2013年12月26日

腰痛を症状別に分けて考えてみる

 腰痛の方を施術するに前にお尋ねすることがあります。
 「いつから痛いのですか? 何かのきっかけで痛くなったのですか?」
 「どんな動作が辛いですか?」
 「脚にシビレやだるさはありますか?」

 一般の人は「腰が痛い」というひとくくりで症状を訴えてきますが、腰痛にもいろいろタイプがあります。それを見間違えると施術がとんちんかんなものになりますし、原因を修正しなければ、一時的に症状は軽快したものの「時間が経つと戻ってしまう」という結果になりかねません。

今回はこのお話しをさせていただきます。

(1)急性の腰痛は筋肉や筋膜を損傷している可能性が高い‥‥ギックリ腰など

 運動や作業をしていて、明らかにギクッとしたという自覚がある場合は「ギックリ腰をしてしまい‥‥」と言ってこられます。しかし筋肉を傷めたという自覚がないまま、“軽いギックリ腰状態”という場合もたくさんあります。
 筋肉や筋膜を傷めた場合の一番の特徴は、“力が入らない”、“力が必要な動作で痛みが生じる”というものです。
 「朝、ベッドから起き上がるときが一苦労」「長く椅子に座っていた後、立ち上がろうとすると痛い」というのは、ご本人にはギックリ腰の自覚がなくても、骨盤の中心部(仙骨・尾骨部)あたりの筋膜を傷めてしまっている可能性が高いです。
 筋肉の働くシステムは非常に巧みにできていまして、何かちょっとした動作をするのにも様々な筋肉が連動し合い、補い合って、その動作が自然に苦もなくできるようになっています。その連動し合う筋肉のどれかにちょっとでも傷がついてしまい、その部分が収縮できない状態になってしまいますと、簡単な動作すら痛くてできなくなってしまいます。腰は体の動作の要ですから、そこに傷がつくと全身の力が発揮できなくなってしまいます。重いギックリ腰を患うと、呼吸することすら辛く感じてしまうようになってしまいます。

損傷部分を回復させることがポイント
 さてこのような場合は、何よりも傷ついた部分が回復するようにしなければなりません。その傷は外からは見えませんし、本当に小さいな傷だと思いますので、見つけるのが少々手間取ります。おそらく1oとか2oとかの大きさだと思いますが、その部分をピンポイントで施術しなければ意味がありません。周りの骨や筋肉の状態を確認しながら、その場所を特定して施術するという作業が必要になってきます。(ここで傷と言っているのは、筋肉や筋膜が伸びてしまい力が発揮できない状態も含みます)

 この考え方以外に、このギックリ腰状態を劇的に改善する方法はないように私には思えます。ギックリ腰を治療する手段には、温めたり、冷やしたり、電気(低周波)をかけたり、光を当てたり、揉んだり、指圧をしたり、骨をボキボキしたりと、いろいろな方法があるようですが、それらに即効的効果を期待することは難しいと私は考えます。傷が回復するのを自然治癒力に任せ、その期間、症状が和らぐようにする効果しか期待できないのではないでしょうか。

 当院では、 実際、ギックリ腰や原因が筋・筋膜の損傷である急性のものに関しては、ほとんどが短期間で改善しています。傷が小さく浅いものであれば1回の施術で終わってしまうことも多々あります。
 但し、この見えない傷を修復する方法は私が行っている施術以外にもいくつかあると思います。私も傷が深く大きいと判断しますと、体内の電気の流れを整える意味で、ダイオード(電気部品:整流器)を傷の部分の皮膚に貼り付けて筋肉が働けるようにする場合があります。

慢性化した場合
 上記の急性腰痛も痛みや違和感を我慢して使い続け、時間が経ってしまうと慢性化してしまいます。すると話は少し変わってきます。体は体内の筋肉のどこかに弱点があると、それを他の筋肉の働きで補助するように変わっていきます。そしてその状態で時間が長く経ちますと、その人にとってその状態が固定化するようになります。筋肉や骨格のバランスが本来のものではなく別な状態になってしまう、つまり、骨格が歪み筋肉がアンバランスな状態であることが普通の状態になってしまうということです。
 すると単に傷を修復するだけでは駄目で、他の筋肉のバランスを整え、骨格の歪みを調整しなければならないという作業が必要になります。実際、固定化してしまったものというのは修復や調整にある程度の施術と時間が必要になってきます。また、アンバランスな状態で筋肉を使い続けていたため、ピンポイントではなく、疲弊した範囲が拡がってしまっている場合が多く見受けられます。こうなってしまうと施術にも時間がかかるようになります。
 「2年前に激しく尻もちをついてしまい、それ以来腰痛と坐骨神経痛に悩まされ、病院に行ったり治療院も何軒か行ったがなかなか良くならなくて‥‥」という人がいましたが、尻もちをついて損傷してしまった尾骨部以外にも骨盤を正しく支える幾つかの筋肉が疲弊していて、それを回復するのに時間がかかり、よい状態になるまで月2回程度の来店で半年くらいかかりました。
 慢性化したものでも、(骨格の歪みではなく)骨そのものの変形がなければ、必ず元の状態に戻ると考えています。また、骨そのものがある程度変形してしまったり、軟骨がすり減ってしまったものでも、定期的に来店されるつもりであれば、症状をかなり緩和することは可能だと考えています。

