足底のセルフケア① 母趾内転筋

 それが首・肩のこりや肩関節痛や頭痛や顔の歪みという症状であったとしても、ほとんどの場合で私は、足、足首、ふくらはぎなどの状態を確認します。
 私たちは二足歩行の存在ですから、普通に暮らしていれば、足に大きな負担が掛かることになります。ですから、私たちのふくらはぎ~足にかけての筋肉は疲労が蓄積していたり、こって硬くなっている可能性が十分にあります。首や肩がこると私たちは不快さや苦痛を感じますが、自覚が有るか無いかにかかわらずふくらはぎや足の筋肉も同じような状態になっています。
 そして、このブログではしつこいくらいに言及していますが、筋肉は必ず連動しますので、足先や足首周りの筋肉が硬くこわばりますと、それが太ももや殿部や腰部や腹部の筋肉に連動し、頭や手先まで影響を及ぼすことになります。

 ですから、私の施術では特別の場合を除いて、ふくらはぎ~足底にかけての筋肉を必ず調整します。顔の歪みや顎関節の不調、噛みしめや歯ぎしりなどという、単純に考えますと足とはまったく関係のないように思える症状に対して、足裏の筋肉を揉みほぐしたりするのを不思議に感じて驚く人もいますが、それは以上のような理由によるものです。

 今回は私が行っている足への施術の中で、一般の人でも毎日のセルフケアとして行うことができ、そして効果が高いとものをいくつか取り上げてみます。

 例えば股関節が硬くて動きが悪ければ「股関節のストレッチ運動」、猫背が気になるなら「胸や背中のストレッチ」、膝に問題があれば「膝の筋肉を鍛える運動」、頬のタルミが気になるなら「表情筋を鍛える運動」などが必要だという情報が氾濫しているようですが、私は非常に懐疑的です。
 なぜなら、たとえば股関節を使いすぎて筋肉が硬くなり伸びにくくなっていたり、膝関節を使いすぎて太ももの筋肉が疲労して働きが悪くなっていたりなど、その部位と直接関連する筋肉の問題が原因であるならば、その筋肉を整えることは正しいことです。しかしそうではなく、その他の理由によって股関節や膝が不調や不具合になっている場合は、股関節のストレッチや太ももを鍛える運動はまったく無駄なことをしていることになってしまいます。それは単なる気休めの行為でしかないと言えます。
 日々のケアとして、一生懸命ストレッチや運動をしている人に対してこのような否定的なことを言うのは誠に恐縮ですが、しかしそれが私の真実の見解です。

 私の娘は小学生の頃~高校時代まで新体操をやっていました。足を真っ直ぐに高く上げるような状態を保つために、毎日股関節や肩関節など、いろいろとストレッチ運動をしてました。そして実際、股関節の開脚など大きくできていましたので、一見すると柔軟性に富んだからだのように見えました。しかしながら、過剰ともいえるストレッチ運動のせいで筋肉が伸びきったような状態になってしまっていました。「筋肉が柔軟」なのではなく、「筋線維が伸びた状態」になっていたのです。そしてそれが理由で腰痛を感じたり、しばしば首が痛くなったりしていますし、呼吸が浅く、いつもむくんだようなからだになっていました。
 今は娘対父親しての微妙な時期も遠のきまして、私の施術も素直に受け入れてくれますので、からだを時々みるようにしています。そして一生懸命ストレッチ運動をしていたことの弊害をよく知ることができました。
 今更ですが‥‥当時の私に今くらいの整体的知識があったのならば、的確なアドバイスができて、彼女の役に立てのではないかと思っています。

 さて、話題を本題に戻しまして、
 足底(足裏)にも、いくつもの筋肉がありますが、統計的な傾向として、「この筋肉は整えて欲しい」と思っているいくつかの筋肉とセルフケアについて取り上げて説明します。
 第一回目は母趾内転筋(ぼしないてんきん)です。

母趾内転筋の役割と影響

 足にアーチがあることは、多くの人はご存じだと思います。土踏まずに大きく関係する親指側の縦アーチ、開張足(足の指と指の間が間延びした状態)を防ぐための横アーチ、そして地味ですが重要な役割を担っている小趾側の縦アーチ、基本的にはこの3つがあります。

