今回は筋肉の話題です。
ふくらはぎの外側に第3腓骨筋(だいさんひこつきん)と呼ばれる小さな筋肉があります。そして、この筋肉が非常に強くこわばっている人がたくさんいます。
第3腓骨筋は足首を曲げる時に働く筋肉ですが、特に小趾側を引き上げる時に働きます。
骨格的に問題があったり筋肉の働き方に問題があったりして股関節内側の筋肉を使って股を上げることが出来ない人は、太股やふくらはぎの外側の筋肉を使って歩くようになりますが、すると第3腓骨筋がこわばってしまいます。
内股やO脚の人は、大方第3腓骨筋がこわばった状態になっていると思います。
今回、第3腓骨筋のこわばりを取り上げた理由は2つあります。
一つは、膝関節が歪んでしまい、膝の裏側が腫れぼったくなってしまい、リンパや静脈の流れも悪くなりますので、慢性的に下半身に違和感や不快感を感じ右ようになってしまう可能性が高くなることです。
もう一つは、膝関節に不具合や不調を感じる頻度が高くなることです。第3腓骨筋と兄弟のような関係にある筋肉に長趾伸筋(ちょうししんきん)がありますが、これらの筋肉がこわばりますと、深くしゃがみ込むことができなかったり、しゃがんだ状態から立ち上がる時に膝やふくらはぎの外側に痛みを感じるようになったりします。あるいは、常にふくらはぎの外側に筋肉の張りを感じるようになるかもしれません。
今回は第3腓骨筋のこわばりによる影響と日々のセルフケアについて説明させていただきます。
第3腓骨筋と長趾伸筋
膝下から足首にかけてを一般的にはふくらはぎ、英語ではレッグ(reg)と呼びますが、専門用語では下腿(かたい)と言います。
下腿には脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)の2つの骨があります。
膝関節の外側にある骨の出っ張りは腓骨(腓骨頭)ですが、その骨に沿うようにして足首を超え、足につながっている筋肉を腓骨筋と呼びますが、それは3つあります。
第3腓骨筋はそれらの中で最も小さい筋肉ですが、他の2つの腓骨筋とは違う特徴として外くるぶし(外果)の前を通過していることがあります。
ですから第3腓骨筋がこわばりますと、外果が前にずれたり、足の小趾側に近づいたりするといった現象が起きます。(小趾中足骨を腓骨の方に引き寄せる結果として)
そしてこのことは腓骨が歪んで、膝下の腓骨頭の位置がずれる状態を招きますが、それによっていろいろな弊害が生じます。
膝裏の腫れぼったさ
膝関節の裏側は凹んだ状態になっているのが、正しい在り方です。膝関節の裏側では、ふくらはぎ(下腿)~太股(大腿骨)につながっている腓腹筋と反対に大腿骨から下腿につながっている大腿二頭筋(だいたいにとうきん)と半腱様筋(はんけんようきん)・半膜様筋(はんまくようきん)が交叉していますので、交叉している部分(膝関節裏側外側部)には筋肉と腱による盛り上がりあります。ですから、その間(膝関節裏側中央部)は相対的に凹んだ状態になります。(膝窩と呼ばれます)
ところが何かの理由で大腿骨と下腿の関係に歪みが生じますと、その凹み(膝窩)は消えてしまい、反対に腫れぼったい感じになってしまいます。
このような人は意外に多くいますが、そのほとんどの人は「脂肪」や「むくみ」による膨れだと思っているようです。
「むくみ」であることは半分当たっています。膝関節が歪んだことによって膝周辺の静脈やリンパの流れが停滞してしまい、むくんだ状態になるからです。
むくみ以外では、筋肉のこわばりが腫れぼったさの原因です。筋肉はこわばりますと、硬く太くなりますので、膝裏やその周辺やふくらはぎやが太くなってしまうのです。
ですから、膝裏をスッキリした状態にしたいのであれば、膝関節の歪みを整えて筋肉のこわばり状態を解消する必要があります。
膝関節の歪みを放って置いたまま、たくさんマッサージなどをしたところで、少しの間はスッキリ感を味わうことができるかもしれませんが、根本的な解決には繋がりません。
膝関節の歪みによる筋肉の変調(こわばって太くなる)や位置のずれが原因と考えられますので、関節の状態を改善しませんと、根本的な問題解決には結びつきません。いくらマッサージなどしても「その場限り」の改善となってしまいます。