(2)真っ直ぐに立つことや背中を()ることがしづらい

 この場合は、まず二つに分けて考える必要があります。一つは背骨が真っ直ぐにできない腰骨や骨盤、背中の筋肉に原因がある場合。もう一つは、多くの人がほとんど頭に浮かばないようですが、お腹の筋肉が伸びない場合です。腹筋がこわばっていて伸びないため、立ち姿にしなやかさがない人は意外に多くいます。

背中の筋肉や腰骨、骨盤に問題がある場合
 例えば、うつ伏せになった状態で頭を上げ背中を反るとします。この時、筋肉で言えば、背中側の筋肉が収縮することになります。この動作で働く背中の筋肉には幾つかありますが、そのうちの一つでも上手く収縮することができない部分がありますと、反ろうとしてもそこがつっかえてしまい、それ以上反るとその部分が痛むように感じます。
 また、反る動作を背骨(24個の脊椎の連続)の動きで観察しますと、一つ一つの脊椎が下を向く運動ということになります。このときどれかの脊椎が下を向くことができなければ、反る動作がその部分で途切れてしまうためできなくなります。首を持ち上げるだけでも痛いなら頚椎に問題があるのかもしれません。胸のところで痛みを感じるなら胸椎、反る動作の最後の部分で痛むなら下位腰椎の問題と考えることができます。
 実際、腰が痛くて真っ直ぐに立つことや体を反らすことができない時は、腰椎に問題があることが多いのですが、この腰椎は仙骨とパッケージで考える必要があります。仙骨が下がってしまう、つまり、お尻が下がってしまうと腰椎は上に動いてしまうので、反ることがしづらくなります。自分の手で仙骨部を持ち上げてみてください。それで反る動作が大きくできるようになるなら、仙骨が下がっていることが原因であると考えることができます。
 仙骨が下がってしまう理由はいくつもあります。運動不足で脚の筋肉が衰えているというのも考えられます。普段の姿勢、とくに座り方が悪く、坐骨ではなく仙骨や尾骨部で座っていたりする人は多いです。ギックリ腰などをした経験があって、その部分が完全な状態ではなく仙骨部が下がったままの人もいます。さらに次に取り上げます腹筋がこわばって収縮しているため、恥骨部が上がるように骨盤が回転しているため仙骨部が下がって後側に動いている場合などもあります。

お腹の筋肉に問題がある場合
 お腹の筋肉がこわばっていて伸びが悪い人は最近は多いです。特に若い人に多いです。
 私たちは他の動物と違って二足で立つことができます。そのためには背骨を地面に対して垂直にキープするわけですが、筋肉の働きに置き換えますと、腹筋と背筋の丈夫さとバランスによって、きれいな立位を保つことができると考えることができます。
 パソコン作業が多くなった弊害、あるいは携帯ゲームや電話、スマホなどの影響かもしれませんが、肩や腕を前に出して背中を丸める姿勢が多くなりました。つまり背中側の筋肉はいつも伸ばされていて、反対にお腹側の筋肉は縮んでいる状態が多くなったということです。これだけでも、腹筋がこわばってしまう要因になりますが、さらにお腹が冷えている人がたくさんいます。特に若い女性にはそれが目立つように感じます。「お腹を冷やしてはいけない」という昔からの智恵に対して無頓着な人が多いのかもしれません。
 冷えとお腹の筋肉がこわばる関係性を考えてみます。例えば、寒い冬の夜、寝床に入っても最初のうちは寒さを感じるため、私たちは体を丸めたくなります。それは、丸まることによって外気と触れる面積を減らし、自分の熱を外に出したくない、あるいは自分のお腹の熱を利用して温まりたいという自然な反応です。つまり“抱え込みたい”という心理の現れです。反対に夏の暑い夜にはバンザイに近い恰好で子供達は寝ます。自分の熱を放出したいという現れです。単純に言いますと、自分に熱が余っている場合は伸び伸びして放出したい、熱が足りない場合は丸まって熱が出ていかないようにしたい、ということでしょうか。これを筋肉の働きに置き換えると、冷えていて熱が足りない場合は腹筋を縮めているということです。
 腹直筋は肋骨と恥骨を結んでいます。腹直筋が縮むということは、肋骨と恥骨の間が狭くなるということであり、胸(肋骨)は下がり、恥骨は上がるという状態になります(こういう人は、往々にして胃のあたりの腹筋がこわばって硬く太くなるため、胃を圧迫しています)。恥骨と仙骨は骨盤において表と裏の関係にありますから、恥骨が上がるということは、仙骨が下がり、さらに骨盤自体が後に傾くということになります。これだけで尻が下がったスタイルの悪い状態になります。

