脳神経の働きと椎骨動脈

 単なる整体師である私が脳神経について云々することに違和感を感じる人も多いかと思いますが、整体的アプローチでも脳神経の働きに貢献できる可能性があるというお話しをさせていただきます。

 「脳神経」と申しますと脳に関係することですから「大それたことだ」と感じられる人も多いと思います。脳神経は動物としての生命を司る脳幹と呼ばれるところから出ている末梢神経です。主には鼻や眼や耳や舌など感覚器官や顔の筋肉をコントロールする神経ですが、内臓の働きを高める副交感神経(迷走神経)も脳神経にあります。

 脳神経は脳幹から出ていますので、当然、脳幹の在り方、状態は神経の働きに影響を及ぼします。そして脳幹の状態を健全に保つためには栄養と酸素が必要ですが、それは脳底動脈(のうていどうみゃく)から供給されています。脳梗塞を起こしますと血液の供給が途絶えてしまいますので、周辺の脳細胞が死んでしまい障害が現れることはよく知られていますが、もし脳底動脈に血液が行かなくなってしまいますと脳幹は機能を停止してしまい生命を保つことができなくなります。あるいは、脳底動脈の血流量が減ってしまいますと脳幹の働きが低下しますので脳神経の働きに問題が生じることになります。
 正座に馴れていない人が長い時間正座をしますと膝がしびれて関節の動きが悪くなりますが、それは血液の流れが悪くなったしまった結果です。神経が一時的に異常な状態になるためシビレをもたらし、膝周辺の筋肉の働きが悪くなってしまったのです。脳底動脈の血流量が減りますと、同じようなことが脳幹でも起こるとイメージしていただければと思います。

 さて、脳底動脈は頚椎に沿って上昇していく左右の椎骨動脈(ついこつどうみゃく)が合流したものですので、椎骨動脈の状態は脳神経の働きと関係が深いということになります。

 椎骨動脈は鎖骨下動脈から枝分かれして頚椎6番の横突孔に進み、そのまま環椎(頚椎1番)の横突孔まで昇っていきますが、その後ほぼ直角に後方に曲がり、さらに大きく前方に曲がって後頭骨の中に入り脳へと進んでいきます(脳底動脈)。血流という面で、頚椎2番(軸椎)と環椎と後頭骨の関係性は気になるところです。
 椎骨動脈は左右2本ありますが、後頭骨に入ると1本に合して脳底動脈という名前になります。脳幹や小脳に血液を供給し、大脳の後頭葉に進みますので、脳の後方循環系と呼ばれます。脳幹には脳神経の核がありますが、鼻、眼、耳、舌といった感覚器官を司っているほか、表情筋とそしゃく筋の働き、嚥下の働きなども司っています。ですから、椎骨動脈の流れが悪化しますと視力や視界が悪くなり、瞼の動きも悪くなるということは十分に説明がつくことだと考えます。

椎骨動脈の流れに影響を与える要因

 椎骨動脈は頚椎の横突孔の中を通って上昇しますので、頚椎が大きく歪んでいますと流れが悪くなるのは想像が容易いところです。しかし頚椎6番~3番まではほとんど真っ直ぐに上昇しますので、一番気になりますのは頚椎2番(軸椎)と頚椎1番(環椎)と後頭骨のところです。

 椎骨動脈は頚椎3番から軸椎にかけて曲がり始め、そして環椎の横突孔を抜けた後はほぼ直角に後方に曲がります。その後、上関節窩(椎骨動脈溝)を大きく回り込み後頭骨に入って前方に進みます。ですから軸椎~後頭骨にかけての走行路が曲がりの大きい部分となります。また、後頭骨と環椎と軸椎は頭を動かす度に動きますので、椎骨動脈は大きくうねった状態で常に伸び縮みを強いられていることになります。
 ですから、脳幹及び脳神経を万全の状態に保つためには、後頭骨と上部頚椎(環椎と軸椎)の関係を整えておくことが大切であると考えることができます。

後頭骨と環椎の関係を良好な状態に保つ

 環椎の横突孔を通過した椎骨動脈は直角に近い角度で後方に曲がり環椎の上関節窩という突起の後方に回り込みその後方向を大きく前方に変えて後頭骨の中に入っていきます。その状況を上から見たイメージが下の図です。

 もし、後頭骨が本来よりも前方にずれた状態になりますと、椎骨動脈の血管は前方に引っ張られますので上関節窩のところで圧迫を受けます(上図右側)。これは血管が潰された状態になることですから当然血流は悪化します。そして実際、そのような状態になっている人がたくさんいます。

(1)頭長筋と頚長筋のこわばりによる影響を除去する

 私たちの首の前方には喉や気管がありますが、その裏側に頚椎があります。そして頚椎の前面には頭長筋と頚長筋があります。
 これらの筋肉は首を前に曲げたり、うなずいたりして頭を前に少し曲げる時に働きますが、頚部を支える働きもしています。
 読書や勉強や事務作業で、あるいはスマホを見続けたりする動作では、頚長筋と頭長筋を使い続けることになりますので、これらの筋肉はこわばった状態になります。そうなりますと有名な「ストレートネック」になってしまいますが、その他に後頭骨を前下方に引っ張ってずらしてしまうことになります。(頭長筋は後頭骨に繋がっていますので)
 頭長筋も頚長筋も奥(深部)にありますので、これらの筋肉にアプローチするためには首前面にある胸鎖乳突筋や舌骨下筋群と気管をかき分けて手指を侵入させなければなりません。ですから施術はとても繊細な作業になります。

参考:頚長筋と頭長筋のケア

(2)後頭下筋群のこわばりによる影響を除去する

 後頭骨と上部頚椎に直接関係している筋肉に後頭下筋群があります。

 

 後頭下筋群がこわばった状態になりますと、後頭部を頚椎(首)に引き寄せますのが、それは後頭骨が頚椎に対して前方にずれた状態になるということですので、椎骨動脈の流れが悪くなる可能性があります。
 後頭下筋群がこわばる理由としては考えらることは、上部頚椎と後頭骨との間(環椎後頭関節)で頭を上に向ける動作を繰り返すことです。事務作業などでデスクの書類を見ながら、頭を起こして正面のディスプレイを見る動作を繰り返すことは多いと思いますが、そういったことが後頭下筋群をこわばらせる原因になります。猫背で首がいつも前に出た状態で、正面を向くといった動作も同じことです。(首のつけ根(頚椎7番)を支点にして頭部を上下させるのが本来の在り方です)

 後頭下筋群のこわばりを解消するためには持続的な指圧を行います。後頭部~上部頚椎の場所は脳幹や小脳のあるところですから安全第一です。揉みほぐしたりマッサージすることは行いません。

参考 脳神経の主な働き

http://tokyo-microscope.jp/?eid=262 より引用

 脳神経は12対ありますが、上図に示されています通り、鼻(臭い)、耳(聴覚)、眼(視覚と眼球の運動)、口と顎(そしゃく運動と歯の知覚)、舌、顔の表情と知覚、平衡感覚の中枢的(神経核となっている)な役割をしています。さらに、迷走神経は副交感神経系として内臓の働きをコントロールし、副神経は胸鎖乳突筋と僧帽筋をコントロールして首と肩の運動に影響を与えています。