンネルのようなところを通っています。
 異常のない状態では、腱は筋肉の伸縮に合わせてこのトンネルの中をスムーズに動いていますので問題はありませんが、何らかの理由でこのトンネル(鞘)に炎症が生じ、トンネルの内側が狭くなってしまったり、なめらかさがなくなったりしますと、腱と鞘の間に摩擦や引っかかりが生じますので、炎症して痛みを生じたり(腱鞘炎)、指をある角度にすると引っかかってしまうようなバネ指になってしまったりします。こういうときは多くの場合、手首で、手と腕の骨の関係が捻れていたり、指の付け根のところの関節が捻れていたりします。
 手首についてトラブルを抱えた人の多くに見られる特徴があります。右手でドアノブを内側に回す動作、つまり手首を内側にひねる動作を専門的に「回内」といいます。自分では力を入れずに自然にしているのですが、少し手首が内側に捻れた状態、つまり回内位になっている人がいます。
 例えば包丁を使うとき、腕の筋力が弱い女性は、どうしても親指側に力を入れてしまうでしょうから、その動作はやはり瞬間的な回内運動の連続になります。そしてその日常動作が長く続きますと、回内の運動に関わる筋肉はこわばりの状態になりますので、手首の関節が内側に捻れた状態になってしまいます。すると腱鞘炎やバネ指、あるいは親指に力が入らないなどの状態になる可能性が高くなると考えることができます。 

 腱鞘炎がなかなか治まらないと、「手術」という文言まで登場することもあるようですが、この回内位になった手首を正しい状態に戻すだけで、腱鞘炎やバネ指が良くなり、親指にしっかり力が入るようになることも多々あります。
 例えば、ペットボトルのキャップが開けにくい、瓶の蓋を開けるのが苦手、という状態などは指に力が入らない状態です。関節を正位に戻せば、これらも即解決できるようになると考えています。

腕や手や指のしびれ
 手や手先のしびれ感も、けっこう多いトラブルです。“しびれ”に関しては、まず神経の異常や神経管が圧迫されていることを疑うことが常道のようです。手先まで届いている神経管は首の骨のところの脊髄から出ていますので頚椎の異常も考える必要がありますし、小指側のしびれであれば肘の関節、母指・示指・中指のしびれであれば手首の関節の変位を確かめる必要があります。
 そして、これらはまず整形外科のレントゲン写真で確認することをおすすめします。よしんば頚椎ヘルニアとか脊柱管狭窄症などということであれば日頃のケアも大切になってきますので、一度確認してみるのがよろしいかと思います。
 ところで“しびれ”という現象がどのようなメカニズムで起こるのかについては、未だハッキリとはわかっていないようですが、直接的に神経管を圧迫する以外にも症状が現れることがあります。たとえば長い正座の時に起きる脚のしびれは、正座の姿勢により脚の血管が強く圧迫され、血液の流れが一時的に途絶えることによってもたらされます。正座を解けば、一時的には何とも言えない強いしびれ感で身動きもままならなくなりますが、血流の回復とともにやがて症状はすっかり治まります。症状が尾を引くことはありません。
 そうしますと、血液の流れと“しびれ”も密接な関係があるということになります。神経管には神経を養うための細い血管が巻き付いています。もしかしたら、その神経管を取り巻く血管の血流が悪くなったとき、“しびれ”という症状が現れるのかもしれないと考えることもできると思います。

 整体的な視点で“しびれ”を考えますと、痛みなどの症状と同様に、筋膜や皮膚の「変調」が原因になっている可能性も疑われます。
 「人差し指の先だけがしびれる」、「小指だけがいつもしびれている」など、特定の箇所だけがしびれているというような現象は、「首や肘や手首などで神経管が圧迫されてしびれている」という説明だけでは、スッキリと納得できないところがあります。神経管が圧迫されているなら、その圧迫箇所から先の神経が通るところは全部しびれているはずなのではないだろうか? という疑問が残されます。
 ある特定のところだけがしびれているのなら、その箇所の筋膜、あるいは皮膚が変調しているため、部分的に神経に関係する血流が悪くなっているので、その部分の神経の働きも悪くなり、“しびれ”という症状となって現れているのかもしれないと考えることができます。
 こういう場合であれば、そのしびれに直接関係している変調を探し出し、その変調をもたらしている原因をつきとめ、それを改善することが方法論となります。