さて、第3腓骨筋が強くこわばりますと、膝関節でふくらはぎの骨(脛骨と腓骨)が外側後方にはずれ、足首にかけて内側に捻れた状態になると私は感じています。この表現は実際にはかなり大げさですが、解りやすいイメージを思い浮かべていただくためには、適当な表現だと思います。
細かく説明しますと以下のようになりますが、マニアックすぎると思われる人は、「第3腓骨筋がこわばると膝関節が外側に外れたような状態になって、膝裏が硬く膨らんでしまう」と簡略して理解していただければと思います。
第3腓骨筋が強くこわばった状態になりますと、ふくらはぎ(下腿)が足首に掛けて内側に捻れるような状態になります。その原因は先ほど申しましたが、外くるぶし(外果)が前下方に引き寄せられた状態になってしまうからです。
下腿全体を包んでいる筋膜(皮下筋膜)も腓骨(外果)の動きに合わせるように捻れますので、下腿全体を足首にかけて内側に捻れさせる力が働いてしまうからだと考えられます。そして、その反動のように、膝関節の周辺では腓骨頭が後に動くような力が働いてしまいます。つまり、膝関節で腓骨頭は後下方に歪み、さらに後ろ向きの力が働いてしまいます。
言葉にするととても解りにくい説明になってしまいますが、結論的に申しますと、腓骨が、足首周辺では前の内側に引っ張られ、膝周辺では後下方に引っ張られるような状態になってしまうということです。普通に考えますと、このような状態は「起こりえない」となりますが、皮下筋膜のバランスを取る働きによってこのような状態になるのではないかと、私は考えています。
膝関節で、腓骨頭を後下方に歪める力が働くことによって、腓骨頭から大腿骨に繋がっています大腿二頭筋(だいたいにとうきん)短頭にはテンションが掛かります。そして大腿二頭筋短頭は何とか腓骨(腓骨頭)を本来の位置に戻そうとしますので、腓骨を大腿骨の方に引き寄せようとしますが、それによって筋線維がこわばり、太股裏側の外側が棒のように硬くなってしまうことがあります。(実際には大腿二頭筋短頭と外側広筋や大殿筋の一部がこわばります)
そして膝関節で腓骨頭が後下方に引っ張られた状態は膝裏の深部にあります膝窩筋にも影響を与え、膝裏が硬くなると同時に膨れあがった状態になる原因になります。
第3腓骨筋への施術
実際、第3腓骨筋のこわばりによって膝関節の裏側が硬く腫れぼったくなっている人の第3腓骨筋は、頑固にこわばっています。
「どうしてこんなに硬くなるのだろう?」と不思議に思いながら施術を行うこともありますが、長年の、からだの使い方の癖による蓄積なのかもしれません。
ですから、私はただひたすらにこわばっている第3腓骨筋とその付着部(停止)である外くるぶしから小趾側にかけての硬さをゆるめる施術を行うのですが、施術を受ける側もかなりの痛みを感じてしまいます。
そして片方15分くらい掛けてゆるめていきますと、外側後方にずれていた膝関節も「しっかりはまった」と感じるようになりますし、内側に捻れていた足首周辺の状態も改善されるようになります。左右両方で30分くらいの痛い施術になりますが、その後は、膝周辺もスッキリして膝裏に凹みが現れるようになります。
足の着地状態も良くなって「足全体でしっかり立っている感じがする」と皆さん言います。そして「これがこの人の本来の脚の状態だ」と私は感じるのです。
太くても、細くても、スマートな状態というものはありますし、それが本来であり、魅力的だと感じます。
軟らかすぎる足首の弊害と第3腓骨筋と長趾伸筋
今は私のからだも硬くなってしまいましたが、数十年前、運動をたくさんしていた頃の私は結構からだが軟らかい方でした。
しかし、踵を上げないまま、膝を曲げてしゃがみ込むことはできませんでした。
ところが、写真のように膝を揃えたままの状態で踵を上げることなくしゃがみ込むことが難なくできる人がいます。
私が若い頃の時代、いわゆる「ヤンキー」と呼ばれていた人達の代表的なスタイルは股を開いて地べたにしゃがみ込む姿でした。しかし、それは両膝が開いているからできるのであって、膝を閉じたまましゃがみ込む人はいなかったです。
しゃがみ込み続ける姿としては野球の捕手が思い浮かびますし、相撲や剣道で行われる蹲踞(そんきょ)もそうですが、踵を浮かせて、足首にからだを乗せるような状態でしゃがみます。ですから、普通はそうであると私は思い込んでいました。