 腹筋がこわばる理由は他にもあります。歩き方、手の使い方も影響します。それらについては別の機会に説明しますが、いずれにせよ腹筋がこわばって伸びが悪くなると、真っ直ぐに立つ姿勢ができなくなります。なんとなくいつも前に少し前傾しているような感じで、反ると痛みを感じると思います。
 お腹は伸びやかにして欲しいといつも思います。お腹が伸びやかであれば内臓の働きも良くなるでしょうし、スタイルも良くなります。

(3)前屈みや中腰が辛い

 草取りや作業で中腰の姿勢をしたあとで腰が痛くなった。靴下を履くのが一苦労。洗面の姿勢が辛い。仰向けで寝ると腰が痛くなる。これらは腰痛の中で比較的多い症状です。
 前屈みができないというのは、背中の筋肉がこわばっていて伸びることができないという状態です。仰向けで寝るのが辛いというのも、背中の筋肉が伸びてくれないことが主たる原因です。ギックリ腰や急性の腰痛でこうなる場合ももちろんありますが、慢性的にこれらの症状がある場合は、骨盤や股関節の歪みが主な原因であると考えることができます。
 中腰などの作業が続いたためお尻の筋肉がこわばってしまい、それによって背中や太ももの筋肉も伸びなくなってしまう場合もあります。この場合は、お尻やふくらはぎの筋肉を揉みほぐすことによって腰痛が軽快することもあります。
 股関節や骨盤のことは前にも考察しましたので、ここではこれを省いて、足と手に着目して考えてみます。そして実際、足と手の問題でこれらの腰痛になっていることは非常に多いです。

足の問題と腰部のこわばり
 整体的に身体を中心部と外側部という観点でみますと、足指の中心部は母趾です。そして手では小指です。話はちょっとそれますが、いわゆるO脚は母趾から続く脚の内側の筋肉がうまく使われいなくて、小趾側やふくらはぎの外側に重心が掛かった状態で歩いたり、いろいろな動作をしている結果の現れです。つまり母趾で歩くことができなくて、足の外側で歩いていると言えるのです。
 まず体の使い方として、重心がいつも中心部にあれば体を壊す可能性は低いと言えます。反対に重心が外側に掛かっていると体を壊す可能性も高くなりますし、O脚のみならず体全体のスタイルも悪くなります。重力に立ち向かって(りん)としていないというか、猫背気味で重力に押しつぶされている感じの体つきになるというか、そんなふうになってしまいます。

 さて立った時、足の親指やその付け根の部分がしっかりと地面を捉えていれば問題はないのですが、小指(小趾)や3趾、4趾側に力が集中していて、親指の付け根がなんとなく浮いた感じがするようであれば、それは好ましくない状態です。立つ姿勢自体が不安定なので、親指の先に力を加えて曲げて、踏ん張った状態でなければ長く立っていられなくなります。歩く動作でも同様です。常に親指の先に力を入れ続けますので、その筋肉(長母指屈筋)がこわばってしまいます。すると外くるぶしのある骨(腓骨)が下に下がります。するとそれによって、ふくらはぎや太ももの筋肉がバランスを失います。それが骨盤や股関節を歪ませ、背中の筋肉のこわばりを招きます。
 草取りや潮干狩りなどしゃがんだ姿勢でじっとしている状態を長く続けていますと、アキレス腱が伸びてしまいます。アキレス腱は重力に対抗するふくらはぎのヒラメ筋の延長線でもあるため、ヒラメ筋の働きが悪くなります。すると同じ抗重力筋である大殿筋にも影響が及び、洗面など前傾姿勢で上半身を支える力が弱くなるため、その姿勢が辛くなります。

手の問題と腰部のこわばり
 パソコン社会と言ってもいい今日、手指の使いすぎで手がこわばっている人がたくさんいます。
 “腰痛を改善するためには必ず手を施術しなければならない”ぐらいに私は考えています。手を施術しなくてもそれなりに腰痛を改善することはできます。しかし、最後の微調整における決め手は手への施術か、あるいは足の母趾の先端への施術になってしまいます。
 手をざっくりと親指側と小指側という観点で分けて考えます。肘から手首にかけてを前腕と呼びますが、前腕には親指側の橈骨と小指側の尺骨という二つの骨があります。そして橈骨側には橈側手根屈筋、尺骨側には尺側手根屈筋という二つの大きな屈筋(手首を内側に曲げる)があります。この二つの筋肉は連動性の関係から、腹部では腹筋のうち外腹斜筋と腹直筋、太ももでは大腿四頭筋のうち外側広筋と大腿直筋に、ふくらはぎでは前脛骨筋と長母指屈筋にそれぞれ連動しています。
 つまり手の筋肉がこわばると、そのこわばりは足の筋肉にまで及んでしまうということです。すると手の問題が足の問題につながり、骨盤を歪ませ、腰痛を招くという経路が浮かび上がってきます。実際、手のひらの土手部分がカチカチになっていて、いつも手のひらがつぼまっているような人がたくさんいます。

