O脚修正でのポイント①‥‥小殿筋

 「O脚は未来の変形性膝関節症予備軍」ということで、O脚はできれば直した方が良いですし、そうでなくても進行させないようにケアしてほしいと、これまで説明してきました。O脚がスタイル面でマイナス要素であるだけなら、それはたくさんある“O脚矯正”を宣伝文句にしている整体院や、あるいはO脚矯正グッズなどに頼ればよいと思います。その方が見栄え的にO脚が改善されたように見せるには即効的かもしれません。
 しかしながら「使い方によって、肉体は変化する」という原理原則みたいなものがありますので、使い方が変わらなければ外見的に矯正したとしても結局元に戻ってしまいます。
からだを修正するためには“使い方が変わる必要がある”ということを是非理解して、O脚の修正に取り組んでいただきたいと考えます。

 今回は、実際に毎週来店されております“O脚”、“変形性膝関節症”、“膝の痛みで歩行困難”の症状を抱えております後期高齢者の女性を例に、どのように考えて施術しているかを説明するとともに、O脚についての理解を深めていただければと思っています。

 その女性が来店されて2ヶ月ほどが過ぎました。この方はだいぶ前に、脊柱管狭窄症の手術を経験されていますが、慢性腰痛の状態は改善されていません。大きなコルセットを常時装着している状態です。そして1年前に左肩を骨折して手術をされました。手術後、病院でのリハビリを行っていましたが、腕の上がらない状態が残ったままになっていました。洗濯物を干すことや台所仕事がつらく、腕を動かすと痛みを感じる状態です。ですから当初の来店の目的は「左肩をどうにかして欲しい」というものでした。
 手術痕の影響についてはこれまで再三説明してきましたが、年齢的なこともあってか、手術して1年経っても肩周辺の筋肉と筋膜の状態が回復していない状況です。「関節がゆるんでいる」という表現になってしまいますが、肩関節で腕と肩(肩甲骨)がしっかり結びついていませんので、いわゆる五十肩のような状態であり、腕を思いのままに操作することができない状態です。それでも、施術を行い、私がしばしば使っているダイオードを適切に貼りますと、腕は上まで上げられるようになりますし、痛みも感じなくなりますので、私としては肩の問題は時間は要するもののやがて解決されていくと思っています。
 ところが、左膝はかなり酷い変形性膝関節症です。腰痛もあってか、歩行時に杖を手放すことはできません。室内のわずか3メートルくらいを歩くときでも杖を使わずにはいられません。

 ちょうど1年前に、私の母はリウマチによる変形性膝関節症がかなり悪化したために左膝の人工関節置換手術を受けました。現在、毎朝私が10分程度のマッサージ的リハビリを行っていますが、膝の状態は非常に良好です。今は普通に歩いています。往復2㎞くらいの買い物も杖など使わず毎日気持ち良くこなしています。
ですから、この女性にも「膝の手術を考えてはどうですか?」と話をしてみました。私の母と同等、あるいはそれ以上に膝の具合は悪いと感じたからです。ところが、脊柱管狭窄症と肩関節の手術の予後が思わしくないことからか、膝の手術に対しては気が進まないようです。
 そんなことから、現在は左肩のケアに加えて左膝の不具合を軽減する施術を週一度のペースで行っています。

変形性膝関節症の痛み
 膝関節の変形には、いわゆるO脚とX脚のパターンがありますが、日本人に多いのはO脚タイプの変形性膝関節症です。
 O脚の膝関節を骨格的に説明しますと、大腿骨に対してふくらはぎの骨(脛骨と腓骨)が外にはみ出ていて、更にふくらはぎの骨が内側に捻れており、立った時に小趾側に重心が掛かってしまうのが特徴です。
そして変形性膝関節症にまで進んでしまい、膝が腫れぼったくなり、歩くと膝の内側が酷く痛む人は、歩行時地面を蹴ろうとしますと膝関節でふくらはぎの骨が外側にグイッとずれる状態になっています。この、ふくらはぎの骨が外側にグイッとずれるとき、膝の内側の筋肉が引っ張られることになりますので強い痛みが発せられます。
 ですからO脚タイプの変形性膝関節症の進んだ人は、歩くときに膝が前に出て進んでいるというよりは、着地した後の膝下が横に拡がってしまい、その反動を利用してからだを前に押し出しているような歩き方になっているように見えます。つまり、膝が痛くて辛いのに、普通の人以上に膝に負担を掛けてしまうような歩き方になっているということです。

