甲状腺の反射区‥‥喉、お腹への影響

のど仏の位置は、飲み込み(嚥下)、腹筋、膝の力と密接に関係している

 食欲不振、胃の不調や炎症や不快感、消化不良、逆流性食道炎など消化器系の調子が乱れやすい人がいます。また、咳に悩まされたり、喉の調子が悪かったり、食物や水分の飲み込みや嚥下がスムーズにいかない人もいます。
 耳鼻咽喉科で喉を診てもらっても特に異常はない、胃カメラで検査しても胃に異常は認められない‥‥、しかし明らかに喉や消化器系の調子が悪い場合があります。
 また、腹筋が使えないのですぐに腰が痛くなってしまったり、床から立ち上がるのが辛かったり、階段を下るのが苦手だったり痛みを感じたりする人たちもいます。

 喉や消化器系のことと、腹筋や膝の力とどんな関連性があるのかと思われる方がほとんどだと思います。ところが、整体的観点で喉周辺に注目しますと、それらに強い関連性があることがわかります。今回はこの説明をしたいと考えています。

喉の働きに関係する骨格筋‥‥胸骨甲状筋と甲状舌骨筋

 水分や食物を飲み込む嚥下動作のときに喉は上下に大きく動きます。また鼻や口を通して吸い込んだ空気は喉(喉頭)のところで通路を分けられほぼ正確に気管に入りますが、食べたもの(食塊)はほぼ正確に食道へと向かっていきます。
 この嚥下動作において空気と食物の通り道を分ける働きをする筋肉や組織は内臓系ですが、喉(甲状軟骨)を上下に動かす筋肉の主体は手や足や骨格を動かす筋肉と同じ骨格筋になります。
 私たちが通称名として「のど仏」と呼んでいるところを専門用語では喉頭隆起と言いますが、軟骨になっている部分を甲状軟骨と言います。
 嚥下動作では甲状軟骨が上下に大きく動くわけですが、それは甲状軟骨につながっている上と下の筋肉が収縮したり弛緩伸張することによって行われます。そして甲状軟骨を上方に引き上げる働きをする筋肉を甲状舌骨筋と言い、下方に引き下げる働きをする筋肉を胸骨甲状筋と言います。

 甲状舌骨筋、あるいは胸骨甲状筋のどちらかが硬くこわばっていたり、あるいは反対にゆるんで働きが悪い状態になっていますと、甲状軟骨の上下運動がスムーズにできなくなりますので嚥下動作に不具合が生じます。

 今回は甲状腺と喉の動きに関することがメインテーマですから、甲状腺の状態と甲状軟骨の動きについて私の見解を説明いたします。
 甲状腺の病気として橋本病(甲状腺機能低下)とバセドウ病(甲状腺機能亢進)がありますが、特に甲状腺機能が亢進状態と思われるとき、甲状腺は大きく腫れた状態になっています。甲状腺は甲状軟骨と胸骨の間にありますが、甲状腺が腫れた状態になりますと胸骨との間の隙間が消えて喉の下の部分が鎖骨の方に迫るようになることが多いようです。そしてその部分に圧を掛けると「気持ち悪くなる」などの不快感を感じる場合が多いようです。
 さて、甲状腺がこのように腫れてしまいますと、甲状軟骨の上下運動にかかわる胸骨甲状筋はスムーズに動かなくなってしまいます。つまり、スムーズな嚥下が行えなくなってしまいます。さらに、大きくなった甲状腺は胸鎖乳突筋の状態にも悪影響を及ぼしますので、それによる別の問題も生じる可能性があります。
 胸鎖乳突筋の深部線維である鎖骨頭が影響を受けてこわばりますと、眼圧や目の見え方に悪影響が及ぶ他、歯ぎしりや噛みしめの癖をもたらす可能性もあります。
 (また胸鎖乳突筋鎖骨頭や棘上筋がこわばりますと、筋肉の連動関係で結果的に甲状腺を圧迫してしまう可能性もあります。そして、その状態が慢性化しますと甲状腺機能にも影響が出るかもしれません。)

嚥下がスムーズではない状態とは

 私は嚥下の状態を確認する簡単な方法として唾を飲み込んでもらうテストをしています。
 嚥下動作に問題のない人、つまり喉の動きに問題のない人はすみやかにゴクンと唾を飲むことが出来ますし、その動作は喉の下の方、ちょうど甲状腺の辺りがゴクンと大きく動くことで確認できます。嚥下動作に問題のない人は、喋りながらも自然に口内に溜まった唾液を何気なくゴクンと飲み込むことができます。
 嚥下に軽度の問題がある人、あるいは問題がある場合は、タイミングを合わせないと飲み込むことができない感じになります。「唾を飲んでみてください」と言っても、少し時間をおかないと飲み込めない人はタイミングを合わせている人の部類に入ります。胸骨甲状筋や甲状舌骨筋の動きに左右差があったり、上記で説明したような甲状腺に問題があったり、舌骨の動きが制限されていたり歪んでいる可能性が考えられます。

