テーブルやドアなどにコツンと肘をぶつけた経験のある人はたくさんいると思います。ぶつけた部位が神経(尺骨神経)のところであれば、手の小指側に強い痺れを感じますので、肘がダメージを受けたことをしっかし自覚できます。しかし、そうでない場合は単なる打撲であり、一時的に痛みを感じるますが大概は速やかに普通の状態に戻ります。ですから、多くの人は肘の打撲を気にとめることもないと思います。
ところが、肘関節には細かい靱帯がありまして、それが打撲で損傷しますと、肘関節が歪んだ状態になっていろいろな不具合や症状を現すことがあります。
バネ指と肘内側の打撲(損傷)
バネ指は手指の症状ですから、殆どの人は指や手の問題が原因だと思われると思います。そして、整形外科を受診しても、その辺りの検査と治療を行うと思います。
それはそれで間違いではありません。私自身、バネ指や腱鞘炎の方に対しては手指や手首などの関節の状態を観察することから施術を始めますし、その部位だけの施術で問題が解決することもあります。
ところが、それだけでは上手くいかない場合も多々あります。その場合は、肘関節や肩関節、あるいはもっと進んで股関節や骨盤、膝関節まで確認していく場合もあります。
そして私の施術経験で申しますと、バネ指の場合、肘関節内側の損傷による歪みが原因である場合が多いように感じます。
肩関節の不具合と肘外側の損傷
40歳過ぎの男性が、「四十肩になってしまったのかなぁ?」ということで来店されました。仕事はデスクワークで最近はほとんど運動をしていなかったということですが、2週間ほど前にプールに遊びに行き泳いだということです。そしてそれから3~4日して少しずつ右肩に違和感を感じるようになり、1週間ほど前から肩を回すと痛みを感じるようになったという経過です。
「何年かぶりにプールで泳いだことで、普段動かしていない肩をたくさん回したので肩関節がおかしくなったのかなぁ」と本人は考えているようでしたが、その可能性は十分に考えられます。しかし、それ以外の原因もいろいろ考えられます。そして今回テーマの肘関節の歪みも、その中の一つです。
肘関節の外側は、通常は打撲することはあまりありません。肘関節外側の損傷として最も考えられることは、捻挫のように捻ってしまったり、急に力を入れて手首や腕を捻る動作をしたりすることなのですが、本人にはその記憶はないとのことでした。
この男性は3年ぶりくらいの来店でしたが、以前から肩を回すとコリコリという音がしていました。痛みも違和感もないということでしたが、今考えますと以前から肘関節がおかしかったのかもしれません。そして、その状態が泳いだことで悪化したために今回のような症状になってしまったのかもしれませんし、あるいは肘の外側をどこかにぶつけて損傷したのかもしれません。
いずれにせよ、肘の外側損傷部分を修復しますと、肩は気持ちよく回せるようになり、以前にあったコリコリという音もなくなりました。
四十肩や五十肩など肩関節周囲炎と呼ばれる肩関節の不具合や上腕の痛みなどは、その原因としてたくさんのことが考えられます。ですから、場合によってはなかなか根本原因に辿り着けなくて施術の成果を得るのに苦労することもあります。
異様な肩こりと肘関節
肩上部から首にかけての肩こりは、一般的には僧帽筋がこわばったり硬くなってしまった状態です。ですから筋肉内部に溜まっている水分を流すように揉みほぐすことで楽になったり、あるいは頭蓋骨の歪みを解消したり、肩甲骨の状態を改善したりすることで「スッ」こわばりが解消して楽になります。
ところが、「まったく歯が立ちそうもない」と感じてしまうような激しい肩こりの状態があります。肩こりの部分が骨のように硬くなってしまった感じなのですが、このような場合は一般的な施術ではそれを解消することはできません。
そしてそんな場合の目の付け所として、肘関節があります。肘関節を整えることで、異様な肩こりを改善することができる場合もあります。そしてこの場合、その解消は一瞬にして起こります。
するとこれまでまったく力が抜けなかった肩からスーッと力が抜けるようになりますので、当事者は驚かれるかもしれません。
以上、肘関節の打撲や損傷が原因でもたらされる症状について説明してきました。
肘関節は地味な関節です。膝関節は痛いと歩けませんし、正座ができないなどのはっきりとした症状を呈しますし、肩関節の歪みや異常は腕や手の動作に支障をきたしますので目立つ部位です。ところがテニス肘や腱鞘炎以外では肘関節の歪みで日常生活に問題を起こす場面も少ないので、皆さんの意識が薄くなっている部位であるといえます。つまり、肘を打撲しても、損傷しても痛みがなければ、ケガの事さえ忘れやすいところです。
ところが、今回取り上げましたように肩関節の不具合、バネ指や腱鞘炎、異様な肩こりなどの根本原因になるところでもあります。
もし現在、四十肩や五十肩の治療が進展していなかったり、バネ指や腱鞘炎、手根管症候群などの治療が思わしくなく、「手術を‥‥」と言われているような人は、一度肘関節のことも検査するなり、整えるなりしていただくと、手術が回避できたり、不具合や痛みが軽減するなど良い結果になるかもしれません。