O脚状態を脱するためのポイント
 O脚は両膝の間が拡がってしまう“脚の形”が最も目に付きますので、その点ばかりに注目が集まりますが、修正しようとする場合はまず太股の出発点である股関節に着目する必要があります。人体の骨格模型を観察しますと、股関節から出ている大腿骨は膝に向かって内側に入った形をしています。男性に比べて女性は骨盤が広いので、なおさら内側に向かっています。
 まず何より、この内側に向かう角度がしっかり取れていることが最も重要です。股関節で大腿骨が垂直に近い角度で降りているようでしたら両膝が近づくことは不可能ですし、実際O脚の進んだ人はそのようになっています。


 私たちの下肢(脚)は真っ直ぐではありません。股関節から膝までの大腿は内側に向かっていき、膝で角度を変え垂直に地面に向かっていく形をしています。実際、大腿骨の股関節での関節面、膝関節での大腿骨と脛骨の関節面と骨の形はそのようになっています。
ですから、O脚を修正しようとする場合、人体模型のように股関節で大腿骨が内側に向くようにすることから始めなければなりません。

・小殿筋がポイント
 股関節で大腿骨を内側に引っ張っているのは短内転筋、長内転筋、大内転筋などの内転筋です。ですから股関節の角度を正しい状態にしようとする場合は内転筋を整えて大腿骨を内側に引っ張る力をアップするのが良いと多くの人が考えると思います。私もそう考えて長い間施術を行ってきました。


 ところが股関節の外側に大腿骨を外側に拡げる(外転)働きをする筋肉があります。小殿筋と中殿筋です。中殿筋は大内転筋と協働して殿部をしっかりさせ、お尻にエクボをつくってしっかりした立位を保つ働きをしていますので、大腿骨を外側に拡げる働きをするもののO脚の原因にはなりません。

 ですから小殿筋がとても重要です。小殿筋は股関節外側の一番深いところにある小さな筋肉ですが、股関節を安定させる働きをしています。
 そして施術者にとって重要なことは、この筋肉が肘関節の肘筋(ちゅうきん)、肩関節の棘上筋(きょくじょうきん)、膝関節の膝窩筋(しつかきん)などと連動していることです。肩関節で棘上筋がこわばっている人は肘が浮いて脇が空いたようなスタイルになっていますが、小殿筋も連動してこわばっていますので股関節で太股が外に開きやすいガニ股やO脚のスタイルになっています。
 そしてO脚の人の場合、内転筋群の働きよりも小殿筋のこわばりの方が現象化しやすいようで、大腿骨は外側に引っ張られてしまいます。そして大腿骨が外側に引っ張られていることに対抗しようとして内転筋群もこわばった状態になってしまいます。

 小殿筋がこわばった状態を修正しようとする場合、筋肉連動の仕組みを利用します。
私は先ず肘筋と棘上筋を確認します。
 肘筋は肘関節にある小さな筋肉ですが、上腕三頭筋と同様に肘を伸ばす働きをしています。そして関節にある小さな筋肉に共通していることですが、関節の運動や動作よりも関節を安定させる働きの方が優先事項になっています。小殿筋も含めて連動する肘筋、棘上筋、膝窩筋は関節の安定に働いている小さな筋肉です。
 例えば、上腕三頭筋の働きが悪くなったとします。すると肘を伸ばす動作がシャキッとしなくなりますが、同時に肘関節があまくなってしまい捻れなどを起こしやすくなります。肘筋はこの状態を許すことができませんので自らをきつく収縮させて肘関節の安定を図るようになります。この状態は肘筋が強くこわばった状態ですが、そうしますと棘上筋も小殿筋も連動してこわばった状態になってしまいます。
 棘上筋も肘筋と同様です。肩関節で肩甲骨(肩)と上腕骨(腕)を結び付けて関節の安定を保つ大切な働きをしていますので、腕や手の使いすぎなどで関節の筋肉があまくなりますと、棘上筋はこわばってしまいます。
ですから、肘関節を安定させ、肩関節を安定させるなどを行い、肘筋と棘上筋のこわばりを解消することが小殿筋のこわばりを解消する手段の一つです。

 もう一つの手段は、筋肉の拮抗関係を利用することです。
 お尻の筋肉を殿筋(でんきん)と呼びますが、殿筋には小殿筋、中殿筋、大殿筋の3つがあります。それぞれに役割がありますが、小殿筋と同じように大腿骨を真横(外)に開く(外転という)働きをする筋肉に中殿筋があります。


