顔の整体の実際‥‥ゆめとわでの手技

 “顔は決して傷つけてはいけない”これが第一のモットーです。
 解剖学の言葉で、顔は内臓頭蓋と呼ばれます。顔は内臓が外に露出したものであるという意味を含んでいます。つまり顔を取り扱う時は内臓を取り扱うように慎重にしなければならないと考えています。ですから力を使って骨格(頭蓋骨)を動かすような考え方は持っておりません。
 とは言え、骨格がどうなっているのかがわからなければ施術ができませんので、骨格の動きやズレを検査するために微かな力で骨格を触ることはあります。
 唯一強い力を使うのは、コチコチに硬くこわばっているそしゃく筋(主に咬筋と側頭筋)などをほぐす時です。そしゃく筋がこわばっていますと、それだけで頭蓋骨は歪んでしまいますので、そしゃく筋のこわばりを緩和する施術は不可欠になります。そして、この施術は痛みを伴います。それを“心地良い痛み“と感じる方もいますが、こわばりが強く筋肉がガチガチに硬くなっている場合は、かなり痛く感じます。ただし、じわーっと丁寧にほぐしていきますので、筋肉ダメージを与えるようなことはありません。

 頭蓋骨はいくつもの骨が“縫合”という関節で結ばれて全体の形を形成しています。縫合関節では骨と骨の間を結合組織が結んでいます。この結合組織がダメージを受けて機能が果たせなくなりますと関節がゆるんで骨格がグラグラしたり、骨が沈んでしまったりして頭蓋骨陥没に近いような状態になってしまいます。ただ頭を動かしたり、歩いたりするだけの振動でも、頭蓋骨がフワフワ、グラグラしてしまいますので心理的にとても強い不安を感じてしまいます。
 時折、そのような状態の方が来店されますが、ダメージを受けてゆるんでしまった縫合関節は簡単には元の状態に戻りません。ダメージの度合いや、その方の回復力によって差が出ますが、週に一度のペースで3ヶ月から半年くらい施術が必要になってしまうかもしれません。
 縫合関節を元の状態に戻すための施術は、コチコチに硬くなったそしゃく筋をほぐすやり方とは反対に、軽い力で、ゆるんでしまった部分にそっと手を当て続けるだけのものです。ダメージを受けた部分に手を当てることで細胞の働きを活発にし、組織が元の状態に戻る手助けをするというイメージです。とても地味で「本当に効果があるの?」と誤解されやすい施術方法ですが、「これ以外にやりようがない」と今の私は思っています。

 以上が、顔の整体で実際に顔面や頭蓋骨を触って行う施術内容です。硬くなった筋肉に対しては“じっと圧をかけて”ほぐし、ゆるんでしまった関節に対しては“じっと手を当てて”結合組織の回復を促す、という方法です。
 また、カラダの歪みの影響やカラダの筋肉・筋膜の影響を受けて頭蓋骨が歪んでいる場合も大変多いので、顔の整体の実際は、顔(頭部)とカラダの両方を整える施術になります。

そしゃく筋の調整

 顎関節の不具合や不調も含めて、頭蓋骨の歪みに最も多く関わっているのはそしゃく筋の変調です。変調というのは、筋肉が硬くこわばったり、あるいは反対にヘニャッとゆるみっぱなしで上手く収縮できない状態のことです。そしゃく筋は食事で使う筋肉ですが、噛み方が足りなければゆるんでしまいます。また、噛みしめたり、食いしばったり、歯ぎしりの癖などがありますとこわばった状態になります。そしゃく筋がこわばりますと、下顎と耳が近づきすぎる状態になります。ゆるんでいますと反対に下顎が垂れ下がったような状態になります。片噛みの癖を持っていますと、噛んでいる方のそしゃく筋がこわばり、反対側はゆるんでしまいますので、下顎が噛んでいる方に捻れるように寄ってしまう顔の歪みになります。また噛んでいる方の頬はシャープですが、噛んでいない方の頬はボテッとしてしまいますので、顔の左右差が目立つ感じになってしまいます。
 傾向として、右側で噛み、右眼で見ている人が多いので、多くの人が顔の右側が縮み左側が間延びした感じになっています。
 顔の歪みは、実際にはこんなに単純ではなく、もっといろいろな要因が絡み合っていますが、その中でもそしゃく筋の変調は必ず修正しなければならない項目です。

