内股について

 和服の女性は、少し内股気味の方が見栄えも良く、仕草が魅力的だと感じる人も多いかと思います。そんな伝統を心のどこかで引き継いでいるのか、“女の子”が内股であることに対して“気をつけなければならない”と考える人はほとんどいないかもしれません。私も、この仕事に従事していなければ、そんなことはまったく気にもしなかっただろうと思います。
 内股と似ているO脚はスマートさに欠けますし、膝や股関節に負担がかかりますので矯正したいと考える人は多いかと思います。しかし内股も(程度に寄りますが)O脚と同じように、からだに負担が掛かかりますので早めに修正した方が良いと思います。

 仰向けで寝た時に、足のかかとより爪先の方が内側に入ってしまうのが内股の人の特徴の一つです。O脚の人もこの傾向にありますので区別しにくいところですが、立った時に膝の間が拡がってしまうのがO脚の人の特徴です。内股だけの人は立位で膝の間が拡がってしまう感じにはなりません。
 

 女性と男性の骨盤や股関節を比べますと、女性の骨盤の方が広くなっている分、左右の股関節の間隔は離れています。大腿骨は離れた股関節から膝に向かって入ってくるわけですが、その角度が男性より大きくなっていますので、女性は男性より内股になりやすい傾向があります。

 さて、内股の弊害について取り上げてみます。

①下肢の内側がとてもこわばり、顔もこわばる

 下肢とは股関節から下の太股、ふくらはぎ、足のことですが、それらの内側の筋肉が強くこわばっているのが内股の人の特徴の一つです。
 内股になってしまう理由として、生まれながらに股関節に問題があり、下肢内側の筋肉がこわばってしまう結果として内股になっている、というのはあると思います。あるいは、女性生来の深層心理として、内股を閉じておきたい(決してガニ股にはなりたくない)というのがあって、無意識のうちに下肢の内側に力を入れていることで内股になってしまうというのもあると思います。
 いずれにせよ、内股の人に見られる下肢内側の筋肉の強いこわばりは腹直筋や内腹斜筋と連動しますので、胸郭の位置を下げたり、喉や首のこわばりにつながります。鼻を含めた顔中心部の不調を招く原因になる可能性もあります。

 例えば膝のお皿(膝蓋骨)のすぐ上の内側は大腿四頭筋の中の内側広筋がありますが、この筋肉がこわばりますと腹直筋の正中線(中央部)近くがこわばります。すると胸郭の中で胸骨を下に引き下げますが、それによって喉がこわばり、発声や嚥下に不調をもたらす可能性があります。あるいは恥骨を下げてしまいますので、それにともない腹筋全般がこわばったり、恥骨筋がゆるんで、その連動で膝に力が入りづらくなり(中間広筋のゆるみ)、階段を降りる時に不安定さを感じるかもしれません。

 太股中央部の内側には長内転筋があります。おそらく(座位で膝を開かないようになど)内股を意識する人はこの筋肉がもっとも強くこわばっていると思いますが、そのこわばりは内腹斜筋のこわばりにつながります。すると胸郭を下げたり骨盤を歪ませたりすることになりますので、それに伴う不調がもたらされます。そして内腹斜筋のこわばり(塊)は腹痛や便秘の原因になる可能性もあります。下腹部の骨盤周辺に違和感やこわばりを感じて押してみたところ、内部に硬い塊があって痛みを感じ「腫瘍?」などと不安を感じる人もたまにいます。

 太股内側の股関節から膝にかけて薄筋があります。あぐらをかいたり、股関節を開くストレッチ運動をしたときに「突っ張って開かない」と感じたり、痛みを感じる筋肉です。この筋肉のこわばりは股関節の安定と運動に深く関係している腸骨筋のこわばりを招きます。腸骨筋がこわばりますと、鼡径部で血液の流れが悪くなりますので下半身のむくみを招きます。また股関節の前面が伸びなくなりますので、仰向けで寝ると腰部が浮いて腰が痛くなります。うつ伏せや横向きでないと眠ることができないという原因の一つです。

