肩関節の痛みについて(肩関節周囲炎など)

 私たちのからだは加齢にともなって不調や不具合を抱えるようになりますが、その代表的な症状の一つに四十肩、五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎があります。
 この症状は軽微なうちは、肩を回す(腕を回す)と音がしたり、引っ掛かりや違和感を感じる程度のものですが、状態が悪化しますと腕が上がらない、腕が後ろに回らないなど、腕の動作ができない状態になります。そして、さらに症状が重たくなりますと、じっとしていてもジンジン痛みを感じたり、腕を抱えていないと辛くて耐えられない、ただ寝ているだけでも痛くて眠れないなどの状態になってしまいます。
 腰痛や膝痛や他の症状も同様ですが、症状が軽微なうちに適切に対応しますと症状を悪化させることなく速やかに状態は改善しますが、症状があるにも関わらず無理に動かしたり、負荷を掛け続けたりしますと状態はどんどん悪化していきます。

 肩関節の不具合で犯しやすい過ちは、「なんとなく肩関節がずれているように感じてしっくりこないので、腕や肩甲骨を何度も回してしまった」というものです。気持ちはとても理解できますが、こうすることで筋肉に無理が掛かり、肩関節のずれが大きくなってしまう道を進んでしまいます。

肩関節の不具合は骨格の歪みから始まる

 私たち人間の肩関節は他の四つ足動物に比べると遙かに大きな可動域を持っています。そして股関節よりも肩関節の方がとても大きく動かすことができるわけですが、それは反面、腕(上肢)と体幹との接続があまくなっているということでもあります。実際、骨性の関節があるのは鎖骨と胸骨の関節(胸鎖関節)だけです。ですから肩甲骨の動きも含めて肩関節は歪んで不具合を生じる可能性が高いということになります。

 さて、肩関節を形成している骨格は、肩甲骨と鎖骨と上腕骨です。ですから肩関節の不具合では、まずそれらの骨の状態を確認するところから作業が始まります。これは整形外科でレントゲン撮影をして「骨には異常がありません」というのとはまったく異なりまして、三つの骨がどのような歪み方をしているのかを確認する作業です。
 次に肩甲骨と体幹、鎖骨と体幹との関係を確認します。私たちが腕を挙上するとき、水平近くまでは肩関節の動きだけで可能ですが、それ以上高く、真上まで腕を上げようとしますと肩甲骨を大きく回旋させなければなりません。肩甲骨の動きが制限されているような状態では満足に腕を上げることや、腕を後ろに回すことはできなくなってしまいます。そして同様の意味で鎖骨の状態を観察します。

 ところで、これら上腕骨、肩甲骨、鎖骨を歪め、動きを制限している主な犯人は筋肉です。脱臼などの経験がある場合は靱帯の状態も気になるところです。
 上腕骨や肩甲骨や鎖骨に付着している筋肉がアンバランスな状態になっているのでこれらの骨格が歪んでしまい、肩関節本来の動きができなかったり、腕(上腕骨)をしっかり保持することができず、いわゆる四十肩や五十肩という状態になってしまいます。ですから肩関節の不具合を修正する施術では、手と腕、首、胸と背中の筋肉を整えるという作業が大半になります。

上腕骨と鎖骨の関係

 上腕骨を鎖骨につなげている筋肉には三角筋(前部線維と中部線維)と大胸筋(鎖骨部)があります。実際、肩関節の不具合や肩関節痛で気になるところは、鎖骨と上腕骨の間の距離です。三角筋前部線維の働きが悪くなっている場合、鎖骨と上腕骨の距離が離れた状態になっていますが、この状態では腕を上げる動作の初期の段階で痛みを感じ、腕を上げたり、腕を上げた状態を保持することができなくなります。大胸筋鎖骨部の働きが悪くなっても同じような状況になりますが、打撲をしたなどケガによるもの以外では、あまりそのようなことは目にしません。
 また、鎖骨自体が上にずれたり、反対側に引っ張られていて上腕骨と鎖骨の距離が離れていることもあります。

肩関節痛への考え方と対処

 肩関節に違和感や痛みを感じたときの対処はどうのようにするのが良いのか? 
 四十肩や五十肩になって3ヶ月以上経過している、肩関節の痛みが慢性化してるといった場合は除いて、肩関節に違和感や痛みを感じたときの対処法について説明します。

