抱っこによる腱鞘炎

 私の娘が出産をして4ヶ月が経過しました。赤ちゃんの体重も増えてきて、抱っこを要求する回数も増えてきたようですが、多くのお母さんがそうなるように、彼女も腱鞘炎の症状が現れてきたようです。この先、10㎏、15㎏と体重が増えていくわけですが、しばらくの間は腱鞘炎や腕や肩の痛みを耐えなければならない日々が続くのかもしれません。

 腱鞘炎の症状を患った人たちのほとんどは整形外科を受診されるのだろうと思います。レントゲンを撮って「骨には異常がない」ことを確認して、湿布を出されてしばらく様子を見るように言われるのでしょうか。そしえ、症状が悪化したり長引いたりしますと、痛み止めの注射をうつのでしょうか。場合によっては手術を薦められることもあるようです。

 これまで扱ってきた腱鞘炎やバネ指などの類似した症状に対しては、関節の歪みや骨の捻れなどを修正することでほとんどの場合、症状は軽減します。手首を曲げることができないので掌をテーブルや床に着けることのできないくらい酷い症状でも、そんなに改善までの時間は要しません。ですから、私にとって、腱鞘炎やバネ指などの症状は、それほど難しいものではありません。
 ところが、育児時期における場合は別です。「抱っこ」する時間を大幅に減らすことができるのであれば改善も容易いことですが、赤ちゃんは抱っこを要求しますので、お母さんは慢性的な腱鞘炎状態を抜け出すことができなくなります。そして、赤ちゃんが成長して抱っこの時間が大幅に減るようになると、自然と症状は改善されていくことになります。

 そこで、育児中で抱っこをしながらでも腱鞘炎の辛い症状が少しでも軽減するためにはどうすれば良いのだろうか? という話を今回はさせていただきます。

前腕の筋肉の疲弊を減らすこと

 赤ちゃんの抱き方にもいろいろあると思いますが、肘を曲げて前腕(手首~肘)で赤ちゃんを支えるのが一般的だと思います。すると前腕の親指側の骨(橈骨)に乗せるようにしますので、どうしてもそちら側(橈側)の筋肉や筋膜に負担を強いることになってしまいます。橈側の筋肉は親指や人差し指を曲げる筋肉ですから、まずそれら二つの指の動きが悪くなったり、力が入らない状況になります。そして、そんな状況でも手首を親指側に曲げて抱えるようになりますので、手首にはかなりの負担が掛かることになります。
 筋肉や筋膜は一時的であれば比較的大きな負担にも耐えることができますが、負担が掛かったままの状態が長時間になりますと疲弊状態になってしまいます。筋肉や筋膜の働きが十分に発揮できない状態になってしまいますが、それでも頑張って赤ちゃんを抱え続けていないと赤ちゃんが不機嫌になりますので、お母さんたちは「しごき」のような試練になります。
 そして疲労や疲弊が蓄積して、手首周辺に痛みが生じるようになり、やがて肘や肩関節までも辛い状況になってしまうことになります。
 赤ちゃんが数㎏であれば何とか頑張れるかもしれませんが、10㎏、15㎏ともなりますと、それは大変な負担です。本格的な腱鞘炎に突入して、中指や薬指、小指などの動きも悪くなってしまうかもしれません。

 先日、娘が実家に戻ってきたときには、やはり腱鞘炎の初期症状の状態でした。そこで、前腕の疲弊している部分を優しくマッサージして、手指のこわばりなどを取りましたが、それだけで腱鞘炎の症状はかなり改善されました。時間にすると片方15分ずつの30分くらいでした。

 腱鞘炎の場合、痛みを発するところは手首周辺になりますので、どうしてもそこに目が行きがちになりますが、手首や指を動かす筋肉は前腕にありますので、前腕をケアすることが大切です。
 ケアの仕方の一つとしてマッサージが手軽ですが、マッサージには二通りのやり方があります。
 一つは硬くなっているところを揉みほぐすやり方です。指圧やストレッチもこちらに入りますが、強めの力でほぐすことで硬い状態が改善して血行も良くなり心地良くなります。一般的な肩こりを揉みほぐすのはこのやり方です。
 もう一つは疲弊している部位を回復させるやり方です。私は施術でいわゆる「手当て」のようなことを行っていますが、疲弊している部分に血液を呼び込んで細胞の働きを高めることを意図します。それによってハリ感が乏しく腑抜けのようになっている部位に活力が戻ってきて働きが回復します。「エネルギー補給」というようなイメージの施術になりますが、とても有効な手段だと思っています。ただし、この施術は疲弊していたり損傷している部分が小さいときに限られます。
 抱っこによる疲弊部分は面積が大きいので、手当ての施術をしていたのではとても時間が掛かってしまいます。ですから、軽めのちからによるスローで柔らかいマッサージを行いますが、それはゆっくりと揉んで細胞を動かすことで血流がよくなり、細胞の働きが良くなることをイメージする必要があります。じっくり、ジワーッとやさしく、しかし深く揉みます。
 
 今回のケースは二つ目の、回復のためのマッサージを行います。
 手首や肘、その他、痛みを発している部分は湿布などをして痛みを軽減する必要がありますが、抱っこによる腱鞘炎の場合は、その大元の原因が前腕の疲弊にありますので、そちらのケアが大切です。前腕が疲弊している状態を放置したままでは、症状が改善することは見込めません。
 現在、辛い思いをしている人は、日々のケアとして前腕へのマッサージをおすすめします。


 私は娘に対して一度しか施術することができませんでしたので、何か別の良い方法はないかなと考えました。
 疲弊した部分を温めることは有効でしょうから、お風呂にもゆっくり浸かって欲しいと思いましたが、赤ちゃんがいるので「そんなことは無理だ」ということです。ですから、遠赤外線のサポーターをしてみてはどうかと思い送ってみました。しかし、あまり効果は感じられないとのことです。
 現在の状況を尋ねてみましたが、子供が一人で遊ぶ時間も増えたので抱っこの時間が大幅に減ったせいか腱鞘炎の症状は出ていないとのことでした。
 とりあえずは良いのでしょうけど、子供が成長して重たくなると、また辛い時期が来るのかもしれませんね。