②「ハの字」で歩くことの影響

 内股の人は足の爪先が内側に入った「ハの字」型の足で立ったり歩いたりしているわけですが、すると母趾先の内側と4趾と5趾の踵近くがこわばります。その辺りに力を入れてからだを支えているからです。
 母趾先の内側のこわばりは太股では長内転筋に連動しますので、益々内股が強調されたり固定化されることになります。
 和服に履く草履は、普通に歩くのではなく、内股でつま先をあまり上げることなく歩くのが似合いますが、そのような歩き方は足の内側(母趾側)ではなく外側を前に出すような歩き方です。それによって4趾、5趾の踵付近がこわばり外くるぶしが前にズレます。この状況は骨盤を含めて下半身の筋肉や筋膜の流れを歪めてしまいます。
 「気がスムーズに流れなくなる」「邪気を足裏から発散しにくくなる」と表現しますと怪しげに思われるかもしれませんが、実際そんな感じです。状態の良い人は目を閉じて、太股~膝~ふくらはぎ~足や足裏を頭の中にイメージすることができます。そして、それらが一本のラインで繋がっているイメージを思い描くことができます。しかし骨格が大きく歪んでいたり、筋肉や筋膜の流れが悪い人は、途中までしかイメージすることができません。「右脚は足裏まで一本のラインで繋がるのに、左脚は膝から下が途切れてしまう。意識が通じない。」というような状態になってしまいます。「気が通らない」「気の流れが止まっている」とはこのような状態のことだと思います。

 頑固な内股になっている人の歩き方を観察しますと、つま先立ちで歩いているような感じに見えます。つまり、踵よりも先につま先の方が着地しているような、そんな感じですから歩き方がとても不安定です。
 歩く動作は“片脚立ちを交互に繰り返す連続動作”ですから、全体重が片方の脚に乗った状態でしっかり立つことができなければなりません。そのために重要な働きをしている筋肉の一つに中殿筋がありますが、「ハの字」の人はお尻の筋肉がゆるんでいますので中殿筋を働かすことができません。中殿筋が収縮しますと「お尻にエクボ」ができますが、「ハの字」の人はどんなに頑張っても満足なエクボができません。しかし、そんな人でも両足の踵を付けて、つま先を開いて、つまり逆ハの字の状態にしてしっかり立ちますと、お尻にエクボをつくることが簡単にできます。骨盤もしっかりしますので自然と背筋が伸びて、顎も引かれます。内股の人はこの状態をつくることが上手くできませんので、姿勢を正そうとする時、背中に力を入れるようになりますが、それはからだに無理を強いることですから、やがて何処かに不調が現れるようになると思います。

内股を改善するために

 私の整体の先生は「形にこだわると間違ってしまう」と教えてくれました。ですから、少々O脚でも、少々内股でも、からだに歪みがあったとしても、からだが上手く機能していて不調がないのであれば「個性」と解釈して、無理に矯正する必要はないと思います。
 ところが、からだにいろいろな不調があって、その原因として内股に関連する筋肉の変調があるのであれば、それはやはり改善する必要があると考えます。

①どうして内股になるのか?

 少し内股の30代半ばの母親が時々来店されます。数年前は常に腰痛を抱えているような状態でした。今は腰痛よりも肩こりなどの方が気になるようですが、腰は相変わらず良い状態であるとは言えません。内股による骨盤の歪みが原因している可能性があります。
 「下の子供(幼稚園生)がすごい内股で‥‥」と仰いました。「女の子でしたっけ?」と尋ねますと「男の子なのにすごい内股で‥‥」ということでした。“骨格の遺伝性”が原因として考えられるのかな、などと思いました。
 私の娘も少々内股です。子供の頃から“立ち方”に不安を感じていました。膝の裏をすっかり伸ばしたような立ち方(反張膝) をしていました。O脚の人はこのような立ち方をよくしています。彼女は子供の頃からの姿勢によってO脚にはなりませんでしたが内股になってしまったタイプです。大人になった現在は反張膝で立つこともないのですが、体型は少々内股です。(家系的に他に内股の人はいませんので、遺伝性ではありません。)

 現在、“とても頑固な内股”の高齢の女性が来店されています。そのお嬢さんも強い内股で、はるばる遠くから来店されました。母と娘と、ともに強い内股ですから先天性、遺伝性のものと考えられますが、お嬢さんの内股は私も初めて体験するほど強いものでした。脚を外側に回旋させることはほとんどできず、“あぐらをかく”もできません。来店された主目的は内股を改善することではなく、他の耐えきれない不調を改善したいということでしたが、「この内股を何とかしないと良くならない」と私は判断しました。そしてこんなに内股が頑固な状態になってしまったのは、“先天性内股”+”内股状態で何十年も過ごした結果”だと思いました。