 まず肩関節痛になった原因が、肩を打撲した、腕を引っ張られた、脱臼や亜脱臼をしたなど、ケガによるものであるならば、すぐに対処をするのが適切です。救急処置としては冷却し、骨折の心配があるのなら速やかに整形外科を受診してください。
 ケガによるものではなく、きっかけもハッキリしないのに何となく肩関節周囲に違和感を感じ、「しっくりこない」と思われるような状況、あるいは肩(腕)をまわすとゴリゴリしたり、少々痛みを感じるようになったのであれば、とりあえず何もしないで1週間ほど様子を見ることをお勧めします。からだの骨格が歪んだことによって肩関節にそのシワ寄せが現れたのかもしれません。そうであれば、1週間ほど待っていればからだの歪みも自然に修正され、肩関節の状態も自ずと改善すると思います。但し、この状態の時に注意していただきたいことがあります。それは肩関節に違和感や不快感を感じたとしてもグルグル肩(腕)を回したり、ストレッチを度々行ったりしないことです。そのようなことをしますと状態が悪化する恐れがあります。「そのままじっとしていれば、元の異常のない状態に戻れたのに、激しく動かしたことによって炎症おこり、四十肩や五十肩状態に突入してしまった」ということが起こり得ます。そして実際、そういう人がけっこういます。

 きっかけも原因も覚えがないのに肩関節に違和感や不具合を感じ、1週間程放置していても状況が良くならないのであれば、それは何らかの理由で肩関節の歪みが固定化してしまったか、肩甲骨や鎖骨及び関係する筋肉の状態がおかしくなっている可能性があります。しかしながらまだ「慢性化している」という状態にはなっていませんので、適切に調整することですぐに状態は改善すると思われます。信頼のできる整体院や治療院にいかれることをお勧めします。(整形外科は微妙です。整形外科の薦めるリハビリは適切でない場合もあって、状態を悪化させることもあります。)

肩関節痛の3つの段階

 「五十肩(四十肩)になったら治るまでに1年半~2年くらい掛かる」というようなことを聞くことがあります。巷では定説のようになっているのかもしれません。しかしながら実際に業務に携わっている私は、全然そんなことは関係ないと考えています。
 肩関節に異常を感じたときにまず考えなければならないことは、何よりも「状態を悪化させない」ことです。私たちは日常生活の中で思いの外、手や腕や肩をたくさん使っています。肩関節に問題がないときは実感がありませんが、肩関節痛になって腕が動かしにくい状態になりますと、そのことが実感としてよく解ります。つまり肩関節をとても頻繁に動かしていますので「肩関節の異常は悪化しやすい」ということになります。
 膝や腰が痛くなったときは「しばらく立ち仕事や歩くことは控えておこう」などと対応することができますが、「しばらく手を使うのは止めておこう」ということはできないのが実状です。ですから繰り返しになりますが、肩関節の異常は悪化しやすいので、悪化させないように心がけることが大切です。
 こう申し上げた上で、肩関節の異常や痛みは3つの段階に分けられ、それぞれの段階で適当と思われる対処法を行ってください。

1.異常が軽微で、違和感や軽い痛みを感じる程度の段階

 なんとなく腕のつけ根(肩関節)に違和感や重苦しさを感じる。じっとしていると肩関節の収まりが悪いように感じるので、ちょいちょい動かしてしまう。可動域に問題はなく腕の動きにも問題はないのだけれど大きく動かすと痛みを感じる。あるいは、腕の動かし始めだけ痛みを感じる。これまでは背中で両手を触ることができたのに、どちらかの手が届かなくなってしまった。
 このような状態は、肩関節異常の軽微な段階、初期の段階です。
 例えば、日々業務でパソコン入力をたくさんしている、マウスをたくさん使っている、というような人は肘が捻れていて手指が疲労したりこわばっていますので、その影響が肩に及んでこのようになっている可能性があります。あるいは噛み合わせや歯ぎしりや片噛みの影響でからだが捻れ、その歪みが肩関節に及んでいるのかもしれません。
 このような状態は好ましいものではありませんが、(肩関節がおかしいことで)肩や首のコリを感じるかもしれませんが日常生活にそれほど支障がでませんので「放って置いても大丈夫だ」という段階ではあります。
 但し上述しましたように、肩関節の違和感が気になって、あるいは首や肩のコリが気になって一生懸命ストレッチをしてみたり、肩を頻繁に回したりしますと、状態を悪化させて次の段階(四十肩、五十肩)に進んでしまう危険性があります。
 「テレビで肩関節を快適にするための運動を紹介していて、それを毎日やっていたら痛みが増してきた」というような人もいます。
 違和感や軽い痛みは筋肉が発するものですが、それは肩関節が歪んでいて、ある筋肉に負担が掛かっているからです。その筋肉は肩関節を保持するために緊張状態にありながらも一生懸命耐えて頑張っているのですが、そこにさらに負荷をかけるようなストレッチや運動を強いますと、耐えきれなくなって損傷状態になってしまいます。すると肩関節はそれまでとは違ったバランスになってしまいますので、「動かすと痛い」「手が上がらない」などの症状が現れます。