 そして横アーチに関係が深いのが母趾内転筋です。この筋肉は2つありまして、1つは親指のつけ根から横に伸びて、3趾、4趾、5趾のつけ根(中足骨のMP関節付近)つながり、各足趾が拡がったままにしないようにする働きをしています。この筋肉の働きによって、歩行時など地面に着地した時に平たくなった足趾のつけ根部分は、足を浮かせたとき親指側に引き寄せられ丸まってアーチを形成します。また、親指のつけ根から縦方向に伸びている斜頭と呼ばれるもう一つの母趾内転筋がありますが、この筋肉の働きもあって土踏まずが保たれ、甲が高い状態を保つことができます

 つまり2つの母趾内転筋がしっかり働くことによって、足を浮かせたときに足は少しお椀上に丸まりますが、その丸まった状態が着地した時に伸びることで足のクッション作用が生じ、歩行における地面からの衝撃を和らげることができます。
 外反母趾や内反小趾の人は、大概、母趾内転筋が働きの悪い状態になっていて、足趾のつけ根が拡がった状態になっています。ですから、靴の中で親指と小趾の側面が靴の内面に擦れてしまいますので、外反母趾や内反小趾の痛みを発することになります。
 また、母趾内転筋によるアーチがありませんので、歩行による衝撃もあって「歩くと疲れる」状態になりやすいと言えます。さらに足趾先の筋肉(実はこれがふくらはぎの筋肉:長母指屈筋、長趾屈筋、長母指伸筋、長趾伸筋)で頑張らないと歩けない状態になりますので、足趾やふくらはぎがガチガチに硬くなって辛い状態なる可能性が高いと言えます。

母趾内転筋と膝裏と股関節、さらに肩こりとの関係

 筋連動の仕組みよって母趾内転筋は膝裏の膝窩筋(しつかきん)、股関節の小殿筋(しょうでんきん)、肩甲骨の棘上筋(きょくじょうきん)、さらには肘の肘筋(ちゅうきん)と連動します。つまり、足や足趾の使い方の偏りなどで母趾内転筋が硬くこわばりますと、これらの筋肉もこわばって関係する関節に歪みを生じるようになります。

 私たちに多いO脚に関係して、母趾内転筋と膝窩筋および小殿筋の関係は重要です。
 膝窩筋がこわばりますと、ふくらはぎを外側にずらし、さらに内側に捻るようになります。
 後ろ姿を見たときに、ふくらはぎの筋肉が外側に拡がっていて足が内股気味になっている人のほとんどは膝窩筋がこわばった状態になっていると予想できます。

 さらに股関節の小殿筋がこわばりますと、太股も少し内側に捻れるようになりますので、膝窩筋のこわばりと合わせて、内股やO脚状態になりやすい状態であると言うことができます。
 O脚の原因は他にもありますので、小殿筋と膝窩筋の問題を修正すればOKというものではありませんが、O脚の矯正を試みる場合は膝窩筋と小殿筋のこわばりは必ず修正しなければならない項目になります。その意味で、膝窩筋・小殿筋と連動関係にある母趾内転筋は必ず確認する必要がありますし、十分に整える必要があります。

 肩こりが慢性的で、常に肩の深いところが硬くて辛いと感じる場合は棘上筋が強くこわばっている可能性があります。棘上筋は分厚い筋肉で、マッサージなどではなかなか揉みほぐすのも大変ですが、この筋肉のこりが取れますと肩がとても軽くなり、「背負っていた重み」から解放されたような感覚になると思います。

 さらに、母趾内転筋は肘関節にある肘筋(ちゅうきん)とも連動しますが、肘関節の歪みや捻れに関係し、腱鞘炎や五十肩の原因になる場合もあります。

 以上、列記しましたように足底の母趾内転筋は膝裏の膝窩筋、股関節の小殿筋、肩の棘上筋、肘の肘筋と連動関係にありますので、母趾内転筋の状態を整えることでこれらの筋肉も整うことになります。