 いずれにしましても、“しびれ”というのは、脳梗塞など脳に関係するものもありますし、神経の圧迫によるものもありますし、それ以外にも医学的に原因がはっきりしていないものもあります。
 しびれの程度が軽ければ、忙しさにかまけてやり過ごしてしまいがちなものですが、「体が異常を訴えているサインである」と認識していただいて、なんとか解決することに向け努力していただきたいと考えます。


指の関節が太く、硬くなり、痛む(へバーデン結節など)
 中高年になりますと指の伸びがだんだん悪くなり、指先が曲がったり、関節が太く硬くなったりして痛むことがあります。(リウマチで関節が曲がることもあります)
 そういう症状をへバーデン結節と呼ぶそうですが、「関節の変形が進行している間は痛みを伴うが、進行がおさまれば、つまり変形が完了すれば、痛みもなくなるので数年は我慢が必要」というのが治療方針のようだと聞かされますと、頭の中に?マークがたくさんついてしまいます。
 それは「治癒できない」、ということなのでしょうか?

 第一関節が太くなるのですが、第一関節は筋肉の区分で言いますと、性質の異なる筋肉の境目となるところです。専門用語になりますが、指先の骨(末節骨)に付着している筋肉は「深指屈筋」と言います。第一関節より手前の骨(中節骨)に付着している筋肉を「浅指屈筋」と言います。指先に関係する深指屈筋は字が表すように、腕の深いところ、骨の近くにあって骨格を支える役割をする筋肉です。浅指屈筋は表層にあって素早い指の動きに関係する筋肉です。
 たとえ話ですが、崖から落ちそうになって手と指でなんとか体が落ちるのを阻止しているとします。はじめのうちは、手全体でこらえてますが、筋肉が疲れてくるとズリズリと指だけで耐えるようになります。そしてさらに疲れてくると指先を何とか引っかけているだけの状態になりますが、この指先だけ引っかけている方が長い時間耐えていられそうです。鉄棒にぶら下がったことをイメージしていただいてもよいかと思います。
 つまり、深指屈筋である指先の筋肉は体の深く、骨に近いところの筋肉であって、頑張りがきく筋肉なのです。骨格を支えるためにはこの筋肉がしっかりしている必要があります。

 へバーデン結節の疑いのある人の指を観察しますと、この深指屈筋がこわばっている(収縮している)ことがわかります。つまり第一関節のところで、末節骨を中節骨の方に引きつけているということです。ですから関節で骨の関係がおかしいので動きも悪くなり、炎症を伴い痛みとなるのではないかと推測できます。そしてこの状態が長引くことによって関節が変形しだすのではないかと考えることができます。

 これまでも幾度となく申し上げてきましたが、私たちの体の基礎は筋肉で言えば、そしゃく筋と腹直筋です。つまり口から始まって恥骨部まで、東洋医学でいう「任脈のライン」が生命の基盤です。
 例えば寒さに震えるようなとき、私たちは自然と身をかがめて体を丸くし、縮んで体温を温存しようとします。へバーデン結節などの人は、このような状態が恒常的に起こっているとイメージしていただければよいかもしれません。つまり、お腹(中心部)に力がないので、末端(指先)が縮こまりたいのだと考えてもよいと思います。浅指屈筋など表層の筋肉はそうではないのだけれど、深部の筋肉の手先や足先など末梢部分がこわばっている(=収縮している)状態です。
 そう考えますと、対策はお腹の状態を調整すること、つまり腹直筋の働きが良くなるようにすることと、深部の筋肉の働きに大いに関係するそしゃく筋をしっかりさせること、つまり奥歯でよく噛んで食べることです。実際、第一関節に痛みのあるときでも、お腹を温め、腹直筋を整える施術とそしゃく筋を整えることなどの施術を行いますと、速やかに痛みは解消します。そして、詰まり気味だった関節に余裕が生まれるようになります。

 へバーデン結節は女性では40代から、男性ではもう少し高齢になってから症状が現れることが多いようですが、そういう意味では性ホルモンの影響があるのかもしれません。しかしながら、若い20代前半頃まではしなやかで伸びやかだった体が中高年以降、ゴツゴツ(ガッチリ?)し出すのは、指先に限らず足首や膝や股関節や肩などの関節も詰まり気味になっていくからだと考えることもできます。さらに、歯が悪くなったりして噛み方に癖が生じますと、そしゃく筋の働きが悪くなりますので、その進行に拍車がかかるのではないかとも思えます。
 また最近では、平気でお腹を冷やす少年少女、ほとんど噛まない青少年、という傾向がありますので、へバーデン結節などもこの先、発症する年齢層が下がるのではないかと考えることができます。

