首と肩のコリ

 犬や猫など動物が肩コリを経験しているかどうかは知りませんが、私たち人間の多くは加齢に従って大なり小なり首や肩のコリを体験するようになります。そして、慢性的な首肩のコリで辛い日々を送っている人も少なくはないようです。

 首・肩のコリが辛くなった人は、湿布を貼ったり、温めたり、低周波などの電気をかけたり、マッサージをしたりなど、いろいろな方法で対処するわけですが、その中の一つとして私のところに来店される場合もあります。
 整体院での首・肩のコリへの対処法は「揉みほぐすことである」と多くの人は思っているかもしれません。確かにコリを揉みほぐすことは、気持良さも感じられますしコリも和らぎますので、有効な対処法の一つではあります。しかし実際には、揉みほぐすことだけでは、すべてのコリを解消することはできません。何故なら、皆さんが「コリ」や「張り」と感じているものは、専門的に見て幾つかの種類があり、それぞれに適切に対応しないと、それらを解消することができないからです。

 ここでは、幾つかある「コリや張り」の種類中から代表的なものについて取り上げてみます。

1.揉みほぐすことが有効なコリ‥‥内圧の高まった状態

 揉みほぐしたり、マッサージすることで得られる効果は一言で申しますと「詰まっている中身(老廃物など)を流し去る」ことです。
 どこに、何が、詰まっているのかということでは、筋肉の内部や筋肉とそれを包んでいる筋膜(被包筋膜)の隙間、あるいは皮膚の下にある筋膜(皮下筋膜)と筋肉との間に、停滞してしているリンパ液や老廃物が詰まっているという答えになります。それ故、筋肉や筋膜の内圧が高まってコチコチに硬くなったコリが生じてしまいます。
 普通は、子供達もふくめてすべての人にこの種のコリは存在します。それを「肩コリ」として不快に感じるかどうかは、その人の感度と、コリの強さによるものと思われます。「こんなにコリが強いのに」と思うのですが、本人は全然コリを感じていないという人も結構います。

 ところで、例えば細い血管は筋肉と筋肉の隙間などを通っていますが、筋肉の内圧が高まって硬くなり筋線維が太くなりますと、それは細い血管を圧迫することになります。動脈の細い血管が圧迫されて血流が弱くなりますと、細胞への新鮮な血液供給が減りますので生理機能が低下する可能性があります。また、首のコリが強くて脳に向かう血管が圧迫されますと、それは重大な問題を招く可能性につながりますので、心臓は血圧を高めて供給量が減らないように対処するのではないかと想像できます。そして、この状況は高血圧症になる原因の一つになり得ると考えることができます。

 ですから、指圧や揉みほぐしなどの方法で筋肉や筋膜を刺激して、内部に停滞している水分(リンパ液)や老廃物(炭酸ガスや細胞の代謝産物など)を流し去ることは、効果が一時的であるとはいえ適切で有効な手段であると思われます。
 低周波などの電気を掛けて筋肉を刺激することも同様な目的であると思われます。また温めることで筋肉はゆるみ、血流(静脈)やリンパの流れが良くなりますので、温熱療法もこの種のコリには有効だと思います。
 但し、冷湿布などで冷やすことは理屈に合いませんので有効とは言えませんが、「スッとして気持ち良く感じる」「痛みが引く」という面では意味のあることではあります。

2.筋肉の張りは揉みほぐしても効果が薄い‥‥筋肉の変調

 内圧の高まった「コリ」とは性質の違うものに「張り」があります。筋肉の張りが強くなった場合でも、普通の人はそれを「首・肩のコリ」と同じ類のものであると認識されるかもしれません。しかし施術を行う立場としましては、「コリ」と「張り」の違いを確実に区別する必要があります。