 「痛み」は「それ以上伸ばさないで!」という筋肉からのサインです。ストレッチや肩の運動は痛みの出ない範囲で行ってください。そして、そのような運動よりも前腕(肘から先)の筋肉のストレッチや手指の筋肉を揉みほぐした方が効果的だと思います。

2.四十肩、五十肩と呼ばれる段階

 「腕が上がらない」「腕が後ろに回らない」「腕を動かすと、腕のつけ根や肩が痛くなる」など肩関節の運動制限や顕著な痛みを感じる段階は、いわゆる四十肩、五十肩と呼ばれる段階です。
 こうなりますと、自然治癒は難しくなります。巷でいわれる「1年半くらいすれば治る」というのは、実際には状態が治っているのはなく、関節や骨格は歪んだままなのですが、付着している筋肉が「耐性ができた状態になった」ということであり、それまでに1年以上の時間がかかるということです。もっと平たく申しますと「ずれてしまった肩関節や肩甲骨(=変化した体型)に筋肉が馴れるまでに1年以上かかりますが、それで痛みは消えます。」ということです。痛みは感じなくなりますし、日常生活での動作も大丈夫になりますが、肩甲骨や腕の動きは正しくありませんので、軽快で快適な動作は戻っていません。
 
 さて、このような状態を本来の快適な状態に戻すためには、整体的な手法が必要になると思います。整体的な手法といっても骨格をバキバキッ鳴らしながら直接動かすような方法ではありません。それはやってはならないことです。
 からだの使い方によって、筋肉には硬く固まってしまったような部分(こわばり)や使いすぎて疲弊し、腑抜けになって伸びきってしまったような部分ができますが、そのようなもので骨格は容易に歪みます。歪みはじめの頃であれば、上記の1.で説明しましたように休養することで筋肉の働きが元の状態に戻りますので、自ずと関節や骨格の歪みも解消されます。
 ところが歪んだ状態でさらに使い続けていますと筋肉に無理が掛かり続けることになりますが、それによって痛みが生じます。そして、痛み止めなどで痛みを感じないようにして、さらに同じように使い続けていますとやがて筋肉に耐性ができるようになって痛みを感じなくなりますが、この時の筋肉は本来の在り方とは違った状態になっています。それは半ば形状記憶のように頑固な状態であり、もはや「時間の経過とともに自然に元に戻る」といった状態ではありません。それは何十年経っても元の状態に戻ることはありません。ですからこのようになってしまった筋肉を元の本来の状態に戻すためには、積極的なアプローチが必要になります。そして、それが私の申し上げる「整体的手法」という意味です。
 つまり、「四十肩や五十肩になったとしても1年半くらい経てば痛みは消えますし、日常生活に支障のない状態には戻りますが、それで十分に治ったということではありません。肩関節周囲はアンバランスな状態のままですので、からだの他の部分(膝など)がおかしくなっているかもしれません。この状態を解消するためには肩関節周囲の筋肉を本来の在り方に回復させる必要がありますし、そのためには整体的手法が必要です。」と私は考えています。

3.じっとしていても耐えがたい‥‥重症な状態

 例えば肩関節で腕を脱臼しますと、(大人であれば)それはとても痛いものですし、その後、腕を抱え込んでいないと耐えられない状態になります。そして五十肩(四十肩)も状態が悪化しますと、これと同じような状態になってしまいます。
 「ただ座っているだけでも腕のつけ根あたりがジンジンしてきて耐えがたくなる」「反対の手で腕を抱え込んでいないと痛くて痛くて」「夜寝ているだけでも腕がジンジンしていまい目が覚めてしまう」などという状態になっているのであれば、それは重症です。

