目に関する不調の一つにドライアイがあります。そして、近年はPCやスマホなどで液晶画面を凝視する人が非常に多くなったせいか、ドライアイの人がとても多くなったようです。
そして皆さん、それがまるで普通であるかのように目薬を常用しています。‥‥でも、それは異常な状態だと思います。
ドライアイの原因としてはアレルギー、眼精疲労、瞬目不全、コンタクトレンズなどが考えられるところでしょうか。眼科ではドライアイに対しては主に点眼薬で対応するようですが、それは応急処置の範囲内であり、「はたして治療と呼べるだろうか?」と思ってしまいます。
数年前に「ドライアイは自分で治す 努力で治る」(著者 石川秀夫)というDVD付きの本を買いました。著者は沖縄の眼科医師です。この本の中で著者は、眼科に行っても良くならないドライアイをはじめ、目の不定愁訴(原因がよく解らない症状)のほとんどの原因は瞬きで目を閉じる動作の不全であると言っています。専門用語で“瞬目不全”と呼ぶようです。目を閉じる動作が中途半端で最後までしっかり閉じることができないので、涙で眼球全体を潤すことができないということです。車のワイパーの動きが中途半端な状態なので、フロントガラス全体をきれいに拭き取ることができない状況に似ています。瞬目の場合は、瞼の裏で眼球全体を潤すわけですが。
DVDでは、たくさんの症例を取り上げて、瞬目(まばたき)の状態をスロー再生映像で解説しています。確かにこの先生が仰るように、ドライアイの原因の一つとして瞬目不全は大きく関係しているように私は感じました。
ですから、今回は瞬目不全について考えてみたいと思います。
目には目頭と目尻がありますが、垂れ目でない普通の人は目尻の方が目頭より上に位置しています。ドライアイは涙と深い関係がありますが、表からは見えない構造として目には涙腺と涙道があります。涙腺は目尻の方に、涙道は目頭の中にあります。瞬きの一つの役割を簡単に申しますと、涙腺で涙がつくられ、瞬きに合わせて涙が眼球を潤すと同時にそこにあった古い涙を洗い流し、目頭にある涙道から排出しています(鼻の奥に落ちる)。その作業が効率よく行われるように目尻の方が目頭より高い位置にあります。また、上瞼と下瞼が共働して目を閉じるのですが、その閉じ方もスローで確認しますと、目尻の方から目頭に向けてチャックを閉めるように行われます。眼球表面にある涙を目頭にある涙器に向けて押し流す動作になっています。
DVDの映像を見る限り、まずドライアイの人のほとんどは瞬目が正常に行われていませんでした。つまり目がしっかりと閉じていないのです。涙腺でつくられた新しい涙は、瞼を閉じることによって眼球全体に行き渡るようになっているようで、目が完全に閉じない状態では涙が眼球全体に広がらない状態、つまり目が潤っていない状態になってしまいます。正しくドライアイの状態です。
ところで、瞬目不全がドライアイの原因だったとしまして、どうすれば改善することができるのかということを考えてみます。
(1)眼輪筋と瞬目不全
目を閉じる動作は眼輪筋が主に行いますので、「眼輪筋を鍛える」という対応策がすぐに思い浮かびますし、ネット上でもそのような情報がたくさんあります。さらに「眼輪筋を鍛えると若返る」ということまで云々されています。
ところが、私は「それは危険な行為です」とあえて申し上げます。過去に眼輪筋を鍛えるトレーニングをたくさんしたが為に、目元のシワが増えてしまったり、目元がこわばってしまい軽やかに瞬目することができなくなってしまった人を知っているからです。
ここで理屈を述べると大変長くなってしまいますので、ポイントだけ申しますと、眼輪筋や口輪筋やその他の表情筋(顔の表面にあって様々な表情をつくる筋肉)は発生学的に内臓由来の筋肉です。つまり、胃や小腸や大腸、心臓や血管などと同じ類の筋肉です。手や足腰や背中やお腹の筋肉は体壁系の筋肉ですので、ある程度トレーニングなどして鍛えた方がからだを保つためには有効です。しかし胃や小腸や心臓を鍛えるという発想は誰も思いつかないと思います。それらは鍛える対象ではないと本能的に誰もが知っているからです。顔の表情筋も由来は内臓系ですから鍛えるのではなく、「十分に働けるようになっていただきたい」と考えるべきだと思います。
筋肉を鍛えることは筋線維を収縮させることとほとんど同じです。つまり眼輪筋を鍛えることは眼輪筋を強く収縮させることを行うわけですが、それを大げさにやりますと、ギュッと目を閉じる動作です。このとき筋線維は目の中央に寄るようになります。この動作をたくさんしていますと、そのようなこわばりのシワが眼輪筋にできるようになります。目元の横皺ではなく縦皺が皮膚の奥に見え隠れするような状態になってしまう可能性があります。それは特に女性にとってはガックリしてしまうような状況です。ですから、そのようなことはして欲しくないと思います。