 指先の変形は進行が進んでしまい、すっかり器質が変わってしまうと、なかなか元の姿に戻すことは厳しいかもしれません。そこまでならないうちであれば、定期的なケアで改善を見込めるものと思っています。


湿疹・あかぎれ・手荒れなど‥‥部分的な血行不良が考えられる
  台所仕事をはじめ、お湯を頻繁に使う主婦は手荒れや湿疹で悩まされることがあります。寒い冬場になれば、あかぎれが加わる人もいるでしょう。
 私たちの皮膚は、乾燥や外部からの雑菌や汚れに侵されないように、皮膚(表皮)の一番外層の角質層が外敵を侵入させないバリアの働きをしていますし、さらに体内から皮脂を分泌して膜(皮脂膜)をつくり、皮膚から水分が蒸発しにくい仕組みになっています。
 ところが、お湯を頻繁に使ったり、庭の草むしりや土いじりなどをして、皮脂膜が取れてしまいますと角質層から水分が奪われ皮膚はカサカサになり、一時的な手荒れの状態になります。しかし、夜寝て朝起きますと手荒れが改善しているのが、健康な人の普通のあり方です。ところが、毎日のように手を荒らすことを繰り返していたり、健康状態が一時的に乱れますと、手荒れが一晩では回復できず悪化する道を進んでいくことになります。角質層のバリア機能が著しく低下してしまいますと、クリームやオイルを塗って補ってみてもなかなか思うようには回復してくれません。何日間か台所仕事をしないなど、手荒れをもたらす原因をなくすことができるのであれば、自然に回復する可能性は高いのですが、時には、それであっても回復しないこともあります。寒さが影響しているあかぎれなどは、なかなかの強敵です。

 さて、「軽い損傷であれば、一晩寝れば翌朝には修復されている」というのが、私たちの持つ自然治癒力、自己治癒力です。ですから、夜、心地良い睡眠をしっかりとることが私たちの体にとってとても重要なのですが、この自己治癒力についてちょっと考えてみましょう。
 皮膚の自己修復ということですが、イメージを持っていただくために、穴のあいたブロック塀を修復することで例えてみます。穴をふさぐためには材料であるブロックとそれをつなぎ合わせる糊として、ねったコンクリートが必要です。どこかのお店でそれらの材料を買い、車で運んできて、あとは腕の良い職人さんに修復をお願いすれば、短時間のうちに穴はふさがり、しっかりとしたブロック塀に修復されることでしょう。この作業の流れを皮膚の修復にあてはめてみます。

 ブロック、つまり修復するための材料は何でしょうか?
 それはタンパク質(アミノ酸、ペプチド)です。
 そのタンパク質はどこのお店で買うことができるでしょうか?
 傷口の近くの細胞が蓄えているかもしれませんが、大元は肝臓という工場で生産されます。
 材料を運んでくる手段、つまり車の役割を果たすのは何でしょうか?
 それは血液です。血流に乗って材料であるタンパク質が肝臓から運ばれてきます。
 では、職人さんは誰でしょうか?
 それは細胞の核に居る核酸(DNAとRNA)です。
 最後に、その職人である核酸に皮膚を修復するように指示を出す人と、指示書は何でしょうか?
 指示者は脳であり、指示書はホルモンです。

 このように考えますと、自己治癒力とは脳とホルモンと血流と細胞(核酸)と内臓(肝臓)の連携作業であり、その作業のために必要なエネルギーは細胞の中のミトコンドリアが作るのですが、つまり食事(栄養)と呼吸(酸素)が必要条件に加わるということになります。
 ですから、これらのうちのどれかが欠落しても、あるいは機能低下であっても、自己治癒力が乏しくなってしまうということになります。
 そして、夜睡眠をしっかりとることが大切なのは、修復のための指示書であるホルモンが、松果体から分泌されるメラトニンと関係が深いと考えられているからです。睡眠が悪いとメラトニンの分泌も悪くなり脳の命令が細胞核に届かないということになります。
 