 また、喉を含めた気管が歪んでいたり捻れていることで嚥下動作がスムーズにいかない場合もあります。喉の上部には舌骨がありますが、それは第3~第4頚椎の前方にあります。ですから第3~第4頚椎が歪んでいたりしますと舌骨も歪んだ状態になってしまいますが、その影響を受けて喉が歪んでしまうことはよくあることです。

 「嚥下に問題があるようだ」と自覚のある人はご自分の動作に気が向いていますので異常が認識できると思いますが、特に自覚がない場合は、その状態が「普通」だと思っていますので、嚥下の異常についてなかなか認識できないかもしれません。しかし、逆流性食道炎や胃の不調や違和感、消化不良などの症状がある場合など、嚥下動作がスムーズにできないないことが関連している場合もありますので、一度ご自分の嚥下動作を確認されるのもよいかと思います。

腹筋(腹直筋)の働きと甲状腺の関係

 一つの例があります。その人は長年の腰痛持ちです。過去に腰が壊れるほどのギックリ腰を経験し、その後の予後も悪かったので、一時は座ることもできないほどの腰痛持ちになってしまいました。その後、私のところに来られて現在は毎週施術を行っておりますが、ほぼ普通の人と同じような感じにまで回復してきました。
 ところが先日、ソファーのようにお尻の沈む低い椅子に座らなければならない状況になり、座ったときに「腰が痛くて座っていられない」と久々に耐えられない痛みを感じたようです。さらに、足の届かない高い椅子に座ることもできないと訴えました。
 普通の椅子では足が床に着きますので足の力も利用して坐位を支えることができますので腰部にそれほど負担が掛からないですみます。しかし股関節の位置より膝の方がが高くなったり、足が床に着かない状態など、足の力を利用することができなくなりますと途端腰部の腰部への負担が増して腰痛を感じるようになってしまったのではないかと思われます。そして、この状況は腹筋が機能していない可能性があると考えられます。
 腹筋と背筋との両方の力とバランスによって私たちは二足歩行の立位を支えたり、坐位を支えています。もし腹筋か背筋かのどちらかが機能しない状態になってしまいますと、片方の力で頑張らなければならなくなってしまいます。そしてその状況では腹筋・背筋均衡のバランスも崩れますので、ますます片側の筋肉に負担が掛かるようになってしまいます。ですから「耐えられない」ほどの痛みを感じてしまったのではないかと思います。

 結局のところ、この方は腹筋が使えない状態になっていました。
 ところで毎回のように申しますが、筋肉が使えない状態(=働きの悪い状態)と筋力が弱い状態とはまったく関係ありません。別ものです。腹筋が使えない状態なのに腹筋をトレーニングしても役に立ちません。
 専門的になりますが、この方の働きの悪かった腹直筋の部位は膝の中間広筋、股関節の恥骨筋などと連動関係にある筋肉で、喉に関係するところでは胸骨甲状筋と連動関係にあります。
 そしてこの方の状況は、甲状腺が硬くこわばっていて、さらに顎下の筋肉(オトガイ舌骨筋や顎舌骨筋)もこわばっていましたが、それらの関係で喉(甲状軟骨)が下方に引っ張られた状態になっていました。胸骨甲状筋の付着している胸骨と甲状軟骨との間が縮まってしまっていたので筋肉がたるんでしまい、働きの悪い状態になっていたのです。
 胸骨甲状筋が働きの悪い状態なっていたわけですが、その連動で腹直筋の一部が機能せず腹筋で坐位を支えることができなかったのです。(腹直筋そのものに問題があったわけではありませんし筋力が関係したわけでもありません。)

 そこで私は顎下のこわばっていた筋肉をゆるめることと甲状腺の腫れを取り除くことを試みました。
 甲状腺に関しては、それは喉元にありますし敏感なところなので直接ほぐすなどの施術はできません。ですから、足にあります反射区を利用しました。念入りに甲状腺の反射区をほぐしました。

 これらの施術によって喉(甲状軟骨)の位置が上に上がり、胸骨甲状筋のたるみが解消してその働きが回復しました。そして同時に連動関係にある腹直筋の状態も改善しました。
 すると、かなり低い椅子に座っても腹筋を使って坐位を支えることができるようになった(=お腹に力がはいるようになった)ので腰部は辛くなりませんでした。同様に、ベッドを上昇させて足の着かない状態でベッドに座っていただいても問題は生じなくなりました。

甲状腺について

 甲状腺は現代医学的な感では内分泌腺、つまりホルモンを生成分泌する器官ですから非常に重要です。そして甲状腺機能亢進状態になると自律神経の交感神経優位状態に近くなりますので、攻撃的、からだが休まらない、緊張、眠れない等々、敵対本能的、逃走本能的な方向にからだを働かせるようになります。亢進状態が進みますとバセドウ病へと病変するのでしょうか。一方機能が低下しますと、力が入らない、しゃきっとしない、やる気がでない等々の状態になり病変すると橋本病になるのでしょうか。
 私のところに来られる方々の場合、甲状腺機能亢進状態と思われる方々が多いようです。ストレスや心配事、不安がいっぱいの社会ですから、そうなってしまうのも仕方がないことかもしれません。