母趾内転筋がこわばってしまう理由とセルフケア

 これは母趾内転筋にかぎったことではありませんが、足底の筋肉が強くこわばってしまう、あるいはそのこわばりが頑固な状態になる最大の理由として考えられるのは、かかと重心です。
 私のところに来られる方々が特別なのか、一般的な傾向としてそうなのかはわかりませんが、かかとに重心が掛かっている人が本当にたくさんいます。

 かかと重心の人は、「かかとの硬さによる影響」にも大いに関係しますが、立った時にかかとに体重が乗ってしまうので後に倒れそうな感じで不安定になりますが、その状態を解消するために自然と指先(足趾)を丸めて頑張るようになります。つまり足趾や母趾内転筋などの筋肉を収縮させてバランスを保つようになります。
 何度も話題にしていますが、立った時に距骨(きょこつ)に重心を乗せる事が出来れば、足や足首が安定しますので、足趾の筋肉はゆるみ、踵もゆるみます。つまり、足の指は真っ直ぐな状態になります。
 ご自分の足をご覧になったときに、指が曲がっているようでしたら、それは踵重心である可能性が高いと言えますし、あるいは靴が小さいか、歩き方に問題があるのかもしれません。

 また、外反母趾や内反小趾の人は横アーチが乏しい開張足になっている可能性が高いのですが、それも母趾内転筋に変調をもたらす原因になります。

 私は通われている方に対しては、母趾内転筋を整えたり、あるいは母趾内転筋がこわばっている原因を取り除いたりしていますが、それに加えてなるべく母趾内転筋がこわばらない状態になるようにからだのバランスを整えるようにしています。しかし、また来店されるときにはやはり母趾内転筋がこわばった状態になっている人がほとんどです。
 ですから、私の実感として以下のように感じています。

  • 母趾内転筋のこわばりはしぶとい。
  • かかと重心を克服するようにからだを整えますが、皆さん癖があって、その状態をキープしてもらうことはなかなか大変。

 しかしながら母趾内転筋のこわばりは確実にからだに悪さをもたらしますので、何度でも何度でもしぶとく同じような施術を繰り返します。そうすることで徐々に徐々にですが、状態は改善していくようになります。

 冒頭に申し上げましたが、二足歩行の私たちは足裏~ふくらはぎにかけてどうしても負担がかかります。バランスが良ければ、それらの負担は分散されて消えていきますが、そうでなければ負担が疲労やこりとして筋肉に溜まって筋肉の変調をもたらします。
 「ふくらはぎ~足裏がとてもこってます」と申し上げますが、ほとんどの人は自覚はないようです。しかし実際には、ふくらはぎ~足裏は酷使されている状況に耐え続けていると言えます。ですから日々のケアとして、その蓄積を軽減していただきたいと思いますし、それが快適に暮らす効果的な手段だと思います。

 さて、母趾内転筋は深層筋です。その表層には厚い筋膜や組織があります。ですから、揉みほぐそうとしてもなかなか手指が届きません。足裏がガチガチになった男性などの場合は、私でもとても苦労します。しかし、表層の壁(組織)を突破しないと目標に辿り着けません。表層を揉んでいるだけでは何の効果も期待できません。
 女性の場合、手指の力が足りない人がほとんどだと思いますし、それなのに無理して力を入れてしまうと肩こりになってしまったり、肩や肘や手首などに負担が掛かりすぎてしまうかもしれません。ですから、ツボ押し棒などを使ってほぐすようにしてみてください。
 母趾内転筋はこわばっていますので、手指やツボ押し棒の圧が掛かりますと、強い痛みを感じます。傾向として3趾(中指)のつけ根あたりに強い痛みを感じる人が多いようです。  
 また、あるていど強い痛みを感じるようでなければ指圧の効果も期待できません。手指やツボ押し棒の圧によって最初は強い痛みを感じるかもしれませんが、そのうち痛みが和らぐようになります。それはこわばりが解消されたという合図でもあります。是非、そこまで頑張ってください。
 当初の何日かは激痛を感じるかもしれませんが、芯の硬さが取れますと痛みが心地良いものに変わっていくと思いますし、そうなれば足底組織の硬さも軽減していると思いますので、日々のケアが楽になります。是非、そこまで到達してください。きっと足やふくらはぎだけでなく、眼が大きく開いたり、からだがスッキリするようになると思います。