座った状態では前に屈めるが、立つと屈めなくなる
 座った状態で靴下を履くとか、椅子に座ったまま物を拾うために屈むことは大丈夫だが洗面など立った状態で前に屈むことがつらいという人もいます。前に屈むことに限らず、座ると大丈夫だが立つと駄目になるというのは、膝が不安定であると考えることもできます。膝に体重がかかると重さに耐えられないため周囲の筋肉の状態が悪くなるという状態です。この場合も、手への施術か、母趾先への施術で症状は改善します。もちろん膝の不安定さも改善します。

(4)座り続けることができない

 座り続けているとつらくなってしまう場合の直接的な原因は骨盤の不安定さだと考えられます。立った状態や寝た状態では大丈夫なのであれば、座った時に負荷が掛かる部分(骨盤の坐骨部)が不安定なので腰痛になってしまうという理屈です。
 骨盤を不安定にさせる理由も幾つかありますが、ギックリ腰や肉離れなどの損傷の痕がしっかり治りきっていなかったり、骨盤体操などで許容範囲を超えて骨盤を動かしすぎて靱帯が伸びてしまったり、ボキボキやったり強い力で骨盤矯正などをしたために靱帯が伸びて不安定になってしまったということも考えられます。また、長時間座り続けることが重なって太ももの裏の筋肉や筋膜が伸びた状態、ゆるんだ状態になってしまい骨盤が不安定になることもあります。椅子の座の角がいつも同じ部分に当たり続けているとその部分が疲弊して伸びてしまうことはよくあることです。
 座るとだるさやシビレ感が出てきたり、それらの症状が強まるようであれば骨盤の不安定さによる坐骨神経痛も考えられます。また、横向きやうつ伏せで寝ることは大丈夫だが、仰向けで寝ると坐骨神経痛の症状(シビレ、痛み、だるさ)が出るのであれば、直接殿部を床に着きたくないということですからやはり骨盤の安定性に着目することになります。

(5)坐骨神経痛‥下肢の痛み、だるさ、シビレ、違和感

 坐骨神経痛はお尻からふくらぎ、あるいは足先にかけて症状が現れる状態ですが、程度の差が様々です。軽微なものでは皮膚感覚に違和感を感じる程度です。太ももの外側やふくらはぎの外側を触ると、他の部分とは違った感じがするというものです。もう少し程度が進むとだるさやシビレを感じるようになります。さらに進むと痛くなり、その状態がひどくなると痛くて動かすことができなくなり、あるいは運動神経が麻痺して足や足趾を動かすことがままならなくなったりします。
 坐骨神経痛になる理由もさまざまですが、一番多いのはお尻がカチカチになってしまい、硬く太くなってしまった筋肉が坐骨神経を圧迫してしまうことでしょう。その他に、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症でも坐骨神経痛になってしまいます。股関節がおかしくて坐骨神経痛になることもあります。

 施術をしてみて実際に感じることは、短期間で改善しやすいものと、なかなか改善に向かわないものの二つがあるということです。どんなに症状が強くても原因がはっきりしているものは短期で改善しやすい分類に入ります。原因がはっきりしているというのは、どこかをケガしてそうなったとか、何かをした後でそうなったというものです。
 改善しにくいのは、ケガなどによって受けたダメージが強いものや、すっかり慢性化している場合です。「軽いシビレやだるさは何年も前から感じていたが、不自由はなかったのでそのままにしていた。最近になってシビレが強くなり痛みを感じるようにさえなった」というのは、症状の程度が強まったのは最近のことだが、坐骨神経痛の状態そのものは何年も続いているということですから、慢性化してしまったものです。こういう方に対しては、なんとか日常生活に支障がない程度にはすぐにしてあげたいと思うのですが、それがなかなか難しい場合があります。
 神経痛ですから、神経がその経路のどこかで圧迫されている、あるいは神経に血液がうまく通っていないことが原因の大半です。それがクリアできれば神経痛は解消されるはずです。しかし、なかなかクリアできないケースもたまにあります。今後の私の課題でもあります。

 坐骨神経痛については奥が深いので、それだけのタイトルでそのうちアップしたいと考えています。