腰痛を症状別に考える (1)

 腰痛の方を施術するに前にお尋ねすることがあります。
 「いつから痛いのですか? 何かのきっかけで痛くなったのですか?」
 「どんな動作が辛いですか?」
 「脚にシビレやだるさはありますか?」

 一般の人は「腰が痛い」というひとくくりで症状を訴えてきますが、腰痛にもいろいろタイプがあります。それを見間違えると施術がとんちんかんなものになりますし、原因を修正しなければ、一時的に症状は軽快したものの「時間が経つと戻ってしまう」という結果になりかねません。
 今回はこのお話しをさせていただきます。

腰痛を症状別に考える

@急性の腰痛は筋肉や筋膜を損傷している可能性が高い

 運動や作業をしていて、明らかにギクッとしたという自覚がある場合は「ギックリ腰をしてしまい‥‥」と言ってこられます。しかし筋肉を傷めたという自覚がないまま、“軽いギックリ腰状態”という場合もたくさんあります。
 筋肉や筋膜を傷めた場合の一番の特徴は、“力が入らない”、“力が必要な動作で痛みが生じる”というものです。
 「朝、ベッドから起き上がるときが一苦労」「長く椅子に座っていた後、立ち上がろうとすると痛い」というのは、ご本人にはギックリ腰の自覚がなくても、骨盤の中心部(仙骨・尾骨部)あたりの筋膜を傷めてしまっている可能性が高いです。
 筋肉の働くシステムは非常に巧みにできていまして、何かちょっとした動作をするのにも様々な筋肉が連動し合い、補い合って、その動作が自然に苦もなくできるようになっています。その連動し合う筋肉のどれかにちょっとでも傷がついてしまい、その部分が収縮できない状態になってしまいますと、簡単な動作すら痛くてできなくなってしまいます。腰は体の動作の要ですから、そこに傷がつくと全身の力が発揮できなくなってしまいます。重いギックリ腰を患うと、呼吸することすら辛く感じてしまうようになってしまいます。

損傷部分の回復がポイント
 さてこのような場合は、何よりも傷ついた部分が回復するようにしなければなりません。その傷は外からは見えませんし、本当に小さいな傷だと思いますので、見つけるのが少々手間取ります。おそらく1oとか2oとかの大きさだと思いますが、その部分をピンポイントで施術しなければ意味がありません。周りの骨や筋肉の状態を確認しながら、その場所を特定して施術するという作業が必要になってきます。(ここで傷と言っているのは、筋肉や筋膜が伸びてしまい力が発揮できない状態も含みます)

 この考え方以外に、このギックリ腰状態を劇的に改善する方法はないように私には思えます。ギックリ腰を治療する手段には、温めたり、冷やしたり、電気(低周波)をかけたり、光を当てたり、揉んだり、指圧をしたり、骨をボキボキしたりと、いろいろな方法があるようですが、それらに即効的効果を期待することは難しいと私は考えます。傷が回復するのを自然治癒力に任せ、その期間、症状が和らぐようにする効果しか期待できないのではないでしょうか。

 当院では、 実際、ギックリ腰や原因が筋・筋膜の損傷である急性のものに関しては、ほとんどが短期間で改善しています。傷が小さく浅いものであれば1回の施術で終わってしまうことも多々あります。
 但し、この見えない傷を修復する方法は私が行っている施術以外にもいくつかあると思います。私も傷が深く大きいと判断しますと、体内の電気の流れを整える意味で、ダイオード(電気部品:整流器)を傷の部分の皮膚に貼り付けて筋肉が働けるようにする場合があります。

慢性化した場合
 上記の急性腰痛も痛みや違和感を我慢して使い続け、時間が経ってしまうと慢性化してしまいます。すると話は少し変わってきます。体は体内の筋肉のどこかに弱点があると、それを他の筋肉の働きで補助するように変わっていきます。そしてその状態で時間が長く経ちますと、その人にとってその状態が固定化するようになります。筋肉や骨格のバランスが本来のものではなく別な状態になってしまう、つまり、骨格が歪み筋肉がアンバランスな状態であることが普通の状態になってしまうということです。
 すると単に傷を修復するだけでは駄目で、他の筋肉のバランスを整え、骨格の歪みを調整しなければならないという作業が必要になります。実際、固定化してしまったものというのは修復や調整にある程度の施術と時間が必要になってきます。また、アンバランスな状態で筋肉を使い続けていたため、ピンポイントではなく、疲弊した範囲が拡がってしまっている場合が多く見受けられます。こうなってしまうと施術にも時間がかかるようになります。
 「2年前に激しく尻もちをついてしまい、それ以来腰痛と坐骨神経痛に悩まされ、病院に行ったり治療院も何軒か行ったがなかなか良くならなくて‥‥」という人がいましたが、尻もちをついて損傷してしまった尾骨部以外にも骨盤を正しく支える幾つかの筋肉が疲弊していて、それを回復するのに時間がかかり、よい状態になるまで月2回程度の来店で半年くらいかかりました。
 慢性化したものでも、(骨格の歪みではなく)骨そのものの変形がなければ、必ず元の状態に戻ると考えています。また、骨そのものがある程度変形してしまったり、軟骨がすり減ってしまったものでも、定期的に来店されるつもりであれば、症状をかなり緩和することは可能だと考えています。
A真っ直ぐに立つことや背中を反そることがしづらい