硬くなってしまった鼻の周りの筋肉

 私たちは日々言葉を話したり、笑ったり、いろいろな表情を作って、自分の思いを伝えたり感情を表現したりしています。この表情を作るための筋肉を表情筋と呼んでいます。
 表情筋も筋肉ですから、加齢による影響を受けます。10歳の子供の頃の顔の筋肉と40歳の頃の筋肉では柔軟性やハリ感が違っています。それは、それで仕方のないことかもしれません。ですから顔を若く保ちたい人は、表情筋が硬くならないように、柔軟性とハリが保てるようにフェイシャルマッサージを行うのでしょう。
 ところで顔に数多くある表情筋の中で、鼻や頬骨の周辺にある鼻筋・上唇鼻翼挙筋・上唇挙筋・小頬骨筋・大頬骨筋などの筋肉とそのあたりの筋膜は加齢とともにこわばりが強くなってとても硬くなっています。これら筋肉のこわばりによって頬骨は口の方(下方)と鼻の方(中央)に引っ張られている状態になります。つまり、加齢とともに頬が下がり、頬と頬の間が狭くなるという現実があります。

 若い頃に比べて頬や目や鼻や口(口角)などパーツが中心部に集まって下がりますので、その周りが相対的に広くなります。加えて顎周辺の筋肉にたるみやむくみが出来やすくなりますので、 輪郭はシャープさに欠け、実際以上に顔が拡がって大きくなったように見えてしまうかもしれません。
 鼻筋の通りも何となくハッキリせず、目の開き方もなんとなく中途半端で「昔はもっと目がパッチリしていたのに‥‥。昔はもっと楽に笑顔がつくれたのに、今はなんとなく頬の肉が邪魔で‥‥。」などと感じるかもしれません。
 この鼻や頬骨の下にある硬くなってしまった筋・筋膜のこわばりを調整すると顔に開放感が現れ、呼吸も目を開けるのも楽になりますので、肩のこりも軽減するようになると思います。

ゆるみ過ぎている筋肉と筋膜の調整

 こわばりの反対の状態がゆるみ過ぎの状態です。触るとヘニョッとしていてハリがなく腑抜けのような感じがします。筋肉の機能的には、上手く働く(収縮する)ことのできない状態です。筋力が弱いとか足りないということではなく、筋力を発揮することができない状態です。顔のタルミとも関係が深いです。
 片噛みの癖を持っている人は、あまり噛んでいない方のそしゃく筋はゆるみ過ぎの状態になっていると考えられます。奥歯がないため、全然噛めないでいる人は間違いなくこの状態でしょう。すると下顎が下がって、ぶら下がったような状態になります。その他にも、顔面にはたくさんゆるみ過ぎ状態の箇所があります。眼の下のタルミ、顎ラインのタルミ、鼻の下が長くなったように感じる、目尻が下がった、笑うと疲れる、目を開けるのがしんどい等々、それらは筋・筋膜のゆるみ過ぎ状態が原因だと考えられます。骨格が歪んでいるのでゆるみ過ぎの状態になっているのか、ゆるみ過ぎが原因で骨格が歪んでいるのか、実際にはそのどちらも混在しているのが現実です。
 ゆるみ過ぎの状態に対しては、マッサージ的手法も有効ですが、一番は“手当て”です。ゆるみ過ぎているポイントにそっと優しく手指を当て血液がやって来るのを待ちます。しばらくその状態を保ちますと腑抜け状態だったところにハリが戻り、筋・筋膜の機能が回復します。気持ちよく感じる施術です。

皮膚や筋膜の捻れを整える

 頭蓋骨の表面は皮膚に覆われていますが、皮膚のすぐ下には筋膜(皮下筋膜や骨膜)があります。頭蓋骨に限らず、私たちの骨格が捻れるのは、この皮膚や筋膜が捻れていることも大きく影響しています。“外側が捻れるので、中身もそれに合わせて捻れて歪む”といった具合です。
 そして顔や頭を取り巻く皮膚や筋膜がねじれる原因は、ケースバイケース、様々です。手や手指の疲労などから鎖骨の位置が狂い、それによって筋膜に捻れをおこす場合も多々あります。あるいは骨盤の歪みによってそうなる場合もあります。片噛みの癖、噛みしめ・歯ぎしりの癖などによってそうなる場合もあります。過去の何かのケガや打撲や捻挫や損傷が原因になっている場合もあります。
 いずれにしても、皮膚や筋膜が捻れている原因を特定し、それを調整して捻れを解消しなければなければなりません。顔や頭の歪みを修整する作業の中で、最終確認するプロセスでもあります。 

 

 以上の四つの項目が、ここでの顔の整体手技で必ず行う原則です。その他にも顔や頭を整えるために調整するところはありますが、冒頭に記したように頭蓋骨を力を用いて矯正するといった方法は行いません。何よりも安全が第一と考えています。