 内股の出発点は股関節ですから「股関節が異常?」と思われ、整形外科でレントゲンを撮り、医師の診断を受けた経験のある人も多いかと思います。骨と骨の関係として「関節が浅い」とか、角度が普通ではないとか、いろいろな診断があると思います。整形外科は画像を元に診断をしますが、骨(骨盤)と骨(大腿骨)の関係性だけで内股が悪い影響を及ぼす程になっているというのではなく、何の対策もしないまま長年放置したことによって関係する筋肉の変調状態が固定化してしまったために、からだに不調をもたらしていると考えることもできます。そうであるならば、筋肉の変調状態を元々の状態に戻すことによって固定化された内股に柔軟性が戻り、子供の頃のように「形は内股だけど、からだの機能に問題はない」という状態にできると思っています。

②内股を形成する筋肉のこわばり

股関節の外側にある小殿筋と大腿筋膜張筋のこわばり

 内股状態は主に下肢内転筋がこわばっていることによってもたらされますが、骨盤の外側にある二つの筋肉が強い影響力を持っている場合があります。それは小殿筋と大腿筋膜張筋です。ただ、小殿筋の主な働きは股関節で“大腿骨を外に開く(股関節の外転)”働きであるとされていますので、内股とは反対の動きになります。つまり、小殿筋がこわばるとガニ股になりますので、私の見解に反対の専門家も多いかと思います。ところが、小殿筋には股関節を内旋させる(大腿骨を内側に回旋させる)働きもあります。同様に、大腿筋膜張筋も大腿骨の外転と内旋の働きをします。
 そして実際、内股の人は小殿筋、大腿筋膜張筋がこわばっているのですが、それを骨格的に当てはめてみますと、股関節で太股を開きながら内側に捻った状態となります。本人は脚を開きながら内側に捻っているという意識は持っていないと思いますが、筋肉の状態を観察しますとそのように解釈することができます。
 普通の状態の人が、この状態(脚を開きながら内側に捻る)を再現しようとしますと、踵の外側~足の小趾側にかけて強く力を入れることになりますが、実際、踵の外側の強いこわばりが小殿筋のこわばりに繋がり、足の小趾側のこわばりが大腿筋膜張筋のこわばりにつながります。
 ですから、内股の人の特徴である股関節での大腿骨の内旋を改善しようとするときの一番目の施術は踵外側筋膜と足の小趾側(4趾、5趾間)のこわばりをほぐすことになります。
 先ほど話題に出しました大腿骨をほとんど外旋させることができなかった女性は、踵の外側の強いこわばりを指圧してゆるめたことで、大腿骨を外旋させる動きができるようになりました。そして、この踵の外側は反射区としては卵巣にあたりますが、この方は卵巣嚢腫を経験しています。もしかしたら偶然一致しただけかもしれませんが、強い内股で長年過ごしていたために踵外側が強くこわばってしまい、卵巣の反射区が血行不良状態となり卵巣の病変を招いてしまった可能性も否定できないと私は考えています。

下肢の内転筋のこわばり

 上記で説明しました小殿筋と大腿筋膜張筋は内股の人だけでなくO脚の人もその他の人もこわばっていることが多い筋肉です。特徴としては股関節で大腿骨が少し外に飛び出しているように感じる(骨盤から太股が外に出っ張っている)、太股が内側に捻れている、あるいは太股外側の筋肉がボーンと張って目立っている、というのがあります。
 内股の人はO脚の人と比べますと膝の間が離れているのではなく内側に寄っていることが特徴ですが、それは太股内側筋肉の緊張やこわばりによってもたらされます。ご自分では太股内側に力を入れているつもりはまったくなくても、自然とこわばった状態になっています。
 こわばっている筋肉について少し説明しますと以下の通りです。

