踵(かかと)の沈みを改善しましょう

 今回はマニアックな内容になりますが、足の踵についての話題です。
 「朝起きて一歩踏み出したときに踵に激痛が走る」「ジョギングをしている最中は大丈夫だけど、走り終わった後、踵が痛くなる」「長く歩くと踵が痛くなる」などの症状があるとき、その原因として考えられるものとして「踵が落ちている」「踵が沈んでいる」というのがあります。

 踵が落ちている状態になっている人は、自分が思っているよりも早く、あるいは強く、踵が地面に当たってしまうので「柔らかく着地する」ことができなくなります。走る一歩一歩で、歩く一歩一歩で、踵がコツンコツンと地面に落ちてしまう感じになりますが、それは踵に炎症を生じさせる原因になります。

 また踵がこのような状態になっていることは、足や足首のバランスが悪いということですから、全身にも様々な影響を及ぼします。

 「踵を着くことが痛くて歩くことができない」「踵を触ると激しく痛む」などといった、症状が進行している場合は、ほとんどの人が接骨院や整形外科などを訪れるなどして何らかの対処を行うと思います。ところが踵に痛みを感じるわけでもないし、膝や腰などに痛みが現れるほどでもないなど、症状が非常に軽微な場合、ほとんどの人は何もしないまま放っておいてしまうと思います。
 しかし、踵が落ちていることが原因して肩関節や肘や手首の動きに問題を起こしていたり、下半身が硬くなって重たくなっているように感じるなどの症状をもたらすことがあります。
 「特別に腕を酷使したり、肩関節に無理を掛けているわけでもないのに、どうして腕を回すと痛みを感じたり、肘周辺が重苦しい状態になってしまうのだろう?」
 ということの原因として踵の落ち込みは考えられることです。そして、そうであった場合は肩関節や肘の治療を行ったとしても何の効果も感じられない結果となってしまいます。

 また、「履き慣れている靴なのに、靴擦れを起こしてしまった」といった場合は、踵が落ちていることが原因である可能性が高いと考えられます。

踵が落ちてしまう原因

 踵が落ちている場合、それが内側(母趾側)なのか外側(小趾側)なのかで原因は異なります。多くは外側が落ちていますが、時々内側が落ちている人や踵全体が落ちている人に出会うこともあります。

踵外側が落ちている場合

 O脚の人、O脚気味の人、内股の人は足首が内返しのような感じになっている場合がほとんどですが、それだけで踵の外側が落ちやすい状況になっていると判断することができます。
 歩行時に、踵は内側より外側の方が先に着地する状況ですから、踵外側に無理が掛かかってしまいます。また、靱帯(踵腓靱帯)を介して外くるぶし(腓骨)が引っ張られて下がってしまいまます。これらの状況は踵の外側が落ちてしまう原因となる可能性が高いと言えます。

踵内側が落ちている場合

 内くるぶし(内果)が前に出ているような場合、踵の内側が落ちています。内くるぶしは脛骨ですから、脛骨が捻れていたり、足内側の靱帯(前脛距靱帯、脛舟靱帯)が硬くなって内果を前下方に引っ張っていることなどが原因として考えられます。

 私たちのからだの骨格は関節を介して繋がっていますが、骨格が歪む場合、骨が関節で「捻れる」という現象をたびたび起こします。膝下のところで脛骨が内側に捻れたり後方に沈んだりしている場合、足首近くの脛骨は反対の動きをして内くるぶしが前に歪みますが、このような状態になっていて踵の内側が落ちている場合があります。

距骨や他の骨の歪みと踵の落ち込み

 足は手と同様に幾つもの骨が組み合わさってできていますが、からだ全体に影響力が大きいのは距骨の在り方です。二足歩行の私たちは地面に対して垂直に重力(体重)が掛かっていますが、それを直接受け止めている骨が距骨です。
 ですから距骨がグラグラしていたり歪んでいたりしますと、垂直に掛かっている体重をバランス良く足で受け止めて安定した立位を保つことはできなくなります。
 距骨が良い状態で安定していないと指(足趾)を曲げて踏ん張らなければならなかったり、踵に重心をかけて踏ん張らなければならなくなってしまいます(踵重心)。
 そして距骨が歪んでいる影響の一つとして踵(踵骨)が全体的に落ちてしまっている状況を招くことがあります。

施術

 以上のとおり、踵の落ち込みは①外側、②内側、③踵全体の三つに分けてそれぞれに原因が違うと考えられますので、施術方法もそれぞれで違ったものになります。
 私がこの仕事を始めたばかりの頃は、踵が落ちていることは単純にアキレス腱がゆるんでいて踵を引っ張り上げる力が足りないと考えて対処していました。しかし実際は、そのようなケースは稀であり、今となってはかなり効率の悪い施術をしていたと反省しています。

 そして今は、三つに分けて対処することで効率よく、そして正確に踵が歪んでいる状況を改善することができるようになりました。

 「踵がちょっとくらい落ちているからといってどれほどの違いがあるのか?」と思っている専門家は多いと思います。きっと整形外科の医師は「骨に異常があるわけではないし、それがどうしたの?」くらいにしか思っていないかもしれません。しかし、全身の推進力という観点で考えますと、踵がしっかりと全身の動きに合っていることと、踵が全身の動きについて行けなくて遅れてしまう状況ではまったく違ったものになります。
 「前に進みたいのに、踵がそれを阻止している」と感じてしまうかもしれません。特に、アスリートの人たちにとっては大きな影響があると思います。

セルフケア

 踵が落ちている状態を修正するためのセルフケアは文章で表現することはできません。
 既に説明しましたように踵が落ちしてしまう原因には三つのパターンがありますし、それぞれにケアの方法が異なりますので、実際にからだを見た上で、個別にアドバイスするしか方法がありません。
 それでも、来店されずにご自分で対処したいと考えるのであれば、テーピングをおすすめします。キネシオテープを用いるのであれば、踵の一番下からアキレス腱にかけてテープを一枚貼るだけで、踵の落ち込みを改善することが可能だと思います。ただし、これは一時的な対処療法であり、原因を取り除いて修正しているわけではありませんので、テープを剥がしてしまうと踵が落ちた状態に戻ってしまいます。
 それでも、アスリートの人にとって踵がしっかりしている状態は推進力が向上しますのでテーピングをすることは効果が感じられると思います。
 隠れた地味な要素ですが、踵を良い状態に保つことは、けっこう大切なことです。