私のところに来店される人は圧倒的に女性が多いのですが、足や足裏に対する悩みを持たれている人もかなりいます。女性の場合は、やはりヒールの高い靴を履く確率が高いからなのでしょうか、それとも肉体的に足の筋肉が弱いからでしょうか、外反母趾、内反小趾なども含めて男性に比べて明らかに足を気にされている人が多いです。
扁平足は男性の方が多いように思いますが、男性はそのことをあまり気にしない傾向があります。感覚が鈍いのかもしれませんが、あるいは筋力が強いので少々扁平足でも支障を感じないのかもしれません。
さて、今回の話題は小趾側のアーチについてです。
足裏には内側(母趾側)と外側(小趾側)に縦アーチがあり、足の中程を横切るように横アーチがあるます。これらのアーチは歩行時にクッションの役割をしていますが、歩き方にバネを与えているとも言われています。
母趾側のアーチが崩れますと、いわゆる扁平足状態になってクッション作用が乏しくなります。地面からの衝撃を直に受けるようになりますので、歩くことや立ち続けることが辛く感じてしまう、などと言われています。
足の横アーチが崩れますと、開帳足になって足指のつけ根(MP関節部)に負担が掛かりますので、指(足趾)のつけ根のところにマメができ、痛みを感じたりするかもしれません。外反母趾や内反小趾の人はこのような状態になっている場合が多いのですが、それは母趾側と小趾側のアーチが崩れていることと関係しているように思います。
今回取り上げました小趾側のアーチは、扁平足や土踏まずには直接関係していないと思われていますので、あまり話題には上りませんが、私はかなり重要な役割を果たしていると考えています。
まず、小趾側アーチがしっかりしている状態に整えた場合の効用について説明させていただきます。
①姿勢
- 立位での足のバランスが良くなりますので、「足裏全体でしっかり立っている感じがする」「心地良く立てる」「足全体を使って歩くことができる」などの感想をいただきます。
- 頭と胴体と骨盤や殿部がバラバラで一体感が感じられず、出っ尻出っ腹状態の人が小趾アーチを上げてしっかりさせることだけで、すっかりスタイルが変わったことがありました。イメージ的に表現しますと「潰れていたからだが伸び伸びとした」という感じになりました。
②腹部
- 小趾側アーチの要は第5(小趾)中足骨ですが、この骨が上がりますと鼡径部も上がります。すると恥骨周りが変わりますし、腹筋に余裕が生まれますので内臓の働きも良くなります。
- 鼡径ヘルニア(脱腸)で悩んでいた妊婦さんが、鼡径部が上がったことで小腸の収まりも良くなり、すっかり悩みは解消されました。
- 胃下垂になりやすく、慢性的な胃腸の不調に悩んでいた人が、鼡径部が上がったことで腹筋による締めつけが解消されたためか、胃腸の調子が良くなりました。
③顔面とその周辺
- 目を開けるのが楽になったとよく喜ばれます。
- 喉の位置が少し上昇しますが、嚥下が楽になった人もいました。
- 舌の位置が上がります。顎を閉じるのに力を使わなくなりますので、口周りが楽になります。噛みしめ癖を改善することに貢献します。また、滑舌が良くなり喋りが楽になります。
ざっと、上記の様な感じで効果が実感できると思います。
小趾側アーチがしっかりするとどうなるかを体感してみましょう
上の写真では、サラシを5回折った厚みのものを使いました。折ったままの状態では1㎝くらいの厚みになりますが、それを実際に踏むと5㎜程度のものになると思います。ハンカチでも小さなタオルでもよいと思いますが、あまり硬くない素材のものを使っていただいて、小趾側のみ、下に敷いてみてください。両膝が中心部に寄ってきたり、腹部がしっかりして伸びやかになったりするのが実感できると思います。
小趾側アーチが少し上がるようにしただけですが、これまでとはすっかり変わった感じがすると思います。小趾側アーチがすっかり崩れている人は、これだけで地球との関係が変わったように感じるかもしれません。
小趾側アーチは「上昇する力」か?
