2014年04月04日

口角が下がるのを防ぐために

 誰でも子供の頃はニッコリすると自然と口角が上がっていたと思います。自然で魅力的な笑顔の特徴ですね。ところが加齢にともなってある時期から口角が上がりにくくなり、高齢者になると口角の下がった人を多く見かけるようになります。
 口角が下がってしまうと“何か難しいことを考えているのかな?” という印象を与えてしまうかもしれません。今回は、口角が下がってしまうのは何故か? 口角を引き上げるにはどうすればよいか? ということを考えてみたいと思います。

(1) 口角を引き上げる“口角挙筋”と引き下げる“口角下制筋”

 私たちの顔が微笑みや辛さ、喜びや悲しみなど様々な感情を表現できるのは、顔の皮膚のすぐ下にある顔面表情筋の働きによるものです。女性の方が念入りに顔のお手入れマッサージを行うのは、素肌(皮膚)とこの表情筋の働きを高めるためだと言ってもいいでしょう。
 たとえば笑うとき、口の周りだけでなく顔全体の表情筋が働いて自然な笑顔を作り上げます。しかし、ちょっと微笑むとき、やはりポイントのなるのは口角の動きです。ですからここでは口角に的を絞って考えてみます。
 口角を引き上げる働きをする筋肉を口角挙筋といいます。とても小さな筋肉です。そして口角を下げる働きをする筋肉を口角下制筋といいます。口角挙筋と口角下制筋は拮抗する関係にある筋肉(一方が縮めば他方が伸びる)と考えていいでしょう。大きさで比べると口角下制筋の方が大きいので、その分、口角を下げる力の方が強いと考えてもらってもいいかもしれません。(厳密ではありませんが)

 さて、これまで何度も申し上げてきましたが、筋肉は単独で働くことはなく、必ず他の筋肉と連動して働くという特徴があります。その他に筋膜(皮膚の下にある)の影響を受けやすいという特徴もあります。この原理を考えずに一生懸命フェイシャルマッサージをしたところで、あるいは口角を引き上げるトレーニングをしたところで、労力の割に効果は期待できないと私は考えています。
 口角挙筋は小さな筋肉ですから、単独では小さな力しか発揮することができません。例えば、口角を下げる口角下制筋が何らかの理由でこわばっていて伸びが悪い状態だったとします。すると、口角挙筋が頑張って口角を上げようとしても、口角下制筋が伸びてくれないために口角を上げることができないという状況になります。あるいは、口角下制筋が正常でも、顔の皮膚やその下にある筋膜が下方向に引っ張っているような状態であれば、やはり口角は上がりません。
 ですから、自然に口角が上がるようにしたいのであれば、その動きに対抗する筋肉、筋膜、皮膚を整えることを優先するべきであると考えます。その上で、口角挙筋の働きや力が弱いのであれば、それを補う手段を施すべきだと思っています。
 実際、私はそのように施術していますし、それで自然で爽やかな笑顔を実現することができています。

(2) お腹が冷えている人は口角が下がりやすい

 “口角を上げたいけど、その動きを邪魔する何かがある”というのが、口角が下がってしまう多くの場合だと思います。つまり、下へ引っ張っている何かがあるということです。
 施術者として確認するポイントは、@顎先からのど仏にかけて下顎の底にある筋肉や筋膜の状態、A首の前面にある筋肉や筋膜の状態、B鎖骨や肋骨の位置、C胸の筋膜の状態、D腹筋や腹部の筋膜の状態、といったところです。
 筋膜(皮下筋膜)は皮膚のすぐ下にあって、全身をくるむ1枚のシートのようなものです。筋肉のように自身の力で伸びたり縮んだりすることはありませんが、かなり丈夫にできていて骨格の歪みや筋肉の状態によって、よじれたり、たるんだり、縮んだりします。
 たとえば、お腹が冷えていて腹筋(腹直筋)の働きが悪くなり、縮こまった状態になったとします。すると腹筋がつないでいる恥骨と肋骨の間が短くなります。つまり胸郭(肋骨)を引き下げてしまいます。胸の真ん中には平らな骨(胸骨)があります。そこにはほとんど筋肉はなく骨に直接筋膜がくっついているような状態なので筋膜の状態がわかりやすいところです。胸郭が下がると胸の筋膜は下に引っ張られる状態になります。筋膜は1枚のシートですから首やノドや下顎の底、そして顔までつながっています。ですから、それらも下の方へ引っ張られた状態になります。そしてこれが口角を引き上げる口角挙筋の働きを邪魔して口角を下げてしまう原因になります。
 その他にも首が前に出ていたり、いつも首やノドに力が入ってしまうような人は、ノドのあたりがこわばっているため、それが口角下制筋の伸びを邪魔します。何かの理由で鎖骨が下がっている人は、鎖骨から上の筋膜が張ってしまうため口角挙筋の働きを邪魔します。
 他にもいろいろなケースがありますが、顎から下の筋肉や筋膜の影響で口角が上がりにくくなっている場合がとても多く見受けられます。