 一般的に「張り」といった場合は、筋肉や筋膜が緊張した状態、あるいは筋肉が縮む方向に力が働いている状態を指します。
 筋肉の主な働きは、自身を伸び縮みさせて骨格を動かしたり支えたりすることですから、からだの状況に合わせて筋肉は四六時中伸びたり縮んだりしています。ところが筋肉を使い過ぎたりしますと、縮んだまま伸びない状態になることがあります。これは筋肉の変調状態の一つですが、こわばった状態と私は表現しています。縮む方向にばかり力が働いている状態です。
 また筋肉は骨と骨を結んでいますので、骨と骨の間が広がった状態に骨格が歪みますと、間にある筋肉は引っ張られて突っ張った状況になります。筋肉は引っ張られますと、その力に反射的に対抗することになりますので、縮む方向に力を働かせます。ですから、この状況も筋肉にこわばりの変調状態を招いてしまいます。
 そして、筋肉は収縮しますと筋線維が硬く、太くなるという性質を持っていますので、張った状態(=こわばった状態)が強くなりますとコチコチに硬くなり、もっと太くなりますので、血管やリンパ管を圧迫してしまい血液やリンパの流れに影響をもたらすことになります。

 からだを鍛えている人の筋線維(筋肉)は太くなります。ですから、僧帽筋など肩の筋肉が大きくなっていますので相対的に首が短く見えるかもしれません。これは別に異常な状態でありませんが、からだを鍛えているわけでもないのに首が太く短く見えてしまう人もいます。その理由は、首肩の筋肉の張りが強くなっているからです。特に首は、筋肉の張りが強くなりますと、実際の太さよりもかなり太くなります。そして施術によって首の筋肉を整えますと、首が細く、長く、柔らかくなるのが実感できますが、それが本来の状態です。

 また、筋肉の張りが強くなりますと、それは筋肉が伸びにくい状態であるということですから、運動制限が生じます。後をふり向く動作などで、首だけでなく上半身も一緒に動かさないと動作ができないという状況であるならば、それは筋肉の張りが関係していると思われます。

 首や肩の筋肉の「こわばり」や「張り」を改善するためには、それらが筋肉の使い過ぎによって生じたものであるならば、揉みほぐしたり指圧することによって状態を良くすることができます。

 あるいは、筋肉連動の仕組みの結果、首肩の筋肉がこわばっている状況もあります。例えば噛む筋肉(そしゃく筋)は首の斜角筋と連動していますが、スルメや硬いものなどを噛みすぎたり、噛みしめる癖があったりしてそしゃく筋がこわばった状態になりますと、連動して斜角筋や胸鎖乳突筋もこわばり、首の張りが強くなります。このような場合は、施術する対象はそしゃく筋になりますし、骨格の歪みが原因で筋肉の張りが強くなっている場合は、当然骨化の歪みを修整しなければなりません。

3.体調不良による肩のコリ

 程度の差こそあれ、多くの人は首・肩がこっている状態だと思います。ところが、そのコリを自覚していない、あるいは気にしていない人も多くいます。
 しかし、そんな人が突然、肩のコリに辛さを感じることがあります。そして、マッサージをしてみたり、温めたりして対処するのですが、気持ち良くなるのはその場限りで、すぐに再び肩のコリが辛くなってしまうことがあります。
 おそらくその原因は、何かの理由で首と肩の筋肉に力が入ってしまい、こわばった状態になってしまうからだと思います。
(本人には力を入れている意識も自覚もありませんが)

 ところで、私たちのからだの中心部は骨盤・腰部・下腹部です。中心部の力やエネルギーが充実していますと、からだを十分に支えることができますので、顔や手や足から力は抜けます。首や肩からも抜けます。
 反対に、からだの中心部がエネルギー不足、力不足の状態になりますと、無意識ながら手足や顔や首肩に力を入れてからだを支えるようになってしまいます。普段、リラックスしている時でも、何となく軽く手を握っていたり、足指を曲げていたりする人は、このような人であると考えられます。