以前の投稿で内在する「上昇する力」について触れました。私たちは重力のある地球上に暮らしていますので、加齢などによって細胞の力が衰え始めますと重力に負けた状態で暮らすようになってしまうのかもしれません。
その現れの一つが「重力に押しつぶされたような体型」です。
以前にも使わせていただいた写真ですが、左側の人は前屈みになりながら歩いていますが、重力に負けた状態で歩いているように私には見えます。右側の人は重力を意に介さずさっそうと、伸び伸びと歩いているように見えますが、この違いは足元の違いによるものだと思います。そして、小趾側アーチがこの違いに大きく影響しているように感じます。
鼡径部が下がらないように
時々「出産後に体型が変わってしまうのは骨盤が拡がるからだ」と言われることがあります。施術者としての実感として、骨盤と体型とには深い関係があると思うことも多いです。そして「下っ腹」にフォーカスをあてますと、骨盤の中でも鼡径部の状態が体型に深く関与しているように感じます。
鼡径部は、お腹と太股の境である「股関節にある溝」周辺のことですが、そこには骨盤前面の恥骨と腸骨の上前腸骨棘を結んでいる鼡径靱帯があります。鼡径靱帯の下には大きな動脈と静脈、そしてリンパ管が通りっていてリンパ節もたくさんありますので、上半身と下半身の境部として常に血流やリンパの流れを良くしておきたいところです。
ここで整体的にちょっと不思議なことを申し上げます。鼡径靱帯は骨盤と一体化した状態にありますので、骨盤が前傾しますと恥骨部は下がります(下を向く)ので鼡径靱帯及び鼡径部も下がります。そして骨盤が後傾しますと鼡径靱帯及び鼡径部が上がる状態になるのが理屈です。ところが実際には、そうはなりません。厳密に申し上げますと「形の上ではそうなりますが、力の方向がそうなりません。骨盤を後傾させても鼡径部は上を向いてくれません」ということになります。
数学で「ベクトル」について勉強されたと思います。それは「→」で現され「向きと大きさをもった量」のことと説明されますが、私はからだの骨も筋肉も筋膜もベクトルを持っていると感じています。位置が上や下、右や左に歪んでいることが重要なのではなくて、その骨や筋肉や組織が「どの方向に、どれくらいの力で向いているのか」が重要だと思っています。その意味で鼡径部が上を向いていて欲しいと思っています。そして、そのためには小趾側のアーチがしっかりと上がっている必要があります。
これは小趾側アーチが崩れている人に対して行う施術によってわかる変化なのですが、ベッドに仰向けになっていただいた状態で、小趾側のアーチが上がるように私の手で小趾中足骨や立方骨周辺を押し上げますと、それに伴って鼡径部内部の筋肉や組織がググッと少し動いて鼡径部が少し上昇します(上向きのベクトルになる)。そうなりますと鼡径部を筋肉の出発点としている腹筋がゆるみますので、腹部に余裕が生まれます。それまで呼吸をしていてもほとんど動くことのなかったお腹が静かに動き出すようになります。人によってはそれまで硬い腹筋に抑圧されていた内臓が少し解放されますので、お腹が鳴り出す場合もあります。
そして次に喉や舌の位置が上がりますので、下顎から喉にかけて余裕が生まれたようになります。舌が上がりますと口の閉じ方が変わります。
「口を結ぶ」という表現がありますが、その状態は口輪筋や口周りの筋肉を使って口を閉じますので、顎先(オトガイ)に筋肉の収縮瘤(梅干し)が生じます。いかにも力を使って口を閉じている感じですが、このような状態の時は舌が下がっています(下の歯列のところに舌先がある)。
舌が上がりますと、口を閉じたときに舌が口蓋(口の中の天井)を塞ぐような感じになりますが、その力を使って口を閉じるようになりますので、口周りの筋肉やそしゃく筋はリラックスしたままの状態で口を閉じ続けることができるようになります。顔からも力が抜けますので、柔らかい顔つきになります。また、目元も上がり目が開きやすくなります。
このような状態は、上の二人の男性が歩いている写真の、右側男性のように重力に負けない姿を築く力になると思います。そして、その力を「内在する上昇する力」だと私は考えています。そして、上昇する力を発揮するための条件の一つとして「小趾側アーチがしっかりしていること」が必要なのだと考えています。
ちなみに、上昇する力を発揮するためには足首にあります距骨の状態も重要です。バネのある歩き方をするためには、母趾側の縦アーチがしっかりしていることよりも、からだをちゃんと距骨に乗せることの方が効果的です。
小趾側アーチを整える
インターネットでいろいろな情報を見ますと、足裏のアーチをしっかりとさせるためには、足底筋膜や足底の筋肉を鍛えることが重要だとされています。「ま、それはそうだけど、それだけでは全然不十分だ」と私は考えています。的を射てないと言いますか、核心を外した内容に感じてしまいます。
私が足のアーチを整える場合は、骨格にフォーカスします。整体の一つの手法として「隣り合う骨を観察していきながら、どの骨が歪みの大元になっているかを特定する」というのがあります。
たとえば小趾側アーチが崩れている場合、それは小趾中足骨が下がっているとか、沈んでしまっているということです。ですから小趾中足骨と隣り合う骨がどうなっているのかを観察することから施術を始めます。