 ここまで症状が悪化しますと施術者として、とても慎重に対応しなければなりません。まずは痛みを感じない状態にすることが第1の目標です。夜ゆっくり眠ることができるようになることから始めます。そして次に普通に座っていられるようになること、腕を抱えていなくてもじっとしていられる状態になることを目指します。
 このようになってしまう一番の理由は、筋肉や靱帯が疲弊したり損傷した状態になってしまったために肩関節に上腕をしっかり保持しておくことができなくなってしまったからです。つまり、腕が肩からぶら下がったような状態になっているために、周囲の筋肉が全部強い緊張状態になってしまい、ジンジンしてしまうのです。肘や手先まで痛みを感じたり、シビレを感じたりすることもありますので、整形外科では「頚椎が‥‥」と診断されるかもしれません。しかし、過去の経験で申しますと、単に肩関節が亜脱臼状態になっているからだと言えます。そして、もっとも多い原因は肩甲骨と上腕を繋いでいます肩甲下筋(けんこうかきん)が伸びた状態になっていることです。野球の投手が「肩を壊す」ときに一番多いのが肩甲下筋の損傷ですが、腕を引っ張られたときに抵抗する筋肉であり、引っ張られる力が強いと損傷してしまう筋肉です。
 
 五十肩状態なのに無理を重ねていますと肩甲下筋に負担がかかり疲弊した状態になりします。あるいは、犬との散歩などで、予期しないところで不意打ちをくらったように突然腕を強く引っ張られますと、一瞬にして肩甲下筋が伸びてしまうこともあります。
 この筋肉は肩関節の非常に深いところにあるインナーマッスルですが、施術でアプローチしようとする場合、ある程度腕を上げた状態にしないと触ることができません。ところが重症状態になってしまった人は、腕をちょっと動かしただけでも痛みを感じますので、とても肩甲下筋に触れる状況ではありません。それが施術者としてとても苦労するところです。
 肩関節の亜脱臼状態(=腕と肩の間が離れて腕がぶら下がった状態)を改善するためには肩甲下筋の状態を改善しなければなりませんが、その肩甲下筋には手が届かない、そんな苦労です。

 さて、このように重症化した肩関節痛の人に対しては、なんとか3回くらいの施術で、夜ゆっくり眠れるようになっていただければと考えています。そして、その状態にまでなりますと、ある程度腕は動かせますので肩甲下筋にも手が届き、いろいろな施術ができるようになります。そして、上記2.の段階まで戻して、着替えがある程度不自由なく出来るようになったり、洗濯物の干すのはまだ辛いしシャンプーやドライヤーも辛いけどその他の日常生活はできるようになった、といった順序で改善むけて進めていきたいと考えています。こうなるまで1ヶ月くらいの時間はかかるかもしれません。
 

 
 以上が肩関節痛や肩関節周囲炎に対する当方での整体的考え方と施術の概要です。
 対応を間違えますと、上記の1.→2.→3.へと状態が悪化していきますの軽い肩関節の違和感であったとしても注意深く対応していただきたいと思います。そして、3.の状態になってしまった人は、まだまだ我慢と忍耐が必要ですが、3.→2.、そして2.→1.→改善と段階を一つずつ戻るように考えてください。改善を焦りますと注射とか不適切なリハビリ運動などを行うようになり、逆効果になる可能性もあります。
 そしてまた、1.の状態に戻ると痛みも感じなくなりますので、「これでいいや」と思ってしまう人がほとんどですが、肩関節の歪んだ状態は解消されていませんので、その歪みは必ず別の場所に不具合をもたらします。肩と膝は密接な関係がありますので、いつまでの膝の内側の痛みが残ってしまう可能性もあります。ですから、最後まで直していただきたいと考えます。
 
 また、この肩関節周囲炎の他に肩関節のトラブルとして石灰沈着性腱板炎や肩腱板断裂と診断される場合がありますが、これらは程度次第ですが、整体的手法で対応することもできます。私の考え方として、なるべく手術はしない方が良い、注射針を筋肉に刺すこともなるべく少ない方が良い、というのがあります。皮膚や筋膜や筋肉に傷をつけることは、それだけでハンデを背負った状態になりますので、避けられるなら避けていただきたいと思っています。
 過去に、何十回も腕に注射針を刺されたがために、それで筋肉の働きが悪くなり、当初は石灰沈着性腱板炎だったものが重度の四十肩に移行してしまった人がいました。ご自分のからだのことですから、十分に注意深くあってください。