2011.02.21
受け口(下顎の変位)について

 個性として下顎が三日月のようになっていることとは違って、最近、下顎が前に出ているような状態になっている人を多く見かけます。そして若い人そういう状態の人が多いのが気になっています。
 いわゆる「受け口っぽい」わけですが、その原因の一つとして姿勢の悪さがあげられます。“猫背”は悪い姿勢の代表ですが、私たちの体は構造的に猫背になると顎が前に出るようになっています。何かの作業をしているとき一時的に猫背になるというのであれば、それほど問題にすることでもないのですが、猫背が定着してしまい、骨格そのものが猫背になってしまうと、恒常的に下顎が前に出た状態になりますので、噛み合わせの問題も生じますし、歯並びにも影響を与えることになる可能性があります。
 今回はこのことにスポットをあて、猫背と受け口の関係について考えてみたいと思います。

 猫背の姿勢が招く、受け口(下顎の変位)
  ・パソコンを使う姿勢などが猫背をもたらし受け口になる
  ・腹筋の働きが悪くなると下っ腹が出て猫背になる
  ・奥歯で噛むことが少なく、そしゃく筋がゆるんでしまい下顎が前にでる
  

@パソコン使う姿勢などが猫背をもたらし受け口となる
 今は老若男女を問わず、パソコンを扱う人がとても増えています。
 ところで、パソコンを扱う姿勢はどうしても肩が前に出てしまい、首と顔が落ちて猫背の姿勢になりやすい欠点があります。さらに椅子に座っている時間が長くなりますと、背中も丸くなり、猫背が定着してしまう危険性が高まります。
 右の写真の右側は、猫背の人の首と顔の骨格の感じを表現したものです。首が前に出ますと正面を向くときに少し上向き加減で顎を突き出すような形になってしまいます。この状態を筋肉的な観点で見ますと、後頭部から首の付け根のあたりは少し上向き加減なので、筋肉を収縮させた状態(こわばり)になります。すると筋肉の拮抗関係(片面が収縮すると反対の面はゆるんで伸びる関係)から、首の前面、喉の上から顎の底にある筋肉や筋膜はゆるんで伸びた状態(ゆるみ過ぎ)になります。ですから、下顎は前の方に少しスライドすることになります。そして、この状態が今回取り上げている「受け口」の状態であり、原因は猫背の姿勢ということになります。
 パソコンや書きものなどに夢中になりますと、どうしても猫背になりがちになります。ですから、時折胸を張るような動作をして猫背の状態を解消するようにしましょう。骨盤の真ん中に仙骨という骨がありますが、椅子などに長く座っていますと仙骨が後側に寝てしまい、腰がグニャッとして背中が丸くなってしまいます。すると内臓も圧迫されるし、呼吸も浅くなります。仙骨が寝ないように、時々グッと前に押し出すようにして骨盤を立たせましょう。すると自ずと背筋が伸び、首も立つので顎が引かれ正しい姿勢が実現できます。腹筋が弱いと長くこの姿勢を保つことができませんので、やはり腹筋は少し鍛えなければならないでしょう。    動画:腹筋を鍛える運動



A腹筋の働きが悪くなると下っ腹が出て猫背になる
 右の図は姿勢のよい人(左側)と最近見かけることの多いタイプの猫背の人(右側)のシルエットです。
 このタイプの猫背の人の身体的な特徴をいくつか挙げますと、まず@お腹の下の方が前に出ています。そして、Aお尻が下がっています。それは主に腹筋の働きが悪いからです。腹圧を保つことができないため、背骨は腰の部分の前への弯曲が強くなり、それとバランスをとるように肩甲骨あたりの後への弯曲も強くなってしまい猫背となります。そして猫背の影響でB首が前の方に出てしまいます。
 つまり、下っ腹が前に出、尻が下がり、首が前に出るといった具合です。決して太っているというわけではないのに下っ腹が出ている人はこういうタイプでしょうか。
 そしてこういうタイプの猫背の原因は多くの場合、腹筋の働きが悪いことです。運動不足で腹筋そのものの筋力が低下しているか、お腹が冷えるなどして腹筋がゆるんでしまっているか、主な原因にはこの二つが考えられます。この場合、腹筋の調整を無視して肩甲骨周辺の猫背となっている部分だけを矯正しようとしても効果を期待することはできません。
 右側の人の腹筋をしっかりさせると左側の人のようになり、背筋がスッと伸び、首も立ってきて顎が自然と引ける状態になるというふうにこの図を見ていただければと思います。



B奥歯で噛むことが少なく、そしゃく筋がゆるんでしまい下顎が前にでる
 噛むことに関しては、これまでも幾度となく取り上げてきましたが、私たちの体にとって“そしゃく筋”は本当にとっても大切です。私たちは脊椎動物ですが、その中で、例えばヘビなどのハ虫類は食物を口に入れたら基本的に丸呑みしてしまいます。呑み込んでから強力な消化管が大きな食物を消化していきます。しかし、私たちほ乳動物はそうではありません。口の中で食物を噛み砕き、胃に送っても大丈夫な大きさまで口の中で細かくします。つまり“そしゃく”するわけですが、この行為によって体の生理機能にスイッチが入り消化・吸収・代謝という一連の生命活動が機能するような仕組みになっています。
 そしゃくに関して申せば、「奥歯で噛む」ことがとても重要です。米や麦など穀物を主食とする私たち人間の奥歯は、単純に顎を上下に動かして噛む歯にはなっていません。臼の形(大臼歯・小臼歯)をしていて、穀物をこねるようにして噛むようになっています。そしてそのために働く筋肉=そしゃく筋は四つありまして、下顎を上下・左右・前後・回旋に動かせるようになっています。ですから、そしゃく筋をバランスよく保つためには、「奥歯で穀物をよく噛んで食べる」ことが必要なのです。
 そしゃく筋の中で、下顎を後方に引く働きをするのは側頭筋です。側頭筋は側頭骨に付着していますので、側頭骨がずれていますと側頭筋の働きが鈍り、下顎が前に出てしまいやすいと考えることができます。
ゆめとわでの対応
 顎の問題は口腔外科の領域と考えられていますから、まずは歯医者さんなどに相談されることと思います。しかし、骨格的な形の上では上顎は頭蓋骨と一体になっており、後頭部から背筋〜背中など体の背面の影響を受けておりますし、下顎は首の前面から胸・腹部の影響を受けています。ですから、顎の関係を正しい位置に戻そうとする場合、全身との兼ね合いの中で上下の顎を捉える必要があります。鎖骨がずれれば間違いなく下顎はずれます。
 鎖骨に影響を与える腕や手や手指の状態はとても大切です。また、腹直筋や喉の筋肉や筋膜の状態もとても重要です。腹筋に締まりがあれば、自ずと背筋は伸びて顎が引かれる状態になります。お腹を冷やさないこと(腹直筋の深い部分の働きがポイント)は本当に大切です。

 こちらでは以上のような観点で体を点検し、施術を行っています。受け口っぽい咬合の状態を解消することはそんなに難しいことではありません。しかし、常によい状態を保つためには、本人の日々のちょっとした努力が必要です。咬合が悪い原因については指摘し、改善するための方法なども申し上げますので、あとは皆様の日常生活での実践によって完全に改善されることと思っています。


参考: 上顎は背中側で下顎はお腹側

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