小趾(5趾)中足骨と隣り合う骨としては立方骨、4趾中足骨、あるいは小趾(5趾)基節骨があります。例えば立方骨が歪んでいることによって小趾中足骨が沈んでいるのであれば、立方骨の歪みを修正することを考えます。それは立方骨に繋がっている筋肉の影響かもしれませんし、立方骨と隣り合う踵骨、あるいは舟状骨や外側楔状骨の歪みが原因になっているかもしれません。
このようにどんどん比較作業を繰り返しながら、最終的に「この骨の歪みを修正すれば、それまでの過程の全部の骨が整い、小趾中足骨の状態がしっかりする」という骨を見つけ出し、それを整えることになります。
そのために筋力をつけなければならないのであれば筋トレは必要になりますし、どこかの靱帯をゆるめることが必要であればそのような施術を行います。過去の捻挫が原因で靱帯が機能していない状態であれば、適切に対処します。このように、小趾側アーチを整えるための施術は少し手間が掛かります。
「上昇する力」は小趾側アーチだけではない
私は勝手に「内在する上昇する力」と呼んでいますが、それは重力に負けることなく上(天)を目指す力のことであり、そういう力が私たちのからだには元々内在していると考えています。そしてその力は一般的な傾向として、若い頃は力が強く、青年期を超えますと加齢とともに徐々に弱くなるようです。
若い頃は何の努力をしなくても頬が垂れたり、お尻が垂れたりすることはありませんが、それはその力が旺盛だからだと考えることができます。壮年期を超えますと筋トレなどをして努力をしても顔やお尻やお腹は垂れやすくなりますが、それは細胞に内在する上昇する力が弱まるからではないかと私は考えています。
ところで、上昇する力が表面化する現象としましては、目が開きやすくなる、舌が上がる、鼡径部が上がるなどがありますが、そういう状態になるための骨格的指標がいくつかあります。
小趾側のアーチがしっかりしていることはその中の一つですが、その他には膝小僧(膝蓋骨、膝のお皿)がしっかりと定位置に収まっていて下がっていないこと、上部頚椎が下を向くことなく頚椎が前弯していること、仙骨が前傾していることなどです。
それぞれを説明し始めますと長くなりますので、それは別の機会にしますが、いわゆる「ストレートネック」と指摘される状態は上部頚椎が下を向いた状態ですので、舌の位置も顔も下がります。単に「肩が凝りやすい」とか「首が張ってしまう」という症状が現れるだけではなく、上昇する力が弱まりますので重力に負けてしまうからだになってしまう可能性があります。腰椎が後弯して骨盤も背中も丸まったような姿勢が得意な人は、前に進むのが苦手で推進力が発揮できませんが、それは「やる気が出てこない」ことと関連性があるとの話もあります。ですから、是非改善していただきたいと思います。
ストレートネックは比較的容易に改善できますし、腰椎の後弯は時間がかかりますが改善可能です。小趾側アーチをしっかりさせることも含めて、いつまでも重力に負けることなく伸び伸びと暮らしていけるからだを維持していただきたいと思っています。
以上の様な私の考え方は以前に少しだけ勉強したことのあるインド哲学を参考にしています。それによりますと、宇宙を構成する元素は「空・風・火・水・土」の五つで、すべての物質はその五元素でできているとのことです。そして、この五元素の中で唯一、火の元素だけが上へ上へと上昇する性質を持っています。ロウソクの炎がまったく重力を無視して真っ直ぐに上昇するのは、炎は火の元素で満ちているからだと考えられています。そして量の大小は別にして、どんな物質も必ず5つの元素で構成されていると考えられていますので、物質としての水(H2O)にも火の元素(原理)が含まれている理屈になります。
一般的には、水は100℃で沸騰して気化して上昇しますが、それは熱を加えることで火の元素が力を増したからだと考えることもできます。さらに100℃に満たなくても、海の水や道路に撒いた水は太陽の光を浴びて気化(蒸発)して上昇しますが、それは水に内在する火の元素が太陽の光と熱によって活性化され、力を増したからだと考えることもできると私は思っています。(科学的には湿度との関係で考えるようですが)
ところで「火」は燃焼(=酸化)によってもたらされますので、私たちに内在する上昇する力は細胞の中のミトコンドリアの活動が生み出しいることになります。(細胞内のミトコンドリアが糖質と水を燃焼(=酸化反応)させてエネルギー物質を生み出しています)
ですから、子供や若い人達は食欲が旺盛ですが、食べたものはどんどん燃焼されますので、上昇する力が増大すると考えられます。そして、加齢や体調不良などであまり食べられなくなりますと上昇する力も弱まってしまう、つまり重力に負けやすくなってしまうと考えることもできます。
上昇する力をこのように考えますと、小趾側アーチとの関連性はないように思いますが、現実として、小趾側アーチをしっかりとした状態に整えますと、上昇する力がアップして舌が上がりますので、ミトコンドリアの活動と何らかの関係があるように思われます。ですから、「小趾側アーチを整えると上昇する力がアップする」ということではなく、「上昇する力をアップさせるためには、小趾側アーチを整えることも必要な要素の一つである」と言えるのだと思います。