 この場合は、まず二つに分けて考える必要があります。一つは背骨が真っ直ぐにできない腰骨や骨盤、背中の筋肉に原因がある場合。もう一つは、多くの人がほとんど頭に浮かばないようですが、お腹の筋肉が伸びない場合です。腹筋がこわばっていて伸びないため、立ち姿にしなやかさがない人は意外に多くいます。

背中の筋肉や腰骨、骨盤に問題がある場合
 例えば、うつ伏せになった状態で頭を上げ背中を反るとします。この時、筋肉で言えば、背中側の筋肉が収縮することになります。この動作で働く背中の筋肉には幾つかありますが、そのうちの一つでも上手く収縮することができない部分がありますと、反ろうとしてもそこがつっかえてしまい、それ以上反るとその部分が痛むように感じます。
 また、反る動作を背骨(24個の脊椎の連続)の動きで観察しますと、一つ一つの脊椎が下を向く運動ということになります。このときどれかの脊椎が下を向くことができなければ、反る動作がその部分で途切れてしまうためできなくなります。首を持ち上げるだけでも痛いなら頚椎に問題があるのかもしれません。胸のところで痛みを感じるなら胸椎、反る動作の最後の部分で痛むなら下位腰椎の問題と考えることができます。
 実際、腰が痛くて真っ直ぐに立つことや体を反らすことができない時は、腰椎に問題があることが多いのですが、この腰椎は仙骨とパッケージで考える必要があります。仙骨が下がってしまう、つまり、お尻が下がってしまうと腰椎は上に動いてしまうので、反ることがしづらくなります。自分の手で仙骨部を持ち上げてみてください。それで反る動作が大きくできるようになるなら、仙骨が下がっていることが原因であると考えることができます。
 仙骨が下がってしまう理由はいくつもあります。運動不足で脚の筋肉が衰えているというのも考えられます。普段の姿勢、とくに座り方が悪く、坐骨ではなく仙骨や尾骨部で座っていたりする人は多いです。ギックリ腰などをした経験があって、その部分が完全な状態ではなく仙骨部が下がったままの人もいます。さらに次に取り上げます腹筋がこわばって収縮しているため、恥骨部が上がるように骨盤が回転しているため仙骨部が下がって後側に動いている場合などもあります。

お腹の筋肉に問題がある場合
 お腹の筋肉がこわばっていて伸びが悪い人は最近は多いです。特に若い人に多いです。
 私たちは他の動物と違って二足で立つことができます。そのためには背骨を地面に対して垂直にキープするわけですが、筋肉の働きに置き換えますと、腹筋と背筋の丈夫さとバランスによって、きれいな立位を保つことができると考えることができます。
 パソコン作業が多くなった弊害、あるいは携帯ゲームや電話、スマホなどの影響かもしれませんが、肩や腕を前に出して背中を丸める姿勢が多くなりました。つまり背中側の筋肉はいつも伸ばされていて、反対にお腹側の筋肉は縮んでいる状態が多くなったということです。これだけでも、腹筋がこわばってしまう要因になりますが、さらにお腹が冷えている人がたくさんいます。特に若い女性にはそれが目立つように感じます。「お腹を冷やしてはいけない」という昔からの智恵に対して無頓着な人が多いのかもしれません。
 冷えとお腹の筋肉がこわばる関係性を考えてみます。例えば、寒い冬の夜、寝床に入っても最初のうちは寒さを感じるため、私たちは体を丸めたくなります。それは、丸まることによって外気と触れる面積を減らし、自分の熱を外に出したくない、あるいは自分のお腹の熱を利用して温まりたいという自然な反応です。つまり“抱え込みたい”という心理の現れです。反対に夏の暑い夜にはバンザイに近い恰好で子供達は寝ます。自分の熱を放出したいという現れです。単純に言いますと、自分に熱が余っている場合は伸び伸びして放出したい、熱が足りない場合は丸まって熱が出ていかないようにしたい、ということでしょうか。これを筋肉の働きに置き換えると、冷えていて熱が足りない場合は腹筋を縮めているということです。
 腹直筋は肋骨と恥骨を結んでいます。腹直筋が縮むということは、肋骨と恥骨の間が狭くなるということであり、胸(肋骨)は下がり、恥骨は上がるという状態になります(こういう人は、往々にして胃のあたりの腹筋がこわばって硬く太くなるため、胃を圧迫しています)。恥骨と仙骨は骨盤において表と裏の関係にありますから、恥骨が上がるということは、仙骨が下がり、さらに骨盤自体が後に傾くということになります。これだけで尻が下がったスタイルの悪い状態になります。

 腹筋がこわばる理由は他にもあります。歩き方、手の使い方も影響します。それらについては別の機会に説明しますが、いずれにせよ腹筋がこわばって伸びが悪くなると、真っ直ぐに立つ姿勢ができなくなります。なんとなくいつも前に少し前傾しているような感じで、反ると痛みを感じると思います。
 お腹は伸びやかにして欲しいといつも思います。お腹が伸びやかであれば内臓の働きも良くなるでしょうし、スタイルも良くなります。

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