(3)筋肉を鍛えて口角を上げようとすると疲れがたまり、顔がこわばる

 口角が上がらない多くの場合は、上記のように顔から下の方の問題が原因です。口角挙筋そのものの働きが悪い場合もありますが、実際のところそれは少ないです。
 下の方に引っ張られていることが原因であるにも関わらず、なんとか口角挙筋を鍛えて口角が上がるようにしようと試みても、それは対抗勢力が強い中に一人で飛び込んで何とかしようとするようなもので、非常に疲れがたまると言えるでしょう。
 口角挙筋だけでは対抗する力に負けてしまいますが、何とか勝ちたいと思ってトレーニングなどをしていますと頬や鼻の筋肉まで動員することになります。そんなことを続けていますと、本来は別の働きをするためにある筋肉が口角を上るためにも働き出すようになるため、爽やかで自然な微笑みが、いつのまにか不自然でぎこちない笑顔になってしまうかもしれません。
 また、常に顔に力が入ってしまう癖になる可能性もありますので、顔が常にこわばった感じになってしまうかもしれません。

 ですから私個人としては、口角を上げたり、頬を上げるようなトレーニングは止めた方がいいと思っています。そんなことをしていると頭痛や首こり、肩こりを招いてしまうかもしれませんし、何よりも“自然な感じ”から遠ざかってしまうと思います。ちゃんと体を整えれば、自然と口角は上がるようになります。(加齢の場合は顔の筋肉を整える必要はありますが)


 難しいことを考えているわけではないのに、口角が下がって口が“へ”の字型になってしまうと、どこか気むずかしい印象を人に与えてしまうかもしれません。あるいは、年齢以上に年をとっているような印象を人に与えてしまうかもしれません。どちらもご自分の真実ではないわけですから、ご本人は不本意に感じていると思います。

 体の歪みが顔に与える影響、あるいは顔の歪みが体に与える影響。これらは、きっと皆さんが想像している以上のものだと思います。
 私は仕事として施術を行い、体と顔の歪みや不具合を修正しています。しかしそれだけでなく、歪みや不具合をもたらす根本的な原因を探り出し、そしてそれを防ぐためにはどうすれば良いかを考え、皆さんの日々の生活の中で気をつけてほしいことを指摘することまでを業務としています。
 皆さんが普段気づかないこと、「まさか、そんなことが‥‥」原因である場合もあります。あるいは30年前のムチウチや20年前の捻挫が治りきっていないことが原因である場合もよくあります。
 私たちの体はどうしても“時の流れの力”には勝つことができません。しかしその中でも、より若々しく、より活動的に、より快適に過ごすことは可能だと考えています。

 今回取り上げました“口角”の問題は、さほど難しい修正ではありません。神経性の疾患(顔面神経麻痺など)や器質的損傷(筋肉を傷つけたなど)の場合は、ある程度時間を要するかもしれませんが、整体施術によって少しずつでも必ず快方に向かうと思っています。
 エステや様々な美容法を試してもなかなか思うように行かない場合でも、改善する可能性は十分にありますので、口角やその他顔に関して悩みをお持ちの方は是非一度ご来店ください。