 しかしながら上記に説明させていただいたように、機能亢進状態になりますと膨れますし、こわばって硬くなり、喉周辺の筋肉や組織の働きに影響を及ぼします。とくに嚥下は私たちの生命力や活力に直接関わる問題ですから、甲状腺の状態をないがしろにするわけにはいきません。
 ご自分の喉元(甲状腺の位置辺り)を軽く押したり触ったりしてみてください。違和感や不快感を感じるようならそれは良い状態ではありません。病気ではないので”大丈夫”と簡単に判断せず、是非反射区を利用した甲状腺のケアを行っていただきたいと思います。

 反射区は足裏にも手にもあります。どちらをケアしてもよいと思いますが、ケアのポイントは念入りに行うことです。たとえば指圧しはじめや揉みはじめの段階では何の痛みも感じないかもしれません。ところがしばらくやっているうちに表層の組織(皮膚や筋膜)が柔らかくなってきますと次第に反射区まで刺激が届くようになります。(つまり反射区は深いところにあります。)
 そして、反射区までダイレクトに指圧など刺激が届くようになりますと痛みがかなり大きくなります。そして痛みに耐えながらもしばらく続けていますとある点を境に急に痛みが引いていきます。できればここまでやってください。すると太かった喉元がすっきりすると思われます。そして同時に嚥下動作もよくなり、胃が動き出して心地良い空腹感を感じるようになるかもしれません。いかがでしょうか。

甲状腺と踵骨の関係

 これはまだ検証を重ねている段階なので確定しているわけではありませんが、踵の骨の位置と甲状腺の反射区には関係性があるようです。そしてそれを通じて甲状腺にも影響が及ぶように私は感じています。
 踵骨が本来あるべき位置より「後方に歪んでいてぐらついている」と表現しても理解できないかもしれませんが、踵骨とその他の足の骨を繋いでいる幾つかある筋肉のどれかがゆるんだ状態になっていたり、あるいは靱帯が伸びた状態になっていたりしますと踵骨は後方へ歪んでしまいます。

 一つの例です。
 その青年は幼少の頃に、左足の甲に物を落としてしまったようです。それによって短趾伸筋が損傷してしまいました。

 短趾伸筋は踵骨に繋がっていますので、踵骨が落ちるようにぐらついていて後方に歪んでしまっていました。
 その青年は幼少の頃から喉を触られるのを嫌っていました。自分で触っても不快感を感じる状態でした。その原因は甲状腺の左側が膨らんでいたからです。
 甲状腺の反射区を施術しても、甲状腺の膨らみは取り切れませんでした。そこで私は足裏の甲状腺反射区のところの流れが停滞していてむくんだ状態になっている原因を探しはじめました。
 すると後方にぐらついている踵骨を前方に戻すように操作すると甲状腺反射区の停滞が解消することがわかりました。
 さらにもう一つ、その青年は母趾の爪だけ伸ばしていました。理由を尋ねると「巻き爪なので、伸ばしておかないと巻いてしまうので」ということでした。
 巻き爪になってしまうのは、その足趾でしっかりと地面を踏めていないことが原因であるという見解がありますが、私もそれに賛同しています。歩行において母趾が最後まで地面に着いていて地面を蹴ることができる状態であれば、その地面を踏む圧によって爪は横に拡がりますので巻き爪にはなりにくいと考えます。反対に巻き爪だからといって地面を踏まないように、爪に圧が掛からないように避けた歩き方をしてますと、爪はさらに巻いてしまうと思われます。
 ですから、この青年は歩き方も悪く、母趾に体重がのらないような歩き方でした。そして、それはさらに甲状腺反射区の停滞を助長することになっていたのだと思います。
 結局、損傷状態にあった短趾伸筋の部位が修復するように処置をして、さらに母趾をしっかり使って歩くことのできる状態にしました。それによって甲状腺左側の膨らみはほとんど改善しました。

 ちなみにこの青年は22歳の若さでありながらも、いろいろな不調を抱えていて半年ほど前から隔週のペースで来店するようになっていますが、当初77㎏だった体重が63㎏に減りました。食事制限をすることもなく、運動をはじめたわけでもなく、ダイエットを目指していたわけでもありません。以前と変わらぬ生活を送っていたようですが、高校時代よりも体重が減ったことに本人も驚いています。
 いろいろ整えてからだの流れが良くなると、ダイエット効果があるということを私は現在目の当たりにしています。


 今回の投稿は、とてもマイナーで細かい内容で、おそらくほとんどの整体師やセラピストは目も付けない内容かとおもいますが、喉元の不快感や甲状腺の膨らみによる不調を改善する為の一つの手段として意味のあるものだと考えています。