a.内側広筋のこわばり‥‥膝のすぐ上の内側が硬くなっている

 内側広筋は大腿四頭筋の中の一つですので、学問的には内転筋の中に含まれていません。ですから、“内股”とは特に関係のないように考えられているかもしれませんが、実際は非常に深い関係があります。
 内側広筋は膝周辺ではスネの骨(脛骨)の内側に筋膜を伸ばして付着しています、ですから内側広筋の膝周辺部がこわばりますと、脛骨を内側に内旋させながら引っ張り上げるように歪ませます。そして、その流れは脛骨前面内側の筋膜を通して足首に同じような歪みをもたらします。ですから内股で内側広筋が強くこわばっている人は、たとえば仰向けで寝たときに、単に足が内側に捻れて足が「ハの字」になっているだけではなく、内くるぶしから土踏まずにかけて引き上げられているような、上を向いているような状態になっています。
 「足首周辺でエネルギーの流れは止まってしまうので、排泄すべき気をうまく出すことができない=デトックスできない」と私は感じます。
 内側広筋のこわばりは、足では母趾先の内側のこわばり、手では小指つけ根の内側のこわばりと関係が深いので、それらをほぐすことが施術方法の一つです。

b.長内転筋のこわばり‥‥膝をくっつける意識が強いとこわばる

 太股中程の内側にある内転筋で、こわばっている人の多い筋肉です。内股の人のこの筋肉が強くこわばりますと太股の上1/3から膝にかけての部分がグイッと内側に捻れます。膝のお皿(膝蓋骨)が内側に入っている人は、長内転筋のこわばりによる可能性が高いです。女性が椅子に座って膝が開かないように内転筋に力を入れるとき一番働く筋肉ですので、デスクワークをしている女性の多くはこの筋肉がこわばっています。そしてその影響は下半身のむくみ、お腹の硬さ他、いろいろな不調をもたらします。
 そして、長内転筋のこわばりで重要なことは、この筋肉の連動が足では母趾外転筋、ふくらはぎでは後脛骨筋につながっていることです。

 母趾外転筋は踵の内側から母趾の側面と下面を通って外反母趾で痛みを出すところに繋がっています。ですから母趾外転筋がこわばるような歩き方(外反母趾の人が行っている母趾を捻って地面を蹴る歩き方)をしますと外反母趾が痛み出すとともに踵の内側も硬くこわばります。

 さらに連動している後脛骨筋もこわばるのですが、そうなりますと土踏まずの踵寄りの部分(舟状骨)が足首の方に引き上げられます。見た目は扁平足の反対で、ハイアーチのようになるのですが、それは良いことではありません。筋肉の拮抗関係で前脛骨筋がゆるむため土踏まずの指先側(母趾中足骨)が落ちてしまいます。そして指先は甲側に曲がりますので、ハイヒールの靴を履いているわけでもないのに足の形がそのような感じになってしまいます。これでは足の母趾がしっかりしませんので、足裏の全体感として力不足になってしまい、指先に必要以上に力を入れて歩くようになってしまいます。足趾は曲がり、足趾のつけ根部分にはタコができてしまいます。

 内股の人は、足の小趾側指先の方から着地するような歩き方になってしまいますので、母趾を効率よく使うことができません。外反母趾でもないのに母趾先を捻って地面を蹴りますので、母趾の第1関節の2趾側が強くこわばってしまいます。見た目では母趾の内側が地面の方に捻れて落ち込んでいるような感じになります。この状態は母趾外転筋と後脛骨筋をこわばらせ、なお一層長内転筋のこわばりを助長する結果を招きます。

c.薄筋のこわばり‥‥膝裏や股関節の伸びが悪くなり腰痛を招く可能性

 太股内側の真横、股のつけ根(恥骨近辺)から膝にかけて細長い薄筋があります。開脚などのストレッチ運動のときに、開脚にストップをかけてしまう筋肉です。この筋肉がこわばった状態ですと、あぐらの姿勢が辛くなったり、股関節を開く動作が気持ちよく行えません。そして重要なことは、この筋肉が骨盤内にあります腸骨筋と連動関係にあることです。腸骨筋はとても強力な筋肉で、腿上げ運動で働いたり、仰向けで寝た状態から腹筋を使って起き上がるときに股関節で上半身を持ち上げる働きをします。座ることの多い仕事の人は腸骨筋がこわばっている可能性が高いですが、すると鼡径部で血管を圧迫することになりますので、下半身がむくんでしまいます。
 ”内股の人は薄筋が強くこわばっている”ということではないのですが、時々薄筋が強くこわばった内股の人を見かけます。そういう人は本当に脚の内側に力を入れて動作をしているのかもしれませんが、膝裏が伸びませんので仰向けで寝ても膝が少し曲がった状態になっていますし、膝裏が腫れぼったくなっている人が多いです。