眼輪筋の働きを良くして瞬目を完全に行うために
手技による施術は副交感神経が優位な状態に導きますので、眠ってしまう人がたくさんいます。大概の人は目を閉じて眠りに入りますが、中には薄ら目を開いたままの状態で眠っている人がいたりします。完全に瞼が閉じているのではなくて、1㎜とか薄ら瞼が開いているのです。きっとこんな人が瞬目不全なのだと思いますが、その理由は二つ考えられます。一つは神経の働きが不十分で眼輪筋の働きも不十分になっていることです。もう一つは骨格的問題か皮膚や筋膜の状態によってか、上瞼が上方に、あるいは下瞼が下方に引っ張られている状態になっていることです。
眼輪筋の働きを支配している神経は顔面神経です。顔面神経は眼輪筋だけでなく他の表情筋も支配していますが、作用の仕方としましては、ほとんどの場合0%か100%かという感じではなく、60%になってみたり40%になってみたりするといった感じです。病気である”顔面神経麻痺”になりますと神経がまったく働かない0%の状況になりますが、通常は働き具合が十分な状態になったり、不十分な状態になったりします。そして眠っていても瞼や口が完全に閉じない状況であれば、顔面神経の働きが不十分な状態であると考えることができます。
顔面神経は脳幹から出ている脳神経の一つですから、脳神経の働きが不十分な状態なのかもしれません。あるいは顔面神経が頭蓋骨の内部から顔面(外側)に出てくるときに耳下腺の中を通りますが、耳下腺が硬くなっていたり、あるいは咬筋のこわばりが耳下腺を圧迫していたりして、その働きが不十分な状態になっているのかもしれません。
ですから、私は脳神経の働きをアップすることと耳下腺での圧迫が解消されるようにすることの両方を施術として行います。脳神経の働きをアップすることにつきましては、脳幹の働きをアップすることと同じことですが、それは椎骨動脈の流れを整えることで対応しています。
(椎骨動脈についての詳細はこのページを参照してください。)
耳下腺への施術は基本的に持続指圧の手技です。耳下腺からの唾液の出方が不十分で、なおかつ瞼をはじめ表情筋の状態に問題があるのであれば、それは耳下腺がとても硬くなっていると考えられます。そしてそれは噛みしめ癖など咬筋のこわばりによる影響かもしれません。
(2)骨格の歪みなどによる瞬目不全
眼輪筋の状態も良好で、顔面神経の働きにも問題がないのに瞬目不全になってしまう場合があります。それは骨格の歪みや頭皮の緊張あるいは筋膜のこわばりによって瞼を最後まで閉じることが困難な場合です。
眼輪筋は前頭骨と頬骨と上顎骨でできています(これら以外の骨も関係します)眼窩に付着していますので、これらの骨格が歪みますと眼輪筋の働きは鈍くなります。つまり普通に目を閉じようとするだけでは瞼が最後まで閉じてくれないかもしれません。(目をちゃんと閉じようとしますと力を入れなければならない状態になってしまうかもしれませんが、それはとても疲れることです。)
また、眼輪筋の上方は前頭筋と繋がりさらに頭の筋膜(帽状腱膜)と繋がっていますので、背筋がこわばって背中~首~頭にかけて緊張状態になりますと、眼輪筋の上方が上に引っ張られる状況になって瞼を閉じるの苦労するかもしれません。
あるいは顔面が下がった状態になって眼輪筋の下方が下に引っ張られた状況になりますと、やはり下瞼を閉じる動作に支障がでます。そしてそれが目元のこわばりに繋がる可能性は高いです。
これらの状況もまた瞬目不全の状態を招く可能性が高くドライアイの原因になると考えることができます。
また、私たちは食べたり喋ったりして口をたくさん使いますし、いろいろな表情も口周辺の筋肉を使っておこないますので、頬から口元にかけての筋肉が硬くこわばってしまう傾向にあります。そして、その影響で頬骨が中心に寄って下がってしまい眼輪筋の働きが悪くなってしまいます。ですから、常に頬から口元にかけての表情筋を柔らかい状態に保つよう手入れをしていただきたいと思います。
今回は瞬目不全についての話が中心になりましたが、ドライアイの原因として考えられるものにはアレルギーや眼精疲労、コンタクトレンズの影響などもあるようです。その他にも「涙が十分に作られているのだろうか?」といった点も忘れてはいけないことです。血流や自律神経が絡んでくる問題ですね。
これらについては後日取り上げたいと考えています。