 また、お腹が冷えている人がたくさんいます。そのような人は胃腸の働きが悪くなる可能性が高いわけですが、同時に首肩に力が入ってしまい、そのコリを辛く感じてしまうことがあります。
 あるいは普段は胃腸の働きに問題はないのですが、体調を崩したなどの理由で胃の働きが悪くなりますと、同時に首肩のコリがとても辛く感じられる場合もあります。
 こんな時は一生懸命肩から力を抜いてリラックスしようとするかもしれませんが、残念ながらからだの仕組みとして、(意に反して)自然と首肩の筋肉が収縮状態になってしまうのです。
 ですから、解決策はお腹を温めることであり、胃腸の状態を改善することになります。足つぼへの刺激なども一つの方法です。

4.からだの歪みによる首・肩のコリ

 肩がズッシリ重たく感じて辛くなることがあります。肩コリだと思って肩を回したり、腕を上げたりして重みを軽減しようと試みても、肩の重みが増すばかりでちっと良くなりません。
 この状況は、腹筋や背筋が縮んでいて肩甲骨や胸郭(肋骨)を下に引っ張っていることが原因です。肩が下に引っ張られていますので、肩を回したり、腕を上げたりする動作は抵抗が強まってしまうために「重みが増した」感じがしてしまいます。
 肩甲骨の位置も本来よりも下がっていますので、首筋の張りは強くなります。ですから首を回す動作がしづらくなっているはずです。
 また、女性であれば、本来よりもバストの位置が下がっていますので気になっているかもしれません。

 筋肉で説明しますと、三つの腹筋(腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋)のどれかがこわばっている可能性が一番高いです。これらの筋肉は骨盤と胸郭を繋いでいますので、こわばってしまいますと、腹直筋であれば真っ直ぐ下に、外腹斜筋や内腹斜筋であれば斜め方向に胸郭を骨盤の方に引きつけてしまいます。
 腹直筋がこわばる要因の一つにお腹の冷えがありますが、それ以外ではすべての腹筋に手や足の使い方の偏りは関係します。
 ですから、このように腹筋のこわばった人を施術するときには、お腹の冷えによる影響を除去したり、手や手首、肘関節などを整えたり、足やふくらはぎの筋肉を整えたりして、腹筋がゆるんで胸郭が上がるようにします。

 また、背面では肩甲骨の位置を整える必要がありますが、肩甲骨を下に引っ張ってしまう最も多い原因は骨盤が後に傾いていたり下がっていたりすることです。外見では、お尻が下がっていて短足に見えるかもしれません。そしてこのようになってしまうほとんどの原因は足の使い方にあります。踵重心の状態ですとふくらはぎの裏側が常に突っ張って重たくなっていると思いますが、そんな人はお尻とふくらはぎの境あたりは頼りない状況でゆるんいるために、骨盤が下がった状態になっていると思われます。
 ですから、特に下半身をしっかり整えて、骨盤の後傾が改善され、立った時に「お尻にエクボ」ができるような状態になるよう整えますと、自ずと肩甲骨の位置も上がります。


 単純な「首・肩のコリ」に関しましては、以上の4つのパターンのどれかか、あるいは複合したケースがほとんどだと思います。
 その他に五十肩など肩関節に問題があったり、頚椎や背骨に歪みがあって、その影響で首・肩の筋肉がこわばってしまい「コリ」を感じている場合もありますが、それらはそれらで別々に対処する必要があります。

 私のところでは、首肩のコリで来店された人に対しては通常60分コースを選んでいただいています。その内容は、最初の15~20分を首肩の揉みほぐし、次の15分位をふくらはぎと足への施術、そして背中への施術、残りの15~20分を両手・両腕、余裕があれば頭部への施術を行うという感じです。
 つまり、首肩のコリに対しても必ず全身を施術しているわけですが、その理由は上記に説明させていただいた通りです。そして、症状が強かったり、施術する場所が更にあると考えられる場合は、80~90分のコースを選んでいただくとよいと思います。