反対咬合(受け口)に対して

 反対咬合は時間はかかりますが、少しずつ着実によくなると考えています。反対咬合は容姿の面だけでなく、“噛み合わせ”という健康の根本に関することですから、是非とも直していただきたいと考えます。

 反対咬合は上顎骨と下顎骨の関係になりますが、下顎骨が前に出ているだけでなく上顎骨(小鼻のところ)が沈み込んでいるので、修正になかなか手間と時間がかかります。
 幼い頃の指シャブリの癖とか、普段の姿勢によって下顎骨が前に出てしまうのは考えられることですが、上顎骨が沈み込んでしまうのは疑問が生じるところです。そのポイントは下顎骨の使い方だと思います。反対咬合の人の口の開閉を観察しますと、口を閉じる時、下の歯列(下顎骨)を真っ直ぐに上の歯列(上顎骨)に向かわせるのではなく、あおるように大回りさせています。さらに食事で噛みこむ場合に歯を合わせるために前に出た下顎を後に引き込みます。それらによって上の歯列には噛み合わせる毎に弱いながらも外側から内側に向けての力が掛かります。その積み重ねによって段々と上顎骨が沈み込んでしまうのではないかと思われます。また、反対咬合の人は下顎骨を前後に動かす動作も多くなりますので、そしゃく筋が余計にこわばって硬くなります。それによってさらに上顎骨が沈んでいるように見えてしまいます。ですから反対咬合の修正には、まず下顎骨の使い方を正すことから取り組まなければならないと考えます。
 こちらでの施術では、上の歯列と下の歯列が正しく噛み合うようにするために前に出ている下顎骨が引っ込むようにすることから始めますが、それは比較的簡単です。
 施術的になかなか難しいのは、沈んでしまっている上顎骨を前に出すことです。

上顎骨を沈ませないために下顎骨を正しく使う

 上顎骨が長年の使い癖の積み重ねによって沈み込んでしまったのであれば、それは元の状態に戻せる可能性があると考えることができます。しかしながら一度や二度の施術で明らかに上顎骨が前に出てきた状態を保つことができるかと問われると、それはなかなか難しいと言わざるをえません。
 頭蓋骨はいくつもの骨が縫合関節で結びついて全体を形作っています。反対咬合の人は奥歯の噛み合わせが合いませんので、食事で食物をすりつぶす時、下の歯列を引き付ける動作を行うようです。その動作が上の歯列、つまり上顎骨を内側に沈み込ませる力になります。その一つ一つの力は非常に弱いものかもしれませんが、それが積み重なることによって関節にストレスがかかり、縫合がゆるんでしまうと上顎骨が沈む状態になってしまうと考えられます。ですから、この下顎骨の動作を改めることをまずしなければなりません。
 しかし上顎骨が沈み下顎骨が前に出た状態(=反対咬合の状態)で、下顎骨の動かし方を修正しようとしても、それはまたどこか別な場所に無理な力をかけることになりますし、精神的にもストレスになってしまうことでしょう。ですから、顔の整体で噛み合わせが改善された状態にし、その上で本人に癖を改めるよう努力していただこうと考えています。
 実際、こちらで施術を受けていらっしゃる方々には、そうしていただいています。はじめのうちはなかなか癖は取れないものです。しかし、二度三度施術と指導を繰り返しているうちに、自ずと咬合が正常に近くなってきます。そして下顎骨の使い方が改善されれば、上顎骨を押し込むような力はなくなりますので、あとは上顎骨を元の位置に戻すことに専念するだけになります。

 上顎骨に関係して手で触れることのできる(=頭蓋骨の外側)関節は前頭骨・鼻骨・頬骨との境のところだけです。面積的には非常に小さいので、これらの骨や関節のゆるみを修正するくらいでは上顎骨の位置を戻すことは難しいのが実際です。
 ところが頭蓋骨の内側では、篩骨、鋤骨、蝶形骨などを経由して側頭骨と後頭骨につながっています。であれば側頭骨、後頭骨を整えることで上顎骨の位置が修正できる可能性が考えられます。実際、耳の穴やその周辺の筋膜のゆるみ過ぎを修正すると上顎骨は前に出てくるようです。反対咬合の人は口を閉じた状態(歯を合わせた状態)で耳の穴に指を柔らかく入れてみてください。上の歯が動いて噛み合わせが変わるのが感じられるのではないでしょうか。
 上顎骨もまた、長年の積み重ねによって今の状態になっていますので、そう易々と正しい位置に戻った状態でキープし続けるのは難しいかもしれません。毎日の努力と根気が必要です。

下顎骨が前に出ていると、のどや首が硬くなり頬も硬くなる

 反対咬合の人は通常の状態よりも下顎骨が前に出ているわけですが、この場合、顎先とのど(下顎骨と舌骨)の距離が遠くなりますので、その部分の筋肉(顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋)や筋膜が常に張ってこわばった状態になります。
 すると顎舌骨筋やオトガイ舌骨筋と一体のようになっている舌も影響を受けて本来の状態ではなくなります。言葉が喋りづらくなったり、食物を飲み込む(嚥下)ことが窮屈に感じたり、舌先に歯型の痕がつくようになったりします。
 また舌骨も常に下顎骨の方に引っ張られるようになりますので、関連してのどや首の前の筋肉や筋膜がこわばった状態になります。そこには甲状腺がありますので、甲状腺の機能に関係する症状が出る可能性も考えられます。

 さらに下顎骨が前に出ていると頬の筋肉(咬筋など)にも常にテンションがかかった状態になりますので、頬の筋肉が太く硬くなります。
 実際、反対咬合の人の特徴の一つとして、頬から下顎にかけての筋肉が普通の人よりも硬く太くなっているため、上顎骨の沈みが実際以上に目立って見えます。

反対咬合の歯列矯正は十分考えてから行って欲しいと思います

 上下の顎の状態に変位はなく、下の歯列だけが上の歯より前に出ているだけであるならば、歯列矯正の方法で対処されることは納得できます。しかし、下顎そのものが前に出ていて反対咬合になっている場合は、顎の変位を修正しなければなりません。
 また下顎骨を削り取って反対咬合を治すという手術の方法もあります。遺伝性によるもの、下顎骨そのものの変形によるもの、それらは手術による治療が向いているのかもしれません。
 いずれにしましても専門病院で検査し、骨の状態、歯列の状態、顎関節の状態などをちゃんと確認した上で、どの方法を選択するのかを決めていただきたいと思います。
 歯列矯正にも手術にもリスクは伴います。「歯並びや反対咬合は良くなったけど、他に影響が出てしまった」ということもあり得ることです。顔は全身の司令塔であり、本当に重要なところです。傷つけたり、変なことはして欲しくないのです。一整体師としてはそう思います。