 本来、小殿筋も中殿筋も股関節を外転させるときに働きますので互いに協力関係にある協働筋(あるいは共働筋)です。筋肉の解説書などにはそのように記載されています。ところが、同じような働きをする協働筋は時に、拮抗的な性質になることがあります。
 例えば、先ほども説明しましたが肘筋や棘上筋がこわばった状態になりますと小殿筋もこわばります(収縮する)が、すると大腿骨(大転子)を骨盤の方に引き寄せます。一方、中殿筋も骨盤と大転子を結んでいますので、大転子が骨盤に近づいた状態では中殿筋がたるんだ状態になってしまいます。筋肉はたるんだ状態では上手く収縮することができなくなりますので、お尻がキュッとせずゆるんだ状態になってしまい、立位がシャキッとしなくなってしまいます。

 この理屈は反対からも成り立ちます。今度は、何らかの理由で中殿筋がゆるんでしまい、上手く収縮することができなくなったとします。すると本来は小殿筋と中殿筋の協働作業で大転子が正しい位置を保持できるようになっていたものが、中殿筋が役立たずの状態になってしまったので、小殿筋が中殿筋の分まで頑張らなければならなくなります。小殿筋はリラックスできずに常に緊張(=収縮)していなければなりません。つまり小殿筋がこわばった状態になってしまいました。
 この状態を解消するためには、中殿筋を整えてちゃんと働くことができるようにすることです。中殿筋の働きが戻ってきますと、小殿筋は頑張り続けている必要がなくなりますので、こわばり状態が解消されます。
そして、実際、このような状況がからだのあちらこちらで見受けられます。

 少し余談になりますが、殿部で一番大きく誰もに「お尻」と認識される筋肉は大殿筋ですが、この筋肉は階段や坂道を登ったり、椅子から立ち上がるったり、走ったりするときなど重力に対抗したり、殿部に強い瞬発力を要求されるときに活躍するということです。歩いたり、立位の姿勢を維持するときには大殿筋よりも中殿筋の方がよく働きます。
 立ちっぱなしの仕事をしている人は、太股とふくらはぎがパンパンになり、足もこわばった状態になりやすいのですが、それは中殿筋の働きが悪くなっている影響もあります。
そして「どう立ったら楽に立ち続けられるかわからない」と感じる場合は、骨盤を中心に立つことができず、足元の方に力をいれて頑張っている可能性が考えられます。これも中殿筋の働きが悪いことの影響です。
 中殿筋の働きを確認する方法として、「お尻にエクボ」をつくって立ち続けられるかどうかというテストを行うことがあります。中殿筋の働きが良ければ苦もなくお尻にエクボをつくることができますが、働きの悪い人は「どうエクボをつくったらよいのか、わからない」と感じます。
 そしてO脚の人は、このテストが苦手です。皆さん、中殿筋の働きが悪いのです。「お尻にエクボ??? 何それ?」って感じだと思います。
 そんな人には、両足のかかとをつけて、足先を開き、(男のように)逆「ハの字」型になり“気をつけの姿勢”になっていただきます。そして「お尻に力を入れてエクボをつくってください」とやってもらいます。すると少し意味を理解されるようになりますが、同時にお尻(中殿筋)に力が入るほどに両膝が寄ってきますので、O脚と中殿筋の関係を少し理解していただけるようになります。

 冒頭の話に戻りますが、今回膝の痛みの除去に取り組まれている高齢の女性は、腰部と肩部を手術し、体幹も肩関節も不安定ですので、肘筋、棘上筋、小殿筋のそれぞれが、連動関係だけではなくそれぞれの事情でこわばっている状況も重なっています。ですから、良い状態になるまで時間がかかってしまいます。3歩進んで2歩下がる、あるいは3歩進んで3歩下がってしまうこともあろうかと思いますが、ご本人も私も辛抱強く取り組んでいきたいと考えています。

 今回は小殿筋についての説明で終わってしまいましたが、膝窩筋がこわばっているために膝下が外に引っ張られ、尚且つ内側に捻れているために、歩行時の着地の後、膝が前に出てこないという問題も抱えています。さらに、足首や足も正常な状態ではありません。
これらのことにつきましては、この後、できれば続けて説明していきたいと考えています。