踵を浮かすことなくしゃがみ続けていられる人がいることを知り驚いたのですが、そのような人達の多くが膝にトラブルを抱えやすい現実も知ることになりました。
そのような人達は膝関節が悪いということではないのですが、「しゃがみ込むときに最後まで深く膝を曲げることが厳しい」とか、「しゃがみ込んだ姿勢から立ち上がる時に膝周辺やふくらはぎの外側に痛みを感じる」、「膝がはまっていないように感じ、深く曲げるとツッパリ感を感じる」などの症状を時々訴えることがあります。
このような状態の時は、第3腓骨筋や長趾伸筋(ちょうししんきん)や小趾外転筋(しょうしがいてんきん)が強くこわばっています。さらに関係する靱帯も硬く縮んだ状態になってしまいます。
それは踵を上げることなくしゃがむことができ、その姿勢を苦に感じることなく長時間持続することができるので、これらの筋肉や靱帯が収縮しっぱなしの状態になっているからではないかと思っています。筋肉は収縮した状態を長時間持続しますと、こわばった状態になるからです。
今は昔ですが‥‥、たとえば和式トイレでしゃがみ続けていますと、ほとんどの人は足首に対する負荷に次第に苦痛や居心地の悪さを感じるだろうと思います。ときどき立ち上がって足首を解放するなどして疲労感を和らげたくなるのだろうと思います。つまり、そうすることで第3腓骨筋や長趾伸筋の収縮状態を一端リセットして筋肉がこわばらないようにしていることになります。
さて、このように踵を上げることなくしゃがむことの出来る人は、そのしゃがみ込んだ姿勢が楽だと言います。
大工のTさんは、たとでば建築現場での業者同士の打ち合わせの祭、30分くらいであれば平気でしゃがみ続けていられると言います。そして、その姿勢が最も楽だと言うのです。
ところが、しばしば膝がおかしくなり、ふくらはぎの外側が「張って、張って!」と訴えるようになります。
「その姿勢が楽かもしれないけど、足首には負担なので、踵を上げないでしゃがみ続けるのは止めてください」と私は申し上げます。
そして、「蹲踞(そんきょ)のように、踵を浮かせて足首の前面を伸ばすようにしてしゃがむようにしてください。」と申し上げます。
何故なら、そうすることで第3腓骨筋や長趾伸筋はこわばらなくなり、足首前面の靱帯は縮んだ状態にならないからです。
セルフケア
第3腓骨筋および長趾伸筋のこわばりを改善するためのケアは、単純にこわばって縮んだ状態になっている筋肉を指圧等で引き伸ばすようにストレッチすることです。
私は仕事として行っていますので、それぞれの筋線維に的を絞って施術を行いますが、普通の人は長趾伸筋と第3腓骨筋を区分けして把握することはできませんし、自分で自分のふくらはぎを伸ばす姿勢や作業は疲労しやすいとも言えます。ですからある程度的を絞って、外くるぶしの上4~5㎝くらいのところの深部にあります筋肉のコリッとした塊をゆるめるように指圧してください。
筋肉が強くこわばって硬くなっている段階では、指圧してもほとんど痛みを感じないと思います。しかし指圧を続けていますと硬さが和らいできますが、そうなりますと痛みを感じるようになり、そしてだんだん痛みが強くなると思います。そして、ここからが勝負です。痛いからといって指圧の力をゆるめないでください。
その痛みは強くなりますが、やがて少しずつ弱まっていき、そしてほとんど痛みを感じない状態になります。ここまでやっていただきたいのです。これで、その部分のこわばりが解消されたことになります。
次にケアしたい場所は外くるぶしの下から小趾にかけての広い部分です。第3腓骨筋と長趾伸筋の腱が通っている部分になりますが、それらも含めて皮下筋膜も硬くなっています。
この部分は指圧よりも少し軽めの力で、ぐるぐるマッサージするのがよいと思います。大丈夫な人はゲンコツを握った状態で軽くゴリゴリするようにマッサージしてください。
その刺激が強すぎると感じる人は人差し指・中指・薬指の指先を使ってぐるぐるとほぐしてください。
このケアもマッサージを進めているうちに痛みが増えてきて、そして痛みが和らいでいくようになります。ですから、そこまでケアを続けていただくことがポイントになります。