短内転筋

 小さな筋肉ですので目立ちませんし、解剖学の解説書などでもあまり取り上げられていませんので情報量が少な筋肉です。恥骨に深い部分と大腿骨の上部を繋いでいますが、その位置関係からこの筋肉が収縮しますと大腿骨を外側に回旋します(股関節の外旋筋)。“骨盤と大腿骨の上部を結ぶ短かく丈夫な筋肉”であるという共通点、方や外旋と内転(短内転筋)、方や内旋と外転(小殿筋)という正反対の働きをするという点で、短内転筋を考える上では小殿筋を常に念頭に入れなければならないと私は考えています。

 上記で説明した薄筋がこわばった人はあぐらの姿勢が苦手ですが、短内転筋のこわばりが強い人はあぐらの姿勢ができないかもしれません。「股関節の根元が開こうとしない」という言葉があてはまると思います。
 まだ、確定的に言える段階ではありませんが、短内転筋と足の母趾と2趾の間の骨間筋は連動性があるように感じています。

③内股を改善するための施術

 今回は内股に関係する筋肉について、いつもより細かく説明させていただきました。内股の程度は様々ですが、ある人はこれらの筋肉の一つだけが変調をおかしくなっているだけかもしれません。あるいは、全部の筋肉がこわばっている”強烈な内股”と表現できるような人もいます。
 私は施術者として、おかしな状態になっている筋肉を一つ一つずつ全部修正することが内股を改善するための王道だと考えています。O脚や外反母趾などに対しても同様ですが、骨格ばかりに注目してコルセットや装具を使ったりして矯正する方法は、私は採用しません。
 筋肉は必ず連動します。内股のある筋肉がこわばりますと、必ず腹部や手や顔の何処かがこわばります。ですから、内股の筋肉のこわばりをそのままに形だけ整えたとしても、からだの不調は改善しないということになってしまいます。筋肉は形状記憶するような要素を持っていますので、長い年月こわばった状態の筋肉を修正しようする場合、それは時間と忍耐力が必要となります。ですから骨格矯正や歪みの矯正を望まれて来店される方々の中には、時間がかかることに耐えきれず途中で止めてしまう人も多くいます。
 今、おかしくなったのなら、今、元の状態に戻せるかもしれません。しかし内股の場合は、長年に渡る状態進行の結果、からだに不調や不具合が現れたということがほとんどですから、改善のためには忍耐がどうしても必要になります。そのように考えていただきたいと思いますし、根気強く筋肉の変調を改善していけば、内股とは全然関係ないと思われる目の不調が良くなったり、呼吸が良くなってリラックスできるからだになったりという副産物が必ず得られます。内股=つまり”からだの中心ラインの強いこわばり”を改善することは、日々の生活に快適さをもたらすことにつながります。

 犬や猫、牛や馬などほとんどの哺乳動物は四つ足です。爬虫類はもっと地面に這いつくばるように動いていますが、それは地球の重力の影響をあまり受けないようにするためだと考えることもできます。ところが私たち人間はすっかり重力に対抗するように2つの脚だけで立って歩きます。ですから下肢にかかる負担はとても大きいと言うことができます。
 私のところに来られる方々は、「調子がおかしい」人がほとんどだからかもしれませんが、脚が“棒のよう”だったり、パツンパツンにむくんでいたり、足や足趾に無理が掛かっている人ばかりです。おそらく”普段がそのような状態”なので、ご自分では“下肢がおかしな状態”だという認識はないのかもしれません。そんな状況の一つ現れがこのたび取り上げた内股です。
 私は施術者として「もっとリラックスしてスッキリした脚になってほしい」と願いながら施術を行っています。そのためには、内股状態の強い人は、内股状態を改善する必要があります。骨格の状態が良くならなければ、いくらマッサージをしても、リンパを流しても、その場限りのものに終わってしまいます。
 膝関節はどこもおかしくないのに正座ができない人がいます。膝を深く曲げると太股やふくらはぎに突っ張りを感じ、その状態を保持することができません。その方は70年以上内股状態で過ごしてきました。下肢の筋肉が形状記憶のように頑固になっていますので、何度も何度も施術しなければなりません。それでも、一月くらい経つと短時間であれば星座ができる状態になりました。そしてもう少し施術を続けていけば、本人の願いである正座が再びできる状態になることでしょう。そしてやがて筋肉の形状記憶状態も解除されて、もっともっと楽に、歩いたり、立ったり、座ったりすることができるようになると私は思っています。