 肌荒れに保湿剤やクリームを塗布することは大切です。しかし、それは直接的に皮膚を修復しているわけではありません。それらは基本的に皮膚を保護する役割のものです。
 皮膚を修復するのは、あくまでも自分の自己治癒力です。そして、自己治癒力の要件であるホルモンとタンパク質(修復材)は血液が運んでいますので、血流が乏しければ自己治癒力も十分に発揮されないと考えるべきでしょう。
 そして全身的にも局所的にも、血流に悪い影響を与える原因として考えられるものを整体的な観点で申しますと、@冷え(特にお腹)、A関節のゆがみ、B筋肉・筋膜・皮膚の変調、ということになります。

 手荒れ・湿疹・あかぎれなど皮膚のトラブルを抱えていらっしゃる方は、皮膚科など専門医の治療も必要だと思いますが、整体的な観点で体を整えますと、自己治癒力も向上し、薬などの効果も増すのではないかと思っています。

ゆめとわでの対応
 東洋医学的な考え方に、「手や腕のトラブルは足の方を診る」というのがあります。いくらなんでも手のトラブルと足が関係しているとは、一般的には考えにくいものでしょう。ところが、ていねいトラブルの原因を探っていきますと、足の方の問題で手がおかしくなっていることも多くあります。
 私たちの体は「ひとつながり」です。その具体的な例の一つは、筋肉は決して単独で働くことはなく、「連動」と「協動」という関係で協力し合って働いているということです。例えばロボットでは、その腕を動かそうとしたら、動作に直接関係する肩や肘や手首、指などの関節のモーターを制御するだけですみます。ところが私たちの体はそうはいきません。体には400以上の筋肉(骨格筋)がありまして、それらが連動・協動して一つの動作が成り立つようになっています。単に呼吸をするだけでも、横隔膜の運動に合わせて肋骨を動かす筋肉、つまり少なくとも肋骨につながっている首の筋肉、胸の筋肉、腹の筋肉、背中の筋肉が働いていることになります。
 また、筋肉は手先から足先まで連動するという大きな特徴があります。例えば手の親指を曲げる動作では、親指を曲げる筋肉(母指屈筋)が主になりますが、それだけでなく連動して働く、腕、胸、腹、背、腰、下腹部、下肢、足の筋肉にも収縮するところが生まれます。つまり、表面的な現象としては親指がまがるだけなのですが、表面に現れにくいところでは、手から足先まで連動する筋肉がすべて同じように収縮することができるので、いわゆる“苦もなく普通に”親指を曲げて力を使うことができるのです。連動する筋肉の中のどれかに、何らかの理由でうまく収縮することができないものがありますと、親指を曲げることがスムーズにできなくなったり、力を入れることができなくなったりします。

 例えば、今回のテーマで取り上げました手首の回内位のことですが、こんな実例があります。その人は足を傷めてしまい歩くこともままならず、時には立っていることすら痛みを感じことがあります。ところが主婦の仕事として台所に立って料理をしなければなりません。包丁を使わなければなりません。普通の人にとって包丁で材料を切ることは、苦になるほどのことではありません。ところが立っていることもままならない人にとっては、包丁を使うことは重労働なのです。足が地面に届かない椅子に座った状態のまま包丁を使うようなものです。
 普通の人は包丁で切る瞬間には、必ず足にも力を入れています。足の力も利用して包丁を扱う手の筋力を補うからです。魚屋さんとか料理人などプロの方が包丁を使う姿勢は、やはり下半身が安定しています。下半身という土台が安定していればこそ手が自由自在に楽々使えるのです。ところがこの主婦の方は足に力が入りませんから、上半身の力、手の力だけで包丁を扱うようになってしまいます。それが腕の筋肉に余計な負担を強いるため、手首が回内位になってしまったのではないかと考えらることができます。さらに、その回内位のために筋肉つながりで膝の関節がゆがみ、それがさらに足の痛みを増しているのですが‥‥。

 このように私たちの体は手先から足先まで、頭から足先まで、全部が関連性をもってつながっていますので、手の不調や疲労は足や腰に影響し、足の不調は手や肩に影響を与えたりします。それが私たちの体の現実です。
 ここ、ゆめとわでは、そういう目で皆さんの体を観察しています。そして、できるだけ根本原因、つまり、ゆがみの大元の変調を探しだし、それを修正することで体を整えます。そうすることで自己治癒力が十分に発揮され、トラブルが自ずと解消されていくように施術を行っています。

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